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1対1のマッチング問題

1対1のマッチング問題の私的価値モデル

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非外部性の仮定

2つのグループに分かれたプレイヤーたちを何らかのルールにもとづいてグループ間で1対1でマッチングさせる資源配分問題を1対1のマッチング問題と呼ばれる環境として定式化しました。1対1のマッチング問題において、それぞれのプレイヤー\(i\)は自分とマッチし得る相手どうしを比較する選好関係\(\succsim _{i}\)を持つだけでなく、マッチングどうしを比較する選好関係\(\succsim _{i}^{\mathcal{M}}\left[\succsim _{M\cup W}\right] \)を持っているものとみなしました。\(\succsim _{i}^{\mathcal{M}}\left[ \succsim _{M\cup W}\right] \)をマッチング集合\(\mathcal{M}\)上に定義するということは、プレイヤー\(i\)がマッチング\(\mu \in \mathcal{M}\)から得る満足度は、\(\mu \)において自身とマッチする相手\(\mu \left( i\right) \)だけに依存するのではなく、自分とは異なるそれぞれのプレイヤー\(j\ \left( \not=i\right) \)にマッチする相手\(\mu \left( j\right) \)にも依存することを意味します。ただ、1対1のマッチング問題の分析では多くの場合、プレイヤー\(i\)にとって重要なのはそれぞれのマッチング\(\mu \)において自身とマッチする相手\(\mu \left( i\right) \)だけであり、他のプレイヤーたちにマッチする相手はプレイヤー\(i\)によるマッチング\(\mu \)の評価に影響を与えないものと仮定します。このような仮定を非外部性(non-externality)の仮定と呼びます。

プレイヤー\(i\)に関して非外部性の仮定が成り立つこととは、マッチング集合\(\mathcal{M}\)上の選好関係\(\succsim _{i}^{\mathcal{M}}\left[ \succsim_{M\cup W}\right] \)に対して自身がマッチし得る相手どうしを比較する二項関係\(\succsim _{i}\left[ \succsim _{M\cup W}\right] \)が存在して、任意の2つのマッチング\(\mu ,\mu ^{\prime }\in \mathcal{M}\)に対して、\begin{equation*}\mu \succsim _{i}^{\mathcal{M}}\left[ \succsim _{M\cup W}\right] \ \mu
^{\prime }\Leftrightarrow \mu \left( i\right) \succsim _{i}\left[ \succsim
_{M\cup W}\right] \ \mu ^{\prime }\left( i\right)
\end{equation*}という関係が成り立つことを意味します。つまり、プレイヤー\(i\)にとってマッチング\(\mu \)がマッチング\(\mu ^{\prime }\)以上に望ましいことと、\(\mu \)のもとで自身とマッチする相手\(\mu \left(i\right) \)が\(\mu ^{\prime }\)のもとで自身とマッチする相手\(\mu^{\prime }\left( i\right) \)以上に望ましいことが必要十分であるということです。

例(非外部性の仮定)
プレイヤー集合が、\begin{eqnarray*}
M &=&\left\{ m_{1},m_{2},m_{3}\right\} \\
W &=&\left\{ w_{1},w_{2},w_{3}\right\}
\end{eqnarray*}であるものとします。その上で、以下の2つのマッチング\begin{eqnarray*}
\mu &=&\begin{pmatrix}
m_{1} & m_{2} & m_{3} \\
w_{1} & w_{2} & w_{3}\end{pmatrix}
\\
\mu ^{\prime } &=&\begin{pmatrix}
m_{1} & m_{2} & m_{3} \\
w_{1} & w_{3} & w_{2}\end{pmatrix}\end{eqnarray*}に注目します。双方において\(m_{1}\)と\(w_{1}\)がマッチする相手は同じですが、他のプレイヤーたちがマッチする相手は異なります。仮に、男性\(m_{1}\)がマッチングどうしを比較する選好\(\succsim _{m_{1}}^{\mathcal{M}}\left[ \succsim _{M\cup W}\right] \)が、\begin{equation*}\mu \succ _{m_{1}}^{\mathcal{M}}\left[ \succsim _{M\cup W}\right] \ \mu
^{\prime }
\end{equation*}を満たす場合、\(m_{1}\)の選好は非外部性を満たしません。なぜなら、自身とは異なるプレイヤーたちがマッチする相手の組み合わせによって自身の選好が影響を受けているからです。非外部性の仮定と整合的であるためには、\begin{equation*}\mu \sim _{m_{1}}^{\mathcal{M}}\left[ \succsim _{M\cup W}\right] \ \mu
^{\prime }
\end{equation*}である必要があります。

 

