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ベクトル空間

ベクトル

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体の定義と具体例

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ベクトル

温度や質量、長さ、距離などのように「大きさ」という1種類の情報によって表現される量をスカラー(scalar)と呼びます。スカラーを表現するためには「大きさ」を具体的に指定する必要がありますが、それは1つの実数として表現されます。

力や速度、運動量などのように「大きさ」と「方向」という2種類の情報によって表現される量をベクトル(vector)と呼びます。ベクトルを表現するためには「大きさ」と「方向」を具体的に指定する必要がありますが、それは「長さ」と「方向」を持つ線分である有向線分(directed line segment)として表現されます。つまり、ベクトルの大きさを有向線分の長さとして表現し、ベクトルの方向を有向線分の方向として表現するということです。ベクトルは有向線分を用いて幾何的(図形的)に表現されます。

ベクトルを代数的に表現することもできます。空間に座標系を導入すれば、空間上にあるそれぞれの点の位置を座標(coordinate)と呼ばれる実数の組として表現できます。有向線分は始点(starting point)と終点(end point)という2つの点を持つため、座標系において始点の座標と終点の座標をそれぞれ具体的に指定すれば、それらを結ぶ有向線分が得られます。特に、すべての有向線分の始点を座標系の原点に統一すれば、それぞれの有向線分は終点の座標を指定することにより表現できます。つまり、ベクトルはそれを表現する有向線分の終点の座標、すなわち実数の組を用いて代数的に表現されます。

以上の議論を踏まえた上で、ベクトルを有限\(n\)個の実数\(x_{1},\cdots ,x_{n}\in \mathbb{R} \)の組として定義します。特に、\(n\)個の実数を横に並べた、\begin{equation*}x=\left( x_{1},\cdots ,x_{n}\right)
\end{equation*}を行ベクトル(row vector)と呼び、\(n\)個の実数を縦に並べた、\begin{equation*}x=\left(
\begin{array}{c}
x_{1} \\
\vdots \\
x_{n}\end{array}\right)
\end{equation*}を列ベクトル(column vector)と呼びます。行ベクトルと列ベクトルを総称してベクトル(vector)と呼びます。ベクトル\(x\)を構成するそれぞれの実数\(x_{i}\)を\(x\)の成分(component)や座標(coordinate)などと呼びます。行ベクトルと列ベクトルは厳密には区別されるべき概念ですが、以降では特に断りのない限り両者は交換可能であるものとします。

ベクトルは有限\(n\)個の実数からなる組であるため、すべてのベクトルからなる集合は\(n\)次元空間\begin{equation*}\mathbb{R} ^{n}=\left\{ \left( x_{1},\cdots ,x_{n}\right) \ |\ \forall i\in \left\{1,\cdots ,n\right\} :x_{i}\in \mathbb{R} \right\}
\end{equation*}です。\(x\in \mathbb{R} ^{n}\)です。\(n\)次元ベクトル\(x\)を\(\mathbb{R} ^{n}\)の(point)と呼ぶこともできます。

\(\mathbb{R} ^{n}\)について考えている場合、その要素であるそれぞれのベクトルは「方向」と「大きさ」という2つの情報を持つ量です。一方、\(\mathbb{R} \)の要素であるそれぞれの実数は「大きさ」という1つの情報だけを持つ量です。そのような事情を踏まえた上で、\(\mathbb{R} ^{n}\)を議論の舞台としている場合、\(\mathbb{R} \)の要素であるそれぞれの実数をスカラー(scalar)と呼ぶこともできます。

例(ベクトル)
\(2\)次元空間\(\mathbb{R} ^{2}\)の点は実数を成分とする\(2\)次元ベクトルであるため、\begin{equation*}\mathbb{R} ^{2}=\{\left( x_{1},x_{2}\right) \ |\ x_{1}\in \mathbb{R} \wedge x_{2}\in \mathbb{R} \}\end{equation*}となります。したがって、\begin{eqnarray*}
\left( 1,2\right) &\in &\mathbb{R} ^{2} \\
\left( -3,1\right) &\in &\mathbb{R} ^{2} \\
\left( \frac{1}{2},-7\right) &\in &\mathbb{R} ^{2}
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。\(\mathbb{R} ^{2}\)の点\(\left( x_{1},x_{2}\right) \)は平面上の点として表現することができます。
例(ベクトル)
\(3\)次元空間\(\mathbb{R} ^{3}\)の点は実数を成分とする\(3\)次元ベクトルであるため、\begin{equation*}\mathbb{R} ^{3}=\{\left( x_{1},x_{2},x_{3}\right) \ |\ x_{1}\in \mathbb{R} \wedge x_{2}\in \mathbb{R} \wedge x_{3}\in \mathbb{R} \}\end{equation*}となります。したがって、\begin{eqnarray*}
\left( 1,0,2\right) &\in &\mathbb{R} ^{3} \\
\left( 1,-3,4\right) &\in &\mathbb{R} ^{3} \\
\left( \frac{1}{3},-8,-\frac{2}{3}\right) &\in &\mathbb{R} ^{3}
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。\(\mathbb{R} ^{3}\)の点\(\left( x_{1},x_{2},x_{3}\right) \)は空間上の点として表現することができます。
例(ベクトル)
\(1\)次元空間\(\mathbb{R} ^{1}\)の点は実数であるため、\begin{equation*}\mathbb{R} ^{1}=\mathbb{R} \end{equation*}という関係が成り立ちます。\(1\)次元空間においてベクトルとスカラーは概念として一致するということです。したがって、\begin{eqnarray*}1 &\in &\mathbb{R} ^{1} \\
-3 &\in &\mathbb{R} ^{1} \\
\frac{1}{3} &\in &\mathbb{R} ^{1}
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。\(\mathbb{R} ^{1}\)の点\(x\)は数直線上の点として表現することができます。

