区間の長さのカラテオドリ拡張(ルベーグ外測度)
私たちの目標は数直線\(\mathbb{R} \)の部分集合の外延量を測定することですが、まずは\(\mathbb{R} \)上の有界な右半開区間からなる集合族\(\mathfrak{S}_{m}\)の要素である区間のみを外延量の測定対象とし、区間の外延量を特定する長さ関数\(m:\mathfrak{S}_{m}\rightarrow \mathbb{R} _{+}\)を導入した上で、これが\(\sigma \)-加法測度であることを示しました。つまり、区間の集合族\(\mathfrak{S}_{m}\)は集合半環であるとともに、長さ関数\(m\)は非負性と\(\sigma \)-加法性を満たします。
ただし、数直線\(\mathbb{R} \)上には有界な区間というクラスには属さない集合が存在します。そこで、区間の集合族\(\mathfrak{S}_{m}\)に属する互いに素な有限個の区間の和集合を区間塊と呼び、区間塊をすべて集めることによりできる\(\mathbb{R} \)の部分集合族\(\mathfrak{R}\left( \mathfrak{S}_{m}\right) \)を導入しました。\(\mathfrak{S}_{m}\)は集合半環ですが、そこから生成された\(\mathfrak{R}\left( \mathfrak{S}_{m}\right) \)は集合環であり、両者の間には以下の包含関係\begin{equation*}\mathfrak{S}_{m}\subset \mathfrak{R}\left( \mathfrak{S}_{m}\right)
\end{equation*}が成り立ちます。しかも、\(\mathfrak{R}\left( \mathfrak{S}_{m}\right) \)は\(\mathfrak{S}_{m}\)を部分集合として持つ最小環です。長さ関数\(m\)はそれぞれの区間\(I\in \mathfrak{S}_{m}\)に対してその測度\(m\left( I\right) \)を定めますが、区間塊の中には区間ではないものが存在するため、区間の長さ\(m\)では区間塊\(A\in \mathfrak{R}\left( \mathfrak{S}_{m}\right) \)の測度を測定できるとは限りません。そこで、長さ関数\(m\)を拡張する形で、区間塊の外延量を特定する区間塊の長さ関数\(\hat{m}:\mathfrak{R}\left( \mathfrak{S}_{m}\right) \rightarrow \mathbb{R} _{+}\)を導入し、これもまた\(\sigma \)-加法測度としての性質を満たすことを示しました。
区間の長さ\(m\)を区間塊の長さ\(\hat{m}\)へ拡張することにより、外延量を測定可能な集合の範囲は拡大したものの、数直線\(\mathbb{R} \)上には区間塊というクラスに属さない集合が存在するため、区間塊の長さ\(\hat{m}\)では外延量を測定できないような集合が存在します。つまり、区間塊ではない\(\mathbb{R} \)の部分集合に関しては、その外延量を\(m\)や\(\hat{m}\)を用いて測定できません。そこで本節では、区間の長さ\(m\)を別の形で拡張することにより、\(\mathbb{R} \)の任意の部分集合の外延量を測定できるような測度概念を定義します。
区間の長さ関数\(m:\mathfrak{S}_{m}\rightarrow \mathbb{R} _{+}\)が与えられているものとします。集合\(A\subset \mathbb{R} \)を任意に選びます。この集合\(A\)は区間や区間塊でなくてもよく、\(\mathbb{R} \)の任意の部分集合でかまいません。\(A\)が有界である場合、それを可算個の区間によって覆うことを考えます。つまり、可算個の有界な右半区間からなる列\(\left\{ I_{k}\right\}_{k=1}^{+\infty }\subset \mathfrak{S}_{m}\)の中でも、\begin{equation*}A\subset \bigcup_{k=1}^{+\infty }I_{k}
\end{equation*}を満たすものを選ぶということです。以下の議論により、このような区間列\(\left\{I_{k}\right\} _{k=1}^{\infty }\)は必ず存在します。
集合\(A\subset \mathbb{R} \)が有界である場合には、有界性の定義より、\begin{equation*}A\subset \left[ a,b\right]
