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点列を用いた開集合・閉集合の判定

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点列を用いて閉集合であることを判定する

ユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分集合\(A\)が閉集合であることとは、その補集合\(A^{c}\)が\(\mathbb{R} ^{n}\)上の開集合であることとして定義されます。さらに、\(A^{c}\)が\(\mathbb{R} ^{n}\)上の開集合であることは、\begin{equation*}\forall \boldsymbol{a}\in A^{c},\ \exists \varepsilon >0:N_{\varepsilon
}\left( \boldsymbol{a}\right) \subset A^{c}
\end{equation*}が成り立つこと、すなわち、\(A^{c}\)の点\(\boldsymbol{a}\)を任意に選んだときに、点\(\boldsymbol{a}\)を中心とする近傍\(N_{\varepsilon }\left( \boldsymbol{a}\right) \)の中に\(A^{c}\)の部分集合であるようなものが存在することを意味します。ちなみに、点の近傍は、\begin{eqnarray*}N_{\varepsilon }\left( \boldsymbol{a}\right) &=&\left\{ \boldsymbol{x}\in \mathbb{R} ^{n}\ |\ d\left( \boldsymbol{x},\boldsymbol{a}\right) <\varepsilon \right\}
\quad \because \text{近傍の定義} \\
&=&\left\{ \boldsymbol{x}\in \mathbb{R} ^{n}\ |\ \sqrt{\sum_{i=1}^{n}\left( x_{i}-a_{i}\right) ^{2}}<\varepsilon
\right\} \quad \because \text{距離の定義}
\end{eqnarray*}と定義されます。ただ、\(A\)が閉集合であることを示すために以上のことを証明するのは面倒です。閉集合は点列を用いて表現することもでき、そちらの定義を利用した方が閉集合であることを容易に示すことができることがあります。順を追って説明します。

ユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分集合\(A\)を任意に選びます。その上で、\(A\)の点を項とするとともに収束する点列\(\left\{ \boldsymbol{x}_{v}\right\} \)を任意に選びます。つまり、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall v\in \mathbb{N} :\boldsymbol{x}_{v}\in A \\
&&\left( b\right) \ \lim_{v\rightarrow \infty }\boldsymbol{x}_{v}\in \mathbb{R} ^{n}\text{が存在する}
\end{eqnarray*}をともに満たす点列\(\left\{ \boldsymbol{x}_{v}\right\} \)を任意に選ぶということです。一般には、このような点列の極限は\(A\)の点であるとは限りません。しかし、\(A\)が\(\mathbb{R} ^{n}\)上の閉集合である場合には、このような点列の極限は必ず\(A\)の点になります。つまり、\begin{equation*}\left( c\right) \ \lim_{v\rightarrow \infty }\boldsymbol{x}_{v}\in A
\end{equation*}が成り立つということです。

命題(閉集合であるための必要条件)
ユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{n}\)上の閉集合\(A\)が与えられたとき、\(A\)の点を項とする任意の収束列\(\left\{ \boldsymbol{x}_{v}\right\} \)の極限もまた\(A\)の点になる。
証明

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上の命題の逆もまた成立します。つまり、ユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分集合\(A\)を任意に選んだ上で、\(A\)の点を項とするとともに収束する点列\(\left\{ \boldsymbol{x}_{v}\right\} \)を任意に選びます。つまり、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall v\in \mathbb{N} :\boldsymbol{x}_{v}\in A \\
&&\left( b\right) \ \lim_{v\rightarrow \infty }\boldsymbol{x}_{v}\in \mathbb{R} ^{n}\text{が存在する}
\end{eqnarray*}をともに満たす点列\(\left\{ \boldsymbol{x}_{v}\right\} \)を任意に選ぶということです。一般には、このような点列の極限は\(A\)の点であるとは限りません。しかし、このような点列の極限が必ず\(A\)の点になる場合には、\(A\)は\(\mathbb{R} ^{n}\)上の閉集合であることが保証されます。

命題(閉集合であるための十分条件)
ユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分集合\(A\)が与えられたとき、\(A\)の点を項とする任意の収束列\(\left\{ \boldsymbol{x}_{v}\right\} \)の極限もまた\(A\)の点であるならば、\(A\)は\(\mathbb{R} ^{n}\)上の閉集合になる。
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この命題について注意しなければならないのは、\(A\)の点を項とする「任意の」収束列\(\left\{ \boldsymbol{x}_{v}\right\} \)に対して、その極限が\(A\)の点になることが前提条件になっているという点です。したがって、このような性質を満たす収束列\(\left\{ \boldsymbol{x}_{v}\right\} \)が「存在する」ことを示しただけでは、上の命題が要求する前提条件を満たしたことにはなりません。

