準則1:正確な理解
簡単には解けそうにない数学の問題に直面したときの対処方法を 4 つの準則にまとめた上で、それらの意味を解説します。
どのような問題でもいくつかの基本的な要素から構成されています。基本的な要素とは用語や概念の定義であり、また、その定理から正しい論理によって導かれた定理などを指します。これらを正確に理解し記憶することが第一歩です。
例えば、サッカーのルールの中には「フィールドプレイヤーは手を使ってはならない」というものがあります。すべてのプレイヤーがこのルールを守らなければゲームは成立しません。あるプレイヤーが、「腕は手ではないから使っても大丈夫」と勝手に解釈して腕でボールを扱った場合、その論理は通用せず反則になります。プレイヤーはルールを守らなければなりませんし、その意味を勝手に解釈してはいけません。論理が正しくても前提が間違っていては意味がないのです。
問題を難しいと感じるとき、用語や概念を正確に記憶していないがために、問題文が頭の中を上滑りしている可能性があります。問題文を読んでいても、そこに含まれる情報を解析できていない状態です。数学では定義や定理がいずれも定式化されています。問題文を漫然と読むのではなく、そこに含まれる用語や概念の定義ないし定理を一つひとつ意識的に式や条件へと変換することにより、問題を解くための道具として使えるようになるのです。
数学の問題を難しく感じる理由は、問題文中の用語の定義を正確に知らないことにあるのかもしれません。理解していない用語や概念に対して拒否反応が起こり、問題を実態よりも難しく見せている可能性があります。以上を踏まえた上で 1 つ目の準則を打ち立てます。
この準則は、日頃の学習に役立てることもできます。問題文の中に自分では正確に説明できない用語や概念があるならば、その正確な意味をきちんと調べてノートに記入し、繰り返し復習することで正確に記憶すればよいのです。
準則2:分割して考える
ジグソーパズルを組み立てる際に、ピースの山の中から適当にピースを 1 つ選び、それがカンバスのどこに入るかを模索する人はいないと思います。多くの場合、まずは端に入るピースを探し、それらを組み立てて外側の枠を先に完成させ、続いて、すでに組み上がっている外枠の内隣りに入るピースを探します。もしくは、同じ絵柄や色のピースを集め、それらを組み立ててパズルを部分的に完成させます。
数学でも同様です。複雑な問題をそのまま解こうとしても、どこから手をつければよいか分からないため解けません。パズルと同様に、数学の問題もなるべく細かく分割し、部分ごとに解きます。これを 2 つ目の準則とします。
この準則もまた日頃の学習に役立てることができます。自分が解けなかった問題の解答を分割して読んでみましょう。問題を分割し、各部分が何を証明しようとしているのかを意識して読むことで、解答全体を理解しやすくなります。また、このような作業を日頃から繰り返すことにより、自分が問題を解く際にも分割して考える習慣が身に付きます。
準則3:解きやすい箇所から解く
ジグソーパズルのピースを、
- 端のピース
- 色が柄が同じピース
- それ以外のピース
という 3 つのグループに分類する理由は、グループ 1,2 のピースを先に組み立てるためです。さらに、グループ 1,2 のピースを先に組み立てる理由は、それらを先に組み立てるほうがグループ 3 のピースを先に組み立てるよりも簡単だからです。せっかくピースを分類したのにグループ 3 のピースから組み立てる人はいません。グループ 1,2 のピースを組み立ててから、すでに完成している部分の隣に位置するピースをグループ 3 の中から探して組み立てていくのが一般的な手法ではないでしょうか。
数学でも同様に、準則 2 にしたがって問題を分割したならば、解きやすそうな部分から先に解いていきます。これを 3 つ目の準則とします。
数学の解答は多くの場合、問題を解く上で必要な論理的順序にしたがって書かれているため、通常は書かれている順番通りに読むことになります。しかし、解答のある部分が理解できなかったら別の部分を先に理解しようとする、という意味で順番を替えるのは良いことです。また、準則 3 に関連して重要なことは、解答のそれぞれの部分を理解する際に、各部分で使われている一つひとつの考え方やテクニックを知らなかった場合には、やはりそれを項目化してノートにまとめ、繰り返し復習するということです。
準則4:見直しを行う
作成した解答を見直します。
その際の確認事項は以下の通りです。
- 問題の意図を正確に把握しているか。
- 求められていることに対する答えになっているか。
- 計算や論理展開に間違いはないか。
また、準則 3 にしたがって問題を小問題群に分割し、それぞれの小問題を解いた上で最終的な解答とするわけですが、このとき、
- それぞれの小問題を解く際に利用した条件・仮定の間に整合性はあるか。
という点も確認する必要があります。
デカルトの4準則
難しい数学の問題への対処方法を 4 つの準則としてまとめた上で解説しましたが、実はこの話には元ネタがあります。
今から 400 年前のフランスに、ルネ・デカルト(René Descartes)という哲学者がいました。非常に有名な人物ですので、ご存知の方も多いでしょう。デカルトが 40 歳くらいの時に発表した『方法序説(Discours de la méthode)』もまた有名です。ちなみに、この著作の正式名称は、『みずからの理性を正しく導き、もろもろの学問において真理を探究するための方法についての序説およびこの方法の試論』です。
方法序説は 6 つのパートから構成されているのですが、今回の話に関係あるのは第 2 部です。第 2 部の冒頭において、デカルトは以下のような問題意識を提示します。
この「偏見のない判断」は理性の力によって行われるはずですが、人間は成長する過程で無責任なことを言う多くの大人の支配下にあるため、その力をスポイルされてしまいます。そこでデカルトは、この力を取り戻して 1 人で真理へ近づくための方法を考えました。彼は論理学や数学を学んだことがあったため、それらの方法論を参考にし、さらに純化させることで理性を活用するための方法を 4 つの準則としてまとめました。
彼が理性の力を取り戻すために考案した準則は、後に近代科学の基本的な原理となり、現在にも受け継がれています。今回紹介した数学の難問を解くための 4 準則は、デカルトの 4 準則の抽象度を下げたものに他なりません。