右逆写像・左逆写像

与えられた写像が単射、全射、全単射であるための条件を解説します。関連して、写像の右逆写像や左逆写像などについて解説します。

逆写像を用いた全単射の判定

復習になりますが、写像\(f:A\rightarrow B\)が全単射である場合、それぞれの\(b\in B\)に対して\(b=f\left( a\right) \)を満たす\(a\in A\)が1つずつ存在するため、\(f\)による\(b\)の逆像\(f^{-1}\left( b\right) \)が常に1点集合であることが保証されます。したがって、全単射の逆写像は必ず存在します。

命題(逆写像が存在するための条件)
写像\(f:A\rightarrow B\)が全単射であるならば、逆写像\(f^{-1}:B\rightarrow A\)が存在する。
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上の命題の逆も成立します。つまり、写像\(f:A\rightarrow B\)の逆写像\(f^{-1}:B\rightarrow A\)が存在するとき、\(f\)は全単射になります。対偶を示しましょう。つまり、\(f\)が全単射でない場合には逆写像\(f^{-1}\)が存在しないという主張です。ただし、\(f\)が全単射でないことは、\(f\)が単射でないか全射でないかの少なくとも一方が成り立つことを意味します。

写像\(f\)が単射ではない場合、\(f\left( a\right) =f\left( a^{\prime }\right) \)かつ\(a\not=a^{\prime }\)を満たす定義域の要素\(a,a^{\prime }\)が存在します。\(b=f\left( a\right) =f\left( a^{\prime }\right) \in B\)とおくと、逆写像\(f^{-1}\)が存在するならば、この\(b\)に対して\(b=f\left( a\right) \)を満たす\(A\)の要素\(a\)が1つだけ存在しますが、これは\(a\not=a^{\prime }\)と矛盾です。したがって逆写像\(f^{-1}\)は存在しません。

写像\(f\)が全射ではない場合、終集合のある要素\(b\in B\)に対して、始集合の任意の要素\(a\in A\)は\(b\not=f\left( a\right) \)を満たします。逆写像\(f^{-1}\)が存在するならば、この\(b\)に対して\(b=f\left( a\right) \)を満たす\(A\)の要素\(a\)が1つだけ存在しますが、これは矛盾です。したがって逆写像\(f^{-1}\)は存在しません。以上で証明が完了しました。

命題(全単射であるための条件)
写像\(f:A\rightarrow B\)の逆写像\(f^{-1}:B\rightarrow A\)が存在するならば、\(f\)は全単射である。
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以上の2つの命題より、写像が逆写像を持つことと、その写像が全単射であることが必要十分であることが明らかになりました。

命題(全単射と逆写像)

写像\(f:A\rightarrow B\)が全単射であることは、逆写像\(f^{-1}:B\rightarrow A\)が存在するための必要十分条件である。

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例(全単射と逆写像)
関数\(f:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R}\)はそれぞれの\(x\in \mathbb{R}\)に対して、\begin{equation*}
f\left( x\right) =x^{2}
\end{equation*}を像として定めるものとします。定義域の異なる要素\(1,-1\)について、\begin{equation*}
f\left( 1\right) =f\left( -1\right) =1
\end{equation*}となるため、\(f\)は単射ではなく、ゆえに全単射でもありません。したがって、上の命題より逆写像\(f^{-1}:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R}\)は存在しません。実際、\(f\)による終集合の要素\(1\)の逆像は、\begin{eqnarray*}
f^{-1}\left( 1\right) &=&\left\{ x\in \mathbb{R}\ |\ f\left( x\right) =1\right\} \quad \because f^{-1}\left( 1\right) \text{の定義} \\
&=&\left\{ x\in \mathbb{R}\ |\ x^{2}=1\right\} \quad \because f\text{の定義} \\
&=&\{1,-1\}
\end{eqnarray*}ですが、これは1点集合ではないため逆写像\(f^{-1}\)は存在しません。
例(全単射と逆写像)
上の例において\(f\)の定義域を\(\mathbb{R} \)から\(\mathbb{R} _{+}\)へと縮小して\(f:\mathbb{R} _{+}\rightarrow \mathbb{R}\)とすると、この新たな\(f\)は全単射になります(確認してください)。ただし、\(\mathbb{R} _{+}\)はすべての非負の実数からなる集合です。すると、上の命題より逆写像\(f^{-1}:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R}_{+}\)が存在するはずです。実際、\(f\)による終集合の任意の要素\(y\in \mathbb{R}\)の逆像は、\begin{eqnarray*}
f^{-1}\left( y\right) &=&\left\{ x\in \mathbb{R}_{+}\ |\ f\left( x\right) =y\right\} \quad \because f^{-1}\left( 1\right)
\text{の定義} \\
&=&\left\{ x\in \mathbb{R}_{+}\ |\ x^{2}=y\right\} \quad \because f\text{の定義} \\
&=&\{\sqrt{y}\}
\end{eqnarray*}ですが、これは1点集合であるため、それぞれの\(y\in \mathbb{R}\)に対して、\begin{equation*}
f^{-1}\left( y\right) =\sqrt{y}
\end{equation*}を像として定める逆写像\(f^{-1}:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R}_{+}\)が存在します。

