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多変数のベクトル値関数

多変数のベクトル値関数(ベクトル場)の極限

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多変数のベクトル値関数の極限

ユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{n}\)もしくはその部分集合\(X\)を定義域とし、ユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{m}\)上のベクトルを値としてとる多変数のベクトル値関数\begin{equation*}f:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} ^{m}
\end{equation*}を議論の対象とします。点\(a\in \mathbb{R} ^{n}\)を任意に選びます。\(f\)はこの点\(a\)において定義されている必要はありませんが、点\(a\)の周辺の任意の点において定義されているものとします。このような点を議論の対象とする理由については後述します。

関数\(f\)の変数\(x\)を点\(a\)とは異なる\(X\)上の点をとりながら\(a\)に限りなく近づける場合、\(x\)がどのような経路をたどって点\(a\)へ近づいていく場合においても、その際に\(f\left( x\right) \)の値が必ずある点\(b\in \mathbb{R} ^{m}\)へ近づくことが保証されているのであれば、\(x\)が\(a\)に限りなく近づくときに\(f\)は\(b\)へ収束する(converge)と言い、そのことを、\begin{equation*}\lim_{x\rightarrow a}f\left( x\right) =b
\end{equation*}もしくは、\begin{equation*}
x\rightarrow a\ \text{のとき }f\left( x\right) \rightarrow
b
\end{equation*}などで表記します。その上で、このような点\(b\)を\(x\rightarrow a\)のときの\(f\)の極限(limit)と呼びます。

多変数のベクトル値関数の極限に関して厳密な議論を行うためには、1変数関数の極限の場合と同様、イプシロン・デルタ論法を用いて「限りなく近づく」という曖昧な表現を厳密に定義する必要があります。

繰り返しになりますが、多変数のベクトル値関数\(f:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} ^{m}\)が点\(a\in \mathbb{R} ^{n}\)の周辺の任意の点において定義されている場合、ある点\(b\in \mathbb{R} ^{m}\)に対して、\begin{equation*}\lim_{x\rightarrow a}f\left( x\right) =b
\end{equation*}が成り立つこととは、\(f\)の変数\(x\)を点\(a\)とは異なる\(X\)上の点をとりながら\(a\)に限りなく近づける場合、\(x\)がどのような経路をたどって点\(a\)へ近づいていく場合においても、それに応じて\(f\left( x\right) \)の値が必ず点\(b\)へ限りなく近づくことが保証されていることを意味します。これをどのような形で厳密に表現できるでしょうか。

まず、\(x\rightarrow a\)が成り立つこと、すなわち、\(x\)が\(a\)とは異なる\(X\)上の点をとりながら\(a\)に限りなく近づいていく様子を表現するためには、\(x\)と\(a\)の近さを表す指標が必要です。そこで、\(x\)と\(a\)の間の距離を表す指標として正の実数\(\delta >0\)を導入します。その上で、\(\mathbb{R} ^{n}\)上のユークリッド距離\(d\)のもとで、\begin{equation*}0<d\left( x,a\right) <\delta
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
0<\sqrt{\sum_{i=1}^{n}\left( x_{i}-a_{i}\right) ^{2}}<\delta
\end{equation*}が成り立つのであれば、「\(x\)は\(a\)とは異なる点であるともに、\(x\)と\(a\)の間の距離は\(\delta \)よりも小さい」と言えます。また、\(f\left( x\right)\rightarrow b\)が成り立つこと、すなわち、\(f\left( x\right) \)の値が点\(b\)に限りなく近づいていく様子を表現するためには、\(f\left(x\right) \)と\(b\)の近さを表す指標も必要です。そこで、\(f\left( x\right) \)と\(b\)の間の距離を表す指標として正の実数\(\varepsilon >0\)を導入します。その上で、\(\mathbb{R} ^{m}\)上のユークリッド距離\(d\)のもとで、\begin{equation*}d\left( f\left( x\right) ,b\right) <\varepsilon
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\sqrt{\sum_{i=1}^{m}\left[ f_{i}\left( x\right) -b_{i}\right] ^{2}}<\varepsilon
\end{equation*}が成り立つのであれば、「\(f\left( x\right) \)と\(b\)の間の距離は\(\varepsilon \)よりも小さい」と言えます。\(x\rightarrow a\)のときに\(f\left( x\right)\rightarrow b\)であることは、以上のような2つの実数\(\varepsilon ,\delta \)の関係として表現することになります。

