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1対1のマッチング問題

DAメカニズムのもとでの男女の利害の対立

目次

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最適安定マッチングに関する観察結果

1対1のマッチング問題私的価値モデルにおいて、任意のエージェントの選好が完備性、推移性、狭義選好の仮定を満たす場合、男性求婚型DAメカニズムは男性最適安定メカニズムである一方で、女性求婚型DAメカニズムは女性最適安定メカニズムであることが明らかになりました。つまり、任意の男性にとって、男性求婚型DAメカニズムが定めるマッチングのもとで自身とマッチする相手は、何らかの安定マッチングのもとで自身がマッチし得るすべての相手以上に望ましく、逆に、任意の女性にとって、女性求婚型DAメカニズムが定めるマッチングのもとで自身とマッチする相手は、何らかの安定マッチングのもとで自身がマッチし得るすべての相手以上に望ましいということです。

では、男性求婚型DAメカニズムが定めるマッチングのもとでそれぞれの女性はどのような結果に直面し、逆に、女性求婚型DAメカニズムが定めるマッチングのもとでそれぞれの男性はどのような結果に直面するのでしょうか。まずは具体例を提示し、後に結論を一般化します。

例(複数の安定マッチング)
1対1のマッチング問題の私的価値モデルにおいて、エージェント集合が、\begin{eqnarray*}
M &=&\left\{ m_{1},m_{2},m_{3},m_{4},m_{5}\right\} \\
W &=&\left\{ w_{1},w_{2},w_{3},w_{4},w_{5}\right\}
\end{eqnarray*}であるとともに、任意のエージェント\(i\in M\cup W\)の選好関係\(\succsim _{i}\)は完備性と推移性に加えて狭義選好の仮定を満たすものとします。エージェントたちの選好プロファイル\(\succsim _{M\cup W}\)が以下の表によって与えられているものとします。

$$\begin{array}{ccccccc}\hline
エージェント\diagdown 順位 & 1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 \\ \hline
m_{1} & w_{1} & w_{2} & w_{3} & w_{4} & w_{5} & m_{1} \\ \hline
m_{2} & w_{2} & w_{3} & w_{4} & w_{5} & w_{1} & m_{2} \\ \hline
m_{3} & w_{3} & w_{4} & w_{5} & w_{1} & w_{2} & m_{3} \\ \hline
m_{4} & w_{4} & w_{5} & w_{1} & w_{2} & w_{3} & m_{4} \\ \hline
m_{5} & w_{5} & w_{1} & w_{2} & w_{3} & w_{4} & m_{5} \\ \hline
w_{1} & m_{2} & m_{3} & m_{4} & m_{5} & m_{1} & w_{1} \\ \hline
w_{2} & m_{3} & m_{4} & m_{5} & m_{1} & m_{2} & w_{2} \\ \hline
w_{3} & m_{4} & m_{5} & m_{1} & m_{2} & m_{3} & w_{3} \\ \hline
w_{4} & m_{5} & m_{1} & m_{2} & m_{3} & m_{4} & w_{4} \\ \hline
w_{5} & m_{1} & m_{2} & m_{3} & m_{4} & m_{5} & w_{5} \\ \hline
\end{array}$$

