直角三角形の辺の名称
直角三角形(right triangle)のそれぞれの辺(side)には名前が付いています。まず、直角(right angle)の対辺を斜辺(hypotenuse)と呼びます。残りの2つの辺の名称は相対的であり、問題としている角の位置に依存して変化します。下図のような角度\(\theta \)を持つ角に注目したとき、その角と直角によって挟まれる辺を底辺(adjacent)や隣辺などと呼び、残りの辺を対辺(opposite)と呼びます。
繰り返しになりますが、問題としている角の位置が変われば底辺と対辺は入れ替わります。先と同じ直角三角形において、問題としている角度\(\theta \)を持つ角が下図のように変化した場合にはどうなるでしょうか。底辺とは問題としている角と直角とに挟まれる辺として定義されるため、先ほど対辺であった辺がここでは底辺になり、先ほど底辺であった辺がここでは対辺になっています。
三角比(正弦・余弦・正接)
再び以下のような直角三角形について考えます。下図のような角度\(\theta \)を持つ角は直角とは異なる内角であるため、この角度がとり得る値の範囲は\(0<\theta <\frac{\pi }{2}\)です(度数法で表現すると\(0<\theta <90\))。
以上を踏まえた上で、角度\(\theta \)の正弦(sine)すなわちサインを、\begin{equation*}\sin \left( \theta \right) =\frac{\text{対辺の長さ}}{\text{斜辺の長さ}}
\end{equation*}と定義します。また、\(\theta \)の余弦(cosine)すなわちコサインを、\begin{equation*}\cos \left( \theta \right) =\frac{\text{底辺の長さ}}{\text{斜辺の長さ}}
\end{equation*}と定義します。さらに、\(\theta \)の正接(tangent)すなわちタンジェントを、\begin{equation*}\tan \left( \theta \right) =\frac{\text{対辺の長さ}}{\text{底辺の長さ}}
\end{equation*}と定義します。
正接に関しては、\begin{eqnarray*}
\tan \left( \theta \right) &=&\frac{\text{対辺の長さ}}{\text{底辺の長さ}}\quad \because
\text{正接の定義} \\
&=&\frac{\text{対辺の長さ}}{\text{斜辺の長さ}}/\frac{\text{底辺の長さ}}{\text{斜辺の長さ}} \\
&=&\frac{\sin \left( \theta \right) }{\cos \left( \theta \right) }\quad
\because \text{正弦および余弦の定義}
\end{eqnarray*}すなわち、\begin{equation*}
\tan \left( \theta \right) =\frac{\sin \left( \theta \right) }{\cos \left(
\theta \right) }
\end{equation*}という関係が成り立つため、正接を正弦と余弦の比として上のように定義することもできます。
三角比と動径の座標の関係
ラジアンについて簡単に復習した上で、それと三角比の関係を解説します。座標平面上に原点\(O\)を中心とする単位円を描きます。この単位円は4つの四分円(quadrant)に分割されますが、ここでは右上の第1四分円(first quadrant)に注目し、その円周上の点\(P\)を任意に選びます(下図)。ただし、\(P\)は\(x\)軸上の点や\(y\)軸上の点ではないものとします。
角とは半直線が点\(O\)を中心に始線\(OX\)から動径\(OP\)まで回転することでできる図形のことであり、角度とは動径\(OP\)の回転量に相当します。半直線が\(OX\)から\(OP\)まで回転すると単位円上の点は弧\(XP\)の長さだけ移動しますが、動径\(OP\)の回転量(角度)と弧\(XP\)の長さは1対1で対応しているため、弧\(XP\)の長さが\(\theta \)であるとき、動径\(OP\)の回転量(角度)を\(\theta \)で表現します。このように、弧\(XP\)の長さ\(\theta \)を角度を表す単位として利用するとき、\(\theta \)をラジアンと呼びます。
上図には角度が\(\theta \)ラジアンであるような角が描かれています。動径\(OP\)の端点\(P\)から\(x\)軸に対して垂直な直線を引き、その直線と\(x\)軸の交点を\(Q\)と名付けます(上図)。三角形\(OPQ\)は直角三角形であるため、問題としている角度\(\theta \)に関して三角比を考えることができます。まず、正弦については、\begin{eqnarray*}\sin \left( \theta \right) &=&\frac{\text{対辺の長さ}}{\text{斜辺の長さ}}\quad \because
\text{正弦の定義} \\
