正の無限大へ発散する数列
数列\(\left\{ x_{n}\right\} \)とは無限個の実数を順番に並べたもの\begin{equation*}x_{1},x_{2},\cdots ,x_{n},\cdots
\end{equation*}ですが、\(n\)が大きくなるにつれて項\(x_{n}\)が限りなく大きくなる場合、この数列\(\left\{ x_{n}\right\} \)は正の無限大へ発散する(diverge)と言い、そのことを、\begin{equation*}\lim\limits_{n\rightarrow \infty }x_{n}=+\infty
\end{equation*}で表記します。
\end{equation*}で与えられているものとします。項を具体的に列挙すると、\begin{eqnarray*}
x_{1} &=&2\cdot 1=2 \\
x_{2} &=&2\cdot 2=4 \\
x_{3} &=&2\cdot 3=6 \\
&&\vdots
\end{eqnarray*}となりますが、\(n\)が大きくなるにつれて項\(x_{n}\)は限りなく大きくなり続けるため、\begin{equation*}\lim_{n\rightarrow \infty }x_{n}=+\infty
\end{equation*}が成り立ちます。
数列の発散に関して厳密な議論を行うためには「限りなく大きくなる」という曖昧な表現を厳密に定義する必要があります。結論から言うと、数列の発散を厳密に定義する際にもイプシロン・エヌ論法を利用します。
まず、数列\(\left\{ x_{n}\right\} \)の項\(x_{n}\)が限りなく大きいと言うためには、\(x_{n}\)の大きさを表す指標が必要です。そこで、\(x_{n}\)の大きさを表す指標として実数\(M\)を導入します。このとき、\begin{equation}x_{n}>M \quad \cdots (1)
\end{equation}が成り立つならば、「\(x_{n}\)は\(M\)よりも大きい」と言えます。
次に問題になるのは「\(n\)が大きくなるにつれて」という表現の定式化です。\(n\)が大きくなるにつれて数列\(\left\{ x_{n}\right\} \)の項\(x_{n}\)が実数\(M\)よりも大きくなることとは、数列\(\left\{ x_{n}\right\} \)のある項から先の任意の項\(x_{n}\)について、\(x_{n} \)が\(M\)よりも大きいこととして言い換え可能です。つまり、ある番号\(N\)が存在して、数列\(\left\{ x_{n}\right\} \)の第\(N\)項以降のすべての項\(x_{n}\)について\(\left( 1\right) \)が成り立つということです。これを定式化すると、\begin{equation}\exists N\in \mathbb{N} ,\ \forall n\in \mathbb{N} :\left( n\geq N\Rightarrow x_{n}>M\right) \quad \cdots (2)
\end{equation}となります。上の論理式が成り立つならば、「\(n\)が大きくなるにつれて数列\(\left\{ x_{n}\right\} \)の項\(x_{n}\)は実数\(M\)よりも大きくなる」と言えます。
最後に問題になるのは「限りなく大きくなる」という表現の定式化です。数列\(\left\{x_{n}\right\} \)が正の無限大\(+\infty \)に発散することとは、\(n\)が大きくなるにつれて項\(x_{n}\)が限りなく大きくなることを意味しますが、この場合、実数\(M\)としてどのような大きい値を選んだ場合でも、\(n\)が大きくなるにつれて数列\(\left\{ x_{n}\right\} \)の項\(x_{n}\)は\(M\)よりも大きくなるはずです。\(\left( 2\right) \)を踏まえるとこれは、\begin{equation}\forall M\in \mathbb{R} ,\ \exists N\in \mathbb{N} ,\ \forall n\in \mathbb{N} :\left( n\geq N\Rightarrow x_{n}>M\right) \quad \cdots (3)
\end{equation}と表現できます。そこで、数列\(\left\{ x_{n}\right\} \)が\(\left( 3\right) \)を満たす場合、\(\left\{ x_{n}\right\} \)は正の無限大に発散すると言い、このことを、\begin{equation*}\lim_{n\rightarrow \infty }x_{n}=+\infty
\end{equation*}と表現します。以上が数列が正の無限大に発散することの厳密な定義です。
ちなみに、先の命題は以下の命題\begin{equation*}
\forall M>0,\ \exists N\in \mathbb{N} ,\ \forall n\in \mathbb{N} :\left( n\geq N\Rightarrow x_{n}>M\right)
\end{equation*}と必要十分です。つまり、\(x_{n}\)の大きさを表す実数\(M\)として正の実数だけを議論の対象としても一般性は失われません。
\end{equation*}が成り立つことは、\begin{equation*}
\forall M\in \mathbb{R} ,\ \exists N\in \mathbb{N} ,\ \forall n\in \mathbb{N} :\left( n\geq N\Rightarrow x_{n}>M\right)
\end{equation*}が成り立つことと必要十分である。
\end{equation*}で与えられているものとします。\(n\)が大きくなるにつれて\(2n\)は限りなく大きくなり続けるため、この数列は正の無限大へ発散するのではないかと予想できます。つまり、\begin{equation*}\lim_{n\rightarrow \infty }x_{n}=+\infty