私的価値の仮定

1対1のマッチング問題を描写する環境において、プレイヤー\(i\)がマッチングどうしを比較するマッチング集合\(\mathcal{M}\)上の選好関係を\(\succsim _{i}^{\mathcal{M}}\)ではなく\(_{i}^{\mathcal{M}}\left[ \succsim _{M\cup W}\right] \)と表現する理由は、プレイヤー\(i\)によるマッチングの評価は自身がマッチし得る相手どうしを比較する選好\(\succsim_{i}\)だけに依存するのではなく、他のプレイヤーたちが各々にマッチし得る相手どうしを比較する選好\(\succsim_{-i}\)に依存するという状況が起こり得るからです。ただ、1対1のマッチング問題の分析では多くの場合、プレイヤーがマッチングどうしを比較する選好関係の形状は\(\succsim _{i}\)のみに依存し、\(\succsim _{-i}\)には依存しないものと仮定します。このような仮定を私的価値(private values)の仮定と呼びます。例えば、プレイヤーがマッチし得る相手を評価する際に、それらの相手が他の人たちからどのように評価されているかを考慮しないのであれば、このような状況は私的価値の仮定と整合的です。

プレイヤー\(i\)に関して私的価値性の仮定が成り立つこととは、プレイヤー\(i\)がマッチングどうしを比較する\(\mathcal{M}\)上の選好関係を、\begin{equation*}\succsim _{i}^{\mathcal{M}}\left[ \succsim _{i}\right] \end{equation*}と表現できることを意味します。つまり、プレイヤー\(i\)がマッチングどうしを比較する選好の形状が\(\succsim_{-i}\)に依存しないということです。

例(私的価値の仮定)
プレイヤー集合が、\begin{eqnarray*}
M &=&\left\{ m_{1},m_{2},m_{3}\right\} \\
W &=&\left\{ w_{1},w_{2},w_{3}\right\}
\end{eqnarray*}であるとともに、プレイヤーたちの選好プロファイル\(\succsim _{M\cup W}\)が以下の表で与えられているものとします。

$$\begin{array}{ccccc}\hline
プレイヤー\diagdown 順位 & 1 & 2 & 3 & 4 \\ \hline
m_{1} & w_{1} & w_{2} & w_{3} & m_{1} \\ \hline
m_{2} & w_{1} & w_{3} & w_{2} & m_{2} \\ \hline
m_{3} & w_{1} & w_{3} & w_{2} & m_{3} \\ \hline
w_{1} & m_{1} & m_{2} & m_{3} & w_{1} \\ \hline
w_{2} & m_{1} & m_{3} & m_{2} & w_{2} \\ \hline
w_{3} & m_{1} & m_{3} & m_{2} & w_{3} \\ \hline
\end{array}$$

表:プレイヤーの選好

仮に、男性\(m_{1}\)は自身とマッチする相手のみに興味があり、なおかつ他のプレイヤーたちによる異性に対する評価に興味がない場合には、\(\mu \left(m_{1}\right) =w_{1}\)を満たすマッチング\(\mu \)と\(\mu ^{\prime }\left( m_{1}\right) =w_{2}\)を満たすマッチング\(\mu^{\prime }\)と\(\mu ^{\prime \prime }\left( m_{1}\right) =w_{3}\)を満たすマッチング\(\mu^{\prime \prime }\)をそれぞれ任意に選んだとき、\begin{equation*}\mu \succ _{m_{1}}^{\mathcal{M}}\left[ \succsim _{M\cup W}\right] \ \mu
^{\prime }\succ _{m_{1}}^{\mathcal{M}}\left[ \succsim _{M\cup W}\right] \
\mu ^{\prime \prime }
\end{equation*}が成り立ちます。このような選好は私的価値の仮定と整合的です(非外部性の仮定とも整合的)。また、男性\(m_{2}\)は自身とマッチする相手のみに興味があり、なおかつ自身を含めたすべての男性の多数決によって異性への評価を決定するのであれば(より多くの男性が評価する女性とマッチしたいという選好)、\(\mu \left( m_{2}\right) =w_{1}\)を満たすマッチング\(\mu \)と\(\mu ^{\prime }\left( m_{2}\right) =w_{2}\)を満たすマッチング\(\mu ^{\prime }\)と\(\mu^{\prime \prime }\left( m_{2}\right) =w_{3}\)を満たすマッチング\(\mu ^{\prime \prime }\)をそれぞれ任意に選んだとき、\begin{equation*}\mu \succ _{m_{2}}^{\mathcal{M}}\left[ \succsim _{M\cup W}\right] \ \mu
^{\prime \prime }\succ _{m_{2}}^{\mathcal{M}}\left[ \succsim _{M\cup W}\right] \ \mu ^{\prime }
\end{equation*}が成り立ちます。このような選好は私的価値の仮定と整合的ではありません(非外部性の仮定とは整合的)。なぜなら、自身の選好を男性全員の多数決で決めることは、自身の選好が他のプレイヤーの選好の影響を受けることを意味するからです。また、男性\(w_{3}\)は男性\(w_{1}\)とマッチする相手のみに興味があり、なおかつ他のプレイヤーたちによる異性に対する評価に興味がなく、なおかつ、男性\(w_{1}\)により望ましい相手とマッチしてもらいたいと考えている場合には(つまり、自分が良いと思う相手を男性\(m_{1}\)とマッチさせたいというおせっかいな選好)、\(\mu \left( m_{1}\right) =w_{1}\)を満たすマッチング\(\mu \)と\(\mu ^{\prime }\left( m_{1}\right) =w_{2}\)を満たすマッチング\(\mu ^{\prime }\)と\(\mu^{\prime \prime }\left( m_{1}\right) =w_{3}\)を満たすマッチング\(\mu ^{\prime \prime }\)をそれぞれ任意に選んだとき、\begin{equation*}\mu \succ _{m_{3}}^{\mathcal{M}}\left[ \succsim _{M\cup W}\right] \ \mu
^{\prime \prime }\succ _{m_{3}}^{\mathcal{M}}\left[ \succsim _{M\cup W}\right] \ \mu ^{\prime }
\end{equation*}が成り立ちます。このような選好は私的価値の仮定と整合的です(非外部性の仮定とは整合的ではない)。

