多変数のルベーグ可測関数の特徴づけ
ユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{n}\)および\(\mathbb{R} ^{n}\)上のルベーグ可測集合族\(\mathfrak{M}_{\mu }\)からなる可測空間\begin{equation*}\left( \mathbb{R} ^{n},\mathfrak{M}_{\mu }\right)
\end{equation*}が与えられているものとします。さらに、\(\mathbb{R} ^{n}\)上のルベーグ可測集合\(X\in \mathfrak{M}_{\mu }\)を選んだ上で、\(X\)を定義域とする多変数関数\begin{equation*}f:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}を定義します。
関数\(f\)の定義域\(X\)の部分集合であるようなルベーグ可測集合\(A\subset X\)を任意に選びます。つまり、\begin{equation*}A\in \mathfrak{M}_{\mu }
\end{equation*}であるということです。ルベーグ可測集合族\(\mathfrak{M}_{\mu }\)は差集合について閉じているため、このとき、\begin{equation*}X\backslash A\in \mathfrak{M}_{\mu }
\end{equation*}もまた成り立つことに注意してください。このとき、\(f\)が\(X\)上でルベーグ可測関数であることと、\(f\)が\(X\backslash A\)上でルベーグ可測関数であることが必要十分になります。
拡大実数値関数についても同様の主張が成り立ちます。
多変数のルベーグ可測関数とほとんどいたるところで等しい多変数関数はルベーグ可測関数
ユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{n}\)上のルベーグ可測集合\(X\in \mathfrak{M}_{\mu }\)を選んだ上で、この集合上に2つの関数\begin{eqnarray*}f &:&\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} \\
g &:&\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} \end{eqnarray*}を定義します。さらに、以下の2つの条件が成り立つものとします。
1つ目の条件は、関数\(f\)がルベーグ可測関数であるということです。
2つ目の条件は、関数\(f,g\)は定義域\(X\)上のほとんどいたるところで等しいということです。つまり、\(f\)と\(g\)が一致しない集合\begin{equation*}A=\left\{ \boldsymbol{x}\in X\ |\ f\left( \boldsymbol{x}\right) \not=g\left(
\boldsymbol{x}\right) \right\}
\end{equation*}が零集合であるとともに、すなわち、\begin{equation*}
\mu \left( A\right) =0
\end{equation*}が成り立つとともに、\begin{equation*}
\forall \boldsymbol{x}\in X\backslash A:f\left( \boldsymbol{x}\right)
=g\left( \boldsymbol{x}\right)
\end{equation*}が成り立つということです。零集合はルベーグ可測であるため\(A\in \mathfrak{M}_{\mu }\)であり、ルベーグ可測集合族\(\mathfrak{M}_{\mu }\)は差集合について閉じているため\(X\backslash A\in \mathfrak{M}_{\mu }\)であることに注意してください。
以上の条件が満たされる場合には、もう一方の関数\(g\)もまたルベーグ可測関数になることが保証されます。つまり、ルベーグ可測関数\(f\)とほとんどいたるところで等しい関数\(g\)もまたルベーグ可測であるということです。証明ではルベーグ可測集合族\(\mathfrak{M}_{\mu }\)が完備であるという事実を利用します。
g &:&\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} \end{eqnarray*}が与えられているものとする。\(f\)が\(X\)上でルベーグ可測関数であるとともに、\(f\)と\(g\)が\(X\)上のほとんどいたるところで等しい場合には、\(g\)もまた\(X\)上でルベーグ可測関数になる。
2つの関数\(f,g\)が拡大実数値関数である場合にも同様の主張が成り立ちます。
g &:&\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \overline{\mathbb{R} }
\end{eqnarray*}が与えられているものとする。\(f\)が\(X\)上で拡大実数値ルベーグ可測関数であるとともに、\(f\)と\(g\)が\(X\)上のほとんどいたるところで等しい場合には、\(g\)もまた\(X\)上で拡大実数値ルベーグ可測関数になる。
多変数の拡大実数値ルベーグ可測関数とほとんどいたるところにおいて等しいルベーグ可測関数の生成
ユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{n}\)上のルベーグ可測集合\(X\in \mathfrak{M}_{\mu }\)上に定義された拡大実数値ルベーグ可測関数\begin{equation*}f:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \overline{\mathbb{R} }
\end{equation*}が与えられているものとします。ただし、\(f\)は\(X\)上のほとんどいたるところにおいて有限な実数を値としてとるものとします。つまり、\(f\)の値が無限大になる点からなる集合\begin{equation*}A=\left\{ \boldsymbol{x}\in X\ |\ f\left( \boldsymbol{x}\right) \in \left\{
+\infty ,-\infty \right\} \right\}
\end{equation*}が零集合であるとともに、すなわち、\begin{equation*}
\mu \left( A\right) =0
\end{equation*}が成り立つとともに、\begin{equation*}