&=&\frac{PQ\text{の長さ}}{OP\text{の長さ}} \\
&=&\frac{PQ\text{の長さ}}{1}\quad \because \text{単位円の半径は}1 \\
&=&PQ\text{の長さ} \\
&=&\text{点}P\text{の}y\text{座標}
\end{eqnarray*}となり、余弦については、\begin{eqnarray*}
\cos \left( \theta \right) &=&\frac{\text{底辺の長さ}}{\text{斜辺の長さ}}\quad \because
\text{余弦の定義} \\
&=&\frac{OQ\text{の長さ}}{OP\text{の長さ}} \\
&=&\frac{OQ\text{の長さ}}{1}\quad \because \text{単位円の半径は}1 \\
&=&OQ\text{の長さ} \\
&=&\text{点}P\text{の}x\text{座標}
\end{eqnarray*}となります。また、正接については、\begin{eqnarray*}
\tan \left( \theta \right) &=&\frac{\sin \left( \theta \right) }{\cos
\left( \theta \right) }\quad \because \text{正接の定義} \\
&=&\frac{\text{点}P\text{の}y\text{座標}}{\text{点}P\text{の}x\text{座標}}
\end{eqnarray*}となります。
議論をまとめましょう。単位円上の第1四部円上にある点\(P\)を任意に選びます。半直線が点\(O\)を中心に始線\(OX\)から動径\(OP\)まで回転することでできる角の角度が\(\theta \)ラジアンであるとします。点\(P\)は第1四部円上にあるため、\(\theta \)がとり得る値の範囲は\(0<\theta <\pi \)です。このとき、\begin{eqnarray}\sin \left( \theta \right) &=&\text{点}P\text{の}y\text{座標} \quad \cdots (1) \\
\cos \left( \theta \right) &=&\text{点}P\text{の}x\text{座標} \quad \cdots (2) \\
\tan \left( \theta \right) &=&\frac{\text{点}P\text{の}y\text{座標}}{\text{点}P\text{の}x\text{座標}}
\quad \cdots (3)
\end{eqnarray}などの関係が成立することを確認しました(下図)。
単位円の第1四部円上の点の\(x\)座標と\(y\)座標がとり得る値の範囲はともに\(0\)より大きく\(1\)より小さい値であるため、\(\left( 1\right) ,\left( 2\right) \)より、\(0<\theta <\pi \)を満たすラジアン\(\theta \)について、その正弦と余弦がとり得る値の範囲は、\begin{eqnarray*}0 &<&\sin \left( \theta \right) <1 \\
0 &<&\cos \left( \theta \right) <1
\end{eqnarray*}となります。これらと\(\left( 3\right) \)より、正接がとり得る値の範囲は、\begin{equation*}0<\tan \left( \theta \right) <+\infty
\end{equation*}となります。
三角比の一般化
これまではラジアン\(\theta \)がとり得る範囲を\(0<\theta <\pi \)に限定してきました。つまり、動径\(OP\)の端点\(P\)が単位円の第1四部円上にあるようなケースに考察対象を限定した上で、それがつくる角の角度\(\theta \)について、その三角比を定義しました。しかし、本来、ラジアン\(\theta \)は任意の実数値を値としてとり得ます。つまり、動径\(OP\)は始線\(OX\)から出発して、反時計回りもしくは時計回りに自由に回転できるため、\(P\)は第1四部円内上に留まるとは限りません。ラジアン\(\theta \)が任意の実数を値としてとり得ることを認める場合、三角比をどのように定義すればよいでしょうか。
このような場合のラジアン\(\theta \)の三角比としても、先と同様の定義を採用します。具体的には、単位円上の点\(P\)を任意に選んだとき、半直線が点\(O\)を中心に始線\(OX\)から動径\(OP\)まで回転することでできる角の角度が\(\theta \)ラジアンであるものとします。\(\theta \)は任意の実数を値としてとり得ます。このとき、そのラジアン\(\theta \)の三角比を、\begin{eqnarray*}\sin \left( \theta \right) &=&\text{点}P\text{の}y\text{座標} \\
\cos \left( \theta \right) &=&\text{点}P\text{の}x\text{座標} \\