 

等しいベクトル

2つのベクトル\(x,y\)が同一次元の空間に属するとともに対応する成分がすべて等しい場合には\(x\)と\(y\)は等しい(equal)といい、そのことを、\begin{equation*}x=y
\end{equation*}と表記します。具体的には、同一次元の空間\(\mathbb{R} ^{n}\)に属する2つのベクトル\begin{eqnarray*}x &=&\left( x_{1},\cdots ,x_{n}\right) \\
y &=&\left( y_{1},\cdots ,y_{n}\right)
\end{eqnarray*}を選んだとき、それらの間に、\begin{equation*}
\forall i\in \left\{ 1,\cdots ,n\right\} :x_{i}=y_{i}
\end{equation*}が成り立つ場合には、そのことを\(x=y\)で表すということです。

2つのベクトル\(x,y\)が等しくない場合、そのことを\(x\not=y\)で表します。これは、\(x\)と\(y\)が異なる次元の空間に属する場合や、\(x\)と\(y\)が同一次元の空間に属するものの対応する成分の中に一致しないものが存在する場合に相当します。

例(等しいベクトル)
点\(\left( 1,1\right) \)は\(\mathbb{R} ^{2}\)の要素である一方で、点\(\left( 1,1,1\right) \)は\(\mathbb{R} ^{3}\)の要素です。つまり、これらのベクトルは属する空間が異なるため、異なるベクトルとみなされます。つまり、\(\left( 1,1\right) \not=\left(1,1,1\right) \)です。
例(等しいベクトル)
点\(\left( 1,2,3\right) \)と点\(\left( 2,1,3\right) \)はともに\(\mathbb{R} ^{3}\)の要素であるとともに、同じ実数\(1,2,3\)を成分として持っています。ただ、対応する成分が等しくないため、これらは異なる点とみなされます。つまり、\(\left( 1,2,3\right) \not=\left(2,1,3\right) \)です。同一次元の空間に属し同じ数を成分として持つ場合でも、成分の並び方が変われば異なるベクトルとみなされるということです。

 

ベクトル加法

2つのベクトル\(x,y\in \mathbb{R} ^{n}\)を任意に選んだとき、それらの対応する成分どうしを足すことにより得られるベクトルを、\begin{equation*}x+y=\left( x_{1}+y_{1},\cdots ,x_{n}+y_{n}\right)
\end{equation*}で表記し、これを\(x\)と\(y\)のベクトル和(vector sum)や(sum)などと呼びます。左辺の\(+\)はベクトル和を表す記号であり、右辺の\(+\)は\(\mathbb{R} \)上の加法を表す記号であることに注意してください。両者を同じ記号を用いて表記するため注意が必要です。

ベクトル\(x,y\in \mathbb{R} ^{n}\)を任意に選んだとき、実数空間\(\mathbb{R} \)が加法\(+\)について閉じていることからベクトル和\(x+y\)のそれぞれの成分\(x_{i}+y_{i}\)が1つの実数として定まることが保証されるため、\(x+y\)が\(\mathbb{R} ^{n}\)の1つの点として定まることが保証されます。したがって、\(\mathbb{R} ^{n}\)の点を成分とするそれぞれの順序対\(\left( x,y\right) \)に対して、\(\mathbb{R} ^{n}\)の点であるベクトル和\(x+y\)を定める二項演算\(+\)が定義可能です。これをベクトル加法(vector addition)と呼びます。\(\mathbb{R} ^{n}\)はベクトル加法\(+\)について閉じています。\(\left( x,y\right) \)に対して\(+\)を適用することを、\(x\)と\(y\)を足す(add)と言います。