\end{equation*}を満たす有界な閉区間\(\left[ a,b\right] \subset \mathbb{R} \)が存在します。そこで、正の実数\(\varepsilon >0\)を任意に選べば、\begin{equation*}A\subset \left[ a,b\right] \subset \lbrack a,b+\varepsilon )
\end{equation*}が成り立つため、\(A\)を覆う有界な右半開区間\([a,b+\varepsilon )\in \mathfrak{S}_{m}\)が存在することが明らかになりました。以上を踏まえた上で、区間列\(\left\{ I_{k}\right\} _{k=1}^{\infty }\)を、\begin{eqnarray*}I_{1} &=&[a,b+\varepsilon ) \\
I_{k} &=&\phi \quad \left( k\geq 2\right)
\end{eqnarray*}と定義すれば、この区間列\(\left\{ I_{k}\right\} _{k=1}^{\infty }\)の和集合は\([a,b+\varepsilon )\)と一致するため\(A\)を覆います。
集合\(A\subset \mathbb{R} \)が有界である場合、それを覆う可算区間列\(\left\{ I_{k}\right\} _{k=1}^{+\infty }\)が必ず存在することが明らかになりました。ただ、集合\(A\)を覆う可算区間列は1つだけであるとは限りません。そこで、\(A\)を覆うそれぞれの可算区間列\(\left\{I_{k}\right\} _{k=1}^{+\infty }\)に対して、そこに含まれる区間の長さの総和\begin{equation*}\sum_{k=1}^{+\infty }m\left( I_{k}\right) =\lim_{n\rightarrow \infty }\left[
\sum_{k=1}^{n}m\left( I_{k}\right) \right]
\end{equation*}を導出します。得られた総和どうしを比較し、その中の下限を\(A\)の外延量として採用し、それを、\begin{equation*}\mu ^{\ast }\left( A\right) =\inf \left\{ \sum_{k=1}^{+\infty }m\left(
I_{k}\right) \left\vert A\subset \bigcup_{k=1}^{+\infty }I_{k},\ I_{k}\in
\mathfrak{S}_{m}\right. \right\}
\end{equation*}で表記します。
有界な集合\(A\subset \mathbb{R} \)について、先のように定義される値\(\mu ^{\ast }\left(A\right) \)は常に定まるのでしょうか。先に確認したように、有界な集合\(A\)を覆う可算区間列\(\left\{ I_{k}\right\} _{k=1}^{+\infty }\)は必ず存在するため、以下の集合\begin{equation}\left\{ \sum_{k=1}^{+\infty }m\left( I_{k}\right) \left\vert A\subset
\bigcup_{k=1}^{+\infty }I_{k},\ I_{k}\in \mathfrak{S}_{m}\right. \right\}
\quad \cdots (1)
\end{equation}は\(\mathbb{R} \)の非空な部分集合です。さらに、長さ関数\(m\)の非負性より、\(A\)を覆う任意の区間列\(\left\{ I_{k}\right\} _{k=1}^{+\infty }\)に対して、\begin{equation*}\sum_{k=1}^{+\infty }m\left( I_{k}\right) \geq 0
\end{equation*}が成り立つため、\(\left(1\right) \)は下に有界(\(0\)が下界の1つ)な\(\mathbb{R} \)の部分集合です。したがって、\(\mathbb{R} \)の連続性より、\(\left( 1\right) \)には下限が必ず存在します。\(\mathbb{R} \)の非空な部分集合が下限を持つ場合、それは必ず1つの実数として定まるとともに、その実数は任意の下界以上です。したがって、\(\left( 1\right) \)の下限は\(0\)以上の1つの実数として常に定まることが明らかになりました。結論をまとめると、有界な集合\(A\)を任意に選んだとき、\(\mu ^{\ast}\left( A\right) \)は1つの非負の実数として必ず定まるということです。
