すべての実数からなる集合\(\mathbb{R}\)は加法と乗法に関して体としての性質を満たします。

2018年11月26日:公開

加法と乗法

すべての実数からなる集合を\(\mathbb{R}\)で表した上で、\(\mathbb{R}\)の要素を実数(real number)と呼びます。\(\mathbb{R}\)上には加法(addition)と呼ばれる二項演算\(+\)と、乗法(multiplication)と呼ばれる二項演算\(\cdot \)を定義します。このとき、\(\mathbb{R}\)は加法\(+\)と乗法\(\cdot \)に関して閉じている(closed)と言います。

実数の順序対\(\left( x,y\right) \in \mathbb{R}^{2}\)に対して加法\(+\)が定める実数を\(x+y\)で表し、これを\(x\)と\(y\)の(sum)と呼びます。\(x\)と\(y\)を足して(add)\(x+y\)を得るとも言いいます。また、\(\left( x,y\right) \)に対して乗法\(\cdot \)が定める実数を\(x\cdot y\)で表し、これを\(x\)と\(y\)の(product)と呼びます。\(x\)と\(y\)を掛けて(multiply)\(x\cdot y\)を得るとも言います。なお、乗法の記号\(\cdot \)を省略して\(xy\)と書くこともあります。

\(\mathbb{R}\)上に定義された加法\(+\)と乗法\(\cdot \)の性質を規定する以下の命題を実数の公理系として定めます。それぞれの公理の意味は以降で解説します。

公理(実数の演算)
\(\mathbb{R}\)上に定義された加法\(+\)と乗法\(\cdot \)は以下を満たす。\begin{eqnarray*}
&&\left( A\right) \ \forall x,y,z\in \mathbb{R}:\left( x+y\right) +z=x+\left( y+z\right) \\
&&\left( B\right) \ \exists 0\in \mathbb{R},\ \forall x\in \mathbb{R}:x+0=0+x=x \\
&&\left( C\right) \ \forall x\in \mathbb{R},\ \exists -x\in \mathbb{R}:x+\left( -x\right) =\left( -x\right) +x=0 \\
&&\left( D\right) \ \forall x,y\in \mathbb{R}:x+y=y+x \\
&&\left( E\right) \ \forall x,y,z\in \mathbb{R}:\left( x\cdot y\right) \cdot z=x\cdot \left( y\cdot z\right) \\
&&\left( F\right) \ \exists 1\in \mathbb{R},\ \forall x\in \mathbb{R}:x\cdot 1=1\cdot x=x \\
&&\left( G\right) \ \forall x\in \mathbb{R}\backslash \left\{ 0\right\} ,\ \exists x^{-1}\in \mathbb{R}:x\cdot x^{-1}=x^{-1}\cdot x=1 \\
&&\left( H\right) \ \forall x,y\in \mathbb{R}:x\cdot y=y\cdot x \\
&&\left( I\right) \ \forall x,y,z\in \mathbb{R}:x\cdot (y+z)=x\cdot y+x\cdot z \\
&&\left( J\right) \ \forall x,y,z\in \mathbb{R}:\left( x+y\right) \cdot z=x\cdot z+y\cdot z \\
&&\left( K\right) \ 0\not=1
\end{eqnarray*}

 

実数の集合は加法に関する可換群

\(\mathbb{R}\)上に定義された加法\(+\)の性質を規定する公理のうち、\begin{equation*}
\left( A\right) \ \forall x,y,z\in \mathbb{R}:\left( x+y\right) +z=x+\left( y+z\right)
\end{equation*}を加法に関する結合律(associative law)と呼びます。括弧\(\left( \ \right) \)は加法を適用する順番を表しています。つまり、左辺\(\left( x+y\right) +z\)は、はじめに\(x\)と\(y\)を足した上で、得られた結果\(x+y\)と\(z\)をさらに足して得られる結果です。右辺の\(x+\left( y+z\right) \)は、はじめに\(y\)と\(z\)を足した上で、\(x\)と先の結果を足して得られる結果です。結合律はこれらの結果が等しいものと定めています。つまり、3 つの実数\(x,y,z\)に対して加法を適用する際には、隣り合うどの 2 つを先に足しても得られる結果は変わりません。