\tan \left( \theta \right) &=&\frac{\text{点}P\text{の}y\text{座標}}{\text{点}P\text{の}x\text{座標}}
\end{eqnarray*}とそれぞれ定義するということです。
以上の定義にもとづいて代表的な角度の三角比を求めます。
図より、\begin{eqnarray*}
\sin \left( \frac{\pi }{2}\right) &=&\text{点}P\text{の}y\text{座標}=1 \\
\cos \left( \frac{\pi }{2}\right) &=&\text{点}P\text{の}x\text{座標}=0
\end{eqnarray*}となります。実数を\(0\)で割ることはできないため、\begin{equation*}\tan \left( \frac{\pi }{2}\right) =\frac{\sin \left( \frac{\pi }{2}\right) }{\cos \left( \frac{\pi }{2}\right) }
\end{equation*}は定義不可能です。
図より、\begin{eqnarray*}
\sin \left( \pi \right) &=&\text{点}P\text{の}y\text{座標}=0 \\
\cos \left( \pi \right) &=&\text{点}P\text{の}x\text{座標}=-1 \\
\tan \left( \pi \right) &=&\frac{\sin \left( \pi \right) }{\cos \left( \pi
\right) }=\frac{0}{-1}=0
\end{eqnarray*}となります。
図より、\begin{eqnarray*}
\sin \left( \frac{3\pi }{2}\right) &=&\text{点}P\text{の}y\text{座標}=-1 \\
\cos \left( \frac{3\pi }{2}\right) &=&\text{点}P\text{の}x\text{座標}=0
\end{eqnarray*}となります。実数を\(0\)で割ることはできないため、\begin{equation*}\tan \left( \frac{3\pi }{2}\right) =\frac{\sin \left( \frac{3}{2}\pi \right)
}{\cos \left( \frac{3}{2}\pi \right) }
\end{equation*}は定義不可能です。
図より、\begin{eqnarray*}
\sin \left( 2\pi \right) &=&\text{点}P\text{の}y\text{座標}=0 \\
\cos \left( 2\pi \right) &=&\text{点}P\text{の}x\text{座標}=1 \\
\tan \left( 2\pi \right) &=&\frac{\sin \left( 2\pi \right) }{\cos \left(
2\pi \right) }=\frac{0}{1}=0
\end{eqnarray*}となります。
図より、\begin{eqnarray*}
\sin \left( -\frac{\pi }{2}\right) &=&\text{点}P\text{の}y\text{座標}=-1 \\
\cos \left( -\frac{\pi }{2}\right) &=&\text{点}P\text{の}x\text{座標}=0
\end{eqnarray*}となります。実数を\(0\)で割ることはできないため、\begin{equation*}\tan \left( -\frac{\pi }{2}\right) =\frac{\sin \left( -\frac{\pi }{2}\right)
}{\cos \left( -\frac{\pi }{2}\right) }
\end{equation*}は定義不可能です。
図より、\begin{eqnarray*}
\sin \left( -\pi \right) &=&\text{点}P\text{の}y\text{座標}=0 \\
\cos \left( -\pi \right) &=&\text{点}P\text{の}x\text{座標}=-1 \\
\tan \left( -\pi \right) &=&\frac{\sin \left( -\pi \right) }{\cos \left(
-\pi \right) }=\frac{0}{-1}=0
\end{eqnarray*}となります。
$$\begin{array}{ccccccccc}
\hline
\theta ラジアン & 0 & \frac{\pi }{6} & \frac{\pi }{4} & \frac{\pi }{3} & \frac{\pi }{2} & \pi & \frac{3\pi }{2}& 2\pi \\ \hline
\theta 度 & 0 & 30 & 45 & 60 & 90 & 180 & 270 & 360