一方、集合\(A\subset \mathbb{R} \)が有界ではない場合には、その外延量を、\begin{equation*}\mu ^{\ast }\left( A\right) =+\infty
\end{equation*}と定義します。
以上を踏まえた上で、それぞれの集合\(A\in 2^{\mathbb{R} }\)に対して、以下の拡大実数\begin{equation*}\mu ^{\ast }\left( A\right) =\left\{
\begin{array}{ll}
\inf \left\{ \sum\limits_{k=1}^{+\infty }m\left( I_{k}\right) \left\vert
A\subset \bigcup\limits_{k=1}^{+\infty }I_{k},\ I_{k}\in \mathfrak{S}_{m}\right. \right\} & \left( if\ A\text{が有界}\right)
\\
+\infty & \left( if\ A\text{が非有界}\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を値として定める拡大実数関数\begin{equation*}
\mu ^{\ast }:2^{\mathbb{R} }\rightarrow \mathbb{R} _{+}\cup \left\{ +\infty \right\}
\end{equation*}を定義します。ただし、\(2^{\mathbb{R} }\)は\(\mathbb{R} \)のベキ集合です。つまり、\(\mu ^{\ast }\)は区間や区間塊であるとは限らない\(\mathbb{R} \)上の任意の集合\(A\)に対してその外延量\(\mu ^{\ast }\left(A\right) \)を定めます。この関数\(\mu ^{\ast }\)を長さ関数\(m\)のカラテオドリ拡張(Carathéodory extension)やルベーグ外測度(Lebesgue outer measure)、またはカラテオドリ外測度(Carathéodory outer measure)などと呼びます。その上で、\(\mu ^{\ast }\)が集合\(A\)に対して定める外延量\(\mu ^{\ast }\left( A\right) \)を\(A\)のルベーグ外測度(Lebesgue outer measure)やカラテオドリ外測度(Carathéodory outer measure)などと呼びます。以降では\(\mu ^{\ast }\)をルベーグ外測度と呼びます。
ルベーグ外測度\(\mu ^{\ast }\)の定義より、\(\mu ^{\ast }\)は\(\mathbb{R} \)上の任意の集合\(A\)に対してその外測度\(\mu ^{\ast }\left(A\right) \)を定めるため、\(\mu^{\ast }\)の定義域は\(\mathbb{R} \)のべき集合\(2^{\mathbb{R} }\)です。また、\(\mu ^{\ast }\)の定義より、有界な集合\(A\)の外測度\(\mu ^{\ast }\left( A\right) \)は非負の実数であり、有界ではない集合\(A\)の外測度\(\mu ^{\ast }\left( A\right) \)は正の無限大であるため、\(\mu ^{\ast }\)の終集合は\(\mathbb{R} _{+}\cup \left\{ +\infty \right\} \)です。つまり、ルベーグ外測度\(\mu^{\ast }\)は非負性(non-negativity)を満たします。
\end{equation*}と表現される。
ルベーグ外測度の定義を踏まえた上で、代表的な点集合の外測度を以下で特定します。
\begin{array}{ll}
\left[ x-\dfrac{\varepsilon }{2},x+\dfrac{\varepsilon }{2}\right) & \left(
k=1\right) \\
\phi & \left( k=2,3,\cdots \right)
\end{array}\right.
