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MATRIX

行列の加法(行列の和)

目次

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行列加法

同じ大きさを持つ行列\(A,B\in M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)を任意に選びます。ただし、\begin{equation*}A=\left( a_{ij}\right) ,\quad B=\left( b_{ij}\right)
\end{equation*}です。このとき、これらの対応する成分どうしを足すことにより得られる行列を、\begin{equation*}
A+B=\left( a_{ij}+b_{ij}\right)
\end{equation*}で表記し、これを\(A\)と\(B\)の(sum)や成分ごとの和(entrywise sum)などと呼びます。左辺の\(+\)は行列の加法を表す記号であり、右辺の\(+\)は実数の加法を表す記号であることに注意してください。両者を同じ記号を用いて表記するため注意が必要です。

行列\(A,B\in M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)を任意に選んだとき、実数空間\(\mathbb{R} \)が加法\(+\)について閉じていることから行列加法\(A+B\)のそれぞれの成分\(a_{ij}+b_{ij}\)が1つの実数として定まることが保証されるため、\(A+B\)が\(\mathbb{R} \)上の\(m\times n\)行列として定まること、すなわち\(A+B\in M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)が成り立つことが保証されます。したがって、\(M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)の要素を成分とするそれぞれの順序対\(\left( A,B\right) \)に対して、\(M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)の要素である行列和\(A+B\)を定める二項演算\(+\)が定義可能です。これを行列加法(matrixaddition)と呼びます。行列集合\(M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)は行列加法\(+\)について閉じています。\(\left(A,B\right) \)に対して\(+\)を適用することを\(A\)と\(B\)を足す(add)と言います。

例(行列加法)
以下の\(2\times 3\)行列\begin{eqnarray*}A &=&\begin{pmatrix}
1 & -2 & 3 \\
4 & 5 & -6\end{pmatrix}
\\
B &=&\begin{pmatrix}
3 & 0 & 2 \\
-7 & 1 & 8\end{pmatrix}\end{eqnarray*}に対して、\begin{eqnarray*}
A+B &=&\begin{pmatrix}
1 & -2 & 3 \\
4 & 5 & -6\end{pmatrix}+\begin{pmatrix}
3 & 0 & 2 \\
-7 & 1 & 8\end{pmatrix}\quad \because A,B\text{の定義} \\
&=&\begin{pmatrix}
1+3 & -2+0 & 3+2 \\
4-7 & 5+1 & -6+8\end{pmatrix}\quad \because \text{行列加法の定義} \\
&=&\begin{pmatrix}
4 & -2 & 5 \\
-3 & 6 & 2\end{pmatrix}\end{eqnarray*}が成り立ちます。同様に、\begin{eqnarray*}
B+A &=&\begin{pmatrix}
3 & 0 & 2 \\
-7 & 1 & 8\end{pmatrix}+\begin{pmatrix}
1 & -2 & 3 \\
4 & 5 & -6\end{pmatrix}\quad \because A,B\text{の定義} \\
&=&\begin{pmatrix}
3+1 & 0-2 & 2+3 \\
-7+4 & 1+5 & 8-6\end{pmatrix}\quad \because \text{行列加法の定義} \\
&=&\begin{pmatrix}
4 & -2 & 5 \\
-3 & 6 & 2\end{pmatrix}\end{eqnarray*}が成り立ちます。ここでは、\begin{equation*}
A+B=B+A
\end{equation*}という関係が成立しています。

