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微分積分の応用例

ランチェスターの法則(一騎打ちの法則・確率戦の法則)

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ランシェスターの第1法則(一騎打ちの法則)

戦争に勝つ方法をはじめて組織的に研究したのは古代ギリシアであると言われています。古代ギリシアでは、将軍の術(ストラテジア)と兵士の術(タクティコース)を区別した上で、それぞれについて研究が行われました。将軍の術(ストラテジア)とは軍が効率的に勝つための考え方や法則のことであり、これは戦略(ストラテジー)の起源です。一方、兵士の術(タクティコース)とは戦地における兵士の動かし方のことであり、これは戦術(タクティクス)の起源です。戦略の中で最も有名なものの1つがランチェスターの法則(Lanchester’s Law)です。

図:ファランクス
図:ファランクス

古代ギリシアの戦争ではファランクスと呼ばれる重装歩兵が槍を持って横に並び、合図と共に一斉に敵に向かって進軍しました。日本の戦国時代における戦争でも同様です。槍や刀のように射程距離が短い武器を使った近接戦では、それぞれの兵士は一度に一人の相手としか戦えません。飛行機による戦闘でも、機関銃を使わない体当たりの空中戦の場合には、やはり戦闘は1対1の状況で発生します。このような戦いを一騎打ちと呼びます。

戦闘が常に1対1で行われる状況において、仮に両軍の武器の性能や兵士の能力が等しいのであれば、確率的に、一方の軍で1人戦死した場合、他方の軍でも1人戦死しているはずです。その結果、両軍の初期兵数に関係なく、戦死者の比率は\(1:1\)となります。

例(1対1の近接戦における損害)
\(X\)軍の初期兵力が\(500\)人、\(Y\)軍の初期兵力が\(1000\)人のときに、どちらか一方が全滅するまで近接戦を行う状況を想定します。両軍の武器の性能や兵士の能力が等しく、常に1対1で戦闘が行われるならば両軍とも\(500\)人を失うため、最終的に\(X\)軍は全滅し、\(Y\)軍では\(500\)人が生存します。

両軍の武器の性能や兵士の能力に差がある場合にはどうなるでしょうか。一方の軍の武器や兵士が他方の軍よりも総合的に\(2\)倍優れているのであれば、確率的に、一方の軍で1人戦死した場合、他方の軍で2人戦死しているはずです。その結果、両軍の初期兵数に関係なく、戦死者の比率は\(1:2\)となります。

例(1対1の近接戦における損害)
\(X\)軍の初期兵力が\(500\)人、\(Y\)軍の初期兵力が\(1000\)人のときに、どちらか一方が全滅するまで近接戦を行う状況を想定します。\(X\)軍の武器や兵士が\(Y\)軍よりも総合的に\(2\)倍優れており、常に1対1で戦闘が行われるならば両軍とも\(1000\)人を失うため、最終的に両軍ともに全滅します。

以上の議論を定式化します。\(X\)軍と\(Y\)軍が近接戦を行う状況を想定します。それぞれの兵士は一度に一人の相手としか戦えないものとします。包囲戦などは行われないということです。時点\(t\geq 0\)における\(X\)軍の残存兵数\(x\left( t\right) \)を特定する関数を、\begin{equation*}x:\mathbb{R} _{+}\rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}で表記し、時点\(t\geq 0\)における\(Y\)軍の残存兵数\(y\left( t\right) \)を特定する関数を、\begin{equation*}y:\mathbb{R} _{+}\rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}でそれぞれ表記します。両軍の初期兵数は初期時点\(t=0\)における残存兵数\(x\left( 0\right) \)および\(y\left( 0\right) \)であることに注意してください。

兵士の性能を表す定数を\(\alpha ,\beta >0\)でそれぞれ表します。つまり、\(X\)軍は単位時間当たりに\(\alpha \)人の敵兵を倒す能力を持ち、\(Y\)軍は単位時間値に\(\beta \)人の敵兵を倒す能力を持つということです。定数\(\alpha ,\beta \)の水準は武器の性能や兵士の能力や熟練度に依存します。