加法\(+\)の性質を規定する 2 つ目の公理\begin{equation*}
\left( B\right) \ \exists 0\in \mathbb{R},\ \forall x\in \mathbb{R}:x+0=0+x=x
\end{equation*}は、任意の実数\(x\)に足してもその結果が\(x\)のままであるような実数\(0\)の存在を保証しています。この実数\(0\)を加法単位元(additive identity element)やゼロ(zero)などと呼びます。

加法\(+\)の性質を規定する 3 つ目の公理\begin{equation*}
\left( C\right) \ \forall x\in \mathbb{R},\ \exists -x\in \mathbb{R}:x+\left( -x\right) =\left( -x\right) +x=0
\end{equation*}は、それぞれの実数\(x\)に対して、それに足すと結果が\(0\)になるような実数\(-x\)の存在を保証しています。このような実数\(-x\)を\(x\)の加法逆元(additive inverse element)や負数(negative number)などと呼びます。

加法\(+\)の性質を規定する 4 つ目の公理\begin{equation*}
\left( D\right) \ \forall x,y\in \mathbb{R}:x+y=y+x
\end{equation*}を加法に関する交換律(commutative law)と呼びます。一般に、2 つの実数\(x,y\)に関する順序対\(\left( x,y\right) ,\left( y,x\right) \)は異なるものとして区別されるため、\(\left( x,y\right) \)に\(+\)を適用して得られる\(x+y\)と\(\left( y,x\right) \)に\(+\)を適用して得られる\(y+x\)もまた区別されるべきですが、公理\(\left( D\right) \)はこれらが常に等しいことを保証します。

加法\(+\)に関して\(\left( A\right) \)が成り立つことは、\(\mathbb{R}\)が加法\(+\)に関して半群(semigroup)であることを意味します。さらに、\(\left( A\right) \)に加えて\(\left( B\right) \)も成り立つことは、\(\mathbb{R}\)が加法\(+\)に関してモノイド(monoid)であることを意味します。また、\(\left( A\right) ,\left( B\right) \)に加えて\(\left( C\right) \)が成り立つことは、\(\mathbb{R}\)が加法\(+\)に関して(group)であることを意味します。最後に、\(\left( A\right) ,\left( B\right) ,\left( C\right) \)に加えて\(\left( D\right) \)が成り立つことは、\(\mathbb{R}\)が加法\(+\)に関して可換群(commutative group)またはアーベル群(abelian group)であることを意味します。

 

実数の集合は乗法に関する可換群

\(\mathbb{R}\)上に定義された乗法\(\cdot \)の性質を規定する公理のうち、\begin{equation*}
\left( E\right) \ \forall x,y,z\in \mathbb{R}:\left( x\cdot y\right) \cdot z=x\cdot \left( y\cdot z\right)
\end{equation*}は乗法に関する結合律であり、3 つの実数\(x,y,z\)に対して乗法を適用する際には、隣り合うどの 2 つを先に掛けても得られる結果は変わらないことを保証します。

乗法\(\cdot \)の性質を規定する 2 つ目の公理\begin{equation*}
\left( F\right) \ \exists 1\in \mathbb{R},\ \forall x\in \mathbb{R}:x\cdot 1=1\cdot x=x
\end{equation*}は、任意の実数\(x\)に掛けてもその結果が\(x\)のままであるような実数\(1\)の存在を保証している。この実数\(0\)を乗法単位元(multiple identity element)やイチ(one)などと呼びます。

