教材一覧
教材一覧
教材検索
MATRIX

行列のスカラー乗法(行列のスカラー倍)

目次

次のページ >
Share on twitter
Twitterで共有
Share on email
メールで共有

行列のスカラー乗法

実数\(k\in \mathbb{R} \)と行列\(A\in M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)をそれぞれ任意に選びます。ただし、\begin{equation*}A=\left( a_{ij}\right)
\end{equation*}です。このとき、\(k\)による\(A\)のスカラー積(scalar product)を、\begin{equation*}kA=\left( ka_{ij}\right)
\end{equation*}と定義します。つまり、\(A\)のそれぞれの成分\(a_{ij}\)を\(k\)倍することで新たに得られる行列が\(kA\)です。スカラー積\(kA\)の\(k\)をスカラー(scalar)や係数(coefficient)などと呼び、スカラーがとり得る値の集合である\(\mathbb{R} \)をスカラー場(scalarfield)や係数体(coefficient field)などと呼びます。

スカラー\(k\in \mathbb{R} \)と行列\(A\in M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)を任意に選んだとき、実数空間\(\mathbb{R} \)が乗法について閉じていることからスカラー積\(kA\)の任意の成分\(ka_{ij}\)が1つの実数として定まることが保証されるため、\(kA\)が\(\mathbb{R} \)上の\(m\times n\)行列として定まること、すなわち\(kA\in M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)が成り立つことが保証されます。したがって、\(\mathbb{R} \)の要素と\(M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)の要素からなるそれぞれの順序対\(\left( k,A\right) \)に対して、\(M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)の要素であるスカラー倍\(kA\)を定める二項演算が定義可能です。これをスカラー乗法(scalar multiplication)と呼びます。

例(行列のスカラー乗法)
以下の\(2\times 3\)行列\begin{eqnarray*}A &=&\begin{pmatrix}
1 & -2 & 3 \\
4 & 5 & -6\end{pmatrix}
\\
B &=&\begin{pmatrix}
3 & 0 & 2 \\
-7 & 1 & 8\end{pmatrix}\end{eqnarray*}に対して、例えば、\begin{eqnarray*}
3A &=&3\begin{pmatrix}
1 & -2 & 3 \\
4 & 5 & -6\end{pmatrix}\quad \because A\text{の定義} \\
&=&\begin{pmatrix}
3\cdot 1 & 3\cdot \left( -2\right) & 3\cdot 3 \\
3\cdot 4 & 3\cdot 5 & 3\cdot \left( -6\right)
\end{pmatrix}\quad \because \text{スカラー乗法の定義} \\
&=&\begin{pmatrix}
3 & -6 & 9 \\
12 & 15 & -18\end{pmatrix}\end{eqnarray*}となり、\begin{eqnarray*}
2B &=&2\begin{pmatrix}
3 & 0 & 2 \\
-7 & 1 & 8\end{pmatrix}\quad \because B\text{の定義} \\
&=&\begin{pmatrix}
2\cdot 3 & 2\cdot 0 & 2\cdot 2 \\
2\cdot \left( -7\right) & 2\cdot 1 & 2\cdot 8\end{pmatrix}\quad \because \text{スカラー乗法の定義} \\
&=&\begin{pmatrix}
6 & 0 & 4 \\
-14 & 2 & 16\end{pmatrix}\end{eqnarray*}となるため、\begin{eqnarray*}
3A+2B &=&\begin{pmatrix}
3 & -6 & 9 \\
12 & 15 & -18\end{pmatrix}+\begin{pmatrix}
6 & 0 & 4 \\
-14 & 2 & 16\end{pmatrix}
\\
&=&\begin{pmatrix}
9 & -6 & 13 \\
-2 & 17 & -2\end{pmatrix}\quad \because \text{行列加法の定義}
\end{eqnarray*}となります。

例(行列のスカラー乗法)
以下の\(1\times n\)行列\begin{equation*}A=\left( a_{1},a_{2},\cdots ,a_{n}\right)
\end{equation*}とスカラー\(k\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{eqnarray*}kA &=&k\left( a_{1},a_{2},\cdots ,a_{n}\right) \quad \because A\text{の定義} \\
&=&\left( ka_{1},ka_{2},\cdots ,ka_{n}\right) \quad \because \text{行列のスカラー乗法の定義}
\end{eqnarray*}となりますが、これはベクトルのスカラー乗法に他なりません。つまり、\(1\times n\)行列、すなわち行ベクトルにおいて行列のスカラー乗法とベクトルのスカラー乗法は一致します。具体例を挙げると、\begin{eqnarray*}3\left( 1,2,3\right) &=&\left( 3,6,9\right) \\
\left( -1\right) \left( 3,4\right) &=&\left( -3,-4\right) \\
0\left( 1,-1\right) &=&\left( 0,0\right)
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。