近接戦において戦闘が常に1対1で行われる場合には両軍の戦死者数の比率は各時点の兵数に依存しないため、時点\(t\geq 0\)における各軍の損害を、\begin{eqnarray*}\frac{dx\left( t\right) }{dt} &=&-\beta \\
\frac{dy\left( t\right) }{dt} &=&-\alpha
\end{eqnarray*}と表すことができます。以上を踏まえると、以下が成り立つことが示されます。これをランチェスターの1次法則(Lanchester’s linear law)や一騎打ちの法則などと呼びます。

命題(ランチェスターの1次法則)
\(X\)軍と\(Y\)軍が近接戦を行う状況を想定する。それぞれの兵士は一度に一人の相手としか戦えないものとする。\(X\)軍は単位時間当たりに\(\alpha >0\)人の敵兵を倒す能力を持ち、\(Y\)軍は単位時間当たりに\(\beta >0\)人の敵兵を倒す能力を持つものとする。時点\(t\geq 0\)における\(X\)軍の残存兵数\(x\left( t\right) \)を特定する関数を\(x:\mathbb{R} _{+}\rightarrow \mathbb{R} \)で表記し、時点\(t\geq 0\)における\(Y\)軍の残存兵数\(x\left( t\right) \)を特定する関数を\(y:\mathbb{R} _{+}\rightarrow \mathbb{R} \)で表記する。このとき、それぞれの時点\(t\geq 0\)において、以下の関係\begin{equation*}\alpha x\left( t\right) -\beta y\left( t\right) =\alpha x\left( 0\right)
-\beta y\left( 0\right)
\end{equation*}が成り立つ。

証明

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ランチェスターの1次法則の教訓

ランチェスターの1次法則\begin{equation}
\alpha x\left( t\right) -\beta y\left( t\right) =\alpha x\left( 0\right)
-\beta y\left( 0\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}で留意すべき点は、その右辺が定数であり、その符号に応じて\(x\left( t\right) \)と\(y\left( t\right) \)のどちらか一方だけが最終的に\(0\)になり得るということです。順番に解説します。

具体的には、\(\left( 1\right) \)の右辺が正の場合、すなわち、\begin{equation}\alpha x\left( 0\right) >\beta y\left( 0\right) \quad \cdots (2)
\end{equation}が成り立つ場合には、\(\left( 1\right) \)より、\begin{equation*}\alpha x\left( t\right) >\beta y\left( t\right)
\end{equation*}を得ますが、\(\alpha ,\beta >0\)かつ\(x\left( t\right) ,y\left( t\right) \geq 0\)であるため、このとき、\begin{equation*}\frac{\alpha }{\beta }x\left( t\right) >y\left( t\right) \geq 0
\end{equation*}を得ます。\(\frac{\alpha }{\beta }>0\)であるため、以上の事実は最終的に\(y\left( t\right) \)だけが\(0\)になることを意味します。この場合の\(X\)軍の生存者数は、\(\left( 1\right) \)より、\begin{equation*}x\left( t\right) =x\left( 0\right) -\frac{\beta }{\alpha }y\left( 0\right)
\end{equation*}となります。結論を整理すると、\(\left( 2\right) \)が成り立つ場合には\(Y\)軍だけが最終的に全滅するということです。