\end{equation*}と定義します。\(x\in I_{1}\)であるため、\begin{equation*}\left\{ x\right\} \subset \bigcup\limits_{k=1}^{+\infty }I_{k}
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、この区間列\(\left\{I_{k}\right\} _{k=1}^{+\infty }\)は\(\left\{ x\right\} \)を覆う可算区間列です。この区間列に含まれる区間の長さの総和は、\begin{eqnarray*}\sum\limits_{k=1}^{+\infty }m\left( I_{k}\right) &=&m\left( I_{1}\right)
+\sum\limits_{k=2}^{+\infty }m\left( I_{k}\right) \\
&=&m\left( \left[ x-\dfrac{\varepsilon }{2},x+\dfrac{\varepsilon }{2}\right)
\right) +\sum\limits_{k=2}^{+\infty }m\left( \phi \right) \quad \because
\left\{ I_{k}\right\} _{k=1}^{\infty }\text{の定義} \\
&=&\left( x+\frac{\varepsilon }{2}\right) -\left( x-\frac{\varepsilon }{2}\right) +\sum\limits_{k=2}^{+\infty }0\quad \because m\text{の定義および}m\left( \phi \right) =0 \\
&=&\varepsilon
\end{eqnarray*}であるため、ルベーグ外測度\(\mu ^{\ast }\)の定義より、\begin{equation*}\mu ^{\ast }\left( \left\{ x\right\} \right) \leq \varepsilon
\end{equation*}を得ます。任意の\(\varepsilon>0\)に対して同様の議論が成り立つため、\begin{equation}\forall \varepsilon >0:\mu ^{\ast }\left( \left\{ x\right\} \right) \leq
\varepsilon \quad \cdots (1)
\end{equation}を得ます。一方、\(\mu ^{\ast }\)の非負性より\(\mu ^{\ast }\left( \left\{x\right\} \right) \geq 0\)です。\(\mu ^{\ast }\left( \left\{x\right\} \right) >0\)を仮定する場合、\begin{equation*}\frac{\mu ^{\ast }\left( \left\{ x\right\} \right) }{2}>0
\end{equation*}となるため、これと\(\left( 1\right) \)より、\begin{equation*}\mu ^{\ast }\left( \left\{ x\right\} \right) \leq \frac{\mu ^{\ast }\left(
\left\{ x\right\} \right) }{2}
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\frac{\mu ^{\ast }\left( \left\{ x\right\} \right) }{2}\leq 0
\end{equation*}となり矛盾です。したがって背理法より、\begin{equation*}
\mu ^{\ast }\left( \left\{ x\right\} \right) =0
\end{equation*}であることが示されました。つまり、\(\mathbb{R} \)上の1点集合の外測度は\(0\)です。ちなみに、外測度が\(0\)であるような\(\mathbb{R} \)の部分集合を零集合(null set)と呼びます。\(\mathbb{R} \)上の任意の1点集合は零集合であるということです。
\mu ^{\ast }\left( \left\{ x_{1},\cdots ,x_{n}\right\} \right) =0
\end{equation*}になります(演習問題)。\(\mathbb{R} \)上の任意の有限集合もまた零集合であるということです。したがって、\begin{eqnarray*}\mu ^{\ast }\left( \left\{ 1,2,\cdots ,n\right\} \right) &=&0 \\
\mu ^{\ast }\left( \left\{ \frac{1}{1},\frac{1}{2},\cdots ,\frac{1}{n}\right\} \right) &=&0 \\
\mu ^{\ast }\left( \left\{ -1,-2,\cdots ,-n\right\} \right) &=&0 \\