以上の2つの命題より、閉集合という概念は点列の収束概念を用いて以下のように特徴づけられることが明らかになりました。

命題(点列を用いた閉集合の定義)
ユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分集合\(A\)が与えられたとき、\(A\)の点を項とする任意の収束列\(\left\{ \boldsymbol{x}_{v}\right\} \)の極限もまた\(A\)の点であることは、\(A\)が\(\mathbb{R} ^{n}\)上の閉集合であるための必要十分条件である。

上の命題より、閉集合に関する議論を点列の収束に関する議論に置き換えて考えることができます。

例(点列を用いて開集合であることを判定する)
点\(\boldsymbol{a}\in \mathbb{R} ^{n}\)を任意に選んだ上で、その点だけを要素とする\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分集合\(\left\{ \boldsymbol{a}\right\} \)について考えます。この集合\(\left\{ \boldsymbol{a}\right\} \)が\(\mathbb{R} ^{n}\)上の閉集合であることを点列を用いて示します。具体的には、集合\(\left\{ \boldsymbol{a}\right\} \)の要素を項とする点列としては定数点列\(\left\{ \boldsymbol{x}_{v}\right\} =\left\{ \boldsymbol{a}\right\} \)だけが存在するとともに、この点列は明らかに収束し、その極限は、\begin{equation*}\lim_{v\rightarrow \infty }\boldsymbol{x}_{v}=\boldsymbol{a}
\end{equation*}となります。これは\(\left\{ \boldsymbol{a}\right\} \)の要素であるため、先の命題より、\(\left\{ \boldsymbol{a}\right\} \)は\(\mathbb{R} ^{n}\)上の閉集合であることが示されました。
例(点列を用いて開集合であることを判定する)
以下のように定義される\(\mathbb{R} ^{2}\)の部分集合\begin{equation*}A=\left\{ \left( x,y\right) \in \mathbb{R} ^{2}\ |\ y\leq x\right\}
\end{equation*}が\(\mathbb{R} ^{2}\)上の閉集合であることを点列を用いて示します。まず、上の集合\(A\)の要素を項とする収束列を任意に選びます。つまり、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall v\in \mathbb{N} :y_{v}\leq x_{v} \\
&&\left( b\right) \ \lim_{v\rightarrow \infty }\left( x_{v},y_{v}\right) \in \mathbb{R} ^{2}
\end{eqnarray*}をともに満たす\(\mathbb{R} ^{2}\)上の点列\(\left\{ \left( x_{v},y_{v}\right)\right\} \)を任意に選ぶということです。\(\left( b\right) \)が成り立つことは、座標数列\(\left\{ x_{v}\right\} ,\left\{ y_{v}\right\} \)に関して、\begin{eqnarray*}&&\left( b_{1}\right) \ \lim_{v\rightarrow \infty }x_{v}\in \mathbb{R} \\
&&\left( b_{2}\right) \ \lim_{v\rightarrow \infty }y_{v}\in \mathbb{R} \end{eqnarray*}が成り立つことと必要十分です。\(\left( a\right) ,\left(b_{1}\right) ,\left( b_{2}\right) \)および収束数列の性質より、数列\(\left\{ x_{v}\right\} ,\left\{ y_{v}\right\} \)の極限の間にも、\begin{equation*}\lim_{v\rightarrow \infty }y_{v}\leq \lim_{v\rightarrow \infty }x_{v}
\end{equation*}という関係が成り立ちますが、集合\(A\)の定義より、これは、\begin{equation*}\left( \lim_{v\rightarrow \infty }x_{v},\lim_{v\rightarrow \infty
}y_{v}\right) \in A
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\lim_{v\rightarrow \infty }\left( x_{v},y_{v}\right) \in A
\end{equation*}が成り立つことを意味します。したがって先の命題より、\(A\)は\(\mathbb{R} ^{2}\)上の閉集合であることが示されました。
例(点列を用いて開集合であることを判定する)
ユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分集合\(A\)が開集合であることは、その補集合\(A^{c}\)が閉集合であることと必要十分です。したがって、\(A\)が開集合であることを示すかわりに\(A^{c}\)が閉集合であることを示してもよいということです。その際、先の点列を用いた方法を利用できます。つまり、\(A^{c}\)の点を項とする任意の収束列\(\left\{ \boldsymbol{x}_{v}\right\} \)の極限もまた\(A^{c}\)の点であるならば、それは\(A^{c}\)が\(\mathbb{R} ^{n}\)上の閉集合であることを意味するため、結果として\(A\)が\(\mathbb{R} ^{n}\)上の開集合であることを示したことになります。

 