\forall \boldsymbol{x}\in X\backslash A:f\left( \boldsymbol{x}\right) \in \mathbb{R} \end{equation*}が成り立つということです。
以上の状況において、以下の条件\begin{equation*}
g\left( \boldsymbol{x}\right) =\left\{
\begin{array}{cl}
f\left( \boldsymbol{x}\right) & \left( if\ \boldsymbol{x}\in X\backslash
A\right) \\
\in \mathbb{R} & \left( if\ \boldsymbol{x}\in A\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を満たす実数値関数\begin{equation*}
g:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}を定義します。つまり、\(f\left( \boldsymbol{x}\right) \)の値が無限大になる点\(\boldsymbol{x}\)からなる集合が零集合である状況において、そのような点\(\boldsymbol{x}\)に対して\(f\)が定める値を有限な実数へ入れ替えることにより得られる実数値関数が\(g\)であるということです。
以上の条件が満たされる場合、\(f\)と\(g\)は\(X\)上のほとんどいたるところにおいて等しく、さらに実数値関数は拡大実数値関数であるため、先の命題より、\(g\)は拡大実数値ルベーグ可測関数になります。ただし、\(g\)は実数値関数であるため、以上の事実は\(g\)がルベーグ可測関数であることを意味します。
+\infty ,-\infty \right\} \right\}
\end{equation*}を用いて、実数値関数\(g:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} \)を、\begin{equation*}g\left( \boldsymbol{x}\right) =\left\{
\begin{array}{cl}
f\left( \boldsymbol{x}\right) & \left( if\ \boldsymbol{x}\in X\backslash
A\right) \\
\in \mathbb{R} & \left( if\ \boldsymbol{x}\in A\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を満たすものとして定義すると、\(g\)は\(X\)上でルベーグ可測関数になる。
ほとんどいたるところで定義された多変数関数の定義域の拡張
ユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{n}\)上のルベーグ可測集合\(X\in \mathfrak{M}_{\mu }\)とその部分集合であるような零集合\(A\subset X\)を任意に選びます。つまり、\begin{equation*}\mu \left( A\right) =0
\end{equation*}が成り立つということです。零集合は可測であるため\(A\in \mathfrak{M}_{\mu }\)であり、さらにこれと\(X\in \mathfrak{M}_{\mu }\)より\(X\backslash A\in \mathfrak{M}_{\mu }\)です。その上で、この差集合上に定義された拡大実数値関数\begin{equation*}f:\mathbb{R} ^{n}\supset X\backslash A\rightarrow \overline{\mathbb{R} }
\end{equation*}が与えられているものとします。以上の条件が満たされる場合、関数\(f\)は\(X\)上のほとんどいたるところで定義されている(defined almost everywhere on \(X\))と言います。実数値関数は拡大実数値関数であるため、以上の定義において、\(f\)が実数値関数である可能性は排除されていません。
以上の状況において、以下の条件\begin{equation*}
g\left( \boldsymbol{x}\right) =\left\{
\begin{array}{cl}
f\left( \boldsymbol{x}\right) & \left( if\ \boldsymbol{x}\in X\backslash
A\right) \\
\in \overline{\mathbb{R} } & \left( if\ \boldsymbol{x}\in A\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を満たす拡大実数値関数\begin{equation*}
g:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \overline{\mathbb{R} }
\end{equation*}を定義します。つまり、\(f\left( \boldsymbol{x}\right) \)が定義されていない点\(\boldsymbol{x}\)からなる集合が零集合である状況において、そのような\(\boldsymbol{x}\)に対して何らかの拡大実数値を定めることにより得られる拡大実数値関数が\(g\)であるということです。実数値関数は拡大実数値関数であるため、\(g\)が実数値関数である可能性は排除されていません。
\(A\in \mathfrak{M}_{\mu }\)かつ\(X\backslash A\in \mathfrak{M}_{\mu }\)であるとともに、\(g\)の定義域を\(X\)から\(X\backslash A\)へ制限すれば\(f\)が得られるため、\(g\)が\(X\)上でルベーグ可測であることと、\(f\)が\(X\backslash A\)上でルベーグ可測であることは必要十分です。
ちなみに、関数\(g\)を定義する際に、\(A\)上の点\(\boldsymbol{x}\)に対する\(g\left( \boldsymbol{x}\right) \)としてどのような値を選んだ場合でも、得られる関数どうしはいずれも\(X\)上のほとんどいたるところにおいて等しいため、\(A\)上の点\(\boldsymbol{x}\)に対する値\(g\left( \boldsymbol{x}\right) \)の選び方は、得られる関数\(g\)がルベーグ可測であるかどうかの結果には影響を与えないことに注意してください。つまり、与えられた関数がルベーグ可測であるかを問題としている状況において\(f\)の定義域を\(X\backslash A\)から\(X\)へ拡張する際には、\(A\)上の点に対して\(f\)が定める値をどのように選んでも一般性は失われないということです。
