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連立1次方程式と同値な行列方程式

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連立1次方程式と同値な行列方程式

連立1次方程式に含まれる変数の個数と1次方程式の個数が同数であり、なおかつ係数行列の行列式の値がゼロではない場合には、クラーメルの公式を用いることにより連立1次方程式の解を求めることができます。では、変数の個数と1次方程式の個数が同数であるとは限らない一般の連立1次方程式に関しても、解を導出するための体系的な手法は存在するのでしょうか。この問いを考察する上での準備として、まずは連立1次方程式を行列方程式に読み替えます。

\(\mathbb{R} \)上の連立1次方程式\begin{equation}\left\{
\begin{array}{c}
a_{11}x_{1}+a_{12}x_{2}+\cdots +a_{1n}x_{n}=b_{1} \\
a_{21}x_{1}+a_{22}x_{2}+\cdots +a_{2n}x_{n}=b_{2} \\
\vdots \\
a_{m1}x_{1}+a_{m2}x_{2}+\cdots +a_{mn}x_{n}=b_{m}\end{array}\right. \quad \cdots (1)
\end{equation}が与えられているものとします。ただし、\(a_{ij}\in \mathbb{R} \)は係数、\(b_{i}\in \mathbb{R} \)は定数項、\(x_{j}\in \mathbb{R} \)は変数です。\(\left( 1\right) \)において変数の個数\(n\)と1次方程式の個数\(m\)は同数である必要はありません。\(\left( 1\right) \)の変数\(x_{1},\cdots ,x_{n}\)に対して具体的な実数の組\begin{equation}\left( x_{1},x_{2},\cdots ,x_{n}\right) =\left( u_{1},u_{2},\cdots
,u_{n}\right) \quad \cdots (2)
\end{equation}をそれぞれ代入すると以下の\(m\)個の命題\begin{equation*}\left\{
\begin{array}{c}
a_{11}u_{1}+a_{12}u_{2}+\cdots +a_{1n}u_{n}=b_{1} \\
a_{21}u_{1}+a_{22}u_{2}+\cdots +a_{2n}u_{n}=b_{2} \\
\vdots \\
a_{m1}u_{1}+a_{m2}u_{2}+\cdots +a_{mn}u_{n}=b_{m}\end{array}\right.
\end{equation*}が得られますが、これらの命題がすべて真である場合、\(\left( 2\right) \)を\(\left( 1\right) \)の解と呼びます。また、\(\left( 1\right) \)のすべての解からなる集合を\(\left( 1\right) \)の解集合(solution set)と呼びます。

連立1次方程式\(\left( 1\right) \)の係数を取り出して並べることにより以下のような\(m\times n\)行列\begin{equation*}A=\left( a_{ij}\right) =\begin{pmatrix}
a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n} \\
a_{21} & a_{22} & \cdots & a_{2n} \\
\cdots & \cdots & \cdots & \cdots \\
a_{n1} & a_{n2} & \cdots & a_{nn}\end{pmatrix}\end{equation*}を得ます。これを\(\left(1\right) \)の係数行列(coefficient matrix)と呼びます。また、\(\left( 1\right) \)の変数を取り出して並べることにより以下のような\(n\times 1\)行列、すなわち\(n\)次の列ベクトル\begin{equation*}X=\left( x_{j}\right) =\begin{pmatrix}
x_{1} \\
x_{2} \\
\cdots \\
x_{n}\end{pmatrix}\end{equation*}を得ます。これを\(\left(1\right) \)の変数ベクトル(variable vector)と呼びます。加えて、\(\left( 1\right) \)の定数項をとりだして並べることにより以下のような\(m\times 1\)行列、すなわち\(m\)次の列ベクトル\begin{equation*}B=\left( b_{i}\right) =\begin{pmatrix}
b_{1} \\
b_{2} \\
\cdots \\
b_{m}\end{pmatrix}\end{equation*}を得ます。これを\(\left(1\right) \)の定数ベクトル(constant vector)と呼びます。