例(行列のスカラー乗法)
以下の\(m\times 1\)行列\begin{equation*}A=\left(
\begin{array}{c}
a_{1} \\
a_{2} \\
\vdots \\
a_{m}\end{array}\right)
\end{equation*}とスカラー\(k\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{eqnarray*}kA &=&k\left(
\begin{array}{c}
a_{1} \\
a_{2} \\
\vdots \\
a_{m}\end{array}\right) \quad \because A\text{の定義} \\
&=&\left(
\begin{array}{c}
ka_{1} \\
ka_{2} \\
\vdots \\
ka_{m}\end{array}\right) \quad \because \text{行列のスカラー乗法の定義}
\end{eqnarray*}となります。具体例を挙げると、\begin{eqnarray*}
3\left(
\begin{array}{c}
1 \\
2 \\
3\end{array}\right) &=&\left(
\begin{array}{c}
3 \\
6 \\
9\end{array}\right) \\
\left( -1\right) \left(
\begin{array}{c}
3 \\
4\end{array}\right) &=&\left(
\begin{array}{c}
-3 \\
-4\end{array}\right) \\
0\left(
\begin{array}{c}
1 \\
-1\end{array}\right) &=&\left(
\begin{array}{c}
0 \\
0\end{array}\right)
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。

例(行列のスカラー乗法)
以下の\(1\times 1\)行列\begin{equation*}A=\left( a\right)
\end{equation*}とスカラー\(k\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{eqnarray*}kA &=&k\left( a\right) \quad \because A\text{の定義} \\
&=&\left( ka\right) \quad \because \text{行列のスカラー乗法の定義}
\end{eqnarray*}となりますが、これは実数の乗法に他なりません。つまり、\(1\times 1\)行列において行列のスカラー乗法と実数の乗法は一致します。具体例を挙げると、\begin{eqnarray*}1\left( 2\right) &=&\left( 2\right) \\
0\left( -1\right) &=&\left( 0\right) \\
\frac{1}{2}\left( -2\right) &=&\left( -1\right)
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。

 

スカラー乗法の互換性

スカラー\(k_{1},k_{2}\in \mathbb{R} \)と行列\(A\in M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)をそれぞれ任意に選んだとき、\begin{equation*}k_{1}\left( k_{2}A\right) =\left( k_{1}k_{2}\right) A
\end{equation*}という関係が成り立ちます。つまり、行列が与えられたとき、そのスカラー倍のスカラー倍(左辺)は、スカラーどうしの積とのスカラー倍(右辺)と一致するということです。以上の性質を乗法とスカラー乗法の間の互換性(compatibility)と呼びます。

命題(スカラー乗法の互換性)
スカラー場\(\mathbb{R} \)と行列集合\(M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)上に定義されたスカラー乗法は、\begin{equation*}\left( V_{5}\right) \ \forall k_{1},k_{2}\in \mathbb{R} ,\ \forall A\in M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) :k_{1}\left( k_{2}A\right) =\left( k_{1}k_{2}\right) A
\end{equation*}を満たす。

証明

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

 

イチ(スカラー乗法単位元)

行列\(A\in M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)を任意に選んだとき、これと\(\mathbb{R} \)における乗法単位元である\(1\in \mathbb{R} \)の間には、\begin{equation*}1A=A
\end{equation*}という関係が成り立ちます。つまり、乗法単位元である\(1\)は行列のスカラー乗法に関する単位元でもあります。

命題(スカラー乗法単位元)
スカラー場\(\mathbb{R} \)と行列集合\(M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)上に定義されたスカラー乗法は、\begin{equation*}\left( V_{6}\right) \ \exists 1\in \mathbb{R} ,\ \forall A\in M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) :1A=A
\end{equation*}を満たす。

証明

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

 

ゼロ行列のスカラー倍

スカラー\(k\in \mathbb{R} \)を任意に選んだとき、これとゼロ行列\(0\in M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)のスカラー倍は、\begin{equation*}k0=0
\end{equation*}を満たします。つまり、ゼロ行列のスカラー倍はゼロ行列になります。

命題(ゼロ行列のスカラー倍)
スカラー\(k\in \mathbb{R} \)が任意に与えられたとき、これとゼロ行列\(0\in M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)の間には、\begin{equation*}k0=0
\end{equation*}が成り立つ。