例(行列加法)
以下の\(1\times n\)行列\begin{eqnarray*}A &=&\left( a_{1},a_{2},\cdots ,a_{n}\right) \\
B &=&\left( b_{1},b_{2},\cdots ,b_{n}\right)
\end{eqnarray*}に対して、\begin{eqnarray*}
A+B &=&\left( a_{1},a_{2},\cdots ,a_{n}\right) +\left( b_{1},b_{2},\cdots
,b_{n}\right) \quad \because A,B\text{の定義} \\
&=&\left( a_{1}+b_{1},a_{2}+b_{2},\cdots ,a_{n}+b_{n}\right) \quad \because
\text{行列加法の定義}
\end{eqnarray*}となりますが、これはベクトル加法に他なりません。つまり、\(1\times n\)行列、すなわち行ベクトルにおいて行列加法とベクトル加法は一致します。具体例を挙げると、\begin{eqnarray*}\left( 1,2,3\right) +\left( 2,3,4\right) &=&\left( 3,5,7\right) \\
\left( 1,-1\right) +\left( 3,4\right) &=&\left( 4,3\right) \\
\left( 0,1\right) +\left( 1,-1\right) &=&\left( 1,0\right)
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。

例(行列加法)
以下の\(m\times 1\)行列\begin{equation*}A=\left(
\begin{array}{c}
a_{1} \\
a_{2} \\
\vdots \\
a_{m}\end{array}\right) ,\quad B=\left(
\begin{array}{c}
b_{1} \\
b_{2} \\
\vdots \\
b_{m}\end{array}\right)
\end{equation*}に対して、\begin{eqnarray*}
A+B &=&\left(
\begin{array}{c}
a_{1} \\
a_{2} \\
\vdots \\
a_{m}\end{array}\right) +\left(
\begin{array}{c}
b_{1} \\
b_{2} \\
\vdots \\
b_{m}\end{array}\right) \quad \because A,B\text{の定義} \\
&=&\left(
\begin{array}{c}
a_{1}+b_{2} \\
a_{2}+b_{2} \\
\vdots \\
a_{m}+b_{m}\end{array}\right) \quad \because \text{行列加法の定義}
\end{eqnarray*}となります。具体例を挙げると、\begin{eqnarray*}
\left(
\begin{array}{c}
1 \\
2 \\
3\end{array}\right) +\left(
\begin{array}{c}
2 \\
3 \\
4\end{array}\right) &=&\left(
\begin{array}{c}
3 \\
5 \\
7\end{array}\right) \\
\left(
\begin{array}{c}
1 \\
-1\end{array}\right) +\left(
\begin{array}{c}
3 \\
4\end{array}\right) &=&\left(
\begin{array}{c}
4 \\
3\end{array}\right) \\
\left(
\begin{array}{c}
0 \\
1\end{array}\right) +\left(
\begin{array}{c}
1 \\
-1\end{array}\right) &=&\left(
\begin{array}{c}
1 \\
0\end{array}\right)
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。

例(行列加法)
以下の\(1\times 1\)行列\begin{eqnarray*}A &=&\left( a\right) \\
B &=&\left( b\right)
\end{eqnarray*}に対して、\begin{eqnarray*}
A+B &=&\left( a\right) +\left( b\right) \quad \because A,B\text{の定義} \\
&=&\left( a+b\right) \quad \because \text{行列加法の定義}
\end{eqnarray*}となりますが、これは実数の加法に他なりません。つまり、\(1\times 1\)行列において行列加法と実数の加法は一致します。具体例を挙げると、\begin{eqnarray*}\left( 1\right) +\left( 2\right) &=&\left( 3\right) \\
\left( 0\right) +\left( -1\right) &=&\left( -1\right) \\
\left( \frac{1}{2}\right) +\left( -2\right) &=&\left( -\frac{3}{4}\right)
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。

行列加法は同じ大きさの2つの行列に対してのみ定義されます。大きさの異なる行列どうしに行列加法を適用することはできません。

例(行列加法)
以下の2つの行列\begin{eqnarray*}
A &=&\begin{pmatrix}
1 & 2 & 3 \\
4 & 5 & 6\end{pmatrix}
\\
B &=&\begin{pmatrix}
1 & 2 \\
3 & 4 \\
5 & 6\end{pmatrix}\end{eqnarray*}に注目します。\(A\)は\(2\times 3\)行列であり、\(B\)は\(3\times 2\)行列であるため、両者の大きさは異なります。したがって、これらの和\(A+B\)は定義されません。