逆の場合にも同様の議論が成立します。つまり、\(\left( 1\right) \)の右辺が負の場合、すなわち、\begin{equation}\beta y\left( 0\right) >\alpha x\left( 0\right) \quad \cdots (3)
\end{equation}が成り立つ場合には、\(\left( 1\right) \)より、\begin{equation*}\beta y\left( t\right) >\alpha x\left( t\right)
\end{equation*}を得ますが、\(\alpha ,\beta >0\)かつ\(x\left( t\right) ,y\left( t\right) \geq 0\)であるため、このとき、\begin{equation*}\frac{\beta }{\alpha }y\left( t\right) >x\left( t\right) \geq 0
\end{equation*}を得ます。\(\frac{\beta }{\alpha }>0\)であるため、以上の事実は最終的に\(x\left( t\right) \)だけが\(0\)になることを意味します。この場合の\(Y\)軍の生存者数は、\(\left( 1\right) \)より、\begin{equation*}y\left( t\right) =y\left( 0\right) -\frac{\alpha }{\beta }x\left( 0\right)
\end{equation*}となります。結論を整理すると、\(\left( 3\right) \)が成り立つ場合には\(X\)軍だけが最終的に全滅するということです。

命題(ランチェスターの1次法則の教訓)
\(X\)軍と\(Y\)軍が近接戦を行う状況を想定する。それぞれの兵士は一度に一人の相手としか戦えないものとする。\(X\)軍は単位時間当たりに\(\alpha >0\)人の敵兵を倒す能力を持ち、\(Y\)軍は単位時間当たり\(\beta >0\)人の敵兵を倒す能力を持つものとする。初期時点における\(X\)軍の兵数を\(x\left( 0\right) \)で、\(Y\)軍の兵数を\(y\left( 0\right) \)でそれぞれ表記する。このとき、\begin{equation*}\alpha x\left( 0\right) >\beta y\left( 0\right)
\end{equation*}が成り立つ場合には\(Y\)軍だけが最終的に全滅し、\(X\)軍の生存者数は、\begin{equation*}x\left( 0\right) -\frac{\beta }{\alpha }y\left( 0\right)
\end{equation*}である。逆に、\begin{equation*}
\beta y\left( 0\right) >\alpha x\left( 0\right)
\end{equation*}が成り立つ場合には\(X\)軍だけが最終的に全滅し、\(Y\)軍の生存者数は、\begin{equation*}y\left( 0\right) -\frac{\alpha }{\beta }x\left( 0\right)
\end{equation*}である。

近接戦において兵士が常に1対1で戦う場合、どちらの軍が最終的に勝利するかは\(\alpha x\left( 0\right) \)と\(\beta y\left( 0\right) \)の大小関係によって決定されることが明らかになりました。そのような意味において、兵士の性能を表す定数と初期兵数の積である\(\alpha x\left( 0\right) \)や\(\beta y\left( 0\right) \)を兵士が1対1で戦う場合の各軍の戦闘力と定義できます。これが1つ目の教訓です。

上の命題において\(\alpha=\beta \)の場合、すなわち両軍の兵士の強さが等しい場合を想定すると以下を得ます。

命題(ランチェスターの1次法則の教訓)
\(X\)軍と\(Y\)軍が近接戦を行う状況を想定する。それぞれの兵士は一度に一人の相手としか戦えないものとする。\(X\)軍と\(Y\)軍が単位時間当たりに倒せる敵兵の数は同じであるものとする。初期時点における\(X\)軍の兵数を\(x\left( 0\right) \)で、\(Y\)軍の兵数を\(y\left( 0\right) \)でそれぞれ表記する。このとき、\begin{equation*}x\left( 0\right) >y\left( 0\right)
\end{equation*}が成り立つ場合には\(Y\)軍だけが最終的に全滅し、\(X\)軍の生存者数は、\begin{equation*}x\left( 0\right) -y\left( 0\right)
\end{equation*}である。逆に、\begin{equation*}
y\left( 0\right) >x\left( 0\right)
\end{equation*}が成り立つ場合には\(X\)軍だけが最終的に全滅し、\(Y\)軍の生存者数は、\begin{equation*}y\left( 0\right) -x\left( 0\right)
\end{equation*}である。

つまり、接近戦において兵士が常に1対1で戦う場合、両軍の兵の性能が等しければ、どちらの軍が最終的に勝つかは初期兵数によって決まります。さらに、勝利した軍の生存者数は両軍の初期兵数の差に等しくなります。これが2つ目の教訓です。