 

合成写像を用いた単射・全射・全単射の判定

集合\(A,B,C\)について、写像\(f,g\)の定義域と終集合がそれぞれ、\begin{eqnarray*}
f &:&A\rightarrow B \\
g &:&B\rightarrow C
\end{eqnarray*}で与えられているとき、これらの合成写像\begin{equation*}
g\circ f:A\rightarrow C
\end{equation*}が定義可能です。この合成写像\(g\circ f\)が単射であるとき、\(f\)もまた単射になります。実際、任意の\(a,a^{\prime }\in A\)について、\begin{eqnarray*}
f\left( a\right) =f\left( a^{\prime }\right) &\Rightarrow &g\left( f\left(
a\right) \right) =g\left( f\left( a^{\prime }\right) \right) \quad \because g\text{は写像} \\
&\Leftrightarrow &\left( g\circ f\right) \left( a\right) =\left( g\circ
f\right) \left( a^{\prime }\right) \quad \because g\circ f\text{の定義} \\
&\Rightarrow &a=a^{\prime }\quad \because g\circ f\text{は単射}
\end{eqnarray*}となるため、\(f\)が単射であることが示されました。

合成写像\(g\circ f\)が全射ならば\(g\)もまた全射になることもまた示されます(演習問題にします)。したがって、合成写像\(g\circ f\)が全単射である場合、\(f\)は単射であるとともに\(g\)は全射になります。

命題(合成写像が単射・全射・全単射である場合)
2つの写像\(f:A\rightarrow B\)と\(g:B\rightarrow C\)がそれぞれ任意に与えられたとき、これらと合成写像\(g\circ f:A\rightarrow C\)の間には以下が成り立つ。\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ g\circ f\text{が単射ならば}f\text{は単射である} \\
&&\left( b\right) \ g\circ f\text{が全射ならば}g\text{は全射である} \\
&&\left( c\right) \ g\circ f\text{が全単射ならば}f\text{は単射で}g\text{は全射である}
\end{eqnarray*}
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恒等写像は全単射であることから、合成写像が恒等写像である場合、上の命題より以下が成り立ちます。

命題(合成写像が恒等写像である場合)
写像である\(f:A\rightarrow B\)と\(g:B\rightarrow A\)がそれぞれ任意に与えられたとき、\begin{equation*}
g\circ f=I_{A}
\end{equation*}が成り立つ場合には、\(f\)は単射で\(g\)は全射である。ただし、\(I_{A}\)は恒等写像であり、\begin{equation*}
\forall a\in A:I_{A}\left( a\right) =a
\end{equation*}を満たすものとして定義される。
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合成写像\(g\circ f\)が単射・全射・全単射である場合に、構成要素である写像\(f,g\)が単射や全射になることを確認しましたが、逆に、写像\(f,g\)が単射・全射・全単射である場合、それらの合成写像\(g\circ f\)に関して何らかのことを言えるのでしょうか。