係数行列\(A\)の列の個数と変数ベクトル\(X\)の行の個数はともに\(n\)で同数であるため、行列の積\(AB\)が定義可能であるとともに、これは\(m\times 1\)行列になります。つまり、積\(AB\)の大きさは定数ベクトル\(B\)の大きさと一致するため、以下のような行列方程式\begin{equation*}AX=B
\end{equation*}すなわち、\begin{equation}
\begin{pmatrix}
a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n} \\
a_{21} & a_{22} & \cdots & a_{2n} \\
\cdots & \cdots & \cdots & \cdots \\
a_{n1} & a_{n2} & \cdots & a_{nn}\end{pmatrix}\begin{pmatrix}
x_{1} \\
x_{2} \\
\cdots \\
x_{n}\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}
b_{1} \\
b_{2} \\
\cdots \\
b_{m}\end{pmatrix}
\quad \cdots (3)
\end{equation}が定義可能です。\(\left(3\right) \)の変数ベクトルの成分に対して具体的な実数の組\begin{equation}\left( x_{1},x_{2},\cdots ,x_{n}\right) =\left( u_{1},u_{2},\cdots
,u_{n}\right) \quad \cdots (4)
\end{equation}をそれぞれ代入すると以下の命題\begin{equation*}
\begin{pmatrix}
a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n} \\
a_{21} & a_{22} & \cdots & a_{2n} \\
\cdots & \cdots & \cdots & \cdots \\
a_{n1} & a_{n2} & \cdots & a_{nn}\end{pmatrix}\begin{pmatrix}
u_{1} \\
u_{2} \\
\cdots \\
u_{n}\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}
b_{1} \\
b_{2} \\
\cdots \\
b_{m}\end{pmatrix}\end{equation*}が得られますが、これが真である場合、\(\left( 4\right) \)を\(\left( 3\right) \)の解と呼びます。また、\(\left( 3\right) \)のすべての解からなる集合を\(\left( 3\right) \)の解集合と呼びます。

ある実数の組、すなわちベクトルが連立1次方程式\(\left( 1\right) \)の解であることと、そのベクトルが行列方程式\(\left( 3\right) \)の解であることは必要十分条件です。つまり、\(\left( 1\right) \)の解は\(\left( 3\right) \)の解であるとともに、\(\left( 3\right) \)の解は\(\left( 1\right) \)の解でもあります。したがって、\(\left(1\right) \)の解集合と\(\left( 3\right) \)の解集合は一致するため、\(\left( 1\right) \)の解を求める代わりに\(\left( 3\right) \)の解を求めても一般性は失われません。このような意味において、行列方程式\(\left( 3\right) \)は連立1次方程式\(\left( 1\right) \)と同値(equivalent)であると言います。このような事情を踏まえた上で、以降では\(\left( 3\right) \)を\(\left( 1\right) \)と同一視します。

命題(連立1次方程式と同値な行列方程式)
\(\mathbb{R} \)上の連立1次方程式\begin{equation}\left\{
\begin{array}{c}
a_{11}x_{1}+a_{12}x_{2}+\cdots +a_{1n}x_{n}=b_{1} \\
a_{21}x_{1}+a_{22}x_{2}+\cdots +a_{2n}x_{n}=b_{2} \\
\vdots \\
a_{m1}x_{1}+a_{m2}x_{2}+\cdots +a_{mn}x_{n}=b_{m}\end{array}\right. \quad \cdots (1)
\end{equation}が与えられているものとする。ただし、\(a_{ij}\in \mathbb{R} \)は係数、\(b_{i}\in \mathbb{R} \)は定数項、\(x_{i}\in \mathbb{R} \)は変数である。\(\left( 1\right) \)の係数行列\(A\in M_{m,n}\left( \mathbb{R} \right) \)と変数行列\(X\in M_{n,1}\left( \mathbb{R} \right) \)および定数行列\(B\in M_{m,1}\left( \mathbb{R} \right) \)から行列方程式\begin{equation}AX=B \quad \cdots (2)
\end{equation}を定義する。このとき、\(\left( 1\right) \)と\(\left( 2\right) \)は同値である。すなわち、両者の解集合は一致する。
証明

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例(連立1次方程式と同値な行列方程式)
以下の連立1次方程式\begin{equation}
\left\{
\begin{array}{c}
2x_{1}+3x_{2}-4x_{3}=7 \\
x_{1}-2x_{2}-5x_{3}=3\end{array}\right. \quad \cdots (1)
\end{equation}の係数行列\(A\)、変数ベクトル\(X\)、定数ベクトル\(B\)はそれぞれ、\begin{equation*}A=\begin{pmatrix}
2 & 3 & -4 \\
1 & -2 & -5\end{pmatrix},\quad X=\left(
\begin{array}{c}
x_{1} \\
x_{2} \\
x_{3}\end{array}\right) ,\quad B=\left(
\begin{array}{c}
7 \\
3\end{array}\right)
\end{equation*}であるため、\(\left( 1\right) \)は以下の行列方程式\begin{equation*}AX=B
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\begin{pmatrix}
2 & 3 & -4 \\
1 & -2 & -5\end{pmatrix}\left(
\begin{array}{c}
x_{1} \\
x_{2} \\
x_{3}\end{array}\right) =\left(
\begin{array}{c}
7 \\
3\end{array}\right)
\end{equation*}と同値です。

例(連立1次方程式と同値な行列方程式)
1次方程式は特別な連立1次方程式であることを踏まえた上で、以下の連立1次方程式\begin{equation}
x_{1}+2x_{2}+3x_{3}=4 \quad \cdots (1)
\end{equation}について考えます。係数行列\(A\)、変数ベクトル\(X\)、定数ベクトル\(B\)はそれぞれ、\begin{equation*}A=\begin{pmatrix}
1 & 2 & 3\end{pmatrix},\quad X=\left(
\begin{array}{c}
x_{1} \\
x_{2} \\
x_{3}\end{array}\right) ,\quad B=\left( 4\right)
\end{equation*}であるため、\(\left( 1\right) \)は以下の行列方程式\begin{equation*}AX=B
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\begin{pmatrix}
1 & 2 & 3\end{pmatrix}\left(
\begin{array}{c}
x_{1} \\
x_{2} \\
x_{3}\end{array}\right) =\left( 4\right)
\end{equation*}と同値です。