以上の議論はすべて近接戦において兵士が1対1で常に戦う場合にのみ成立します。兵力数が少ない方が兵力数が多い方から包囲される場合には、この法則通りになりません。兵力数が少ない方が包囲されないためには、山の険しい所や森が深い所など、大軍が行動しにくい所を戦場に選ぶ必要があります。

 

ランシェスターの第2法則(確率戦の法則)

ライフルや機関銃のように射程距離が長い武器を使って遠隔戦を行う場合には、それぞれの兵は一度に複数の敵兵をターゲットにできます。このような戦いを確率戦と呼びます。したがって、この場合にはランチェスターの第1法則を適用することはできません。

図:現代戦
図:現代戦

\(X\)軍と\(Y\)軍が近接戦を行う状況を想定します。それぞれの兵士は一度に複数の相手をターゲットにすることができるものとします。時点\(t\geq 0\)における\(X\)軍の残存兵数\(x\left(t\right) \)を特定する関数を、\begin{equation*}x:\mathbb{R} _{+}\rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}で表記し、時点\(t\geq 0\)における\(Y\)軍の残存兵数\(y\left( t\right) \)を特定する関数を、\begin{equation*}y:\mathbb{R} _{+}\rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}でそれぞれ表記します。両軍の初期兵数は初期時点\(t=0\)における残存兵数\(x\left( 0\right) \)および\(y\left( 0\right) \)です。

兵士の性能を表す定数を\(\alpha ,\beta >0\)でそれぞれ表します。ただし、一騎打ちを想定した先のモデルでは、\(\alpha,\beta \)を各軍が単位時間あたりに倒すことができる敵兵の数とみなしましたが、確率戦を想定した本モデルでは、\(\alpha ,\beta \)を各軍のそれぞれの兵士が単位時間あたりに倒すことができる敵兵の数とみなします。つまり、\(X\)軍のそれぞれの兵は平均的に単位時間当たりに\(\alpha \)人の敵兵を倒す能力を持ち、\(Y\)軍のそれぞれの兵は平均的に単位時間あたりに\(\beta \)人の敵兵を倒す能力を持つということです。定数\(\alpha ,\beta \)の水準は武器の性能や兵士の能力や熟練度に依存します。

確率戦において兵士は複数の敵兵を同時に狙うことができるため、それぞれの時点における各軍の損害は、その時点における敵軍の残存兵数と、敵軍の兵の性能の積として表されます。つまり、時点\(t\geq 0\)における各軍の損害を、\begin{eqnarray*}\frac{dx\left( t\right) }{dt} &=&-\beta y\left( t\right) \\
\frac{dy\left( t\right) }{dt} &=&-\alpha x\left( t\right)
\end{eqnarray*}と表すことができます。以上を踏まえると、以下が成り立つことが示されます。これをランチェスターの2次法則(Lanchester’s square law)や確率戦の法則などと呼びます。

命題(ランチェスターの2次法則)
\(X\)軍と\(Y\)軍が確率戦を行う状況を想定する。それぞれの兵士は一度に複数の相手と戦えるものとする。\(X\)軍のそれぞれの兵は単位時間当たりに\(\alpha >0\)人の敵兵を倒す能力を持ち、\(Y\)軍のそれぞれの兵は単位時間当たりに\(\beta >0\)人の敵兵を倒す能力を持つものとする。時点\(t\geq 0\)における\(X\)軍の残存兵数\(x\left(t\right) \)を特定する関数を\(x:\mathbb{R} _{+}\rightarrow \mathbb{R} \)で表記し、時点\(t\geq 0\)における\(Y\)軍の残存兵数\(y\left( t\right) \)を特定する関数を\(y:\mathbb{R} _{+}\rightarrow \mathbb{R} \)で表記する。このとき、それぞれの時点\(t\geq 0\)において、以下の関係\begin{equation*}\alpha \left[ x\left( t\right) \right] ^{2}-\beta \left[ y\left( t\right) \right] ^{2}=\alpha \left[ x\left( 0\right) \right] ^{2}-\beta \left[
y\left( 0\right) \right] ^{2}
\end{equation*}が成り立つ。