具体的には、まず、\(f\left( x\right) \)と\(b\)の間の距離を表す値\(\varepsilon \)を任意に選びます。今、\(x\rightarrow a\)のときに\(f\left( x\right) \rightarrow b\)が成り立つのであれば、点\(a\)に十分近くなおかつ点\(a\)とは異なる任意の\(x\)について、\(f\left( x\right) \)と\(b\)の間の距離は\(\varepsilon \)より小さくなるはずです。つまり、点\(a\)との距離がある値\(\delta \)より小さい場所にある\(a\)以外の任意の点\(x\in X\)について、\(f\left( x\right) \)と\(b\)の間の距離は\(\varepsilon \)より小さくなるはずです。これを定式化すると、\begin{equation*}\exists \delta >0,\ \forall x\in X:\left[ 0<d\left( x,a\right) <\delta
\Rightarrow d\left( f\left( x\right) ,b\right) <\varepsilon \right] \end{equation*}となります。\(x\rightarrow a\)のときに\(f\left( x\right) \rightarrow b\)となる場合には、最初に設定する\(\varepsilon \)をどれほど小さくしても同様の議論が成立するはずです。つまり、\(f\left( x\right) \)と\(b\)の間の距離\(\varepsilon \)としてどれほど小さい値を採用した場合でも、\(x\rightarrow a\)のときに\(f\left( x\right) \rightarrow b\)が成り立つ限りにおいて、点\(a\)との距離がある値\(\delta \)より小さい場所にある\(a\)以外の任意の点\(x\in X\)について、\(f\left( x\right) \)と\(b\)の間の距離は\(\varepsilon \)よりも小さくなるはずです。これを定式化すると、\begin{equation*}\forall \varepsilon >0,\ \exists \delta >0,\ \forall x\in X:\left[ 0<d\left(
x,a\right) <\delta \Rightarrow d\left( f\left( x\right) ,b\right)
<\varepsilon \right] \end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\forall \varepsilon >0,\ \exists \delta >0,\ \forall x\in X:\left( 0<\sqrt{\sum_{i=1}^{n}\left( x_{i}-a_{i}\right) ^{2}}<\delta \Rightarrow \sqrt{\sum_{i=1}^{m}\left( f_{i}\left( x\right) -b_{i}\right) ^{2}}<\varepsilon
\right)
\end{equation*}となります。以上の論理式によって、\(x\rightarrow a\)のときに\(f\left( x\right) \rightarrow b\)が成り立つことの定義とします。

以上の論理式中の条件\(0<d\left( x,a\right) <\delta \)を満たすそれぞれの\(x\in X\)は点\(a\)を中心とする近傍に属する点であり、その近傍内での\(x\)の位置は指定されていません。\(\delta \)が小さくなるにつれて近傍は小さくなっていきますが、それぞれの近傍内での\(x\)の位置は指定されていないため、上の論理式は、\(x\)が\(a\)に限りなく近づいていく際にあらゆる経路を通り得ることを認めた表現になっています。

結論をまとめましょう。多変数のベクトル値関数\(f:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} ^{m}\)と点\(a\in \mathbb{R} ^{n}\)および点\(b\in \mathbb{R} ^{m}\)に対して、\begin{equation*}\lim\limits_{x\rightarrow a}f(x)=b
\end{equation*}が成り立つこととは、\(f\)の変数\(x\)を点\(a\)とは異なる\(X\)上の点をとりながら\(a\)に限りなく近づける場合、\(x\)がどのような経路をたどって点\(a\)へ近づいていく場合においても、その際に\(f\left( x\right) \)の値が必ず点\(b\)へ限りなく近づくことが保証されていることを意味しますが、そのことを厳密に定義すると、\begin{equation*}\forall \varepsilon >0,\ \exists \delta >0,\ \forall x\in X:\left[ 0<d\left(
x,a\right) <\delta \Rightarrow d\left( f\left( x\right) ,b\right)
<\varepsilon \right] \end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\forall \varepsilon >0,\ \exists \delta >0,\ \forall x\in X:\left( 0<\sqrt{\sum_{i=1}^{n}\left( x_{i}-a_{i}\right) ^{2}}<\delta \Rightarrow \sqrt{\sum_{i=1}^{m}\left( f_{i}\left( x\right) -b_{i}\right) ^{2}}<\varepsilon
\right)
\end{equation*}になるということです。実際の運用では、変数\(x\)を近づける先の点\(a\)が与えられたとき、\(f\left( x\right) \)の極限の候補となる何らかの点\(b\)を具体的に設定した上で、それに対して上の論理式が成り立つことを示すことが目標になります。極限の候補\(b\)を特定する方法については後述します。