\end{equation*}が成り立つという予想が立ちます。これを厳密に証明します。数列の発散の定義より、これは、\begin{equation*}
\forall M\in \mathbb{R} ,\ \exists N\in \mathbb{N} ,\ \forall n\in \mathbb{N} :\left( n\geq N\Rightarrow x_{n}>M\right)
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\forall M\in \mathbb{R} ,\ \exists N\in \mathbb{N} ,\ \forall n\in \mathbb{N} :(n\geq N\Rightarrow 2n>M)
\end{equation*}が成り立つことを意味します。これを示すことが目標です。\(M\in \mathbb{R} \)を任意に選んだとき、それに対して、\begin{equation}N>\frac{M}{2} \quad \cdots (1)
\end{equation}を満たす自然数\(N\in \mathbb{N} \)を選べば、\(n\geq N\)を満たす任意の\(n\in \mathbb{N} \)に対して、\begin{eqnarray*}n\geq N &\Rightarrow &2n\geq 2N \\
&\Rightarrow &2n>2\frac{M}{2}\quad \because \left( 1\right) \\
&\Rightarrow &2n>M
\end{eqnarray*}が成り立つため証明が完了しました。
正の無限大へ発散する数列は有限な実数へ収束しません。
負の無限大へ発散する数列
数列\(\left\{ x_{n}\right\} \)とは無限個の実数を順番に並べたもの\begin{equation*}x_{1},x_{2},\cdots ,x_{n},\cdots
\end{equation*}ですが、\(n\)が大きくなるにつれて項\(x_{n}\)が限りなく小さくなる場合、この数列\(\left\{ x_{n}\right\} \)は負の無限大へ発散する(diverge)と言い、そのことを、\begin{equation*}\lim\limits_{n\rightarrow \infty }x_{n}=-\infty
\end{equation*}で表記します。
\end{equation*}で与えられているものとします。項を具体的に列挙すると、\begin{eqnarray*}
x_{1} &=&-2\cdot 1=-2 \\
x_{2} &=&-2\cdot 2=-4 \\
x_{3} &=&-2\cdot 3=-6 \\
&&\vdots
\end{eqnarray*}となりますが、\(n\)が大きくなるにつれて項\(x_{n}\)は限りなく小さくなり続けるため、\begin{equation*}\lim_{n\rightarrow \infty }x_{n}=-\infty
\end{equation*}が成り立ちます。
数列\(\left\{ x_{n}\right\} \)の項\(x_{n}\)が限りなく小さいと言うためには、\(x_{n}\)の大きさを表す指標が必要です。そこで、\(x_{n}\)の大きさを表す指標として実数\(M\)を導入します。このとき、\begin{equation}x_{n}<M \quad \cdots (1)
\end{equation}が成り立つならば、「\(x_{n}\)は\(M\)よりも小さい」と言えます。
次に問題になるのは「\(n\)が大きくなるにつれて」という表現の定式化です。\(n\)が大きくなるにつれて数列\(\left\{ x_{n}\right\} \)の項\(x_{n}\)が実数\(M\)よりも小さくなることとは、数列\(\left\{ x_{n}\right\} \)のある項から先の任意の項\(x_{n}\)について、\(x_{n} \)が\(M\)よりも小さいこととして言い換え可能です。つまり、ある番号\(N\)が存在して、数列\(\left\{ x_{n}\right\} \)の第\(N\)項以降のすべての項\(x_{n}\)について\(\left( 1\right) \)が成り立つということです。これを定式化すると、\begin{equation}\exists N\in \mathbb{N} ,\ \forall n\in \mathbb{N} :\left( n\geq N\Rightarrow x_{n}<M\right) \quad \cdots (2)
\end{equation}となります。上の論理式が成り立つならば、「\(n\)が大きくなるにつれて数列\(\left\{ x_{n}\right\} \)の項\(x_{n}\)は実数\(M\)よりも小さくなる」と言えます。
最後に問題になるのは「限りなく小さくなる」という表現の定式化です。数列\(\left\{x_{n}\right\} \)が負の無限大\(-\infty \)に発散することとは、\(n\)が大きくなるにつれて項\(x_{n}\)が限りなく小さくなることを意味しますが、この場合、実数\(M\)としてどのような小さい値を選んだ場合でも、\(n\)が大きくなるにつれて数列\(\left\{ x_{n}\right\} \)の項\(x_{n}\)は\(M\)よりも小さくなるはずです。\(\left( 2\right) \)を踏まえるとこれは、\begin{equation}\forall M\in \mathbb{R} ,\ \exists N\in \mathbb{N} ,\ \forall n\in \mathbb{N} :\left( n\geq N\Rightarrow x_{n}<M\right) \quad \cdots (3)
\end{equation}と表現できます。そこで、数列\(\left\{ x_{n}\right\} \)が\(\left( 3\right) \)を満たす場合、\(\left\{ x_{n}\right\} \)は負の無限大に発散すると言い、このことを、\begin{equation*}\lim_{n\rightarrow \infty }x_{n}=-\infty