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ランチェスターの2次法則の教訓

ランチェスターの2次法則\begin{equation}
\alpha \left[ x\left( t\right) \right] ^{2}-\beta \left[ y\left( t\right) \right] ^{2}=\alpha \left[ x\left( 0\right) \right] ^{2}-\beta \left[
y\left( 0\right) \right] ^{2} \quad \cdots (1)
\end{equation}で留意すべき点は、その右辺が定数であり、その符号に応じて\(x\left( t\right) \)と\(y\left( t\right) \)のどちらか一方だけが最終的に\(0\)になり得るということです。順番に解説します。

具体的には、\(\left( 1\right) \)の右辺が正の場合、すなわち、\begin{equation}\alpha \left[ x\left( 0\right) \right] ^{2}>\beta \left[ y\left( 0\right) \right] ^{2} \quad \cdots (2)
\end{equation}が成り立つ場合には、\(\left( 1\right) \)より、\begin{equation*}\alpha \left[ x\left( t\right) \right] ^{2}>\beta \left[ y\left( t\right) \right] ^{2}
\end{equation*}を得ますが、\(\alpha ,\beta >0\)かつ\(x\left( t\right) ,y\left( t\right) \geq 0\)であるため、このとき、\begin{equation*}\frac{\alpha }{\beta }\left[ x\left( t\right) \right] ^{2}>\left[ y\left(
t\right) \right] ^{2}\geq 0
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\sqrt{\frac{\alpha }{\beta }}x\left( t\right) >y\left( t\right) \geq 0
\end{equation*}を得ます。\(\sqrt{\frac{\alpha }{\beta }}>0\)であるため、以上の事実は最終的に\(y\left( t\right) \)だけが\(0\)になることを意味します。この場合の\(X\)軍の生存者数は、\(\left( 1\right) \)より、\begin{equation*}x\left( t\right) =\sqrt{\left[ x\left( 0\right) \right] ^{2}-\frac{\beta }{\alpha }\left[ y\left( 0\right) \right] ^{2}}
\end{equation*}となります。結論を整理すると、\(\left( 2\right) \)が成り立つ場合には\(Y\)軍だけが最終的に全滅するということです。

逆の場合にも同様の議論が成立します。つまり、\(\left( 1\right) \)の右辺が負の場合、すなわち、\begin{equation}\beta \left[ y\left( 0\right) \right] ^{2}>\alpha \left[ x\left( 0\right) \right] ^{2} \quad \cdots (3)
\end{equation}が成り立つ場合には、\(\left( 1\right) \)より、\begin{equation*}\beta \left[ y\left( t\right) \right] ^{2}>\alpha \left[ x\left( t\right) \right] ^{2}
\end{equation*}を得ますが、\(\alpha ,\beta >0\)かつ\(x\left( t\right) ,y\left( t\right) \geq 0\)であるため、このとき、\begin{equation*}\frac{\beta }{\alpha }\left[ y\left( t\right) \right] ^{2}>\left[ x\left(
t\right) \right] ^{2}\geq 0
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\sqrt{\frac{\beta }{\alpha }}y\left( t\right) >x\left( t\right) \geq 0
\end{equation*}を得ます。\(\sqrt{\frac{\beta }{\alpha }}>0\)であるため、以上の事実は最終的に\(x\left( t\right) \)だけが\(0\)になることを意味します。この場合の\(Y\)軍の生存者数は、\(\left( 1\right) \)より、\begin{equation*}y\left( t\right) =\sqrt{\left[ y\left( 0\right) \right] ^{2}-\frac{\alpha }{\beta }\left[ x\left( 0\right) \right] ^{2}}
\end{equation*}となります。結論を整理すると、\(\left( 3\right) \)が成り立つ場合には\(X\)軍だけが最終的に全滅するということです。

