距離空間上のコンパクト集合
距離空間\(\left( X,d\right) \)が与えられているものとします。つまり、\(X\)は非空集合であるとともに、距離関数\(d:X\times X\rightarrow \mathbb{R} \)が以下の4つの公理\begin{eqnarray*}&&\left( M_{1}\right) \ \forall x,y\in X:d\left( x,y\right) \geq 0 \\
&&\left( M_{2}\right) \ \forall x,y\in X:\left[ d(x,y)=0\Leftrightarrow x=y\right] \\
&&\left( M_{3}\right) \ \forall x,y\in X:d(x,y)=d\left( y,x\right) \\
&&\left( M_{4}\right) \ \forall x,y,z\in X:d\left( x,z\right) \leq d\left(
x,y\right) +d\left( y,z\right)
\end{eqnarray*}を満たすということです。
距離空間\(X\)の部分集合\(A\)が\(X\)上のコンパクト集合であることとは、\(A\)の開被覆\(\left\{ A_{\lambda }\right\} _{\lambda \in\Lambda }\)を任意に選んだとき、それに対して有限部分被覆が必ず存在することとして定義されます。つまり、以下の条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall \lambda \in \Lambda :A_{\lambda }\in \mathcal{O}\left( X\right) \\
&&\left( b\right) \ A\subset \bigcup\limits_{\lambda \in \Lambda
}A_{\lambda }
\end{eqnarray*}を満たす集合族\(\left\{ A_{\lambda}\right\} _{\lambda \in \Lambda }\)を任意に選んだとき(\(\left\{ A_{\lambda }\right\}_{\lambda \in \Lambda }\)は\(A\)の開被覆)、それに対して、\begin{eqnarray*}&&\left( c\right) \ \exists n\in \mathbb{N} :\lambda _{1},\cdots ,\lambda _{n}\in \Lambda \\
&&\left( d\right) \ A\subset \bigcup_{i=1}^{n}A_{\lambda _{i}}
\end{eqnarray*}が成り立つ(\(\left\{ A_{\lambda_{i}}\right\} _{i=1}^{n}\)は\(\left\{ A_{\lambda }\right\} _{\lambda \in\Lambda }\)の有限部分被覆)ということです。ただし、\(\mathcal{O}\left( X\right) \)は\(X\)の開集合系を表す記号です。
コンパクト集合は様々な形で表現できますが、まずは集積点を用いたコンパクト集合の定義について学びました。結果を復習します。
- \(A\)は\(X\)上のコンパクト集合である。
- \(A\)の任意の無限部分集合\(B\subset A\)は\(A\)上に集積点を持つ。
上の命題中の主張2において、\(B\)が有限集合である場合について何も語っていません。\(B\)が有限集合である場合には\(B\)の集積点が存在しないことが確定しているからです。
上の命題において、そもそも\(A\)が有限集合である場合には主張は成り立つでしょうか。有限集合はコンパクト集合であるため、この場合には\(A\)は\(X\)上のコンパクト集合です。つまり、命題中の主張1は成り立ちます。一方、\(A\)が有限集合である場合には無限部分集合\(B\subset A\)がそもそも存在しないため、命題中の主張2もまた成り立つものと解釈できます。
今回は点列を用いたコンパクト集合の定義について解説します。
点列コンパクト集合
距離空間\(X\)の部分集合\(A\)が与えられた状況を想定します。その上で、\(A\)の点を項とする点列\(\left\{ x_{n}\right\} \)を任意に選びます。つまり、以下の条件\begin{equation*}\forall n\in \mathbb{N} :x_{n}\in A
\end{equation*}を満たす点列\(\left\{ x_{n}\right\} \)を任意に選ぶということです。このような任意の点列\(\left\{ x_{n}\right\} \)が\(A\)の点に収束する部分列を持つならば、すなわち、\begin{equation*}\lim_{n\rightarrow +\infty }x_{l\left( n\right) }\in A
\end{equation*}を満たす部分列\(\left\{ x_{l\left(n\right) }\right\} \)が存在する場合には、\(A\)を\(X\)上の点列コンパクト集合(sequentially compact set in \(X\))と呼びます。
距離空間\(X\)の部分集合\(A\)が点列コンパクト集合であるためには、\(A\)の要素を項として持つ「任意の」点列に対して、それが\(A\)の要素へ収束する部分列を持つことを示す必要があります。\(A\)の要素を項として持つ点列の中に、\(A\)の要素へ収束する部分列を持つものが「存在する」ことを示しただけでは不十分です。
