多変数関数の偏微分の定義
多変数関数が与えられたとき、1つの変数以外のすべての変数の値を固定し、あたかも1変数関数であるかのようにみなした上で定義される微分概念を偏微分と呼びます。
多変数関数をあたかも1変数関数のように見なした場合に得られる微分概念を偏微分と呼びます。1変数関数において微分可能性は連続性を含意するのに対し、多変数関数において偏微分性は連続性を含意しません。
多変数関数が与えられたとき、1つの変数以外のすべての変数の値を固定し、あたかも1変数関数であるかのようにみなした上で定義される微分概念を偏微分と呼びます。
多変数関数を偏微分するプロセスは1変数関数を微分するプロセスと実質的に等しいため、偏微分を行う際には1変数関数の微分に関する諸々の公式を活用できます。
多変数関数が定義域上の点においてすべての変数に関して偏微分可能である場合、その点におけるそれぞれの変数に関する偏微分係数を成分とするベクトルが存在します。これを勾配ベクトル(グラディエント)と呼びます。
多変数関数の偏微分係数は特定の変数の値の変化がもたらす瞬間変化率として解釈可能です。
多変数関数を特定の変数に関して偏微分することとは、他の変数の値を固定することで得られる1変数関数をシンプルな1次式で近似する(線型近似)ことを意味します。
偏微分の基本的な性質について解説します。
1変数関数に関しては微分可能性や偏微分可能性が連続性を含意する一方、2つ以上の変数を持つ多変数関数に関しては、偏微分可能性は連続性を必ずしも含意しません。
多変数関数と1変数関数の合成関数が偏微分可能である条件および合成関数を偏微分する方法について解説します。
多変数の定数関数は偏微分可能です。
多変数の座標関数は偏微分可能です。
多変数の多項式関数は偏微分可能です。
ノルム関数はゼロベクトル以外の任意の点において偏微分可能です。
多変数の定数関数、座標関数、多項式関数、有理関数および、それらの関数と1変数の微分可能な関数を組合せることで得られる多変数関数はいずれも偏微分可能です。
偏微分可能な関数の定数倍として定義される関数もまた偏微分可能であり、その関数の勾配ベクトルはもとの関数の勾配ベクトルの定数倍と一致します。
偏微分可能な関数どうしの和として定義される関数もまた偏微分可能であり、その関数の勾配ベクトルはもとの関数の勾配ベクトルの和と一致します。
偏微分可能な関数どうしの差として定義される関数もまた偏微分可能であり、その関数の勾配ベクトルはもとの関数の勾配ベクトルの差と一致します。
偏微分可能な関数どうしの積として定義される関数もまた偏微分可能であり、その偏導関数や勾配ベクトル場は積の法則と呼ばれる規則から得られます。
偏微分可能な関数どうしの商として定義される関数もまた偏微分可能であり、その偏導関数や勾配ベクトル場は商の法則と呼ばれる規則から得られます。
多変数が偏微分可能であるならば偏導関数が得られます。偏導関数もまた多変数関数であるためそれを偏微分できます。以降についても同様です。
多変数関数の偏導関数が偏微分可能である場合には偏導関数の偏導関数が得られますが、これを2階の偏導関数と呼びます。同様に、3階の偏導関数、4階の偏導関数なども定義可能です。これらを高階の偏導関数と呼びます。
多変数関数が任意の2つの変数の組み合わせに関して2階偏微分可能である場合には、2階偏微分係数を成分として持つ正方行列が定義可能です。これをヘッセ行列と呼びます。
多変数関数が偏微分可能であることに加えてすべての変数に関する偏導関数が連続である場合、その関数は連続微分可能であると言います。
開集合上に定義されたn階連続微分可能な多変数関数に関しては、n個の変数の順序によらず、n階偏導関数はすべて一致します。これをクレローの定理と呼びます。
高階連続微分可能な多変数関数に関して一般的な議論を行う準備として、偏微分作用素やナブラ作用素と呼ばれる概念を導入します。
多変数関数の変数を特定のベクトルの方向へ移動する状況を想定した微分概念を方向微分と呼びます。偏微分と同様、方向微分もまた連続性を必ずしも含意しません。
多変数関数の変数を特定の線分に沿ってまっすぐ動かす状況を想定した微分概念を方向微分と呼びます。
多変数関数が連続微分可能な点に関しては、その多変数関数を方向微分するプロセスは1変数関数を微分するプロセスと実質的に等しくなるため、方向微分を行う際に1変数関数の微分に関する諸々の公式を活用できます。
多変数関数の方向微分数は変数であるベクトルを特定の方向へ変化させた場合の関数の値の瞬間変化率として解釈可能です。
多変数関数を方向微分することとは、そこから得られる1変数関数をシンプルな1次式で近似する(線型近似)ことを意味します。
多変数関数が任意の方向へ方向微分可能である場合、その関数は任意の変数について偏微分可能ですが、その逆は成り立つとは限りません。一定の条件のもとでは、方向微分係数は勾配ベクトルと方向ベクトルの内積として定まります。
多変数関数の変数をある点からどちらの方向へ動かせば関数の値の変化率を最大化できるか、もしくは最小化できるかを判定する方法について解説します。
方向微分の性質について解説します。