2つの写像\(f:A\rightarrow B\)と\(g:B\rightarrow C\)がともに単射であるものとします。このとき、任意の要素\(a,a^{\prime }\in A\)に対して、\begin{eqnarray*}
\left( g\circ f\right) \left( a\right) =\left( g\circ f\right) \left(
a^{\prime }\right) &\Leftrightarrow &g\left( f\left( a\right) \right)
=g\left( f\left( a^{\prime }\right) \right) \quad \because g\circ f\text{の定義} \\
&\Rightarrow &f\left( a\right) =f\left( a^{\prime }\right) \quad \because g\text{は単射} \\
&\Rightarrow &a=a^{\prime }\quad \because f\text{は単射}
\end{eqnarray*}となるため、合成写像\(g\circ f:A\rightarrow C\)もまた単射になります。

写像\(f,g\)がともに全射ならば合成写像\(g\circ f\)もまた全射になることもまた示されます(演習問題にします)。したがって、写像\(f,g\)がともに全単射である場合、合成写像\(g\circ f\)もまた全単射になります。

命題(単射・全射・全単射どうしの合成写像)
2つの写像\(f:A\rightarrow B\)と\(g:B\rightarrow C\)がそれぞれ任意に与えられたとき、これらと合成写像\(g\circ f:A\rightarrow C\)の間には以下が成り立つ。\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ f,g\text{がともに単射ならば}g\circ f\text{も単射である} \\
&&\left( b\right) \ f,g\text{がともに全射ならば}g\circ f\text{も全射である} \\
&&\left( c\right) \ f,g\text{がともに全単射ならば}g\circ f\text{も全単射である}
\end{eqnarray*}
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2つの写像\(f:A\rightarrow B\)と\(g:B\rightarrow C\)がともに全単射であるとき、上の命題より、合成写像\(g\circ f:A\rightarrow C\)もまた全単射です。写像が全単射であることと、その写像が逆写像を持つことは必要十分であるため、\begin{eqnarray*}
f^{-1} &:&B\rightarrow A \\
g^{-1} &:&C\rightarrow B \\
\left( g\circ f\right) ^{-1} &:&C\rightarrow A
\end{eqnarray*}などが存在します。\(g^{-1}\)の終集合と\(f^{-1}\)の始集合はともに\(b\)であるため、合成写像\begin{equation*}
f^{-1}\circ g^{-1}:C\rightarrow A
\end{equation*}を作ることができます。\(\left( g\circ f\right) ^{-1}\)と\(f^{-1}\circ g^{-1}\)はともに\(C\)から\(A\)への写像ですが、実は、両者は一致します(演習問題にします)。つまり、合成写像の逆写像は逆写像の合成と等しいということです。

命題(合成写像の逆写像)
2つの写像\(f:A\rightarrow B\)と\(g:B\rightarrow C\)がそれぞれ任意に与えられたとき、これらがともに全単射ならば、\begin{equation*}
\left( g\circ f\right) ^{-1}=f^{-1}\circ g^{-1}
\end{equation*}が成り立つ。
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左逆写像を用いた単射の判定

写像\(f:A\rightarrow B\)を任意に選ぶとともに、恒等写像\(I_{A}:A\rightarrow A\)を導入します。ただし、\(I_{A}\)が恒等写像であることとは、\begin{equation*}
\forall a\in A:I_{A}\left( a\right) =a
\end{equation*}が成り立つことを意味します。このとき、\begin{equation*}
g\circ f=I_{A}
\end{equation*}を満たす写像\(g:B\rightarrow A\)が存在する場合には、\(g\)を\(f\)の左逆写像(left inverse mapping of \(f\))と呼びます。

例(左逆写像)
写像\(f:A\rightarrow B\)が全単射である場合、逆写像\(f^{-1}:B\rightarrow A\)が存在して、任意の順序対\(\left( a,b\right) \in A\times B\)について、\begin{equation}
b=f\left( a\right) \Leftrightarrow a=f^{-1}\left( b\right) \tag{1}
\end{equation}という関係が成り立ちます。したがって、任意の\(a\in A\)について、\begin{eqnarray*}
\left( f^{-1}\circ f\right) \left( a\right) &=&f^{-1}\left( f\left(
a\right) \right) \quad \because f^{-1}\circ f\text{の定義}
\\
&=&f^{-1}\left( b\right) \quad \because b=f\left( a\right) \text{とおいた} \\
&=&a\quad \because b=f\left( a\right) \text{と}\left( 1\right)
\end{eqnarray*}となるため、\begin{equation*}
f^{-1}\circ f=I_{A}
\end{equation*}であることが示されました。つまり、全単射\(f\)の逆写像\(f^{-1}\)は\(f\)の左逆写像です。