\mu ^{\ast }\left( \left\{ 2,4,\cdots ,2n\right\} \right) &=&0 \\
\mu ^{\ast }\left( \left\{ 1,3,\cdots ,2n-1\right\} \right) &=&0
\end{eqnarray*}などがいずれも成り立ちます。なぜなら、これらはいずれも有限集合の外測度だからです。
\mu ^{\ast }\left( \left\{ x_{1},x_{2},\cdots \right\} \right) =0
\end{equation*}になります(演習問題)。\(\mathbb{R} \)上の任意の可算集合もまた零集合であるということです。したがって、\begin{eqnarray*}\mu ^{\ast }\left( \mathbb{N} \right) &=&0 \\
\mu ^{\ast }\left( \mathbb{Z} \right) &=&0 \\
\mu ^{\ast }\left( \mathbb{Q} \right) &=&0
\end{eqnarray*}などがいずれも成り立ちます。なぜなら、これらはいずれも可算集合の外測度だからです。
ルベーグ外測度は区間の長さの拡張
区間の長さ関数\(m\)のカラテオドリ拡張、すなわちルベーグ外測度\(\mu ^{\ast }\)を用いることにより、\(\mathbb{R} \)の任意の部分集合に対して外延量を与えることができるようになりました。しかも、\(\mu ^{\ast }\)は\(m\)の拡張になっています。つまり、\(\mu ^{\ast }\)がそれぞれの区間に対して定める外測度は、\(m\)がそれぞれの区間に対して定める長さと一致するということです。区間の外測度は区間の長さと一致します。
\end{equation*}が成り立つ。
\right) \\
&=&1-0 \\
&=&1
\end{eqnarray*}であり、区間\(\left[ -2,3\right) \subset \mathbb{R} \)の外測度は、\begin{eqnarray*}\mu ^{\ast }\left( \left[ -2,3\right) \right) &=&m\left( \left[ -2,3\right)
\right) \\
&=&3-\left( -2\right) \\
&=&5
\end{eqnarray*}です。空集合\(\phi \)は\(a=b\)を満たす区間\(\left[ a,b\right) \subset \mathbb{R} \)に相当するため、その外測度は、\begin{eqnarray*}\mu ^{\ast }\left( \phi \right) &=&\mu ^{\ast }\left( \left[ a,b\right)
\right) \\
&=&m\left( \left[ a,b\right) \right) \\
&=&b-a \\
&=&0\quad \because a=b
\end{eqnarray*}です。
ルベーグ外測度は区間塊の長さの拡張
ルベーグ外測度\(\mu ^{\ast }\)は区間塊の長さ\(\hat{m}\)の拡張でもあります。つまり、\(\mu ^{\ast }\)がそれぞれの区間塊に対して定める外測度は、\(\hat{m}\)がそれぞれの区間塊に対して定める長さと一致します。区間塊の外測度は区間塊の長さと一致します。
A\right) =\hat{m}\left( A\right)
\end{equation*}が成り立つ。
A=\left[ 0,1\right) \cup \left[ 1,2\right) \cup \left[ 2,3\right)
\end{equation*}の外測度は、\begin{eqnarray*}
\mu ^{\ast }\left( A\right) &=&\hat{m}\left( A\right) \\
&=&m\left( \left[ 0,1\right) \right) +m\left( \left[ 1,2\right) \right)
+m\left( \left[ 2,3\right) \right) \\
&=&\left( 1-0\right) +\left( 2-1\right) +\left( 3-2\right) \\
&=&1+1+1 \\
&=&3
\end{eqnarray*}であり、区間塊\begin{equation*}
B=\left[ -2,-1\right) \cup \phi \cup \left[ 1,2\right)
\end{equation*}の外測度は、\begin{eqnarray*}
\mu ^{\ast }\left( B\right) &=&\hat{m}\left( B\right) \\
&=&m\left( \left[ -2,-1\right) \right) +m\left( \phi \right) +m\left( \left[
1,2\right) \right) \\
&=&\left[ -1-\left( -2\right) \right] +0+\left( 2-1\right) \\
