減法の定義
公理主義的実数論の立場のもと、すべての実数からなる集合\(\mathbb{R} \)上に加法\(+:\mathbb{R} \times \mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)と呼ばれる二項演算を定義した上で、これは以下の性質\begin{eqnarray*}&&\left( R_{1}\right) \ \forall x,y,z\in \mathbb{R} :\left( x+y\right) +z=x+\left( y+z\right) \\
&&\left( R_{2}\right) \ \exists 0\in \mathbb{R} ,\ \forall x\in \mathbb{R} :x+0=x \\
&&\left( R_{3}\right) \ \forall x\in \mathbb{R} ,\ \exists -x\in \mathbb{R} :x+\left( -x\right) =0 \\
&&\left( R_{4}\right) \ \forall x,y\in \mathbb{R} :x+y=y+x
\end{eqnarray*}を満たすことを公理として定めました。以上の公理を利用すると、減法と呼ばれる新たな二項演算を定義できます。具体的には以下の通りです。
実数\(x,y\in \mathbb{R} \)を任意に選んだ上で、実数を値として取る変数\(z\in \mathbb{R} \)に関する方程式\begin{equation}y+z=x \quad \cdots (1)
\end{equation}を定義します。\(y\)は実数であるため、公理\(\left( R_{3}\right) \)より、その加法単位元\(-y\)に相当する実数が存在します。また、\(\mathbb{R} \)は加法について閉じているため\(x+\left( -z\right) \)もまた実数です。そこで、方程式\(\left( 1\right) \)の解の候補として実数\begin{equation}z=x+\left( -z\right) \quad \cdots (2)
\end{equation}に注目すると、\begin{align*}
y+z& =y+\left[ x+\left( -y\right) \right] \quad \because \left( 2\right) \\
& =y+\left[ \left( -y\right) +x\right] \quad \because \ \text{加法の交換律}\left( R_{4}\right) \\
& =\left[ y+\left( -y\right) \right] +x\quad \because \ \text{加法の結合律}\left( R_{4}\right) \\
& =0+x\quad \because \ \text{加法逆元の定義}\left( R_{3}\right) \\
& =x\quad \because \ \text{加法単位元の定義}\left( R_{2}\right)
\end{align*}となるため、\(\left( 2\right) \)が方程式\(\left( 1\right) \)の解であることが明らかになりました。
さらに、方程式\(\left( 1\right) \)の解が一意的であることを示すために、\(\left( 1\right) \)が異なる2つの解\(z,z^{\prime }\)を持つものと仮定します。すると、\begin{eqnarray*}y+z &=&x \\
y+z^{\prime } &=&x
\end{eqnarray*}がともに成り立つため、\begin{equation*}
y+z=y+z^{\prime }
\end{equation*}を得ますが、これと加法に関する簡約法則より、\begin{equation*}
z=z^{\prime }
\end{equation*}を得ます。これは\(z\)と\(z^{\prime }\)が異なるという事実と矛盾するため、背理法より方程式\(\left(1\right) \)の解は一意的であることが明らかになりました。
上の命題より、加法\(+\)が与えられたとき、実数を成分とするそれぞれの順序対\(\left( x,y\right)\in \mathbb{R} \times \mathbb{R} \)に対して、方程式\(y+z=x\)の一意的な解に相当する実数\(x+\left( -y\right) \)が1つの実数として定まることが明らかになりました。つまり、\begin{equation*}\forall \left( x,y\right) \in \mathbb{R} \times \mathbb{R} :x+\left( -y\right) \in \mathbb{R} \end{equation*}が成り立つということです。このような事情を踏まえると、順序対\(\left( x,y\right) \)に対して実数\(x+\left( -y\right) \)を定める\(\mathbb{R} \)上の二項演算が定義可能です。これを減法(subtraction)と呼び、\begin{equation*}-:\mathbb{R} \times \mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}で表記します。その上で、減法\(-\)が順序対\(\left( x,y\right) \)に対して定める実数\(x+\left( -y\right) \)を、\begin{equation*}x-y
\end{equation*}で表記し、これを\(x\)と\(y\)の差(difference)と呼びます。順序対\(\left( x,y\right) \)に減法\(-\)を作用させることを\(x\)から\(y\)を引く(subtract)と言います。
加法単位元との減法
加法単位元\(0\)は実数であるため、これと任意の実数\(x\)との減法を考えることができますが、それについては、\begin{eqnarray*}x-0 &=&x \\
0-x &=&-x
\end{eqnarray*}などが成り立ちます(演習問題)。つまり、実数から加法単位元を引いても変化は起こらず、加法単位元から実数を引くとその実数の加法逆元が得られます。
&&\left( b\right) \ 0-x=-x
\end{eqnarray*}がともに成り立つ。
和や差の加法逆元
\(\mathbb{R} \)は加法と減法について閉じているため、実数\(x,y\)を任意に選んだとき、それらの和\(x+y\)や差\(x-y\)もまた実数であるため、それらの加法逆元が存在します。これについては、\begin{eqnarray*}-\left( x+y\right) &=&-x-y \\
-\left( x-y\right) &=&y-x
\end{eqnarray*}などが成り立ちます(演習問題)。つまり、和や差の加法逆元はいずれも減法を用いて表現できます。
&&\left( b\right) \ -\left( x-y\right) =y-x
\end{eqnarray*}がともに成り立つ。
演習問題
\end{equation*}が成り立つことを証明してください。
\end{equation*}が成り立つことを証明してください。
\end{equation*}が成り立つことを証明してください。
\end{equation*}が成り立つことを証明してください。
\end{equation*}が成り立つことを証明してください。
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