\end{equation*}と表現します。以上が数列が負の無限大に発散することの厳密な定義です。
ちなみに、先の命題は以下の命題\begin{equation*}
\forall M<0,\ \exists N\in \mathbb{N} ,\ \forall n\in \mathbb{N} :\left( n\geq N\Rightarrow x_{n}<M\right)
\end{equation*}と必要十分です。つまり、\(x_{n}\)の大きさを表す実数\(M\)として負の実数だけを議論の対象としても一般性は失われません。
\end{equation*}が成り立つことは、\begin{equation*}
\forall M\in \mathbb{R} ,\ \exists N\in \mathbb{N} ,\ \forall n\in \mathbb{N} :\left( n\geq N\Rightarrow x_{n}<M\right)
\end{equation*}が成り立つことと必要十分である。
\end{equation*}で与えられているものとします。\(n\)が大きくなるにつれて\(-2n\)は限りなく小さくなり続けるため、この数列は負の無限大へ発散するのではないかと予想できます。つまり、\begin{equation*}\lim_{n\rightarrow \infty }x_{n}=-\infty
\end{equation*}が成り立つという予想が立ちます。これを厳密に証明します。数列の発散の定義より、これは、\begin{equation*}
\forall M\in \mathbb{R} ,\ \exists N\in \mathbb{N} ,\ \forall n\in \mathbb{N} :\left( n\geq N\Rightarrow x_{n}<M\right)
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\forall M\in \mathbb{R} ,\ \exists N\in \mathbb{N} ,\ \forall n\in \mathbb{N} :(n\geq N\Rightarrow -2n<M)
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\forall M\in \mathbb{R} ,\ \exists N\in \mathbb{N} ,\ \forall n\in \mathbb{N} :(n\geq N\Rightarrow 2n>-M)
\end{equation*}が成り立つことを意味します。これを示すことが目標です。\(M\in \mathbb{R} \)を任意に選んだとき、それに対して、\begin{equation}N>-\frac{M}{2} \quad \cdots (1)
\end{equation}を満たす自然数\(N\in \mathbb{N} \)を選べば、\(n\geq N\)を満たす任意の\(n\in \mathbb{N} \)に対して、\begin{eqnarray*}n\geq N &\Rightarrow &2n\geq 2N \\
&\Rightarrow &2n>2\left( -\frac{M}{2}\right) \quad \because \left( 1\right)
\\
&\Rightarrow &2n>-M
\end{eqnarray*}が成り立つため証明が完了しました。
負の無限大へ発散する数列は有限な実数へ収束しません。証明は先の命題と同様です。
振動する数列
数列\(\left\{ x_{n}\right\} \)が有限な実数へ収束せず、正の無限大や負の無限大にも発散しない場合、この数列\(\left\{ x_{n}\right\} \)は振動する(oscillating)と言います。
\end{equation*}で与えられているものとします。項を具体的に列挙すると、\begin{eqnarray*}
x_{1} &=&\left( -2\right) ^{1}=-2 \\
x_{2} &=&\left( -2\right) ^{2}=4 \\
x_{3} &=&\left( -2\right) ^{3}=-8 \\
x_{4} &=&\left( -2\right) ^{4}=16 \\
&&\vdots
\end{eqnarray*}となりますが、\(n\)が大きくなるにつれて項\(x_{n}\)の絶対値はいくらでも大きくなるため、この数列は有限な実数へ収束しません。また、\(n\)が大きくなるにつれて項\(x_{n}\)は正の実数と負の実数を交互にとるため、この数列は正の無限大や負の無限大に発散しません。したがって、この数列\(\left\{ x_{n}\right\} \)は振動します。
発散する数列
収束しない数列を発散列(divergent sequence)と呼びます。発散列には正の無限大に発散する数列、負の無限大に発散する数列、そして、振動する数列の3種類があります。
演習問題
\end{equation*}で与えられているものとします。このとき、\begin{equation*}
\lim_{n\rightarrow \infty }x_{n}=+\infty
\end{equation*}が成り立つことを示してください。
\end{equation*}で与えられているものとします。このとき、\begin{equation*}
\lim_{n\rightarrow \infty }x_{n}=-\infty
\end{equation*}が成り立つことを示してください。
\end{equation*}で与えられているものとします。この数列は有限な実数へ収束しないことを示してください。
\end{equation*}で与えられているものとします。この数列は有限な実数へ収束しないことを示してください。
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