例(多変数のベクトル値関数の極限)
\(n=m=2\)の場合の多変数のベクトル値関数\(f:\mathbb{R} ^{2}\supset X\rightarrow \mathbb{R} ^{2}\)と点\(\left( a_{1},a_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)および点\(\left( b_{1},b_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)について、\begin{equation*}\lim_{\left( x_{1},x_{2}\right) \rightarrow \left( a_{1},a_{2}\right)
}f\left( x_{1},x_{2}\right) =\left( b_{1},b_{2}\right)
\end{equation*}が成り立つことは、\begin{eqnarray*}
\forall \varepsilon &>&0,\ \exists \delta >0,\ \forall \left(
x_{1},x_{2}\right) \in X: \\
0 &<&\sqrt{\left( x_{1}-a_{1}\right) ^{2}+\left( x_{2}-a_{2}\right) ^{2}}<\delta \Rightarrow \sqrt{\left[ f_{1}\left( x_{1},x_{2}\right) -b_{1}\right] ^{2}+\left[ f_{2}\left( x_{1},x_{2}\right) -b_{2}\right] ^{2}}<\varepsilon
\end{eqnarray*}が成り立つこととして定義されます。ただし、\(f_{i}:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} \ \left( i=1,2\right) \)は\(f\)の成分関数です。
例(多変数のベクトル値関数の極限)
関数\(f:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} ^{2}\)はそれぞれの\(\left( x,y\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)に対して、\begin{equation*}f\left( x,y\right) =\left( x+y,x-y\right)
\end{equation*}を定めるものとします。このとき、\begin{equation*}
\lim_{\left( x,y\right) \rightarrow \left( 0,0\right) }f\left( x,y\right)
=\left( 0,0\right)
\end{equation*}が成り立つことを証明します。これを厳密に表現すると、\begin{eqnarray*}
\forall \varepsilon &>&0,\ \exists \delta >0,\ \forall \left( x,y\right)
\in \mathbb{R} ^{2}: \\
0 &<&\sqrt{\left( x-0\right) ^{2}+\left( y-0\right) ^{2}}<\delta \Rightarrow
\sqrt{\left[ \left( x+y\right) -0\right] ^{2}+\left[ \left( x-y\right) -0\right] ^{2}}<\varepsilon
\end{eqnarray*}すなわち、\begin{equation*}
\forall \varepsilon >0,\ \exists \delta >0,\ \forall \left( x,y\right) \in \mathbb{R} ^{2}:\left( 0<\sqrt{x^{2}+y^{2}}<\delta \Rightarrow \sqrt{2x^{2}+2y^{2}}<\varepsilon \right)
\end{equation*}となります。これを示すことが目標です。実際、\(\varepsilon >0\)を任意に選んだとき、それに対して、\begin{equation}\delta =\frac{\varepsilon }{\sqrt{2}}>0 \quad \cdots (1)
\end{equation}を満たす正の実数\(\delta \)を選ぶことができ、その上で、\begin{equation}0<\sqrt{x^{2}+y^{2}}<\delta \quad \cdots (2)
\end{equation}を満たす任意の\(\left( x,y\right)\in \mathbb{R} ^{2}\)に対して、\begin{eqnarray*}\sqrt{2x^{2}+2y^{2}} &=&\sqrt{2\left( x^{2}+y^{2}\right) } \\
&=&\sqrt{2}\sqrt{x^{2}+y^{2}} \\
&<&\sqrt{2}\delta \quad \because \left( 2\right) \\
&=&\sqrt{2}\frac{\varepsilon }{\sqrt{2}}\quad \because \left( 1\right) \\
&=&\varepsilon
\end{eqnarray*}となるため証明が完了しました。