&=&1+0+1 \\
&=&2
\end{eqnarray*}です。
ルベーグ外測度の移動不変性
集合\(A\subset \mathbb{R} \)と実数\(y\in \mathbb{R} \)が与えられたとき、集合\(A\)のそれぞれの要素に\(y\)を加えることにより得られるすべての実数からなる集合を、\begin{equation*}A+y=\left\{ x+y\in \mathbb{R} \ |\ x\in A\right\}
\end{equation*}で表記します。つまり、\(A\)のすべての要素に\(y\)を加える形で\(A\)を平行移動することにより得られる集合が\(A+y\)であるということです。
集合\(A\subset \mathbb{R} \)と実数\(y\in \mathbb{R} \)をそれぞれ任意に選んだとき、ルベーグ外測度\(\mu ^{\ast }\)のもとでは以下の関係\begin{equation*}\mu ^{\ast }\left( A+y\right) =\mu ^{\ast }\left( A\right)
\end{equation*}が成り立つことが保証されます。つまり、任意の集合を任意の形で平行移動しても、その前後において、外測度の値は変わらないということです。以上の性質を指して、ルベーグ外測度は移動不変性(translation invariant)を満たすと言います。
\end{equation*}を満たす。
\end{equation*}が成り立つため、\begin{equation*}
\mu ^{\ast }\left( E+1\right) =\mu ^{\ast }\left( O\right)
\end{equation*}が成り立ちます。その一方で、ルベーグ外測度\(\mu ^{\ast }\)の移動不変性より、\begin{equation*}\mu ^{\ast }\left( E+1\right) =\mu ^{\ast }\left( E\right)
\end{equation*}が成り立ちます。したがって、\begin{equation*}
\mu ^{\ast }\left( O\right) =\mu ^{\ast }\left( E\right)
\end{equation*}であることが明らかになりました。
空集合の外測度
外測度の性質を確認します。空集合は任意の集合の部分集合であるため\(\phi \subset \mathbb{R} \)です。外測度\(\mu ^{\ast }\)は\(\mathbb{R} \)のベキ集合\(2^{\mathbb{R} }\)上に定義された関数であるため、空集合\(\phi \)に対しても外測度を定めますが、その値は、\begin{equation*}\mu ^{\ast }\left( \phi \right) =0
\end{equation*}となります。つまり、空集合の外測度は\(0\)です。空集合は零集合であるということです。
外測度\(\mu ^{\ast }:2^{\mathbb{R} }\rightarrow \mathbb{R} _{+}\cup \left\{ +\infty \right\} \)は、\begin{equation*}\mu ^{\ast }\left( \phi \right) =0
\end{equation*}を満たす。
外測度の単調性
ある集合\(A\)が別の集合\(B\)の部分集合であるならば、外測度\(\mu ^{\ast }\)のもとで\(A\)の外測度は\(B\)の外測度以下になるというのは直感的に正しそうです。実際、これは正しい主張であり、\(\mu ^{\ast }\)が満たすこのような性質を単調性(monotonicity)と呼びます。
外測度\(\mu ^{\ast }:2^{\mathbb{R} }\rightarrow \mathbb{R} _{+}\cup \left\{ +\infty \right\} \)は、任意の点集合\(A,B\in 2^{\mathbb{R} }\)に対して、\begin{equation*}A\subset B\Rightarrow \mu ^{\ast }\left( A\right) \leq \mu ^{\ast }\left(
B\right)
\end{equation*}を満たす。
\end{equation*}を満たすものとします。つまり、\(A\)は零集合です。\(B\subset A\)を満たす集合\(B\subset \mathbb{R}\)を任意に選ぶと、\begin{equation*}\mu ^{\ast }\left( B\right) =0
\end{equation*}が成り立ちます(演習問題)。つまり、零集合の部分集合は零集合であるということです。具体例を挙げると、すべての偶数からなる集合\(E\)について、\begin{equation*}E\subset \mathbb{Z} \end{equation*}が成り立ちますが、\(\mathbb{Z} \)は可算集合ゆえに零集合であるため、この場合、\begin{equation*}\mu ^{\ast }\left( E\right) =0