 

行列加法の結合律

\(\mathbb{R} \)上の加法や\(\mathbb{R} ^{n}\)上のベクトル加法と同様、行列加法もまた結合律(associative law)を満たします。

命題(行列加法の結合律)
行列集合\(M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)上に定義された行列加法\(+\)は、\begin{equation*}\left( V_{1}\right) \ \forall A,B,C\in M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) :\left( A+B\right) +C=A+\left( B+C\right)
\end{equation*}を満たす。

証明

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ゼロ行列(行列加法単位元)

すべての成分が\(0\)であるような\(\mathbb{R} \)上の\(m\times n\)行列を、\begin{equation*}0=\begin{pmatrix}
0 & 0 & \cdots & 0 \\
0 & 0 & \cdots & 0 \\
\cdots & \cdots & \cdots & \cdots \\
0 & 0 & \cdots & 0\end{pmatrix}\end{equation*}で表記し、これをゼロ行列(zero matrix)と呼びます。ただし、左辺の\(0\)はゼロ行列を表す記号であり、右辺中の\(0\)はゼロです。

ゼロが加法に関する単位元であり、ゼロベクトルが加法に関する単位元であるように、ゼロ行列は行列加法に関する単位元です。

命題(行列加法単位元)

行列集合\(M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)上に定義された行列加法\(+\)は、\begin{equation*}\left( V_{2}\right) \ \exists 0\in M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) ,\ \forall A\in M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) :A+0=A
\end{equation*}を満たす。

証明

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\(\mathbb{R} \)の加法単位元であるゼロは一意的であるため、ゼロを成分として持つ行列として定義されるゼロ行列もまた一意的です。

命題(ゼロ行列の一意性)
行列集合\(M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)におけるゼロ行列\(0\)は一意的である。

 

行列加法に関する逆元

行列\(A\in M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)を任意に選びます。ただし、\begin{equation*}A=\left( a_{ij}\right)
\end{equation*}です。この行列の成分の加法逆元をとることにより得られる行列を、\begin{equation*}
-A=\left( -a_{ij}\right)
\end{equation*}で表記し、これを\(A\)の行列加法に関する逆元(inverse element in relation to matrix addition)と呼びます。ただし、左辺の\(-A\)は行列\(A\)の加法に関する逆元を表す記号であり、右辺の\(-a_{ij}\)は実数\(a_{ij}\)の加法逆元を表す記号です。両者を同じ記号を用いて表記するため注意が必要です。

後ほど、行列どうしの乗法を定義し、それに関連して逆行列と呼ばれる概念を定義しますが、それは行列加法に関する逆元とは異なる概念であるため注意が必要です。

実数\(x\)の負数\(-x\)が加法に関する逆元であり、ベクトル\(x\)の逆ベクトル\(-x\)がベクトル和に関する逆元であるように、行列\(A\)に対する\(-A\)は行列加法に関する逆元です。

命題(行列加法に関する逆元)
行列集合\(M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)上に定義された行列加法\(+\)は、\begin{equation*}\left( V_{3}\right) \ \forall A\in M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) ,\ \exists -A\in M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) :A+\left( -A\right) =0
\end{equation*}を満たす。

証明

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それぞれの実数\(a_{ij}\)に対してその加法逆元\(-a_{ij}\)は一意的に定まるため、それぞれの行列\(\left( a_{ij}\right) \)に対して行列加法に関する逆元\(\left( -a_{ij}\right) \)は一意的に定まります。

命題(行列加法に関する逆元の一意性)
行列\(A\in M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)を任意に選んだとき、行列加法に関する逆元\(-A\in M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)は一意的である。

 

行列加法の交換律

\(\mathbb{R} \)上の加法や\(\mathbb{R} ^{n}\)上のベクトル加法と同様、行列加法もまた交換律(commutative law)を満たします。

命題(行列加法の交換律)
行列集合\(M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)上に定義された行列加法\(+\)は、\begin{equation*}\left( V_{4}\right) \ \forall A,B\in M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) :A+B=B+A
\end{equation*}を満たす。