命題(ランチェスターの2次法則の教訓)
\(X\)軍と\(Y\)軍が確率戦を行う状況を想定する。それぞれの兵士は一度に複数の相手と戦えるものとする。\(X\)軍のそれぞれの兵は単位時間当たりに\(\alpha >0\)人の敵兵を倒す能力を持ち、\(Y\)軍のそれぞれの兵は単位時間当たりに\(\beta >0\)人の敵兵を倒す能力を持つものとする。初期時点における\(X\)軍の兵数を\(x\left(0\right) \)で、\(Y\)軍の兵数を\(y\left( 0\right) \)でそれぞれ表記する。このとき、\begin{equation*}\alpha \left[ x\left( 0\right) \right] ^{2}>\beta \left[ y\left( 0\right) \right] ^{2}
\end{equation*}が成り立つ場合には\(Y\)軍だけが最終的に全滅し、\(X\)軍の生存者数は、\begin{equation*}\sqrt{\left[ x\left( 0\right) \right] ^{2}-\frac{\beta }{\alpha }\left[
y\left( 0\right) \right] ^{2}}
\end{equation*}である。逆に、\begin{equation*}
\beta \left[ y\left( 0\right) \right] ^{2}>\alpha \left[ x\left( 0\right) \right] ^{2}
\end{equation*}が成り立つ場合には\(X\)軍だけが最終的に全滅し、\(Y\)軍の生存者数は、\begin{equation*}\sqrt{\left[ y\left( 0\right) \right] ^{2}-\frac{\alpha }{\beta }\left[
x\left( 0\right) \right] ^{2}}
\end{equation*}である。

遠隔戦において兵士が確率戦を行う場合、どちらの軍が最終的に勝利するかは\(\alpha \left[ x\left( 0\right) \right] ^{2}\)と\(\beta \left[ y\left( 0\right) \right] ^{2}\)の大小関係によって決定されることが明らかになりました。そのような意味において、兵士の性能を表す定数と初期兵数の2乗の積である\(\alpha \left[ x\left( 0\right) \right] ^{2}\)や\(\beta \left[ y\left( 0\right) \right] ^{2}\)を兵士が確率戦を行う場合の各軍の戦闘力と定義できます。近接戦において兵士が1対1で戦う場合の戦闘力が\(\alpha x\left( 0\right) \)や\(\beta y\left( 0\right) \)であったのに対し、確率戦では兵数が2乗になって効いてきます。これが1つ目の教訓です。

上の命題において\(\alpha=\beta \)の場合、すなわち両軍の兵士の強さが等しい場合を想定すると以下を得ます。

命題(ランチェスターの2次法則の教訓)
\(X\)軍と\(Y\)軍が確率戦を行う状況を想定する。それぞれの兵士は一度に複数の相手と戦えるものとする。\(X\)軍の兵と\(Y\)軍の兵が単位時間当たりに敵兵の数は同じであるものとする。初期時点における\(X\)軍の兵数を\(x\left( 0\right) \)で、\(Y\)軍の兵数を\(y\left( 0\right) \)でそれぞれ表記する。このとき、\begin{equation*}\left[ x\left( 0\right) \right] ^{2}>\left[ y\left( 0\right) \right] ^{2}
\end{equation*}が成り立つ場合には\(Y\)軍だけが最終的に全滅し、\(X\)軍の生存者数は、\begin{equation*}\sqrt{\left[ x\left( 0\right) \right] ^{2}-\left[ y\left( 0\right) \right] ^{2}}
\end{equation*}である。逆に、\begin{equation*}
\left[ y\left( 0\right) \right] ^{2}>\left[ x\left( 0\right) \right] ^{2}
\end{equation*}が成り立つ場合には\(X\)軍だけが最終的に全滅し、\(Y\)軍の生存者数は、\begin{equation*}\sqrt{\left[ y\left( 0\right) \right] ^{2}-\left[ x\left( 0\right) \right] ^{2}}
\end{equation*}である。