表:エージェントの選好

以上の選好プロファイル\(\succsim _{M\cup W}\)に対して男性求婚型DAメカニズム\(\phi ^{M}\)が定めるマッチングは、\begin{equation*}\phi ^{M}\left( \succsim _{M\cup W}\right) =\begin{pmatrix}
m_{1} & m_{2} & m_{3} & m_{4} & m_{5} \\
w_{1} & w_{2} & w_{3} & w_{4} & w_{5}\end{pmatrix}\end{equation*}であり、同じ選好プロファイル\(\succsim _{M\cup W}\)に対して女性求婚型DAメカニズム\(\phi ^{W}\)が定めるマッチングは、\begin{equation*}\phi ^{W}\left( \succsim _{M\cup W}\right) =\begin{pmatrix}
m_{1} & m_{2} & m_{3} & m_{4} & m_{5} \\
w_{5} & w_{1} & w_{2} & w_{3} & w_{4}\end{pmatrix}\end{equation*}となります。その他にも、\(\succsim _{M\cup W}\)のもとでの安定マッチングとしては、\begin{eqnarray*}\mu _{1} &=&\begin{pmatrix}
m_{1} & m_{2} & m_{3} & m_{4} & m_{5} \\
w_{2} & w_{3} & w_{4} & w_{5} & w_{1}\end{pmatrix}
\\
\mu _{2} &=&\begin{pmatrix}
m_{1} & m_{2} & m_{3} & m_{4} & m_{5} \\
w_{3} & w_{4} & w_{5} & w_{1} & w_{2}\end{pmatrix}
\\
\mu _{3} &=&\begin{pmatrix}
m_{1} & m_{2} & m_{3} & m_{4} & m_{5} \\
w_{4} & w_{5} & w_{1} & w_{2} & w_{3}\end{pmatrix}\end{eqnarray*}が存在します(確認してください)。男性求婚型DAメカニズム\(\phi ^{M}\)は男性最適安定メカニズムであるため、任意の男性\(m\in M\)にとって、以上の5つの安定マッチングにおいてマッチする相手の中でも男性求婚型DAメカニズムのもとでマッチする\(\phi _{m}^{M}\left( \succsim _{M\cup W}\right) \)が最も望ましい相手であるはずです。実際、任意の男性\(m\in M\)について、\begin{equation*}\phi _{m}^{M}\left( \succsim _{M\cup W}\right) \succ _{m}\mu _{1}\left(
m\right) \succ _{m}\mu _{2}\left( m\right) \succ _{m}\mu _{3}\left( m\right)
\succ _{m}\phi _{m}^{W}\left( \succsim _{M\cup W}\right)
\end{equation*}という関係が成立しています。ここで注目すべきは、任意の男性\(m\in M\)について、以上の5つの安定マッチングにおいてマッチする相手の中でも女性求婚型DAメカニズムのもとでマッチする相手\(\phi _{m}^{W}\left( \succsim _{M\cup W}\right) \)が最も望ましくないということです。後に示すように、これは一般的に成り立つ現象です。逆に、女性求婚型DAメカニズム\(\phi ^{W}\)は女性最適安定メカニズムであるため、任意の女性\(w\in W\)にとって、以上の5つの安定マッチングにおいてマッチする相手の中でも女性求婚型DAメカニズムのもとでマッチする\(\phi _{w}^{W}\left( \succsim _{M\cup W}\right) \)が最も望ましい相手であるはずです。実際、任意の女性\(w\in W\)について、\begin{equation*}\phi _{w}^{W}\left( \succsim _{M\cup W}\right) \succ _{w}\mu _{3}\left(
w\right) \succ _{w}\mu _{2}\left( w\right) \succ _{w}\mu _{1}\left( w\right)
\succ _{w}\phi _{w}^{M}\left( \succsim _{M\cup W}\right)
\end{equation*}という関係が成立しています。ここで注目すべきは、任意の女性\(w\in M\)について、以上の5つの安定マッチングにおいてマッチする相手の中でも男性求婚型DAメカニズムのもとでマッチする相手\(\phi _{w}^{M}\left( \succsim _{M\cup W}\right) \)が最も望ましくないということです。後に示すように、これもまた一般的に成り立つ現象です。

すべての男性にとって、女性求婚型DAメカニズムが定める安定マッチングは安定マッチングの中でも最も望ましくない安定マッチングであり、逆に、すべての女性にとって、男性求婚型DAメカニズムが定める安定マッチングは安定マッチングの中でも最も望ましくない安定マッチングであるという現象は、上の例に限らず、一般的に成立します。以下で順番に示します。

 