証明

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可換群としての行列空間

行列加法\(+\)が\(\left( V_{1}\right) \)を満たすことは、行列集合\(M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)が\(+\)に関して半群(semigroup)であることを意味します。また、行列加法\(+\)が\(\left( V_{1}\right) \)と\(\left( V_{2}\right) \)を満たすことは、\(M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)が\(+\)に関してモノイド(monoid)であることを意味します。また、行列加法\(+\)が\(\left(V_{1}\right) ,\left( V_{2}\right) \)に加えて\(\left(V_{3}\right) \)を満たすことは、\(M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)が\(+\)に関して(group)であることを意味します。さらに、行列加法\(+\)が\(\left( V_{1}\right) ,\left( V_{2}\right),\left( V_{3}\right) \)に加えて\(\left( V_{4}\right) \)を満たすことは、\(M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)が\(+\)に関して可換群(commutative group)またはアーベル群(abelian group)であることを意味します。

命題(行列加法と可換群)
行列集合\(M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)は行列加法\(+\)に関して可換群である。すなわち、\begin{eqnarray*}&&\left( V_{1}\right) \ \forall A,B,C\in M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) :\left( A+B\right) +C=A+\left( B+C\right) \\
&&\left( V_{2}\right) \ \exists 0\in M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) ,\ \forall A\in M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) :A+0=A \\
&&\left( V_{3}\right) \ \forall A\in M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) ,\ \exists -A\in M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) :A+\left( -A\right) =0 \\
&&\left( V_{4}\right) \ \forall A,B\in M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) :A+B=B+A
\end{eqnarray*}が成り立つ。

 

行列加法に関する逆元の逆元

行列\(A\in M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)を任意に選んだとき、行列加法に関する逆元\(-A\)もまた\(M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)の要素であるため、さらにその逆元\(-\left(-A\right) \)が存在し、これもまた\(M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)の要素です。しかも、\begin{equation*}-\left( -A\right) =A
\end{equation*}という関係が成り立ちます。つまり、行列の行列加法に関する逆元の逆元はもとの行列と一致します。

命題(行列加法に関する逆元の逆元)
行列\(A\in M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)をに選んだとき、\begin{equation*}-\left( -A\right) =A
\end{equation*}が成り立つ。

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ゼロ行列の行列加法に関する逆元

ゼロ行列\(0\)は\(M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)の要素であるため、行列加法に関する逆元\(-0\)もまた\(M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)の点です。しかも、\begin{equation*}-0=0
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、ゼロ行列の行列加法に関する逆元はゼロ行列です。

命題(ゼロ行列の行列加法に関する逆元)
ゼロ行列\(0\in M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)について、\begin{equation*}-0=0
\end{equation*}が成り立つ。

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演習問題

問題(行列加法)
行列\(A,B,C\)がそれぞれ、\begin{eqnarray*}A &=&\begin{pmatrix}
1 & -1 & 2 \\
0 & 3 & 4\end{pmatrix}
\\
B &=&\begin{pmatrix}
4 & 0 & -3 \\
-1 & -2 & 3\end{pmatrix}
\\
C &=&\begin{pmatrix}
1 & 0 \\
0 & 1\end{pmatrix}\end{eqnarray*}として与えられているとき、\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ A+B \\
&&\left( b\right) \ B+C \\
&&\left( c\right) \ A+C
\end{eqnarray*}をそれぞれ求めてください。

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問題(行列加法)
任意の行列\(A\in M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)について、\begin{equation*}-\left( -\left( -A\right) \right) =-A
\end{equation*}が成り立つことを証明してください。

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問題(行列加法)
行列\(A,B,C\in M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)をそれぞれ任意に選んだとき、\begin{equation*}A+B=A+C\Rightarrow B=C
\end{equation*}が成り立つことを証明してください。これを行列加法に関する簡約法則(cancellation law)と呼びます。

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