\end{equation*}を構成します。この集合\(\left\{ a\right\} \)の点を項とする点列\(\left\{ x_{n}\right\} \)を任意に選びます。必然的に、\begin{equation*}\forall n\in \mathbb{N} :x_{n}=a
\end{equation*}となるため、部分列\(\left\{ x_{l\left( n\right) }\right\} \)を任意に選んだとき、やはり必然的に、\begin{equation}\forall n\in \mathbb{N} :x_{l\left( n\right) }=a \quad \cdots (1)
\end{equation}が成り立つため、その極限は、\begin{eqnarray*}
\lim_{n\rightarrow +\infty }x_{l\left( n\right) } &=&\lim_{n\rightarrow
+\infty }a\quad \because \left( 1\right) \\
&=&a \\
&\in &\left\{ a\right\}
\end{eqnarray*}を満たすため、\(\left\{ a\right\} \)は\(X\)上の点列コンパクト集合であることが明らかになりました。
\end{equation*}で表記します。集合\(A\)の点を項とする点列\(\left\{ x_{n}\right\} \)を任意に選びます。点列\(\left\{ x_{n}\right\} \)は無限個の項を持つ一方で\(A\)は有限集合であるため、\(A\)に属する何らかの項が点列\(\left\{x_{n}\right\} \)の項として無限回現れます。そのような項を\(a_{i}\in A\)で表記するのであれば、すべての項が\(a_{i}\)であるような\(\left\{ x_{n}\right\} \)の部分列\(\left\{ x_{l\left( n\right) }\right\} \)を作ることができるとともに、その極限は、\begin{eqnarray*}\lim_{n\rightarrow +\infty }x_{l\left( n\right) } &=&\lim_{n\rightarrow
+\infty }a_{i}\quad \because \left\{ x_{l\left( n\right) }\right\} \text{の定義} \\
&=&a_{i} \\
&\in &A
\end{eqnarray*}を満たすため、\(A\)は\(X\)上の点列コンパクト集合であることが明らかになりました。
逆に、距離空間\(X\)の部分集合\(A\)が点列コンパクトでないことを示すためには、\(A\)の要素を項として持つ点列の中に、\(A\)の要素へ収束する部分列を持たないものが存在することを示せばよいということになります。
\end{equation*}と定めます。以下の部分集合\begin{equation*}
\left( 0,1\right) \subset \mathbb{R} \end{equation*}が\(\mathbb{R} \)上の点列コンパクト集合ではないことを示します。そこで、一般項が、\begin{equation*}x_{n}=\frac{1}{n+1}
\end{equation*}で与えられる点列\(\left\{x_{n}\right\} \)に注目します。\begin{equation*}\forall n\in \mathbb{N} :0<\frac{1}{n+1}<1
\end{equation*}が成り立つため\(\left\{x_{n}\right\} \)は\(\left( 0,1\right) \)上の点列です。しかも、\begin{eqnarray*}\lim_{n\rightarrow +\infty }x_{n} &=&\lim_{n\rightarrow +\infty }\frac{1}{n+1}\quad \because \left\{ x_{n}\right\} \text{の定義} \\
&=&\lim_{n\rightarrow +\infty }\frac{\frac{1}{n}}{1+\frac{1}{n}} \\
&=&\frac{0}{1+0} \\
&=&0
\end{eqnarray*}が成り立ちます。収束点列の任意の部分列はもとの点列の極限と同じ極限へ収束するため、\(\left\{ x_{n}\right\} \)の部分列\(\left\{ x_{l\left( n\right) }\right\} \)を任意に選んだ場合、\begin{eqnarray*}\lim_{n\rightarrow +\infty }x_{l\left( n\right) } &=&0 \\
&\not\in &\left( 0,1\right)
\end{eqnarray*}が成り立ちます。このような点列\(\left\{ x_{n}\right\} \)が存在することは、\(\left( 0,1\right) \)が\(\mathbb{R} \)上の点列コンパクト集合ではないことを意味します。
点列コンパクト集合としてのコンパクト集合
距離空間\(X\)の部分集合\(A\)が\(X\)上のコンパクト集合である場合には、\(A\)は\(X\)上の点列コンパクト集合になります。