\end{equation*}が成り立ちます。同様に、すべての奇数からなる集合\(O\)についても、\begin{equation*}\mu ^{\ast }\left( O\right) =0
\end{equation*}が成り立ちます。
外測度のσ-劣加法性
可算個の\(\mathbb{R} \)の部分集合を任意に選び、それらを要素とする集合列\(\left\{ A_{k}\right\}_{k=1}^{+\infty }\)を構成します。その上で、この集合列の和集合\begin{equation*}\bigcup\limits_{k=1}^{+\infty }A_{k}
\end{equation*}をとります。この和集合もまた\(\mathbb{R} \)の部分集合であるため、それに対して外測度\(\mu ^{\ast }\)は外測度\begin{equation*}\mu ^{\ast }\left( \bigcup\limits_{k=1}^{+\infty }A_{k}\right)
\end{equation*}を定めます。しかもこの場合、\(\left\{ A_{k}\right\}_{k=1}^{+\infty }\)の和集合の外測度と、\(\left\{ A_{k}\right\} _{k=1}^{+\infty }\)の要素である個々の集合の外測度の間には以下の関係\begin{equation*}\mu ^{\ast }\left( \bigcup\limits_{k=1}^{+\infty }A_{k}\right) \leq
\sum_{k=1}^{+\infty }\mu ^{\ast }\left( A_{k}\right)
\end{equation*}が成り立つことが保証されます。ただし、右辺は可算個の集合の外測度から構成される無限級数の和であり、具体的には、部分和\begin{equation*}
S_{n}=\sum_{k=1}^{n}\mu ^{\ast }\left( A_{k}\right)
\end{equation*}を項とする数列\(\left\{S_{n}\right\} \)の極限\(\lim\limits_{n\rightarrow +\infty}S_{n}\)として定義されます。つまり、先の不等式を正確に表現すると、\begin{equation*}\mu ^{\ast }\left( \bigcup\limits_{k=1}^{+\infty }A_{k}\right) \leq
\lim_{n\rightarrow +\infty }\left[ \sum_{k=1}^{n}\mu ^{\ast }\left(
A_{k}\right) \right]
\end{equation*}となります。このような性質を指して、\(\mu^{\ast }\)は\(\sigma \)-劣加法性(\(\sigma \)-subadditivity)を満たすと言います。
\sum_{k=1}^{+\infty }\mu ^{\ast }\left( A_{k}\right)
\end{equation*}が成り立つ。
有限個の\(\mathbb{R} \)の部分集合を任意に選び、それらを要素とする集合列\(\left\{ A_{k}\right\}_{k=1}^{n}\)を構成します。その上で、この集合列の和集合\begin{equation*}\bigcup\limits_{k=1}^{n}A_{k}
\end{equation*}をとります。この和集合もまた\(\mathbb{R} \)の部分集合であるため、それに対して外測度\(\mu ^{\ast }\)は外測度\begin{equation*}\mu ^{\ast }\left( \bigcup\limits_{k=1}^{n}A_{k}\right)
\end{equation*}を与えます。しかもこの場合、\(\left\{ A_{k}\right\} _{k=1}^{n}\)の和集合の外測度と、\(\left\{ A_{k}\right\} _{k=1}^{n}\)の要素である個々の集合の外測度の間には以下の関係\begin{equation*}\mu ^{\ast }\left( \bigcup\limits_{k=1}^{n}A_{k}\right) \leq
\sum_{k=1}^{n}\mu ^{\ast }\left( A_{k}\right)
\end{equation*}が成り立つことが保証されます。このような性質を指して、\(\mu^{\ast }\)は有限劣加法性(finite-subadditivity)を満たすと言います。証明では先に示した\(\sigma \)-劣加法性を利用します。
\sum_{k=1}^{n}\mu ^{\ast }\left( A_{k}\right)
\end{equation*}が成り立つ。
\(\mathbb{R} \)の部分集合\(A,B\)を任意に選んだ上で、これらの和集合\begin{equation*}A\cup B
