実数を無限小数として定義する場合、実数に関する議論はすべて無限小数に関する議論として行うことになります。無限小数は扱いやすい概念ではないため、そのような議論は複雑になるため何かと不便です。そこで登場するのが公理主義という手法です。公理主義では実数を規定する基本的な性質を抽出し、それを命題として定式化した上で、これらの命題だけを議論の前提として演繹的に考えたときに、実数について何が言えるかを明らかにしようとします。

2018年11月26日:公開

公理主義

実数を無限小数として定義する場合、実数に関する議論はすべて無限小数に関する議論として行うことになります。つまり、無限小数という既存の概念に付随する様々な用語や概念を使いながら実数に関する議論を行うということです。無限小数は扱いやすい概念ではないため、そのような議論は複雑になるため何かと不便です。

そこで登場するのが公理主義(axiomatism)という手法です。一般に、公理主義では、議論の対象となる概念を規定する基本的な性質を抽出し、それを命題として定式化した上で、これらの命題だけを議論の前提として演繹的に考えたときに、議論の対象である概念について何が言えるかを明らかにしようとします。公理主義において前提として設定する個々の命題を公理(axiom)と呼び、設定したすべて公理からなる集まりを公理系(axiomatic system)と呼びます。

公理主義の 1 つ目の利点は議論のシンプルさです。実数を無限小数と同一視する場合には、無限小数に付随する数々の既存概念を前提としながら議論を行うことになる一方で、公理主義では数少ない公理だけを前提として認めるため、議論がシンプルになります。数少ない前提から出発し、より深遠な結論へ到達しようというのが公理主義の考え方です。

公理主義の 2 つ目の利点は一般性です。実数を無限小数と同一視する場合には、議論から得られる結論もまた無限小数という具体的な文脈においてのみ通用します。一方、公理主義では基本的かつ抽象的な公理だけにもとづいて議論を行うため、得られる結論が一般性を持ちます。

 

実数の公理系

公理主義にもとづいて実数について分析する場合にはどのような公理を採用すべきでしょうか。実は、公理を定める際のルールは存在せず、分析家は好きな命題を公理と定めた上で、そこから議論を始めることができます。実数の公理としてどのような命題を採用するかは分析家の自由です。しかし以下では、数学家の間で広く受け入れられている実数の公理系を採用します。

実数の公理系に含まれる公理はいくつかの種類に分類できます。1 つ目は実数の演算を規定する公理です。私たちは実数に対して足し算や掛け算などの演算を行いますが、これらの演算を規定する性質を抽出した上で、それらを実数の公理の 1 つとして定めます。より正確には、実数の代数構造を規定する公理とは、実数の集合上に定義された二項演算の性質を規定する公理です。具体的には、実数の集合上に加法(addition)と乗法(multiplication)と呼ばれる演算を定義した上で、それらの演算は(field)としての性質を満たすものと定めます。

実数を特徴づける 2 つ目の公理は実数の順序に関するものです。私たちは実数の大きさを比較しますが、この比較操作を規定する性質を抽出した上で、それらを実数の公理の 1 つとして定めます。より正確には、実数の順序を規定する公理とは、実数の集合上に定義された順序関係の性質を特徴付ける公理です。具体的には、実数の集合上に大小関係(magnitude relation)と呼ばれる二項関係を定義した上で、それは全順序(total ordering)としての性質を満たすものと定めます。

実数を特徴づける 3 つ目の公理は演算と順序の関係を規定する公理です。具体的には、加法ないし乗法と大小関係の間には順序体(ordered field)としての性質が成り立つものと定めます。

実数を特徴づける 4 つ目の公理は実数の連続性(continuity)と呼ばれる性質に関するものです。数には整数、有理数、実数など様々な種類がありますが、連続性は実数だけ持つ性質を特徴づける公理です。連続性の公理を満たす全順序集合を順序完備(order complete)と呼びます。

実数の公理は以上のように分類されます。要約すると、公理主義のもとでは、実数を完備な順序体として定義するということです。以降では実数を特徴づける個々の公理を紹介した上で、そこから導かれる基本的な命題について解説します。

次回は演算に関する公理について解説します。
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