例(多変数のベクトル値関数の極限)
1変数関数\(f:\mathbb{R} \supset X\rightarrow \mathbb{R} \)を多変数のベクトル値関数とみなした場合(\(n=m=1\)の場合の多変数のベクトル値関数)、点\(a\in \mathbb{R} \)および点\(b\in \mathbb{R} \)について、\begin{equation*}\lim_{x\rightarrow a}f\left( x\right) =b
\end{equation*}が成り立つことは、\begin{equation*}
\forall \varepsilon >0,\ \exists \delta >0,\ \forall x\in X:\left( 0<d\left(
x,a\right) <\delta \Rightarrow d\left( f\left( x\right) ,b\right)
<\varepsilon \right)
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\forall \varepsilon >0,\ \exists \delta >0,\ \forall x\in X:\left(
0<|x-a|<\delta \Rightarrow \left\vert f\left( x\right) -b\right\vert
<\varepsilon \right)
\end{equation*}が成り立つことを意味しますが、これは1変数関数の極限の定義に他なりません。つまり、多変数のベクトル値関数の極限は1変数関数の極限の一般化です。

多変数のベクトル値関数が収束することをイプシロン・デルタ論法を用いて証明するのは面倒です。また、証明を行う際に極限の候補が必要になるという問題もあります。ただ、こうした問題はいずれも解決可能です。詳細は後ほど解説します。

 

変数が限りなく近づく点に関する注意

多変数のベクトル値関数\(f:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} ^{m}\)と点\(a\in \mathbb{R} ^{n}\)が与えられたとき、\(x\rightarrow a\)のときに\(f\left( x\right) \)が点\(b\in \mathbb{R} ^{m}\)へ収束するか検討するためには、そもそも\(f\)は点\(a\)の周辺の任意の点において定義されている必要があります。なぜなら、\(f\left( x\right) \)が\(x\rightarrow a\)のときに点\(b\)へ収束することとは、変数\(x\)を点\(a\)とは異なる\(X\)上の点をとりながら\(a\)に限りなく近づける場合、\(x\)がどのような経路をたどって点\(a\)へ近づいていく場合においても、それに応じて\(f\left( x\right) \)の値が必ず点\(b\)へ限りなく近づくことを意味するのであり、仮に\(f\)が点\(a\)の周辺の任意の点において定義されていない場合、\(x\)を点\(a\)へ限りなく近づけることができなかったり、\(x\)が点\(a\)へ近づいていく際の経路が限定されてしまうからです。

例(変数を孤立点へ近づける場合)
多変数のベクトル値関数\(f:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} ^{m}\)が点\(a\in \mathbb{R} ^{n}\)の周辺の任意の点において定義されていない状況の具体例として、点\(a\)が\(f\)の定義域\(X\)の孤立点であるような場合が考えられます。\(a\)が\(X\)の孤立点である場合には、\begin{equation}\exists \delta >0:N_{\delta }\left( a\right) \cap X=\left\{ a\right\}
\quad \cdots (1)
\end{equation}が成り立ちます。ただし、\(N_{\delta }\left( a\right) \)は点\(a\)を中心とする半径\(\delta \)の近傍であり、\begin{equation*}N_{\delta }\left( a\right) =\left\{ x\in \mathbb{R} ^{n}\ |\ d\left( x,a\right) <\delta \right\}
\end{equation*}と定義されます。つまり\(\left( 1\right) \)は、点\(a\)を中心とする近傍の中に点\(a\)以外の\(X\)の点を要素として持たないものが存在することを意味します。この場合、\(f\)は\(x\rightarrow a\)のときに\(\mathbb{R} ^{m}\)上の点\(b\)へ収束するでしょうか。\(\varepsilon >0\)を任意に選んだ上で、それに対して\(\left( 1\right) \)中の\(\delta >0\)を選ぶと、そもそも\(0<d\left( x,a\right) <\delta \)を満たす\(X\)の点\(x\)は存在しないため、\begin{equation}0<d\left( x,a\right) <\delta \Rightarrow d\left( f\left( x\right) ,b\right)
<\varepsilon \quad \cdots (2)
\end{equation}という主張の前提\(0<d\left(x,a\right) <\delta \)は常に偽になり、したがって\(\left( 2\right) \)全体は真になってしまいます。これは\(b\)としてどのような点を選んだ場合にも同様です。つまり、イプシロン・デルタ論法による関数の極限を踏まえたとき、\(a\)が\(X\)の孤立点である場合には、\(x\rightarrow a\)のときに\(f\left(x\right) \)は\(\mathbb{R} ^{m}\)上の任意の点に限りなく近づくことになってしまいます。これでは関数の極限の定義として破綻しています。したがって、\(x\rightarrow a\)のときに\(f\)が\(\mathbb{R} ^{m}\)上の点へ収束するかどうかを検討する際には、\(a\)が\(f\)の定義域の孤立点である状況をあらかじめ排除しておく必要があります。
例(変数を集積点へ近づける場合)
「多変数のベクトル値関数\(f:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} ^{m}\)が点\(a\in \mathbb{R} ^{n}\)の周辺の任意の点において定義されている」という表現が曖昧で気に入らなければ、これを「点\(a\in \mathbb{R} ^{n}\)は多変数のベクトル値関数\(f:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} ^{m}\)の定義域\(X\)の集積点である」と言い換えることもできます。点\(a\)が\(f\)の定義域\(X\)の集積点であることは、点\(a\)の任意の近傍が点\(a\)とは異なる\(X\)の要素を持つこと、すなわち、\begin{equation*}\forall \delta >0:N_{\delta }\left( a\right) \cap \left( X\backslash \left\{
a\right\} \right) \not=\phi
\end{equation*}が成り立つことを意味します。点\(a\)の周辺の点\(x\)を任意に選ぶと、十分小さい\(\delta \)のもとで\(x\in N_{\delta }\left( a\right) \)が成り立ちます。すると、上の定義より\(N_{\delta }\left( a\right) \)と\(\left( X\backslash \left\{ a\right\} \right) \)は交わるため\(x\in X\backslash \left\{ a\right\} \)となり、\(f\)は点\(x\)において定義されていることが保証されます。ちなみに、関数\(f\)が点\(a\)において定義されていない場合、すなわち\(a\not\in N\)が成り立つ場合には\(X\backslash \left\{ a\right\} =X\)となるため、上の定義を、\begin{equation*}\forall \delta >0:N_{\delta }\left( a\right) \cap X\not=\phi
\end{equation*}と言い換えることができます。これは点\(a\)が\(X\)の触点であることの定義に他なりません。この場合にも、点\(a\)の周辺の点\(x\)を任意に選ぶと、先と同様の理由により\(x\in X\)となることが保証されます。