全単射は左逆写像を持つことが明らかになりましたが、全単射とは限らない写像は左逆写像を持つとは限りません。ただ、単射は左逆写像を持つことを示すことはできます(演習問題にします)。

命題(左逆写像が存在するための条件)
写像\(f:A\rightarrow B\)が単射であるならば、その左逆写像\(g:B\rightarrow A\)が存在する。
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上の命題の逆も成立します。つまり、左逆写像を持つ写像は単射であることが保証されます。実際、写像\(f:A\rightarrow B\)が左逆写像\(g:B\rightarrow A\)を持つ場合、定義より、\begin{equation*}
g\circ f=I_{A}
\end{equation*}が成り立ちますが、恒等写像\(I_{A}\)は単射であるため、それと等しい合成写像\(g\circ f\)もまた単射です。先に示したように、\(g\circ f\)が単射である場合には\(f\)もまた単射になるため、証明が完了しました。

命題(単射であるための条件)
写像\(f:A\rightarrow B\)に対してその左逆写像\(g:B\rightarrow A\)が存在するならば、\(f\)は単射である。
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以上の2つの命題より、写像が左逆写像を持つことと、その写像が単射であることが必要十分であることが明らかになりました。

命題(単射と左逆写像)

写像\(f:A\rightarrow B\)が単射であることは、\(f\)の左逆写像\(g:B\rightarrow A\)が存在するための必要十分条件である。

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例(単射と左逆写像)
集合\(A=\left\{ 1,2,3\right\} \)と集合\(B=\left\{ a,b,c\right\} \)に対して、\(f:A\rightarrow B\)を以下の図で定義します。図では\(1\)と\(3\)の両方から\(b\)へ矢印が伸びています。つまり、\(f\left( 1\right) =f\left( 3\right) =b\)であるため、この\(f\)は単射ではありません。したがって、上の命題より、\(f\)の左逆写像\(g:B\rightarrow A\)は存在しないはずです。
図:単射ではない
図:単射ではない

実際、写像\(g:B\rightarrow A\)を任意に選んだとき、写像の定義より、\(g\)が\(B\)の要素\(b\)に対して定める像\(g\left( a\right) \)は\(A\)の1つの要素になりますが、このとき、\begin{eqnarray*}
\left( g\circ f\right) \left( 1\right) &=&g\left( f\left( 1\right) \right)
=g\left( a\right) \\
\left( g\circ f\right) \left( 3\right) &=&g\left( f\left( 3\right) \right)
=g\left( a\right)
\end{eqnarray*}すなわち、\begin{equation*}
\left( g\circ f\right) \left( 1\right) =\left( g\circ f\right) \left(
3\right)
\end{equation*}が成り立ちます。\(1\not=3\)であるため、上の等式は\(g\circ f\)が恒等写像ではないことを意味します。したがって、\(g\)は\(f\)の左逆写像ではありません。

