事象演算の法則

事象演算に関して成り立つ諸法則(反射律・ベキ等律・交換律・結合律・分配律・吸収律・ド・モルガンの法則・補集合法則・差集合法則)について解説します。

反射律

事象は集合として、事象演算は集合演算を用いてそれぞれ定義されるため、集合演算に関して成立する諸々の法則が事象演算においてもそのまま成立します。ここでは代表的な法則を挙げておきます。

事象\(A\subset \Omega \)の余事象\(A^{c}\)に対してさらにその余事象\(\left( A^{c}\right) ^{c}\)を考えることができますが、これは\(A\)と等しい事象です。余事象が満たすこのような性質を反射律(reflexive law)と呼びます。

命題(反射律)
任意の事象\(A\subset \Omega \)に対して以下が成り立つ。\begin{equation*}
(A^{c})^{c}=A
\end{equation*}
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つまり、事象\(A\)が与えられたとき、「「事象\(A\)が起こらない」という事象は起こらない」という現象は「事象\(A\)が起こる」という現象と一致します。

 

ベキ等律

同じ事象どうしの積事象や和事象をとると、それはいずれももとの事象と等しい事象になります。積事象や和事象が満たすこのような性質をベキ等律(idemopotent law)と呼びます。

命題(ベキ等律)
任意の事象\(A\subset \Omega \)に対して以下が成り立つ。\begin{eqnarray*}
\left( a\right) \ A\cap A &=&A \\
\left( b\right) \ A\cup A &=&A
\end{eqnarray*}
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つまり、事象\(A\)が与えられたとき、「事象\(A\)と事象\(A\)がともに起こる」という現象は「事象\(A\)が起こる」という現象と一致します。また、「事象\(A\)と事象\(A\)の少なくとも一方が起こる」という現象は「事象\(A\)が起こる」という現象と一致します。

 

交換律

積事象や和事象は事象の順序を入れ替えても変わりません。積事象や和事象が満たすこのような性質を交換律(commutative law)と呼びます。

命題(交換律)
任意の事象\(A,B\subset \Omega \)に対して以下が成り立つ。\begin{eqnarray*}
\left( a\right) \ A\cap B &=&B\cap A \\
\left( b\right) \ A\cup B &=&B\cup A
\end{eqnarray*}
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つまり、事象\(A,B\)が与えられたとき、「事象\(A\)と事象\(B\)がともに起こる」という現象は「事象\(B\)と事象\(A\)が起こる」という現象と一致し、「事象\(A\)と事象\(B\)の少なくとも一方が起こる」という現象は「事象\(B\)と事象\(A\)の少なくとも一方が起こる」という現象と一致します。

 

結合律

事象\(A,B,C\subset \Omega \)が与えられたとき、その中から隣り合う2つの事象\(A,B\)を選んで積事象を適用すれば\(A\cap B\)が得られます。これは事象ですから、これと残された事象\(C\)に対して再び積事象\(\cap \)を作用させれば\((A\cap B)\cap C\)という事象を得ます。一方、最初に\(B,C\)に対して積事象\(\cap \)を作用させれば最終的に\(A\cap (B\cap C)\)という事象を得ます。この 2 つの事象が一致するというのが結合律(associative law)の主張です。和事象\(\cup \)に関しても同様の性質が成り立ちます。

命題(結合律)
任意の事象\(A,B,C\subset \Omega \)に対して以下が成り立つ。\begin{eqnarray*}
\left( a\right) \ (A\cap B)\cap C &=&A\cap (B\cap C) \\
\left( b\right) \ (A\cup B)\cup C &=&A\cup (B\cup C)
\end{eqnarray*}
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事象\(A,B,C\)に関して、\(\cap \)の結合律より、\begin{equation*}
(A\cap B)\cap C=A\cap (B\cap C)
\end{equation*}が成り立ちますが、これは、\(A,B,C\)の間にある2つの\(\cap \)の中のどちらを最初に適用しても最終的に得られる事象は同じであることを意味します。そこで、これら 2 つの事象を区別せずに\(A\cap B\cap C\)で表します。和事象についても同様に考え、\((A\cup B)\cup C\)と\(A\cup (B\cup C)\)を区別せずに\(A\cup B\cup C\)で表します。