\\ \hline
\sin \left( \theta \right) & 0 & \frac{1}{2} & \frac{\sqrt{2}}{2} & \frac{\sqrt{3}}{2} & 1 & 0 & -1 & 0 \\ \hline
\cos \left( \theta \right) & 1 & \frac{\sqrt{3}}{2} & \frac{\sqrt{2}}{2} & \frac{1}{2} & 0 & -1 & 0 & 1 \\ \hline
\tan \left( \theta \right) & 0 & \frac{\sqrt{3}}{3} & 1 & \sqrt{3}
& – & 0 & – & 0 \\ \hline
\end{array}$$
$$\begin{array}{ccccccccc}
\hline
\theta ラジアン & 0 & -\frac{\pi }{6} & -\frac{\pi }{4} & -\frac{\pi }{3} & -\frac{\pi }{2} & -\pi & -\frac{3\pi }{2} & -2\pi \\ \hline
\theta 度 & 0 & -30 & -45 & -60 & -90 & -180 & -270 & -360 \\ \hline
\sin \left( \theta \right) & 0 & -\frac{1}{2} & -\frac{\sqrt{2}}{2}
& -\frac{\sqrt{3}}{2} & -1 & 0 & 1 & 0 \\ \hline
\cos \left( \theta \right) & 1 & \frac{\sqrt{3}}{2} & \frac{\sqrt{2}}{2} & \frac{1}{2} & 0 & -1 & 0 & 1 \\ \hline
\tan \left( \theta \right) & 0 & -\frac{\sqrt{3}}{3} & -1 & -\sqrt{3} & – & 0 & – & 0 \\ \hline
\end{array}$$
正弦と余弦の関係
単位円上の点\(P\)を任意に選んだ上で、半直線が点\(O\)を中心に始線\(OX\)から動径\(OP\)まで回転する際にできる角の大きさを\(\theta \)で表記します(下図)。ただし、\(\theta \)の単位はラジアンであり、これは弧\(XP\)の長さと一致します。この場合、ラジアン\(\theta \)の正弦と余弦は、\begin{eqnarray*}\sin \left( \theta \right) &=&\text{点}P\text{の}y\text{座標} \\
\cos \left( \theta \right) &=&\text{点}P\text{の}x\text{座標}
\end{eqnarray*}とそれぞれ定義されます。
三角形\(OPQ\)は直角三角形であるため、三平方の定理より、\begin{equation*}\left( PQ\text{の長さ}\right) ^{2}+\left( OQ\text{の長さ}\right) ^{2}=\left( OP\text{の長さ}\right) ^{2}
\end{equation*}が成り立ちます。点\(P\)は単位円上の点であるため、\begin{equation*}OP\text{の長さ}=1
\end{equation*}です。また、\begin{eqnarray*}
PQ\text{の長さ} &=&\left\vert \text{点}P\text{の}y\text{座標}\right\vert =\left\vert \sin \left( \theta
\right) \right\vert \\
OQ\text{の長さ} &=&\left\vert \text{点}P\text{の}x\text{座標}\right\vert =\left\vert \cos \left( \theta
\right) \right\vert
\end{eqnarray*}が成り立つため、\begin{eqnarray*}
\left( PQ\text{の長さ}\right) ^{2} &=&\sin ^{2}\left(
\theta \right) \\
\left( OQ\text{の長さ}\right) ^{2} &=&\cos ^{2}\left(
\theta \right)
\end{eqnarray*}であり、したがって、\begin{equation*}
\sin ^{2}\left( \theta \right) +\cos ^{2}\left( \theta \right) =1^{2}
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\sin ^{2}\left( \theta \right) +\cos ^{2}\left( \theta \right) =1
\end{equation*}を得ます。
\end{equation*}が成り立つ。
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