例(ベクトル加法)
\(2\)次元空間の点\(x,y\in \mathbb{R} ^{2}\)を任意に選んだとき、それらのベクトル和は、\begin{equation*}x+y=\left( x_{1}+y_{1},x_{2}+y_{2}\right)
\end{equation*}となります。具体例を挙げると、\begin{eqnarray*}
\left( 1,2\right) +\left( 3,1\right) &=&\left( 1+3,2+1\right) =\left(
4,3\right) \\
\left( -1,7\right) +\left( 3,2\right) &=&\left( \left( -1\right)
+3,7+2\right) =\left( 2,9\right) \\
\left( \frac{2}{3},-1\right) +\left( -\frac{1}{2},-2\right) &=&\left( \frac{2}{3}+\left( -\frac{1}{2}\right) ,\left( -1\right) +\left( -2\right) \right)
=\left( \frac{1}{6},-3\right)
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。

例(ベクトル加法)
\(3\)次元空間の点\(x,y\in \mathbb{R} ^{3}\)を任意に選んだとき、それらのベクトル和は、\begin{equation*}x+y=\left( x_{1}+y_{1},x_{2}+y_{2},x_{3}+y_{3}\right)
\end{equation*}となります。具体例を挙げると、\begin{eqnarray*}
\left( 1,2,3\right) +\left( 3,4,5\right) &=&\left( 1+3,2+4,3+5\right)
=\left( 4,6,8\right) \\
\left( -1,4,2\right) +\left( 0,1,-7\right) &=&\left( -1+0,4+1,2+\left(
-7\right) \right) =\left( -1,5,-5\right) \\
\left( \frac{1}{2},\frac{1}{3},\frac{1}{4}\right) +\left( 0,-2,-\frac{1}{2}\right) &=&\left( \frac{1}{2}+0,\frac{1}{3}+\left( -2\right) ,\frac{1}{4}+\left( -\frac{1}{2}\right) \right) =\left( \frac{1}{2},-\frac{5}{3},-\frac{1}{4}\right)
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。

例(ベクトル加法)
\(1\)次元空間の点\(x,y\in \mathbb{R} \)を任意に選んだとき、それらのベクトル和は、\begin{equation*}x+y=x+y
\end{equation*}となります。ただし、左辺の\(+\)はベクトル加法を表す記号であり、右辺の\(+\)は実数どうしの加法を表す記号です。つまり、\(1\)次元空間においてベクトル加法と加法は一致します。具体例を挙げると、\begin{eqnarray*}1+4 &=&5 \\
\left( -1\right) +8 &=&7 \\
\frac{4}{5}+\frac{1}{10} &=&\frac{9}{10}
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。

ベクトル加法は同一の空間に属する2つの点に対してのみ定義されます。異なる空間に属する点どうしにベクトル加法を適用することはできません。

例(ベクトル加法)
\(2\)次元空間の点\(x\in \mathbb{R} ^{2}\)と\(3\)次元空間の点\(y\in \mathbb{R} ^{3}\)をそれぞれ任意に選んだとき、これらは異なる空間に属する点であるため、これらのベクトル加法\(x+y\)は定義されません。

\(\mathbb{R} \)上の加法と同様、\(\mathbb{R} ^{n}\)上のベクトル加法もまた結合律(associative law)を満たします。

命題(ベクトル加法の結合律)
\(\mathbb{R} ^{n}\)上に定義されたベクトル加法\(+\)は、\begin{equation*}\left( V_{1}\right) \ \forall x,y,z\in \mathbb{R} ^{n}:(x+y)+z=x+(y+z)
\end{equation*}を満たす。

証明

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実数空間\(\mathbb{R} \)の加法単位元であるゼロ\(0\)を用いて、\begin{equation*}0=\left( 0,\cdots ,0\right)
\end{equation*}と定義される\(\mathbb{R} ^{n}\)の点をゼロベクトル(zero vector)と呼びます。ただし、左辺の\(0\)はゼロベクトルを表す記号であり、右辺の\(0\)はゼロです。つまり、ゼロベクトルとはすべての成分がゼロであるような\(\mathbb{R} ^{n}\)上の点です。多くの場合、ゼロベクトルを\(\boldsymbol{0}\)で表記し、ゼロを\(0\)で表記するのですが、本稿では両者をともに\(0\)で表記するため注意してください。

ゼロが加法に関する単位元であるように、ゼロベクトルはベクトル加法に関する単位元です。

命題(ベクトル加法単位元)
\(\mathbb{R} ^{n}\)上に定義されたベクトル加法\(+\)は、\begin{equation*}\left( V_{2}\right) \ \exists 0\in \mathbb{R} ^{n},\ \forall x\in \mathbb{R} ^{n}:x+0=x
\end{equation*}を満たす。