 

連立1次方程式の解集合・一般解・特殊解

連立1次方程式には解が存在するとは限りませんし、存在する場合にも一意的であるとは限りません。そこで、与えられた連立1次方程式の解からなる集合を解集合(solution set)と呼びます。

例(連立1次方程式の解集合)
\(\mathbb{R} \)上の連立1次方程式\begin{equation*}\left\{
\begin{array}{c}
3x_{1}-x_{2}=1 \\
0x_{1}+0x_{2}=2\end{array}\right.
\end{equation*}は解を持たないため、その解集合は、\begin{equation*}
\phi
\end{equation*}です。

例(連立1次方程式の解集合)
\(\mathbb{R} \)上の連立1次方程式\begin{equation*}\left\{
\begin{array}{c}
x_{1}+x_{2}=7 \\
2x_{1}+4x_{2}=18\end{array}\right.
\end{equation*}の解は\(\left( x_{1},x_{2}\right) =\left( 5,2\right) \)だけであるため、その解集合は、\begin{equation*}\left\{ \left( 5,2\right) \right\}
\end{equation*}です。

例(連立1次方程式の解集合)
\(\mathbb{R} \)上の連立1次方程式\begin{equation*}\left\{
\begin{array}{c}
x_{1}+2x_{2}-3x_{3}=6 \\
2x_{1}-x_{2}+4x_{3}=2 \\
4x_{1}+3x_{2}-2x_{3}=14\end{array}\right.
\end{equation*}について考えます。例えば、\begin{eqnarray*}
\left( x_{1},x_{2},x_{3}\right) &=&\left( 1,4,1\right) \\
\left( x_{1},x_{2},x_{3}\right) &=&\left( 0,6,2\right) \\
&&\vdots
\end{eqnarray*}などはいずれも解です。実際、この連立1次方程式は無数の解を持ちますが、それらを総体的に表現するにはどうすればよいでしょうか。変数\(x_{3}\)に代入する値\(k\)を任意に選んだ上で、変数\(x_{1},x_{2}\)に代入する値をそれぞれ\(2-k,2+2k\)と定めます。つまり、先の連立1次方程式の変数に以下の値の組\begin{equation}\left( x_{1},x_{2},x_{3}\right) =\left( 2-k,2+2k,k\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}を代入するということです。ただし\(k\)は任意の実数です。すると、\begin{equation*}\left\{
\begin{array}{c}
\left( 2-k\right) +2\left( 2+2k\right) -3k=6 \\
2\left( 2-k\right) -\left( 2+2k\right) +4k=2 \\
4\left( 2-k\right) +3\left( 2+2k\right) -2k=14\end{array}\right.
\end{equation*}という3つの命題が得られますが、これらはいずれも真です。したがって先の連立1次方程式の解集合は、\begin{equation}
\left\{ \left( 2-k,2+2k,k\right) \in \mathbb{R} ^{3}\ |\ k\in \mathbb{R} \right\} \quad \cdots (2)
\end{equation}となります。

上の議論において\(k\)は任意の実数であるため、\(\left( 1\right) \)は与えられた連立1次方程式の解を一般的な形で表現しています。つまり、\(\left( 1\right) \)中の\(k\)に具体的な実数を代入して得られる実数の組は必ず与えられた連立1次方程式の解になります。そこで、\(\left( 1\right) \)を具体的な解とは区別して一般解(general solution)と呼びます。一般解\(\left( 1\right) \)が判明すれば解集合\(\left( 2\right) \)が明らかになるため、連立1次方程式の一般解と解集合は実質的に等しい概念です。一般項との対比で、一般解の\(k\)に具体的な実数を代入することで得られる解を特殊解(particular solution)と呼びます。特殊解は解集合の要素です。連立1次方程式が一意的な解を持つ場合、一般解と特殊解を同一視します。

先の3つの例はそれぞれ、解を持たない連立1次方程式、一意的な解を持つ連立1次方程式、無数の解を持つ連立1次方程式に相当しますが、実は、連立1次方程式の解の個数に関してこれら以外のパターンは存在しません。つまり、連立1次方程式が複数の解を持つ場合、それは必ず無数の解を持ちます。証明では連立1次方程式を行列方程式に読み替えた上で行列乗法の性質を利用します。

命題(連立1次方程式の解の個数)
\(\mathbb{R} \)上の連立1次方程式が任意に与えられたとき、それは解を持たないか、一意的な解を持つか、または無数個の解を持つかのいずれかである。
証明

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