乗法\(\cdot \)の性質を規定する 3 つ目の公理\begin{equation*}
\left( G\right) \ \forall x\in \mathbb{R}\backslash \left\{ 0\right\} ,\ \exists x^{-1}\in \mathbb{R}:x\cdot x^{-1}=x^{-1}\cdot x=1
\end{equation*}は、ゼロとは異なるそれぞれの実数\(x\)に対して、それに掛けると結果が\(1\)になるような実数\(x^{-1}\)の存在を保証します。このような実数\(x^{-1}\)を\(x\)の乗法逆元(multiple inverse element)や逆数(inverse number)などと呼びます。\(x\)の乗法逆元を\(1/x\)や\(\frac{1}{x}\)で表記することもあります。

乗法\(\cdot \)の性質を規定する 4 つ目の公理\begin{equation*}
\left( H\right) \ \forall x,y\in \mathbb{R}:x\cdot y=y\cdot x
\end{equation*}は乗法に関する交換律であり、任意の実数\(x,y\)に関して\(x\cdot y\)と\(y\cdot x\)が等しいことを保証します。

乗法\(\cdot \)に関して\(\left( E\right) \)が成り立つことは、\(\mathbb{R}\)が乗法\(\cdot \)に関して半群であることを意味します。さらに、\(\left( E\right) \)に加えて\(\left( F\right) \)も成り立つことは、\(\mathbb{R}\)が乗法\(\cdot \)に関してモノイドであることを意味します。また、\(\left( E\right) ,\left( F\right) \)に加えて\(\left( G\right) \)が成り立つことは、\(\mathbb{R}\)から\(0\)を除いた集合\(\mathbb{R}\backslash \left\{ 0\right\} \)が乗法\(\cdot \)に関して群であることを意味します。最後に、\(\left( E\right) ,\left( F\right) ,\left( G\right) \)に加えて\(\left( H\right) \)が成り立つことは、\(\mathbb{R}\backslash \left\{ 0\right\} \)が乗法\(\cdot \)に関して可換群またはアーベル群であることを意味します。

 

実数の集合は加法と乗法に関する体

\(\mathbb{R}\)上に定義された加法\(+\)と乗法\(\cdot \)の関係を規定する公理のうち、\begin{eqnarray*}
&&\left( I\right) \ \forall x,y,z\in \mathbb{R}:x\cdot (y+z)=x\cdot y+x\cdot z \\
&&\left( J\right) \ \forall x,y,z\in \mathbb{R}:\left( x+y\right) \cdot z=x\cdot z+y\cdot z
\end{eqnarray*}を分配律(distributive law)と呼びます。\(\left( I\right) \)は、任意の実数\(x,y,z\)について、\(x\)と\(y+z\)の積が、\(x\cdot y\)と\(x\cdot z\)の和と一致することを保証し、\(\left( J\right) \)は、\(x+y\)と\(z\)の積が、\(x\cdot z\)と\(y\cdot z\)の和と一致することを保証します。

\(\mathbb{R}\)上に定義された加法\(+\)と乗法\(\cdot \)の関係を規定する公理のうち、\begin{equation*}
\left( K\right) \ 0\not=1
\end{equation*}は、加法単位元\(0\)と乗法単位元\(1\)が異なる実数であることを保証します。

加法\(+\)の性質を規定する\(\left( A\right) \)から\(\left( D\right) \)までの公理と、乗法\(\cdot \)の性質を規定する\(\left( E\right) \)から\(\left( H\right) \)までの公理に加えて、加法と乗法の間に\(\left( I\right) \)と\(\left( J\right) \)が成り立つことは、\(\mathbb{R}\)が加法と乗法に関して(field)であることを規定します。集合\(\mathbb{R}\)上に加法\(+\)と乗法\(\cdot \)が定義された体を\((\mathbb{R},+,\cdot )\)で表しますが、以降ではこれをシンプルに\(\mathbb{R}\)で表します。

次回は加法の性質について解説します。
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