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ビュッフォンの針とモンテ・カルロ法

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ビュッフォンの針の定式化

18世紀のフランスの学者ビュッフォン(Buffon)は以下のような問題を考えました。この問題はビュッフォンの針(Buffon’s needle problem)という名で知られています。

問題(ビュッフォンの針)
床に間隔\(d>0\)で多数の平行な線を引き、上から長さ\(L>0\)の針を落とす。ただし、\begin{equation*}L<d
\end{equation*}が成り立つものとする。このとき、床に落ちた針が何らかの線と交差する確率を求めよ。

針の長さ\(L\)は線どうしの感覚\(d\)より短いため、針が2本以上の線と交わる事態は起こり得ないことに注意してください。

針が線と交わるかどうかが問題とされているため、床に落とした針に関する以下の2つの情報に注目すれば十分です。1つ目の情報は、床に落ちた針の中心から最も近い線までの最短距離\(x\)(下図のオレンジの線)です。2つ目は情報は、線に対する針の傾きの大きさ\(\alpha \)(下図の紫の角度)です。床に落ちた針の位置と向きは、以上の2つの情報からなる組\(\left( \alpha ,x\right) \)として記録されます。では、\(x\)と\(\alpha \)はそれぞれどのような値をとり得るでしょうか。

図:針の位置と向き
図:針の位置と向き

\(x\)は針の中心から最も近い線までの最短距離であるため、針の中心が何らかの線の上に位置する場合には、\begin{equation*}x=0
\end{equation*}で最小になり、針の中心が隣り合う2本の平行線のちょうど真ん中に位置する場合には、\begin{equation*}
x=\frac{d}{2}
\end{equation*}で最大になります。したがって、\(x\)がとり得る値の範囲は、\begin{equation*}0\leq x\leq \frac{d}{2}
\end{equation*}となります。

\(\alpha \)は線に対する針の傾きの大きさであるため、針と線が並行の場合には、\begin{equation*}\alpha =0,\pi
\end{equation*}となり、これが\(\alpha \)の最小値および最大値です。したがって、\(\alpha \)がとり得る値の範囲は、\begin{equation*}0\leq \alpha \leq \pi
\end{equation*}です。

以上を踏まえた上で、値の組\(\left( \alpha ,x\right) \)がとり得る領域を下図のオレンジの領域として図示しました。ただし、境界を含みます。

図:標本空間
図:標本空間

 

先験的確率にもとづくビュッフォンの針の解

ある試行に関する標本空間\(\Omega \)と、問題としている事象\(A\subset \Omega \)が与えられたとき、先験的確率(ラプラスの確率)のもとでは、事象\(A\)が起こる確率は、\begin{equation*}\frac{\left\vert A\right\vert }{\left\vert \Omega \right\vert }
\end{equation*}と定義されます。ただし、\(\left\vert A\right\vert ,\left\vert \Omega\right\vert \)は\(A,\Omega \)に含まれる標本点の個数です。

以上の定義を踏まえると、先験的確率にもとづく「針が何らかの線と交差する確率」を、\begin{equation*}
\text{針が何らかの線と交差する確率}=\frac{\text{線と交差する}\left( \alpha ,x\right) \text{からなる領域の面積}}{\text{すべての}\left( \alpha ,x\right) \text{からなる領域の面積}}
\end{equation*}と定義するのがもっともらしいと言えます。そこで、右辺の分子と分母をそれぞれ求めます。

図:標本空間
図:標本空間

「すべての\(\left( \alpha ,x\right) \)からなる領域」は先のオレンジの領域であり、したがってその面積は、\begin{equation*}\left( \pi -0\right) \left( \frac{d}{2}-0\right) =\frac{d\pi }{2}
\end{equation*}となります。

図:針の位置と向き
図:針の位置と向き

続いて、「線と交差する\(\left( \alpha ,x\right) \)からなる領域」の面積を求めます。針と線が交差するための条件を上の図を用いて特定します。\(x\)と\(AC\)の長さを比べたとき、\begin{equation*}x\leq AC
\end{equation*}が成り立つ場合には針と線が交わります。では、\(AC\)の長さをどのように求めればよいのでしょうか。三角形\(ABC\)の辺である\(AB\)の長さは針の長さ\(L\)の半分に相当する\(\frac{L}{2}\)です。また、角\(ABC\)の大きさが\(\alpha \)です。加えて、正弦の定義より、\begin{equation*}\sin \left( \alpha \right) =\frac{AC}{AB}
\end{equation*}を得ます。以上を踏まえると、\begin{eqnarray*}
AC &=&AB\sin \left( \alpha \right) \\
&=&\frac{L}{2}\sin \left( \alpha \right)
\end{eqnarray*}を得ます。したがって、針と線が交差するための条件である\(x\leq AC\)は、\begin{equation*}x\leq \frac{L}{2}\sin \left( \alpha \right)
\end{equation*}と必要十分です。この条件を満たす\(\left( \alpha,x\right) \)からなる集合は下図の黄色い領域です。

図:事象
図:事象

黄色い領域の面積は、\begin{eqnarray*}
\int_{0}^{\pi }\frac{L}{2}\sin \left( \alpha \right) d\alpha &=&\frac{L}{2}\int_{0}^{\pi }\sin \left( \alpha \right) d\alpha \\
&=&\frac{L}{2}\left[ -\cos \left( \alpha \right) \right] _{0}^{\pi } \\
&=&\frac{L}{2}\left[ -\cos \left( \pi \right) +\cos \left( 0\right) \right] \\
&=&\frac{L}{2}\left( 1+1\right) \\
&=&L
\end{eqnarray*}となります。