DAアルゴリズムのもとでの男女の利害の対立

引き続き、1対1のマッチング問題の私的価値モデルにおいて、任意のエージェントの選好が完備性、推移性、および狭義選好の仮定を満たすものとします。選好プロファイル\(\succsim _{M\cup W}\in \mathcal{R}_{M\cup W}\)を任意に選んだ上で、\(\succsim _{M\cup W}\)のもとで安定的であるようなマッチングをすべて集めてできる集合を、\begin{equation*}S\left( \succsim _{M\cup W}\right) \subset \mathcal{M}
\end{equation*}で表記します。選好プロファイル\(\succsim _{M\cup W}\)に対して男性求婚型DAメカニズム\(\phi ^{M}\)を適用すれば1つのマッチング\(\phi ^{M}\left( \succsim _{M\cup W}\right) \)が必ず得られるとともに、\(\phi ^{M}\)の安定性より、\(\phi ^{M}\left(\succsim _{M\cup W}\right) \)が\(\succsim _{M\cup W}\)のもとで安定的なマッチングであることが保証されます。女性求婚型DAメカニズム\(\phi ^{W}\)についても同様です。したがって、\begin{equation*}\forall \succsim _{M\cup W}\in \mathcal{R}_{M\cup W}:S\left( \succsim
_{M\cup W}\right) \not=\phi
\end{equation*}が成り立つこと、すなわち安定マッチングが常に存在することが保証されます。

選好プロファイル\(\succsim_{M\cup W}\in \mathcal{R}_{M\cup W}\)を任意に選んだ上で、2つの安定マッチング\(\mu ,\mu ^{\prime }\in S\left(\succsim _{M\cup W}\right) \)を任意に選びます。さらに、すべての男性からなる提携\(M\)にとって\(\mu \)は\(\mu ^{\prime }\)を広義にパレート支配するものとします。つまり、\begin{eqnarray*}&&\left( a_{1}\right) \ \forall m\in M:\mu \left( m\right) \succsim _{m}\mu
^{\prime }\left( m\right) \\
&&\left( b_{1}\right) \ \exists m\in M:\mu \left( m\right) \succ _{m}\mu
^{\prime }\left( m\right)
\end{eqnarray*}がともに成り立つということです。このとき、逆に、すべての女性からなる提携\(W\)にとって\(\mu ^{\prime }\)は\(\mu \)を広義にパレート支配することが保証されます。つまり、\begin{eqnarray*}&&\left( a_{2}\right) \ \forall w\in W:\mu ^{\prime }\left( w\right)
\succsim _{w}\mu \left( w\right) \\
&&\left( b_{2}\right) \ \exists w\in W:\mu ^{\prime }\left( w\right) \succ
_{w}\mu \left( w\right)
\end{eqnarray*}がともに成り立つということです。逆の関係もまた成立するため以下を得ます。

命題(安定マッチングにおける男女の利害の対立)
1対1のマッチング問題の私的価値モデルにおいて、任意のエージェントの選好が完備性、推移性、狭義選好の仮定を満たすものとする。選好プロファイル\(\succsim _{M\cup W}\in \mathcal{R}_{M\cup W}\)を任意に選んだ上で、2つの安定マッチング\(\mu ,\mu ^{\prime }\in S\left( \succsim _{M\cup W}\right) \)を任意に選ぶ。このとき、\(\succsim _{M\cup W}\)のもとで、提携\(M\)にとって\(\mu \)が\(\mu ^{\prime }\)を広義にパレート支配することと、提携\(W\)にとって\(\mu ^{\prime }\)が\(\mu \)を広義にパレート支配することは必要十分である。
証明