1変数関数に関しては微分可能性や方向微分可能性が連続性を含意する一方、2つ以上の変数を持つ多変数関数に関しては、方向微分可能性は連続性を必ずしも含意しません。
多変数関数と1変数関数の合成関数が方向微分可能であるための条件および合成関数を方向微分する方法について解説します。
多変数の定数関数は任意の方向に方向微分可能です。方向微分係数は任意の方向のもとで最大化ないし最小化されるとともに、その値はゼロになります。
多変数の座標関数は任意の方向に方向微分可能です。座標関数を方向微分する方法を解説するとともに、方向微分係数を最大化ないし最小化する方向を特定します。
微分可能性から連続性を導くためには偏微分や方向微分とは異なる微分概念が要請されます。それを全微分と呼ばれる概念として定式化します。
多変数関数の偏微分は特定の変数だけを動かす状況を想定した微分概念であり、方向微分はすべての変数を特定の経路に沿って動かす状況を想定した微分概念です。一方、全微分はすべての変数を任意の経路に沿って動かす状況を想定した微分概念です。
多変数関数が全微分可能である場合には偏微分可能であることが保証される一方、その逆は成り立つとは限りません。ただ、多変数関数が連続微分可能である場合には全微分可能であることが保証される一方、その逆は成り立つとは限りません。
全微分可能な多変数関数は任意の方向に方向微分可能です。一方、任意の方向に方向微分可能な関数は全微分可能であるとは限りません。
多変数関数をある点において全微分することとは、その点に限りなく近い周辺の任意の点において、もとの関数を1次の多項式関数で近似する(線型近似)することを意味します。
全微分の基本的な性質について解説します。
多変数関数は全微分可能な点において連続であることが保証されます。他方で、多変数関数は連続な点において全微分可能であるとは限りません。
多変数の定数関数、座標関数、多項式関数、有理関数および、それらの関数と1変数の初等関数を組合せることで得られる多変数関数はいずれも全微分可能です。
多変数関数と1変数関数の合成関数として定義される多変数関数が全微分可能であるための条件や、全微分を行う方法などについて解説します。
ベクトル値関数と多変数関数の合成関数として定義される1変数関数が微分可能であるための条件や、微分する方法などについて解説します。
多変数関数の変数が定義域上の2つの点を端点とする閉じた線分上を動く状況を想定した場合、1変数関数に関するラグランジュの平均値の定理と同様の主張が成り立ちます。
多変数関数を全微分することとは、もとの複雑な関数をシンプルな1次の多項式関数で近似することを意味します。それとは逆に、多変数関数を高次の多項式によって近似することにより近似の精度を高めようとするのがテイラーの定理の背景にある考え方です。
多変数関数を全微分することとは複雑な関数を1次の多項式関数によって近似することを意味します。それとは逆に、多変数関数を高次の多項式関数を用いて近似することで近似の精度を高める考え方もあります。
多変数関数が高階連続微分可能である場合に、その関数をテイラーの近似多項式によって近似できることの根拠を与えるのがテイラーの定理です。
多変数の方程式から定義される陰関数と呼ばれる概念を定義するとともに、関連して、陰関数定理と呼ばれる命題について解説します。
2変数関数から方程式を定義したとき、そこから陰関数と呼ばれる1変数関数を定義することができます。
2変数関数から方程式を定義したとき、その陰関数を具体的に特定できない場合でも、一定の条件のもとでは、陰関数の存在を保証したり、陰関数の微分を特定できます。
n+1変数関数から方程式を定義したとき、そこから陰関数と呼ばれるn変数関数を定義することができます。多変数の陰関数を定義するとともに、その活用例を紹介します。
多変数の陰関数を具体的に特定できない場合でも、一定の条件のもとでは、陰関数の存在を保証したり、陰関数の偏微分を特定できます。
同次関数に関するオイラーの定理について解説します。
同次関数と呼ばれるクラスの関数を定義するとともに、いくつか具体例を提示します。
同次関数が全微分可能である場合、オイラーの定理と呼ばれる命題が成立します。オイラーの定理について解説します。
本節を学ぶ上で以下の知識が役に立ちます。
ユークリッド空間を定義した上で、そこでの点列や位相の性質および各種の写像(ベクトル値関数・多変数関数・多変数のベクトル値関数)の極限や連続性などについて解説します。これらの知識は後に微分や積分について学ぶ際の土台となります。
実数空間もしくはその部分集合を定義とし、ユークリッド空間を終集合とする写像を曲線やベクトル値関数などと呼びます。ここでは曲線の収束や連続性などについて解説します。
1変数関数の微分の概念を定義した上で、微分の基本性質や初等関数の微分、平均値の定理、高階の微分、テイラーの定理などについて学びます。これらの知識は後に1変数関数を目的関数とする最適化について学ぶ上での基盤になります。
本節で得た知識は以下の分野を学ぶ上での基礎になります。
多変数のベクトル値関数(ベクトル場)の偏微分や方向微分、全微分などの概念について解説します。