つまり、遠隔戦において確率戦が行われる場合、両軍の兵の性能が等しければ、どちらの軍が最終的に勝つかは初期兵数の2乗によって決まります。さらに、勝利した軍の生存者数は両軍の初期兵数の二乗の差の平方根に等しくなります。確率戦では初期兵数のわずかな差が、戦闘力、損害、残存兵士数の大きな差へとつながります。これが2つ目の教訓です。

 

強者の戦略と弱者の戦略

ランチェスターの法則は、接近戦(1対1の戦闘)と遠隔戦(確率戦)のどちらを採用すべきであるかという問いへの指針を与えてくれます。

両軍の兵の性能が等しい一方、初期兵数に差がある状況について考えます。

例(兵の性能が等しい場合)
兵士の性能が等しい2つの軍\(X,Y\)が戦う状況を想定します。ただし、初期兵数に関して、\begin{equation}x\left( 0\right) >y\left( 0\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}が成り立つものとします。\(X\)軍の初期兵数が\(Y\)軍の初期兵数より多いということです。接近戦における両軍の戦闘力は\(x\left( 0\right) \)と\(y\left( 0\right) \)であるため、\(\left(1\right) \)より、接近戦では\(X\)軍が勝利します。遠隔戦における両軍の戦闘力は\(\left[ x\left( 0\right) \right] ^{2}\)と\(\left[ y\left( 0\right) \right] ^{2}\)であるため、\(\left( 1\right) \)より、遠隔戦でも\(X\)軍が勝利します。では、\(X\)軍はどちらの戦闘に持ち込むべきでしょうか。接近戦の場合の\(X\)軍の残存兵数は、\begin{equation*}x\left( 0\right) -y\left( 0\right)
\end{equation*}であり、遠隔戦の場合の\(X\)軍の残存兵数は、\begin{equation*}\sqrt{\left[ x\left( 0\right) \right] ^{2}-\left[ y\left( 0\right) \right] ^{2}}
\end{equation*}です。ともに正の数であるため両者の2乗を比較すると、\begin{eqnarray*}
\left( \sqrt{\left[ x\left( 0\right) \right] ^{2}-\left[ y\left( 0\right) \right] ^{2}}\right) ^{2}-\left( x\left( 0\right) -y\left( 0\right) \right)
^{2} &=&\left[ x\left( 0\right) \right] ^{2}-\left[ y\left( 0\right) \right] ^{2}-\left\{ \left[ x\left( 0\right) \right] ^{2}-2x\left( 0\right) y\left(
0\right) +\left[ y\left( 0\right) \right] ^{2}\right\} \\
&=&2x\left( 0\right) y\left( 0\right) \\
&>&0
\end{eqnarray*}となるため、\begin{equation*}
\sqrt{\left[ x\left( 0\right) \right] ^{2}-\left[ y\left( 0\right) \right] ^{2}}>x\left( 0\right) -y\left( 0\right)
\end{equation*}を得ます。つまり、初期兵数が多い\(X\)軍は遠隔戦に持ち込んだほうが損害を減らすことができます。

上の例から明らかになったように、両軍の兵士の性能が等しい場合、接近戦と遠隔戦のどちらにおいても、初期兵数が多いほうの軍が勝利しますが、その軍は遠隔戦に持ち込んだ方が存在を減らすことが出来ます。遠隔戦では初期兵数の2乗が戦力として効いてくるため、初期兵数が多い軍は遠隔戦に持ち込んだ方が有利なのです。逆に、初期兵数が少ない軍は接近戦に持ち込んだ方が相手により大きな損害を与えられるため、接近戦に持ち込む方が相対的により望ましいと言えます。