以上の議論より、\begin{eqnarray*}
\text{針が何らかの線と交差する確率} &=&\frac{\text{線と交差する}\left( \alpha ,x\right) \text{からなる領域の面積}}{\text{すべての}\left( \alpha ,x\right) \text{からなる領域の面積}} \\
&=&\frac{\text{黄色の領域の面積}}{\text{オレンジの領域の面積}} \\
&=&\frac{L}{\frac{d\pi }{2}} \\
&=&\frac{2L}{d\pi }
\end{eqnarray*}であることが明らかになりました。以上が、先験的確率にもとづくビュッフォンの針の解です。

命題(先験的確率にもとづくビュッフォンの針の解)
床に間隔\(d>0\)で多数の平行な線を引き、上から長さ\(L>0\)の針を落とす。ただし、\begin{equation*}L<d
\end{equation*}が成り立つものとする。このとき、床に落ちた針が何らかの線と交差する先験的確率は、\begin{equation*}
\frac{2L}{d\pi }
\end{equation*}である。

 

経験的確率にもとづくビュッフォンの針の解

同一条件のもとで試行を\(n\)回繰り返したときに、事象\(A\)に属する標本点が\(x\)回出た場合、それらの階数の比\begin{equation*}\frac{x}{n}
\end{equation*}を相対頻度と呼びます。回数\(n\)を限りなく増やした場合に相対頻度\(\frac{x}{n}\)がある値に収束する場合には、すなわち、\begin{equation*}\exists L\in \mathbb{R} :\lim_{n\rightarrow +\infty }\frac{x}{n}=L
\end{equation*}が成り立つ場合には、経験的確率のもとで、この極限\(L\)が事象\(A\)の確率として採用されます。

以上の定義を踏まえると、経験的確率にもとづく「針が何らかの線と交差する確率」は、\begin{eqnarray*}
n &:&\text{針を投げる回数} \\
x &:&\text{何らかの線と交差する針の数}
\end{eqnarray*}のもとで、\begin{equation*}
\text{針が何らかの線と交差する確率}=\lim_{n\rightarrow +\infty
}\frac{x}{n}
\end{equation*}と定義されます。

図:針を7回投げた結果
図:針を7回投げた結果

上図中の4本の平行な黒い線は床に引いた線、それ以外の短い線は床に落とした針をそれぞれ表しています。特に、青い線は床に引かれた何らかの線と交差する針を表します。上図には7本の針が描かれており、その中の4本が床の線と交差しているため、この時点での相対頻度は、\begin{equation*}
\frac{x}{n}=\frac{4}{7}
\end{equation*}となります。ただし、7回では実験として少なすぎます。精度を高めようとすれば針を何百回、何千回、さらに何万回と床に投げた上で、相対頻度\(\frac{x}{n}\)の変遷を観察する必要があります。その上で、相対頻度\(\frac{x}{n}\)が何らかの値\(L\)へ収束する傾向があれば、経験的確率のもとでは、針が何らかの線と交差する確率を\(L\)と結論付けることになります。

 

モンテ・カルロ法

ビュッフォンの針を経験的確率にもとづいて考えることは、針を何百回、何千回、さらに何万回と床に投げて、針と床の線が交わった回数を数えることを意味します。一方、ラプラスの確率を採用する場合、針と床の線が交わる確率\(p\)は、\begin{equation*}p=\frac{2L}{d\pi }
\end{equation*}と定まることが明らかになりました。ただし、\(L\)は針の長さ、\(d\)は床に引かれた線どうしの間隔であり、両者の間には\(L<d\)が成り立ちます。

興味深いのは、この確率には円周率\(\pi \)が含まれているという点です。そこで、これを円周率について解くと、\begin{equation}\pi =\frac{2L}{dp} \quad \cdots (1)
\end{equation}を得ます。

針の長さ\(L\)と床に引かれた線どうしの間隔\(d\)を自由に設定します。その上で、針と床の線が交わる確率\(p\)を経験的確率として求めます。つまり、針を繰り返し投げて\(p\)を求めるということです。すると、\(\left( 1\right) \)の右辺を構成する要素がすべて明らかになるため、それと一致する\(\pi \)を経験的に求めることができます。ビュッフォンの針の解を経験的確率として求めることは、円周率を経験的確率として求めることにもなるということです。言い換えると、針を繰り返し投げることで円周率を経験的に導出できるということです。

現在はコンピュータがあるため、実際に針を繰り返す必要はなく、そのような作業をコンピュータ上で仮想的に行うことができます。針が床にランダムに落ちる様子を、コンピュータは乱数を使って疑似的に再現できるからです。

以下の図は、コンピュータを使って針をランダムに1000回投げた場合の\(\frac{2L}{dp}\)の変遷を表しています。横軸は針を投げる回数、縦軸は\(\frac{2L}{dp}\)です。

図:針を1000回投げた結果
図:針を1000回投げた結果

以下の図は、コンピュータを使って針をランダムに5000回投げた場合の\(\frac{2L}{dp}\)の変遷を表しています。横軸は針を投げる回数、縦軸は\(\frac{2L}{dp}\)です。

図:針を5000回投げた結果
図:針を5000回投げた結果

乱数を使って問題を解く手法をモンテ・カルロ法(Monte Carlo method)と呼びます。現在のモンテカルロ法は非常に洗練されたものですが、ビュッフォンの針という古典的問題もまたモンテカルロ法によって解くことができるとともに、これはモンテ・カルロ法の起源でもあります。

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