\end{equation*}をとります。この和集合もまた\(\mathbb{R} \)の部分集合であるため、それに対して外測度\(\mu ^{\ast }\)は外測度\begin{equation*}\mu ^{\ast }\left( A\cup B\right)
\end{equation*}を与えますが、和集合\(A\cup B\)の外測度と個々の集合\(A,B\)の外測度の間には以下の関係\begin{equation*}\mu ^{\ast }\left( A\cup B\right) \leq \mu ^{\ast }\left( A\right) +\mu
^{\ast }\left( B\right)
\end{equation*}が成り立つことが保証されます。このような性質を指して、\(\mu^{\ast }\)は劣加法性(subadditivity)を満たすと言います。証明では先に示した有限劣加法性を利用します。
^{\ast }\left( B\right)
\end{equation*}が成り立つ。
ルベーグ外測度は外測度
集合\(X\)のベキ集合\(2^{X}\)上に定義された関数\(\mu ^{\ast}:2^{X}\rightarrow \mathbb{R} \)が非負性と単調性および\(\sigma \)-劣加法性を満たすとともに\(\mu ^{\ast }\left( \phi\right) =0\)が成り立つ場合、\(\mu ^{\ast }\)を外測度(outer measure)と呼び、\(\mu ^{\ast }\)がそれぞれの集合\(A\in 2^{X}\)に対して定める値\(\mu ^{\ast }\left( A\right) \)を\(A\)の外測度(outer measure)と呼びます。
これまでの議論から明らかになったように、区間の長さのカラテオドリ拡張、すなわちルベーグ外測度\(\mu ^{\ast }\)は実数空間\(\mathbb{R} \)のベキ集合\(2^{\mathbb{R} }\)上に定義された関数であり、非負性と単調性および\(\sigma \)-劣加法性を満たすとともに\(\mu^{\ast }\left( \phi \right) =0\)が成り立つため、これは外測度です。
ルベーグ外測度が抱える問題
区間の長さ\(m:\mathfrak{S}_{m}\rightarrow \mathbb{R} _{+}\)のカラテオドリ拡張としてルベーグ外測度\(\mu ^{\ast }:2^{\mathbb{R} }\rightarrow \mathbb{R} _{+}\cup \left\{ +\infty \right\} \)を構成することにより、\(\mathbb{R} \)の任意の部分集合\(A\)について、その外延量である外測度\(\mu ^{\ast }\left( A\right) \)を測定できるようになりました。ただ、外測度は点集合の外延量として十分な正確性を備えているとは言えません。なぜなら、外測度の定義から明らかであるように、点集合\(A\)の外測度を導出する際には\(A\)を覆う可算区間列\(\left\{I_{k}\right\} _{k=1}^{+\infty }\)に属するすべての区間の長さの総和をその候補としているため、外測度\(\mu^{\ast }\left( A\right) \)は\(A\)の真の外延量よりも多めに見積もられている可能性があるからです。区間の長さ\(m\)や区間塊の長さ\(\hat{m}\)とは異なり、外測度\(\mu ^{\ast }\)が満たす性質の中に\(\sigma \)-加法性が含まれていないという事実は、このような考察に正当性を与えます。実際、外測度は\(\sigma \)-加法性を満たさないのですが、このことについては必要な概念が揃った段階で改めて解説します。
演習問題
\mu ^{\ast }\left( \left\{ x_{1},\cdots ,x_{n}\right\} \right) =0
\end{equation*}であることを示してください。
\mu ^{\ast }\left( \left\{ x_{1},x_{2},\cdots \right\} \right) =0
\end{equation*}であることを示してください。
\end{equation*}を満たすものとします。このとき、\(B\subset A\)を満たす任意の集合\(B\subset \mathbb{R} \)について、\begin{equation*}\mu ^{\ast }\left( B\right) =0
\end{equation*}が成り立つことを示してください。
\end{equation*}を満たすものとします。このとき、任意の集合\(B\subset \mathbb{R} \)について、\begin{equation*}\mu ^{\ast }\left( A\cup B\right) =\mu ^{\ast }\left( B\right)
\end{equation*}が成り立つことを示してください。
}\left( A\right) +\varepsilon
\end{equation*}が成り立つことを示してください。
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