公理主義的実数論
実数を無限小数として定義する場合、実数に関する議論はすべて無限小数に関する議論になります。つまり、無限小数という概念に付随する様々な用語や概念を使いながら実数に関する議論を行うということです。無限小数は扱いやすい概念ではないため、そのような議論は複雑になり不便です。
そこで登場するのが公理主義(axiomatism)という手法です。一般に、公理主義では、議論の対象となる概念を規定する基本的な性質を抽出し、それを命題として定式化した上で、これらの命題だけを議論の前提として演繹的に考えたときに、議論の対象である概念について何が言えるかを明らかにしようとします。公理主義において前提として設定する個々の命題を公理(axiom)と呼び、設定したすべての公理からなる集まりを公理系(axiomatic system)と呼びます。
公理主義の利点
公理主義の 1 つ目の利点は議論のシンプルさです。実数を無限小数と定義する場合には、実数に関する議論はいずれも、無限小数に付随する数々の概念を用いながら行うことになる一方で、公理主義のもとでは数少ない公理だけを前提として認めるため、議論がシンプルになります。数少ない前提から出発し、より深遠な結論へ到達しようというのが公理主義の考え方です。
公理主義の 2 つ目の利点は一般性です。実数を無限小数と同一視する場合には、議論から得られる結論もまた無限小数という具体的な文脈においてのみ通用します。一方、公理主義では基本的かつ抽象的な公理だけにもとづいて議論を行うため、得られる結論が一般性を持ちます。
実数の公理系
公理主義にもとづいて実数について分析する場合にはどのような公理を採用すべきでしょうか。実は、公理を定める際のルールは存在せず、分析家は好きな命題を公理と定めた上で、そこから議論を始めることができます。実数の公理としてどのような命題を採用するかは分析家の自由です。ただし、以降では、数学家の間で広く受け入れられている公理系を実数の公理系として採用します。
実数の公理系に含まれる公理はいくつかの種類に分類できます。1 つ目は実数の演算を規定する公理です。私たちは実数に対して足し算や掛け算などの演算を行いますが、これらの演算を規定する性質を抽出した上で、それらを実数の公理の 1 つとして定めます。実数を特徴づける 2 つ目の公理は実数の順序構造に関するものです。私たちは実数の大きさを比較しますが、この比較操作を規定する性質を抽出した上で、それらを実数の公理の 1 つとして定めます。実数を特徴づける 3 つ目の公理は代数構造と順序構造の関係を規定する公理です。実数を特徴づける 4 つ目の公理は、連続性と呼ばれる性質に関するものです。数の中には自然数、整数、有理数、実数など様々な種類がありますが、連続性はその中でも実数だけが満たす性質を表現する公理です。
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