事象\(A,B,C,D\)に対して、隣り合う事象の間にある 3 つの\(\cap \)の中のどれを最初に適用するかという問題に対しても、\(\cap \)の結合律を繰り返し適用することにより、\begin{align*}
\left( \left( A\cap B\right) \cap C\right) \cap D& =\left( A\cap \left(
B\cap C\right) \right) \cap D\quad \because \text{結合律}
\\
& =A\cap \left( \left( B\cap C\right) \cap D\right) \quad \because \text{結合律} \\
& =A\cap \left( B\cap \left( C\cap D\right) \right) \quad \because \text{結合律}
\end{align*}が成立するため、\(\cap \)を作用させる順番に関わらず同じ事象が得られます。そこで、これら 4 つの事象を区別せずに\(A\cap B\cap C\cap D\)で表します。和事象についても同様に考え、上と同様な 4 つの事象を区別せずに\(A\cup B\cup C\cup D\)で表します。

任意の有限個の事象についても同様の議論が成立します。有限\(n\)個の事象\(A_{1},\cdots ,A_{n}\)の間にある\(n-1\)個の\(\cap \)の中のどれを適用した場合でも、最終的に得られる事象はいずれも等しいため、それらの事象を区別せずに、\begin{equation*}
\bigcap\limits_{i=1}^{n}A_{i}=A_{1}\cap \cdots \cap A_{n}
\end{equation*}で表します。和事象についても同様に考えた上で、\begin{equation*}
\bigcup\limits_{i=1}^{n}A_{i}=A_{1}\cup \cdots \cup A_{n}
\end{equation*}で表します。

 

分配律

これまで見てきた事象演算の性質はいずれも余事象、積事象、和事象などがそれぞれ単独で満たす性質でしたが、以降では複数の異なる事象演算の間に成立する関係について考えます。まず、積事象と和事象の間には以下の関係が成り立ちます。これを分配律(distributive law)と呼びます。

命題(分配律)
任意の事象\(A,B,C\subset \Omega \)に対して以下が成り立つ。\begin{eqnarray*}
\left( a\right) \ A\cap (B\cup C) &=&(A\cap B)\cup (A\cap C) \\
\left( b\right) \ A\cup (B\cap C) &=&(A\cup B)\cap (A\cup C)
\end{eqnarray*}
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吸収律

積事象と和事象の間には以下の関係が成り立ちます。これを吸収律(absorption law)と呼びます。

命題(吸収律)
任意の事象\(A,B\subset \Omega \)に対して以下が成り立つ。\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ A\cap (A\cup B)=A \\
&&\left( b\right) \ A\cup (A\cap B)=A
\end{eqnarray*}
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事象\(A\)が与えられたとき、それと任意の事象\(B\)の和事象\(A\cup B\)をとります。さらに、この事象ともとの事象\(A\)の共通部分\(A\cap (A\cup B)\)をとると、事象\(A\cup B\)は吸収されて\(A\)に戻ってしまうというのが吸収律の主張です。和事象と積事象を入れ替えた主張も同じく成り立ちます。

\(\left( a\right) ,\left( b\right) \)より、任意の事象\(A,B\)について、\begin{equation*}
A\cap (A\cup B)=A\cup (A\cap B)
\end{equation*}という関係もまた成立します。つまり、左辺の事象において\(\cap \)を\(\cup \)に置き換え、\(\cup \)を\(\cap \)に置き換えれば右辺の事象が得られますが、両者は等しい事象です。

 