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繰り返しになりますが、男性求婚型DAメカニズム\(\phi ^{M}\)は男性最適安定メカニズムであり、女性求婚型DAメカニズム\(\phi ^{W}\)は女性最適安定メカニズムであるため、選好プロファイル\(\succsim _{M\cup W}\in \mathcal{R}_{M\cup W}\)を任意に選んだとき、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall m\in M,\ \forall \mu \in S\left( \succsim
_{M\cup W}\right) :\phi _{m}^{M}\left( \succsim _{M\cup W}\right) \succsim
_{m}\mu \left( m\right) \\
&&\left( b\right) \ \forall w\in W,\ \forall \mu \in S\left( \succsim
_{M\cup W}\right) :\phi _{w}^{W}\left( \succsim _{M\cup W}\right) \succsim
_{w}\mu \left( w\right)
\end{eqnarray*}がともに成り立ちます。つまり、すべての男性にとって、男性求婚型DAメカニズムが定める安定マッチングは安定マッチングの中でも最も望ましい安定マッチングであり、逆に、すべての女性にとって、女性求婚型DAメカニズムが定める安定マッチングは安定マッチングの中でも最も望ましい安定マッチングであるということです。加えて、先の命題を踏まえると、上の関係とは逆に、\begin{eqnarray*}
&&\left( c\right) \ \forall m\in M,\ \forall \mu \in S\left( \succsim
_{M\cup W}\right) :\mu \left( m\right) \succsim _{m}\phi _{m}^{W}\left(
\succsim _{M\cup W}\right) \\
&&\left( d\right) \ \forall w\in W,\ \forall \mu \in S\left( \succsim
_{M\cup W}\right) :\mu \left( w\right) \succsim _{w}\phi _{w}^{M}\left(
\succsim _{M\cup W}\right)
\end{eqnarray*}がともに成り立つことを示すことができます。つまり、すべての男性にとって、女性求婚型DAメカニズムが定める安定マッチングは安定マッチングの中でも最も望ましくない安定マッチングであり、逆に、すべての女性にとって、男性求婚型DAメカニズムが定める安定マッチングは安定マッチングの中でも最も望ましくない安定マッチングであるということです。

命題(DAメカニズムのもとでの男女の利害の対立)
1対1のマッチング問題の私的価値モデルにおいて、任意のエージェントの選好が完備性、推移性、狭義選好の仮定を満たすものとする。選好プロファイル\(\succsim _{M\cup W}\in \mathcal{R}_{M\cup W}\)を任意に選んだとき、男性求婚型DAメカニズム\(\phi ^{M}\)と女性求婚型DAメカニズム\(\phi ^{W}\)はそれぞれ、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall m\in M,\ \forall \mu \in S\left( \succsim
_{M\cup W}\right) :\mu \left( m\right) \succsim _{m}\phi _{m}^{W}\left(
\succsim _{M\cup W}\right) \\
&&\left( b\right) \ \forall w\in W,\ \forall \mu \in S\left( \succsim
_{M\cup W}\right) :\mu \left( w\right) \succsim _{w}\phi _{w}^{M}\left(
\succsim _{M\cup W}\right)
\end{eqnarray*}を満たす。

証明

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これまでの議論を総合すると以下を得ます。

命題(DAメカニズムのもとでの男女の利害の対立)
1対1のマッチング問題の私的価値モデルにおいて、任意のエージェントの選好が完備性、推移性、狭義選好の仮定を満たすものとする。選好プロファイル\(\succsim _{M\cup W}\in \mathcal{R}_{M\cup W}\)を任意に選んだとき、男性求婚型DAメカニズム\(\phi ^{M}\)と女性求婚型DAメカニズム\(\phi ^{W}\)はそれぞれ、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall m\in M,\ \forall \mu \in S\left( \succsim
_{M\cup W}\right) :\phi _{m}^{M}\left( \succsim _{M\cup W}\right) \succsim
_{m}\mu \left( m\right) \succsim _{m}\phi _{m}^{W}\left( \succsim _{M\cup
W}\right) \\
&&\left( b\right) \ \forall w\in W,\ \forall \mu \in S\left( \succsim
_{M\cup W}\right) :\phi _{w}^{W}\left( \succsim _{M\cup W}\right) \succsim
_{w}\mu \left( w\right) \succsim _{w}\phi _{w}^{M}\left( \succsim _{M\cup
W}\right)
\end{eqnarray*}を満たす。

つまり、安定性を追求する限りにおいて、男性求婚型DAメカニズムは男性にとって最良である一方で女性にとって最悪であり、逆に、女性求婚型DAメカニズムは女性にとって最良である一方で男性にとって最悪であるということです。このような意味において、DAメカニズムを採用する限りにおいて男女の利害の対立を避けることはできません。

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