 

多変数のベクトル値関数の極限の一意性

多変数のベクトル値関数が収束するとき、その極限は必ず1つの点として定まります。

命題(多変数のベクトル値関数の極限の一意性)
多変数のベクトル値関数\(f:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} ^{m}\)と点\(a\in \mathbb{R} ^{n}\)に関して極限\(\lim\limits_{x\rightarrow a}f\left( x\right) \in \mathbb{R} ^{m}\)が存在する場合、それは一意的である。
証明

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演習問題

問題(多変数のベクトル値関数の極限)
関数\(f:\mathbb{R} ^{3}\supset X\rightarrow \mathbb{R} ^{2}\)が与えられたとき、点\(\left( a_{1},a_{2},a_{3}\right) \in \mathbb{R} ^{3}\)および点\(\left( b_{1},b_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)について、\begin{equation*}\lim_{\left( x_{1},x_{2},x_{3}\right) \rightarrow \left(
a_{1},a_{2},a_{3}\right) }f\left( x_{1},x_{2},x_{3}\right) =\left(
b_{1},b_{2}\right)
\end{equation*}が成り立つことはどのような形で定義されるでしょうか。

証明

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問題(多変数のベクトル値関数の極限)
関数\(f:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} ^{2}\)はそれぞれの\(\left(x_{1},x_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)に対して、\begin{equation*}f\left( x_{1},x_{2}\right) =\left( -x_{2},3x_{1}\right)
\end{equation*}を定めるものとします。点\(\left( a_{1},a_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)を任意に選んだとき、\begin{equation*}\lim_{\left( x_{1},x_{2}\right) \rightarrow \left( a_{1},a_{2}\right)
}f\left( x_{1},x_{2}\right) =\left( -a_{2},3a_{1}\right)
\end{equation*}が成り立つことをイプシロン・デルタ論法を用いて証明してください。

証明

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問題(多変数のベクトル値関数の極限)
関数\(f:\mathbb{R} ^{n}\rightarrow \mathbb{R} ^{m}\)と点\(a\in \mathbb{R} ^{n}\)および点\(b\in \mathbb{R} ^{m}\)が与えられたとき、\begin{equation*}\lim_{x\rightarrow a}\left[ f\left( x\right) -b\right] =0
\end{equation*}が成り立つことは、\begin{equation*}
\lim_{x\rightarrow a}f\left( x\right) =b
\end{equation*}が成り立つための必要十分条件であることを示してください。

証明

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