 

1対1のマッチング問題の私的価値モデル

一般に、1対1のマッチング問題を描写する環境は、\begin{equation*}
\left( M,W,\left\{ \succsim _{i}\right\} _{i\in M\cup W},\mathcal{M},\left\{
\succsim _{i}^{\mathcal{M}}\left[ \succsim _{M\cup W}\right] \right\} _{i\in
M\cup W}\right)
\end{equation*}と定式化されます。ただし、\(M,W\)はプレイヤー集合、\(\succsim _{i}\)はプレイヤー\(i\)が自身がマッチし得る相手どうしを比較する選好関係、\(\mathcal{M}\)はマッチング集合、\(\succsim _{i}^{\mathcal{M}}\left[ \succsim _{M\cup W}\right]\)はプレイヤー\(i\)がマッチングどうしを比較する選好関係です。ただし、プレイヤー\(i\)について非外部性と私的価値を仮定する場合、任意の2つのマッチング\(\mu ,\mu ^{\prime }\in \mathcal{M}\)に対して、\begin{eqnarray*}\mu \succsim _{i}^{\mathcal{M}}\left[ \succsim _{M\cup W}\right] \ \mu
^{\prime } &\Leftrightarrow &\mu \succsim _{i}^{\mathcal{M}}\left[ \succsim
_{i}\right] \ \mu ^{\prime }\quad \because \text{私的価値の仮定} \\
&\Leftrightarrow &\mu \left( i\right) \succsim _{i}\left[ \succsim _{i}\right] \ \mu ^{\prime }\left( i\right) \quad \because \text{非外部性の仮定} \\
&\Leftrightarrow &\mu \left( i\right) \succsim _{i}\mu ^{\prime }\left(
i\right)
\end{eqnarray*}すなわち、\begin{equation*}
\mu \succsim _{i}^{\mathcal{M}}\left[ \succsim _{M\cup W}\right] \ \mu
^{\prime }\Leftrightarrow \mu \left( i\right) \succsim _{i}\mu ^{\prime
}\left( i\right)
\end{equation*}という関係が成り立つため、プレイヤー\(i\)がマッチングどうしを比較する選好\(\succsim _{i}^{\mathcal{M}}\left[ \succsim _{M\cup W}\right] \)について考えるかわりに、プレイヤー\(i\)が自身がマッチし得る相手どうしを比較する選好\(\succsim _{i}\)についても一般性は失われません。

1対1のマッチング問題において任意のプレイヤーの選好関係について非外部性と私的価値を仮定する場合、そのようなモデルを私的価値モデル(private value model)と呼ぶこととします。私的価値モデルでは任意のプレイヤー\(i\)について\(\succsim _{i}^{\mathcal{M}}\left[ \succsim _{M\cup W}\right] \)と\(\succsim _{i}\)は実質的に等しくなるため、それを描写する環境を、\begin{equation*}\left( M,W,\left\{ \succsim _{i}\right\} _{i\in M\cup W},\mathcal{M}\right)
\end{equation*}とシンプルに記述できます。1対1のマッチング問題の分析では多くの場合、私的価値モデルを対象とします。

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