点列を用いて閉集合ではないことを判定する

繰り返しになりますが、ユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分集合\(A\)が閉集合であることは、\(A\)の点を項とする任意の収束列\(\left\{ \boldsymbol{x}_{v}\right\} \)の極限が\(A\)の点になることと必要十分です。したがって、\(A\)の点を項とする収束列\(\left\{ \boldsymbol{x}_{v}\right\} \)の中にその極限が\(A\)の点にならないようなものが存在する場合、\(A\)は閉集合ではありません。

例(点列を用いて閉集合ではないことを判定する)
点\(\boldsymbol{a}=\left( a_{1},\cdots ,a_{n}\right) \in \mathbb{R} ^{n}\)を任意に選んだ上で、以下のような\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分集合\begin{equation*}A=\left\{ \left( x_{1},\cdots ,x_{n}\right) \in \mathbb{R} ^{n}\ |\ \forall i\in \left\{ 1,\cdots ,n\right\} :a_{i}<x_{i}\right\}
\end{equation*}について考えます。この集合が\(\mathbb{R} ^{n}\)上の閉集合ではないことを点列を用いて示します。点列\(\left\{ \boldsymbol{x}_{v}\right\} \)の一般項を、\begin{equation*}\boldsymbol{x}_{v}=\left( x_{v}^{\left( 1\right) },\cdots ,x_{v}^{\left(
n\right) }\right) =\left( a_{1}+\frac{1}{v},\cdots ,a_{n}+\frac{1}{v}\right)
\end{equation*}と定義します。任意の\(v\in \mathbb{N} \)および\(i\in \left\{ 1,\cdots ,n\right\} \)について、\begin{equation*}a_{i}<a_{i}+\frac{1}{v}
\end{equation*}が成り立つため、この点列\(\left\{ \boldsymbol{x}_{v}\right\} \)の任意の項は集合\(A\)の要素です。その一方で、その極限は、\begin{eqnarray*}\lim_{v\rightarrow \infty }\boldsymbol{x}_{v} &=&\lim_{v\rightarrow \infty
}\left( x_{v}^{\left( 1\right) },\cdots ,x_{v}^{\left( n\right) }\right) \\
&=&\lim_{v\rightarrow \infty }\left( a_{1}+\frac{1}{v},\cdots ,a_{n}+\frac{1}{v}\right) \\
&=&\left( a_{1}+0,\cdots ,a_{n}+0\right) \\
&=&\left( a_{1},\cdots ,a_{n}\right) \\
&=&\boldsymbol{a}
\end{eqnarray*}となりますが、これは集合\(A\)の要素ではありません。したがって集合\(A\)は\(\mathbb{R} ^{n}\)上の閉集合ではないことが明らかになりました。
例(点列を用いて開集合ではないことを判定する)
ユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分集合\(A\)が開集合であることは、補集合\(A^{c}\)が閉集合であることと必要十分であり、さらにこれは、\(A^{c}\)の点を項とする任意の収束列\(\left\{ \boldsymbol{x}_{v}\right\} \)の極限が\(A^{c}\)の点になることと必要十分です。したがって、\(A^{c}\)の点を項とする収束列\(\left\{ \boldsymbol{x}_{v}\right\} \)の中にその極限が\(A^{c}\)の点にならないようなものが存在する場合、\(A^{c}\)は閉集合ではなく、したがって\(A\)は開集合ではありません。

 

演習問題

問題(点列を用いて閉集合であることを判定する)
ユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{n}\)は\(\mathbb{R} ^{n}\)上の閉集合であることを点列を用いて証明してください。
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問題(点列を用いて閉集合であることを判定する)
それぞれの\(i\in \left\{ 1,2,\cdots ,n\right\} \)について\(a_{i}<b_{i}\)を満たす実数\(a_{i},b_{i}\in \mathbb{R} \)を任意に選んだ上で、以下の\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分集合\begin{equation*}A=\left[ a_{1},b_{1}\right] \times \left[ a_{2},b_{2}\right] \times \cdots
\times \left[ a_{n},b_{n}\right] \end{equation*}を構成します。この集合が\(\mathbb{R} ^{n}\)上の閉集合であることを点列を用いて証明してください。
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問題(点列を用いて閉集合ではないことを証明する)
ユークリッド空間の点\(\boldsymbol{a}\in \mathbb{R} ^{n}\)を中心とする半径\(\varepsilon >0\)の近傍は、\begin{equation*}N_{\varepsilon }\left( \boldsymbol{a}\right) =\left\{ \boldsymbol{x}\in \mathbb{R} ^{n}\ |\ d\left( \boldsymbol{a},\boldsymbol{x}\right) <\varepsilon \right\}
\end{equation*}と定義される\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分集合ですが、これは\(\mathbb{R} ^{n}\)上の閉集合ではないことを点列を用いて証明してください。
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