例(単射と左逆写像)
写像\(f:\mathbb{N} \rightarrow \mathbb{N} \)はそれぞれの\(x\in \mathbb{N} \)に対して、\begin{equation*}
f\left( x\right) =2x
\end{equation*}を像として定めるものとします。この写像\(f\)は単射であるため(確認してください)、上の命題より\(f\)の左逆写像\(g:\mathbb{N} \rightarrow \mathbb{N} \)が存在するはずです。写像\(f\)の値域は、\begin{eqnarray*}
R\left( f\right) &=&\left\{ f\left( x\right) \in
\mathbb{N} \ |\ x\in
\mathbb{N} \right\} \quad \because R\left( f\right) \text{の定義} \\
&=&\left\{ 2x\in
\mathbb{N} \ |\ x\in
\mathbb{N} \right\} \quad \because f\text{の定義} \\
&=&E_{++}
\end{eqnarray*}です。ただし、\(E_{++}\)はすべての正の偶数からなる集合です。\(f\)は単射であるため、\(f\)の終集合を\(\mathbb{N} \)から\(R\left( f\right) \)すなわち\(E_{++}\)に縮小して得られる\(f:\mathbb{N} \rightarrow E_{++}\)は全単射であるため、その逆写像\(f^{-1}:E_{++}\rightarrow \mathbb{N} \)が存在します。以上を踏まえた上で、適当な自然数\(x_{0}\in \mathbb{N} \)を選んだ上で、写像を\(g:\mathbb{N} \rightarrow \mathbb{N} \)を、\begin{equation*}
g\left( y\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
f^{-1}\left( y\right) & \left( if\ y\in E_{++}\right) \\
x_{0} & \left( if\ y\not\in E_{++}\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}と定義すると、任意の\(x\in \mathbb{N} \)に対して、\begin{eqnarray*}
\left( g\circ f\right) \left( x\right) &=&g\left( f\left( x\right) \right)
\quad \because g\circ f\text{の定義} \\
&=&f^{-1}\left( f\left( x\right) \right) \quad \because f\left( x\right) \in
E_{++} \\
&=&x
\end{eqnarray*}となるため、\(g\circ f=I_{\mathbb{N} }\)であること、すなわち\(g\)が\(f\)の左逆写像であることが示されました。

 

右逆写像を用いた全射の判定

写像\(f:A\rightarrow B\)を任意に選ぶとともに、恒等写像\(I_{B}:B\rightarrow B\)を導入します。ただし、\(I_{B}\)が恒等写像であることとは、\begin{equation*}
\forall b\in B:I_{B}\left( b\right) =b
\end{equation*}が成り立つことを意味します。このとき、\begin{equation*}
f\circ g=I_{B}
\end{equation*}を満たす写像\(g:B\rightarrow A\)が存在する場合には、\(g\)を\(f\)の右逆写像(right inverse mapping of \(f\))と呼びます。

例(右逆写像)
写像\(f:A\rightarrow B\)が全単射である場合、逆写像\(f^{-1}:B\rightarrow A\)が存在して、任意の順序対\(\left( a,b\right) \in A\times B\)について、\begin{equation}
b=f\left( a\right) \Leftrightarrow a=f^{-1}\left( b\right) \tag{1}
\end{equation}という関係が成り立ちます。したがって、任意の\(b\in B\)について、\begin{eqnarray*}
\left( f\circ f^{-1}\right) \left( b\right) &=&f\left( f^{-1}\left(
a\right) \right) \quad \because f\circ f^{-1}\text{の定義}
\\
&=&f\left( b\right) \quad \because a=f^{-1}\left( b\right) \text{とおいた} \\
&=&b\quad \because a=f^{-1}\left( b\right) \text{と}\left( 1\right)
\end{eqnarray*}となるため、\begin{equation*}
f\circ f^{-1}=I_{B}
\end{equation*}であることが示されました。つまり、全単射\(f\)の逆写像\(f^{-1}\)は\(f\)の右逆写像です。

全単射は右逆写像を持つことが明らかになりましたが、全単射とは限らない写像は右逆写像を持つとは限りません。ただ、選択公理を認める場合、全射は右逆写像を持つことを示すことはできます。実際、写像\(f:A\rightarrow B\)が全射であるとき、終集合のそれぞれの要素\(b\in B\)に対して\(y=f\left( a\right) \)を満たす定義域の要素\(a\in A\)が1つずつ存在するため、\(f\)による\(b\)の逆像\(f^{-1}\left( b\right) \)は非空な\(A\)の部分集合です。そのため、\begin{equation*}
\left\{ f^{-1}\left( b\right) \right\} _{b\in B}
\end{equation*}という\(A\)の部分集合族は非空の集合から構成されます。この集合族の要素である個々の集合\(f^{-1}\left( b\right) \)は非空ですが、集合\(B\)が無限集合である場合、それぞれの非空集合\(f^{-1}\left( b\right) \ \left( b\in B\right) \)から要素を1つずつ選び出そうとしても、対象とする集合\(f^{-1}\left( b\right) \)の個数は無限なので、最終的にすべての集合から要素を1つずつ選ぶことができるかどうかは必ずしも明らかではありません。選択公理を認める場合、それぞれの\(b\in B\)に関して、非空の集合\(f^{-1}\left( b\right) \subset A\)から要素を1つずつ選べることが保証されるため、\begin{equation*}
g\left( b\right) \subset f^{-1}\left( b\right)
\end{equation*}を満たす写像\(g:B\rightarrow A\)の存在が保証されます。この\(g\)は\(f\)の右逆写像です(演習問題にします)。