距離空間\(X\)の部分集合\(A\)が\(X\)上のコンパクト集合である場合には、\(A\)は\(X\)上の点列コンパクト集合になることが明らかになりましたが、逆の主張も成り立ちます。つまり、距離空間\(X\)の部分集合\(A\)が\(X\)上の点列コンパクト集合である場合には、\(X\)は\(A\)上のコンパクト集合になります。証明は必要な道具が揃った段階で行います。したがって以下を得ます。
- \(A\)は\(X\)上のコンパクト集合である。
- \(A\)の任意の無限部分集合\(B\subset A\)は\(A\)上に集積点を持つ。
- \(A\)は\(X\)上の点列コンパクト集合である。
繰り返しになりますが、上の命題中の主張2において、\(B\)が有限集合である場合について何も語っていません。\(B\)が有限集合である場合には\(B\)の集積点が存在しないことが確定しているからです。
上の命題において、そもそも\(A\)が有限集合である場合には主張は成り立つでしょうか。有限集合はコンパクト集合であるため、この場合には\(A\)は\(X\)上のコンパクト集合です。つまり、命題中の主張1は成り立ちます。一方、\(A\)が有限集合である場合には無限部分集合\(B\subset A\)がそもそも存在しないため、命題中の主張2もまた成り立つものと解釈できます。また、有限集合は点列コンパクト集合であるため、この場合には\(A\)は\(X\)上の点列コンパクト集合です。つまり、命題中の主張3は成り立ちます。
点列コンパクト空間としてのコンパクト距離空間
距離空間\(X\)がコンパクト距離空間であることとは、\(X\)が\(X\)上のコンパクト集合であることを意味します。より正確には、以下の条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall \lambda \in \Lambda :A_{\lambda }\in \mathcal{O}\left( X\right) \\
&&\left( b\right) \ X=\bigcup\limits_{\lambda \in \Lambda }A_{\lambda }
\end{eqnarray*}を満たす集合族\(\left\{ A_{\lambda}\right\} _{\lambda \in \Lambda }\)を任意に選んだとき(\(\left\{ A_{\lambda }\right\}_{\lambda \in \Lambda }\)は\(X\)の開被覆)、それに対して、\begin{eqnarray*}&&\left( c\right) \ \exists n\in \mathbb{N} :\lambda _{1},\cdots ,\lambda _{n}\in \Lambda \\
&&\left( d\right) \ X=\bigcup_{i=1}^{n}A_{\lambda _{i}}
\end{eqnarray*}が成り立つ(\(\left\{ A_{\lambda_{i}}\right\} _{i=1}^{n}\)は\(\left\{ A_{\lambda }\right\} _{\lambda \in\Lambda }\)の有限部分被覆)ということです。
集積点を用いたコンパクト距離空間の定義は以下の通りです。
- \(X\)はコンパクト距離空間である。
- \(X\)の任意の無限部分集合\(A\subset X\)は\(X\)上に集積点を持つ。
距離空間\(X\)は自身の部分集合であるため、\(X\)が\(X\)上で点列コンパクト集合であるか検討できます。距離空間\(X\)が\(X\)上において点列コンパクト集合である場合には、\(X\)を点列コンパクト距離空間(sequentially compact metric space)と呼びます。より正確には、距離空間\(X\)が点列コンパクト距離空間であることとは、以下の条件\begin{equation*}\forall n\in \mathbb{N} :x_{n}\in X
\end{equation*}を満たす点列\(\left\{ x_{n}\right\} \)を任意に選んだとき、それに対して、以下の条件\begin{equation*}\lim_{n\rightarrow +\infty }x_{l\left( n\right) }\in X
\end{equation*}を満たす部分列\(\left\{ x_{l\left(n\right) }\right\} \)が必ず存在することを意味します。
コンパクト距離空間は点列コンパクト距離空間です。証明は先と同様です。
この命題の逆もまた成り立つため以下を得ます。
- \(X\)はコンパクト距離空間である。
- \(X\)の任意の無限部分集合\(A\subset X\)は\(X\)上に集積点を持つ。
- \(X\)は点列コンパクト距離空間である。
上の命題において、そもそも\(X\)が有限集合である場合には主張は成り立つでしょうか。有限集合はコンパクト集合であるため、この場合には\(X\)はコンパクト距離空間です。つまり、命題中の主張1は成り立ちます。一方、\(X\)が有限集合である場合には無限部分集合\(A\subset X\)がそもそも存在しないため、命題中の主張2もまた成り立つものと解釈できます。さらに、有限集合は点列コンパクト集合であるため、この場合には\(X\)は点列コンパクト距離空間です。つまり、命題中の主張3も成り立ちます。
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