局地的な戦闘において、兵数がより多い軍を強者と呼び、兵数がより少ない軍を弱者とそれぞれ呼ぶのであれば、強者はランチェスターの第2法則が適用できるような戦場で戦うべきであり(強者の戦略)、逆に弱者はランチェスターの第1法則が適用できるような戦場で戦うべきです(弱者の戦略)。つまり、強者は見通しの良い場所で遠隔戦に持ち込み、多対一の状況で闘うことで自身の損害を抑えることができます。また、強者は兵士の性能で劣っていても、遠隔戦ならば数の力によって勝利できます。逆に、弱者は狭い場所で接近戦に持ち込み、一対一の状況で戦うことで相手により多くの損害を与えることができます。弱者は兵士の数で劣っていても、接近戦ならば兵士の性能を向上させることで勝利するチャンスが生まれます。以上がランチェスターの法則の教訓です。

 

ビジネスへの応用

ランチェスターの法則は軍事に関する戦略ですが、これをビジネスに応用するとどのようなことが言えるでしょうか。経営を市場シェアをめぐって行われる企業どうしの戦争と解釈します。ある企業の営業が別の企業の営業に勝利すれば、勝利した企業は市場シェアを伸ばすことができます。企業の目標は自社の市場シェアを効率的に増やすこと、すなわち競争相手を効率的に壊滅させることです。企業の戦力は営業の人数と質に依存します。営業の質とは営業の個人としての能力だけでなく、販売する製品やサービスの質、企業の資金力などにも依存します。

図:ビジネス戦略
図:ビジネス戦略

ランチェスターの法則によると、強者に相当する企業はランチェスターの第2法則が適用できるような市場で戦うべきです。自身の強みであるリソースの多さを活用するために、広い場所での多対一の勝負に持ち込む必要があります。具体的には、大都市や広い地域を営業エリアに設定したり、複数の様々な製品を販売品目として設定することでより効率的に戦えます。また、競争相手が性能の良い製品を販売し始めたら、自身も追随して同様の製品を販売すれば、物量戦に持ち込むことができます。

一方、弱者に相当する企業はランチェスターの第1法則が適用できるような市場で戦うべきです。狭い場所での1対1の勝負に持ち込む必要があります。具体的には、地方都市や狭い地域を営業エリアに設定したり、販売品目を絞り込むことにより効率的に戦えます。また、物量戦ではかなわないため、製品や営業の質を上げることも重要になります。

強者と弱者がそれぞれ採用すべき戦略の方針は明らかになりましたが、この知識を活用するためには、そもそも自社が市場における強者と弱者のどちらであるかを知る必要があります。強者と弱者を明確に分ける基準として広く知られているのは、マーケティングコンサルタントの田岡信夫と統計学者の斧田大公望が1960年代に開発した市場占拠率の目標数値モデルです。これは、コロンビア大学の数学者バーナード・クープマンが1943年に発表したランチェスターの戦略方程式を市場競争モデルと解釈することで得られたモデルです。

強者と弱者を分ける市場シェア\(26.12\%\)はであり、これを下限目標値と呼びます。また、市場シェアが\(41.70\%\)に達すればその企業は安定的な強者の地位を得るものとされ、これを安定目標値と呼びます。さらに、市場シェアが\(73.88\%\)以上に達すればその企業は絶対的優位の地位を得るものとされ、これを上限目標値と呼びます。以上の3つの目標値を総称して3大目標値と呼びます。

 

演習問題

問題(初期兵数と兵士の性能が違う場合)
2つの軍\(X,Y\)が戦う状況を想定します。ただし、初期兵数に関して、\begin{equation*}x\left( 0\right) =2y\left( 0\right)
\end{equation*}が成り立ち、兵の性能に関して、\begin{equation*}
3\alpha =\beta
\end{equation*}が成り立つものとします。つまり、\(X\)軍の初期兵数は\(Y\)軍の初期兵数の2倍ですが、逆に、\(Y\)軍の兵の性能は\(X\)軍の兵の性能の3倍です。両軍はそれぞれ接近戦(1対1の戦闘)と遠隔戦(確率戦)のどちらを採用すべきでしょうか。議論してください。
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