コーシー列と有界性
コーシー列は有界です。
後ほど解説しますが、コーシー列が有界であるという事実は、コーシー列の収束について考える際に重要な役割を果たします。
x_{v}=\frac{1}{2^{v}}
\end{equation*}で与えられる\(\mathbb{R} \)上の点列\(\left\{ x_{v}\right\} \)はコーシー列です(確認してください)。したがって上の命題より、この点列\(\left\{ x_{v}\right\} \)は有界であるはずです。実際、任意の番号\(v\)に対して、\begin{equation*}0\leq x_{v}=\frac{1}{2^{v}}\leq \frac{1}{2}
\end{equation*}が成り立つため\(\left\{x_{v}\right\} \)は有界です。
x_{v}=\left( x_{v}^{\left( 1\right) },x_{v}^{\left( 2\right) }\right)
=\left( 1+\frac{1}{2v},2-\frac{1}{2v}\right)
\end{equation*}で与えられる\(\mathbb{R} ^{2}\)上の点列\(\left\{ x_{v}\right\} \)はコーシー列です(確認してください)。したがって、上の命題より、この点列\(\left\{x_{v}\right\} \)は有界であるはずです。実際、任意の番号\(v\)に対して、\begin{eqnarray*}1 &\leq &x_{v}^{\left( 1\right) }=1+\frac{1}{2v}\leq \frac{3}{2} \\
\frac{3}{2} &\leq &x_{v}^{\left( 2\right) }=2-\frac{1}{2v}\leq 2
\end{eqnarray*}が成り立つため\(\left\{x_{v}\right\} \)は有界です。
先の命題の逆は成り立つとは限りません。つまり、有界な数列はコーシー列であるとは限りません。以下の例より明らかです。
x_{v}=\left( x_{v}^{\left( 1\right) },x_{v}^{\left( 2\right) }\right)
=\left( 1^{v},\left( -1\right) ^{v}\right)
\end{equation*}で与えられる\(\mathbb{R} ^{2}\)上の点列\(\left\{ x_{v}\right\} \)について考えます。任意の番号\(v\)について、\begin{eqnarray*}1 &\leq &x_{v}^{\left( 1\right) }=1^{v}\leq 1 \\
-1 &\leq &x_{v}^{\left( 2\right) }=\left( -1\right) ^{v}\leq 1
\end{eqnarray*}が成り立つため、この点列\(\left\{ x_{v}\right\} \)は有界です。一方、この点列\(\left\{ x_{v}\right\} \)はコーシー列ではありません(確認してください)。したがって、有界な点列はコーシー列であるとは限らないことが明らかになりました。
コーシー列と極限
収束列とは項の番号を大きくしていくと項が特定の点に限りなく近づく点列ですが、項が特定の点に限りなく近づくならば項の変化がどこまでも小さくなっていきそうです。つまり、直感的に考えると、収束列はコーシー列でもありそうです。実際、収束列は常にコーシー列です。
収束列はコーシー列であることが明らかになりましたが、逆に、コーシー列は収束するでしょうか。以下で順番に考えていきます。
復習になりますが、点列\(\left\{ x_{v}\right\} \)が収束する場合には、その任意の部分列\(\left\{ x_{l\left( v\right)}\right\} \)もまた収束するとともに、それはもとの収束列\(\left\{ x_{v}\right\} \)と同じ極限へ収束します。一方、点列\(\left\{ x_{v}\right\} \)が収束しない場合には、たとえその部分列の中に収束するものが存在する場合でも、もとの点列\(\left\{x_{v}\right\} \)は収束するとは限りません。以下の例より明らかです。
x_{v}=\left( x_{v}^{\left( 1\right) },x_{v}^{\left( 2\right) }\right)
=\left( 1^{v},\left( -1\right) ^{v}\right)
\end{equation*}で与えられる\(\mathbb{R} ^{2}\)上の点列\(\left\{ x_{v}\right\} \)は収束しません(確認してください)。一方、この点列の部分列\(\left\{ x_{l\left( v\right) }\right\} \)の中でも、一般項が、\begin{equation*}x_{l\left( v\right) }=\left( x_{l\left( v\right) }^{\left( 1\right)
},x_{l\left( v\right) }^{\left( 2\right) }\right) =\left( 1^{2v},\left(
-1\right) ^{2v}\right)
\end{equation*}で与えられるものは点\(\left( 1,1\right) \)へ収束します。したがって、収束する部分列を持つ点列は収束するとは限らないことが明らかになりました。
現状、コーシー列が収束することは明らかになっていないため(むしろ、コーシー列が収束することを示すことが現在の目標)、上の一般論にしたがうならば、仮にコーシー列が収束する部分列を持っている場合でも、もとのコーシー列が収束することを保証できないはずです。しかし、コーシー列に話を限定すると、それが収束するという事実を前提にせずとも、コーシー列の部分列の中に収束するものが存在する場合、そのコーシー列が収束することを保証できます。
上の命題を踏まえると、コーシー列が収束することを示すためには、コーシー列が収束する部分列を持つことを示せばよいことになります。具体的には、先に示したようにコーシー列は有界であるため、点列に関するボルツァーノ=ワイエルシュトラスの定理より、コーシー列は収束する部分列を持ちます。したがって、上の命題より、コーシー列が収束することが明らかになりました。
収束列はコーシー列であるとともに、コーシー列は収束することが示されました。したがって以下が成り立ちます。
この命題の意味を考えておきましょう。点列\(\left\{ x_{v}\right\} \)が与えられたとき、それが収束列であるかどうかを判定できない、もしくはその判定が難しい場合でも、その点列\(\left\{ x_{v}\right\} \)がコーシー列であることさえ示すことができれば、上の命題より、この点列\(\left\{ x_{v}\right\} \)が収束列であることが保証されます。さらに、他の一般の収束列と同様に、コーシー列が収束する部分列を持つ場合には、コーシー列自身もまた部分列と同じ極限に収束します。したがって、コーシー列の部分列の極限さえ求められれば、もとのコーシー列の極限が判明します。
演習問題
=\left( 1^{v},\left( -1\right) ^{v}\right)
\end{equation*}で与えられているものとします。\(\left\{ x_{v}\right\} \)がコーシー列ではないことを証明してください。
次回からユークリッド空間における位相について解説します。
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