命題(右逆写像が存在するための条件)
選択公理を認める場合、写像\(f:A\rightarrow B\)が全射であるならば、その右逆写像\(g:B\rightarrow A\)が存在する。
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繰り返しになりますが、単射には左逆写像が存在することを示す際には選択公理は必要ありませんが、全射には右逆写像が存在することを示す際には選択公理が必要です。

上の命題の逆もまた成立します。つまり、右逆写像を持つ写像は全射であることが保証されます。この証明には選択公理は必要ありません。実際、写像\(f:A\rightarrow B\)が右逆写像\(g:B\rightarrow A\)を持つ場合、定義より、\begin{equation*}
f\circ g=I_{B}
\end{equation*}が成り立ちますが、恒等写像\(I_{B}\)は全射であるため、それと等しい合成写像\(f\circ g\)もまた全射です。先に示したように、\(f\circ g\)が全射である場合には\(f\)もまた全射になるため、証明が完了しました。

命題(全射であるための条件)
写像\(f:A\rightarrow B\)に対してその右逆写像\(g:B\rightarrow A\)が存在するならば、\(f\)は全射である。
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以上の2つの命題より、写像が右逆写像を持つことと、その写像が全射であることが必要十分であることが明らかになりました。

命題(全射と右逆写像)
選択公理を認める場合、写像\(f:A\rightarrow B\)が全射であることは、\(f\)の右逆写像\(g:B\rightarrow A\)が存在するための必要十分条件である。
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例(全射と右逆写像)
集合\(A=\left\{ 1,2,3\right\} \)と集合\(B=\left\{ a,b,c\right\} \)に対して、\(f:A\rightarrow B\)を以下の図で定義します。図では\(c\)へ伸びている矢印が存在しないため、この\(f\)は全射ではありません。したがって、上の命題より、\(f\)の右逆写像\(g:B\rightarrow A\)は存在しないはずです。
図:全射ではない
図:全射ではない

実際、写像\(g:B\rightarrow A\)を任意に選んだとき、写像の定義より、\(g\)が\(B\)の要素\(c\)に対して定める像\(g\left( c\right) \)は\(A\)の要素である\(1,2,3\)の中のどれか1つですが、いずれの場合においても\(\left( f\circ g\right) \left( c\right) \)は\(a\)と\(b\)のどちらか一方になるため、\(f\circ g\)は恒等写像ではありません。したがって、\(g\)は\(f\)の右逆写像ではありません。

例(全射と右逆写像)
写像\(f:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R}\)はそれぞれの\(x\in \mathbb{R}\)に対して、\begin{equation*}
f\left( x\right) =x
\end{equation*}を像として定めるものとします。この写像\(f\)は全射であるため(確認してください)、上の命題より\(f\)の右逆写像が存在するはずです。実際、それぞれの\(y\in \mathbb{R}\)に対して、\begin{equation*}
g\left( y\right) =y
\end{equation*}を像として定めるような写像\(g:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R}\)をとれば、任意の\(y\in \mathbb{R}\)に対して、\begin{eqnarray*}
\left( f\circ g\right) \left( y\right) &=&f\left( g\left( y\right) \right)
\quad \because f\circ g\text{の定義} \\
&=&g\left( y\right) \quad \because f\text{の定義} \\
&=&y\quad \because g\text{の定義}
\end{eqnarray*}となるため、\(f\circ g=I_{\mathbb{R} }\)であること、すなわち\(g\)が\(f\)の右逆写像であることが示されました。

次回は単射や全射、全単射などが存在するための条件(シュレーダー=ベルンシュタインの定理を中心に)について解説します。

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