\begin{array}{cl}
f\left( \boldsymbol{x}\right) & \left( if\ \boldsymbol{x}\in X\backslash
A\right) \\
\in \overline{\mathbb{R} } & \left( if\ \boldsymbol{x}\in A\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を満たす拡大実数値関数\(g:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \overline{\mathbb{R} }\)を任意に選んだとき、\(f\)が\(X\backslash A\)上で拡大実数値ルベーグ可測関数であることと、\(g\)が\(X\)上で拡大実数値ルベーグ可測関数であることは必要十分である。
\begin{array}{cl}
f\left( \boldsymbol{x}\right) & \left( if\ \boldsymbol{x}\in X\backslash
A\right) \\
\in \overline{\mathbb{R} } & \left( if\ \boldsymbol{x}\in A\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を満たす拡大実数値関数\(g:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \overline{\mathbb{R} }\)を任意に選びます。実数値関数は拡大実数値関数であるとともに、実数値関数がルベーグ可測関数であることと、その関数が拡大実数値ルベーグ可測関数であることは必要十分です。したがって、先の命題より、\(f\)が\(X\backslash A\)上でルベーグ可測関数であることと、\(g\)が\(X\)上で拡大実数値ルベーグ可測関数であることは必要十分です。
\begin{array}{cl}
f\left( \boldsymbol{x}\right) & \left( if\ \boldsymbol{x}\in X\backslash
A\right) \\
\in \mathbb{R} & \left( if\ \boldsymbol{x}\in A\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を満たす実数値関数\(g:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} \)を任意に選びます。実数値関数は拡大実数値関数であるとともに、実数値関数がルベーグ可測関数であることと、その関数が拡大実数値ルベーグ可測関数であることは必要十分です。したがって、先の命題より、\(f\)が\(X\backslash A\)上でルベーグ可測関数であることと、\(g\)が\(X\)上でルベーグ可測関数であることは必要十分です。
\end{equation*}を定めるものとします。ユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{2}\)と有限集合\(\left\{ \left( 0,0\right)\right\} \)はともにルベーグ可測集合であるため\(\mathbb{R} ^{2}\backslash \left\{ \left( 0,0\right) \right\} \)もまたルベーグ可測集合であり、したがって\(f\)が\(\mathbb{R} ^{2}\backslash \left\{ \left( 0,0\right) \right\} \)上でルベーグ可測関数であるか検討できます。さて、有限集合\(\left\{ \left(0,0\right) \right\} \)は零集合であるため、\(f\)は\(\mathbb{R} ^{2}\)上のほとんどいたるところで定義されています。したがって、\(f\)の定義域を\(\mathbb{R} ^{2}\backslash \left\{ \left( 0,0\right) \right\} \)から\(\mathbb{R} ^{2}\)へ拡張する際に\(f\left(0,0\right) \)の値を任意に選んでも一般性は失われません。そこで、拡大実数値関数\(f:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \overline{\mathbb{R} }\)を、\begin{equation*}f\left( x,y\right) =\left\{
\begin{array}{cl}
\frac{1}{x^{2}+y^{2}} & \left( if\ \left( x,y\right) \in \mathbb{R} ^{2}\backslash \left\{ \left( 0,0\right) \right\} \right) \\
+\infty & \left( if\ \left( x,y\right) =\left( 0,0\right) \right)
\end{array}\right.
\end{equation*}と定義します。先の命題より、もとの実数値関数\(f\)が\(\mathbb{R} ^{2}\backslash \left\{ \left( 0,0\right) \right\} \)上でルベーグ可測関数であることと、拡大実数値関数\(f\)が\(\mathbb{R} ^{2}\)上で拡大実数値ルベーグ可測関数であることは必要十分であるはずです。実際、\(f\)は\(\mathbb{R} ^{2}\backslash \left\{ \left( 0,0\right) \right\} \)上でルベーグ可測関数であり、\(f\)は\(\mathbb{R} ^{2}\)上で拡大実数値ルベーグ可測関数です(演習問題)。
ボレル可測関数に関して同様の主張は成り立つとは限らない
多変数のルベーグ可測関数に関してこれまで得られた主張はいずれも、ルベーグ可測集合族\(\mathfrak{M}_{\mu }\)が完備であるという事実に依拠しています。一方、ボレル集合族\(\mathcal{B}\left( \mathbb{R} \right) \)は完備ではないため、多変数のボレル可測関数に関して同様の議論をそのまま繰り返すことはできません。
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