証明

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

 

行列のスカラーゼロ倍

行列\(A\in M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)を任意に選んだとき、そのスカラー\(0\)倍について、\begin{equation*}0A=0
\end{equation*}が成り立ちます。ただし、左辺の\(0\)はゼロであり、右辺の\(0\)はゼロ行列です。つまり、任意の行列のスカラー\(0\)倍はゼロ行列になります。

命題(行列のスカラーゼロ倍)
行列\(A\in M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)を任意に選んだとき、\begin{equation*}0A=0
\end{equation*}が成り立つ。

証明

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

 

スカラー倍がゼロ行列になるための必要条件

スカラー\(k\in \mathbb{R} \)と行列\(A\in M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)をそれぞれ任意に選んだとき、\begin{equation*}kA=0\Rightarrow \left( k=0\vee A=0\right)
\end{equation*}という関係が成り立ちます。つまり、行列のスカラー倍がゼロ行列と一致する場合、スカラーがゼロであるか、行列がゼロ行列であるか、その少なくとも一方が成り立ちます。対偶より、\begin{equation*}
\left( k\not=0\wedge A\not=0\right) \Rightarrow kA\not=0
\end{equation*}を得ます。つまり、非ゼロであるようなスカラーと非ゼロ行列のスカラー倍は非ゼロ行列になります。

命題(スカラー倍がゼロ行列になるための必要条件)
スカラー\(k\in \mathbb{R} \)と行列\(A\in M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)をそれぞれ任意に選んだとき、\begin{equation*}kA=0\Rightarrow \left( k=0\vee A=0\right)
\end{equation*}という関係が成り立つ。

証明

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

 

行列加法に関する逆元の生成

スカラー\(k\in \mathbb{R} \)と行列\(A\in M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)をそれぞれ任意に選んだとき、\begin{equation*}\left( -k\right) A=k\left( -A\right) =-\left( kA\right)
\end{equation*}という関係が成り立ちます。つまり、行列の負のスカラー倍、行列の行列加法に関する逆元のスカラー倍、行列のスカラー倍の行列加法に関する逆元はいずれも一致するということです。特に、\(k=1\)の場合には、\begin{equation*}\left( -1\right) A=1\left( -A\right) =-\left( 1A\right)
\end{equation*}となります。

命題(行列加法に関する逆元の生成)
スカラー\(k\in \mathbb{R} \)と行列\(A\in M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)をそれぞれ任意に選んだとき、\begin{equation*}\left( -k\right) A=k\left( -A\right) =-\left( kA\right)
\end{equation*}という関係が成り立つ。

証明

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

 

演習問題

問題(行列のスカラー乗法)
実数\(x,y,z,w\in \mathbb{R} \)について、\begin{equation*}3\begin{pmatrix}
x & y \\
z & w\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}
x & 6 \\
-1 & 2w\end{pmatrix}+\begin{pmatrix}
4 & x+y \\
z+w & 3\end{pmatrix}\end{equation*}が成り立つものとします。\(x,y,z,w\)を求めてください。
証明

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

問題(行列のスカラー乗法)
行列\(A,B\in M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)が任意に与えられたとき、それらの差を、\begin{equation*}A-B=A+\left( -B\right)
\end{equation*}と定義します。以上を踏まえた上で、以下の行列\begin{eqnarray*}
A &=&\begin{pmatrix}
1 & -2 & 3 \\
4 & 5 & -6\end{pmatrix}
\\
B &=&\begin{pmatrix}
3 & 0 & 2 \\
-7 & 1 & 8\end{pmatrix}\end{eqnarray*}について、\begin{equation*}
2A-3B
\end{equation*}を求めてください。

解答を見る

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

次のページ >
Share on twitter
Twitterで共有
Share on email
メールで共有
DISCUSSION

質問とコメント

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

RELATED KNOWLEDGE

関連知識

行列
行列の定義

実数を長方形に配列したものを行列と呼びます。行列を構成する横並びの実数の組を行列の行と呼び、行列を構成する縦並びの実数の組を行列の列と呼びます。

ベクトル空間
実行列空間

実数空間をスカラー場とする行列集合上に行列加法とスカラー乗法を定義したとき、これを実行列空間と呼びます。実行列空間はベクトル空間の一例です。

行列
行列の乗法(行列の積)

列の個数と行の個数が一致する2つの行列に対して行列の乗法と呼ばれる演算を定義した上で、その基本的な性質を確認します。