ド・モルガンの法則

和事象の余事象は余事象の積事象に等しく、積事象の余事象は余事象の和事象に等しくなります。これをド・モルガンの法則(De Morgan’s law)と呼びます。

命題(ド・モルガンの法則)
任意の事象\(A,B\subset \Omega \)に対して以下が成り立つ。\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ (A\cap B)^{c}=A^{c}\cup B^{c} \\
&&\left( b\right) \ (A\cup B)^{c}=A^{c}\cap B^{c}
\end{eqnarray*}
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事象\(A,B,C\)に関しても、ド・モルガンの法則を繰り返し適用することにより、\begin{align*}
(A\cap B\cap C)^{c}& =(\left( A\cap B\right) \cap C)^{c} \\
& =\left( A\cap B\right) ^{c}\cup C^{c}\quad \because \text{ド・モルガンの法則} \\
& =\left( A^{c}\cup B^{c}\right) \cup C^{c}\because \text{ド・モルガンの法則} \\
& =A^{c}\cup B^{c}\cup C^{c}
\end{align*}すなわち、\begin{equation*}
(A\cap B\cap C)^{c}=A^{c}\cup B^{c}\cup C^{c}
\end{equation*}が得られます。和事象についても同様に考えると、\begin{equation*}
(A\cup B\cup C)^{c}=A^{c}\cap B^{c}\cap C^{c}
\end{equation*}が得られます。

有限かつ任意個の事象についても同様の議論が成り立ちます。つまり、有限\(n\)個の事象\(A_{1},\cdots ,A_{n}\)について、\begin{equation*}
(A_{1}\cap \cdots \cap A_{n})^{c}=A_{1}^{c}\cup \cdots \cup A_{n}^{c}
\end{equation*}という関係が成り立ちます。そこでこれを、\begin{equation*}
\left( \bigcap\limits_{i=1}^{n}A_{i}\right)
^{c}=\bigcup\limits_{i=1}^{n}A_{i}^{c}
\end{equation*}で表します。和事象についても同様に考えると、\begin{equation*}
(A_{1}\cup \cdots \cup A_{n})^{c}=A_{1}^{c}\cap \cdots \cap A_{n}^{c}
\end{equation*}という関係が成立するため、これを、\begin{equation*}
\left( \bigcup\limits_{i=1}^{n}A_{i}\right)
^{c}=\bigcap\limits_{i=1}^{n}A_{i}^{c}
\end{equation*}で表します。

 

補集合法則

余事象との積事象や和事象に関して成り立つ以下の関係を補集合法則(complement law)と呼びます。

命題(補集合法則)
空事象\(\phi \)、全体事象\(\Omega \)、そして任意の事象\(A\subset \Omega \)に対して以下が成り立つ。\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ A\cap A^{c}=\phi \\
&&\left( b\right) \ A\cup A^{c}=\Omega
\end{eqnarray*}
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全事象と空事象の間には以下の関係が成り立ちます。

命題(空事象と全体事象の関係)
空事象\(\phi \)と全体事象\(\Omega \)に対して以下が成り立つ。\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \phi ^{c}=\Omega \\
&&\left( b\right) \ \Omega ^{c}=\phi
\end{eqnarray*}
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恒等法則

全事象と空事象、そして任意の事象の間には以下が成り立ちます。

命題(恒等法則)
空事象\(\phi \)、全体事象\(\Omega \)、そして任意の事象\(A\subset \Omega \)に対して以下が成り立つ。\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ A\cap \phi =\phi \\
&&\left( b\right) \ A\cup \Omega =\Omega \\
&&\left( c\right) \ A\cup \phi =A \\
&&\left( d\right) \ A\cap \Omega =A
\end{eqnarray*}
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全事象と空事象、そして任意の事象との差事象の間には以下が成り立ちます。

 

差集合法則

事象\(A,B\subset \Omega \)に対して\(A\backslash B=A\cap B^{c}\)という関係が成り立ちますが、この関係とこれまで示してきた演算法則を活用すると、以下を簡単に示すことができます。これを差集合法則(difference law)とでも名付けましょう。

命題(差集合法則)
空事象\(\phi \)、全体事象\(\Omega \)、そして任意の事象\(A\subset \Omega \)に対して以下が成り立つ。\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ A\backslash A=\phi \\
&&\left( b\right) \ A\backslash \phi =A \\
&&\left( c\right) \ \phi \backslash A=\phi \\
&&\left( d\right) \ A\backslash \Omega =\phi \\
&&\left( e\right) \ \Omega \backslash A=A^{c}
\end{eqnarray*}
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次回から確率の定義について学びます。

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