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多変数関数の微分

多変数関数の点における最大増加率と最大減少率の特定

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多変数関数の点における最大増加率と最大減少率

多変数関数\(f:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} \)と定義域上の点\(a\in X\)が与えられたとき、点\(a\)を出発点に変数\(x\)をどちらの方向へ動かせば\(f\left( x\right) \)の値を最も大きく増加させられるか、また最も大きく減少させられるかを検討している状況を想定します。

例(標高の変化)
あなたは今、登山に来ています。山中における位置を2変数関数\(f\left( x,y\right) \)を用いて\(\left(x,y,f\left( x,y\right) \right) \)と表現します。つまり、地点\(\left(x,y\right) \)の標高が\(f\left( x,y\right) \)であるということです。現在地の座標が\(\left(a,b\right) \)であるものとします。現在地の標高は\(f\left( a,b\right) \)です。現在地\(\left(a,b\right) \)からどちらの方向へ進めば標高が最も大きく上昇するでしょうか(どちらの方向が最も急な上り坂になっているでしょうか)。逆に、現在地\(\left( a,b\right) \)からどちらの方向へ進めば標高が最も大きく減少するでしょうか(どちらの方向が最も急な下り坂になっているでしょうか)。
例(温度の変化)
空間上の点における温度を3変数関数\(f\left(x,y,z\right) \)を用いて\(\left( x,y,z,f\left(x,y,z\right) \right) \)と表現します。つまり、空間上の点\(\left( x,y,z\right) \)の温度が\(f\left(x,y,z\right) \)であるということです。基準となる点の座標が\(\left( a,b,c\right) \)であるものとします。その点の温度は\(f\left(a,b,c\right) \)です。基準点\(\left(a,b,c\right) \)からどちらの方向へ進めば温度が最も大きく上昇するでしょうか。逆に、基準点\(\left( a,b,c\right) \)からどちらの方向へ進めば温度が最も大きく下落するでしょうか。

 

問題の定式化と解法

多変数関数\(f:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} \)と定義域上の点\(a\in X\)が与えられたとき、点\(a\)を出発点に変数\(x\)を方向\(e\in \mathbb{R} ^{n}\backslash \left\{ 0\right\} \)へ微量だけ移動させた場合の\(f\left(x\right) \)の変化率は、方向微分係数\begin{equation*}f_{e}^{\prime }\left( a\right) =\lim_{h\rightarrow 0}\frac{f\left(
a+he\right) -f\left( a\right) }{h}\in \mathbb{R} \end{equation*}として表現されます。したがって、点\(a\)を出発点に変数\(x\)をどちらの方向へ動かせば\(f\left( x\right) \)の値が最も大きく増加するかを明らかにするためには、方向微分係数\(f_{e}^{\prime }\left(a\right) \)の値を最大化する方向ベクトル\(e\)を特定する必要があります。逆に、点\(a\)を出発点に変数\(x\)をどちらの方向へ動かせば\(f\left( x\right) \)の値が最も大きく減少するかを明らかにするためには、方向微分係数\(f_{e}^{\prime }\left( a\right) \)の値を最小化する方向ベクトル\(e\)を特定する必要があります。では、具体的にどうすればよいでしょうか。

多変数関数\(f:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} \)が定義上の点\(a\in X\)において\(C^{1}\)級である場合には(実際には、後に導入する全微分可能性を満たしていれば十分です)、\(f\)は点\(a\)において任意の方向\(e\in \mathbb{R} ^{n}\backslash \left\{ 0\right\} \)について方向微分可能であるとともに、方向ベクトル\(e\)を任意に選んだとき、\begin{equation}f_{e}^{\prime }\left( a\right) =\nabla f\left( a\right) \cdot e \quad \cdots (1)
\end{equation}という関係が成り立ちます。したがって、この場合、\(f_{e}^{\prime }\left(a\right) \)を最大化する\(e\)を特定することと\(\nabla f\left( a\right)\cdot e\)を最大化する\(e\)を特定することは必要十分であり、\(f_{e}^{\prime }\left( a\right) \)を最小化する\(e\)を特定することと\(\nabla f\left( a\right) \cdot e\)を最小化する\(e\)を特定することは必要十分です。

以上の方針のもと、以下の命題が得られます。

命題(多変数関数の点における最大増加率と最大減少率)
多変数関数\(f:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} \)が点\(a\in X\)において\(C^{1}\)級であるものとする。方向ベクトル\(e\in \mathbb{R} ^{n}\backslash \left\{ 0\right\} \)を任意に選ぶ。ただし、\(e\)は単位ベクトルである。このとき、以下が成り立つ。

  1. 方向ベクトル\(e\)と勾配ベクトル\(\nabla f\left( a\right) \)が同一方向であれば、方向微分係数\(f_{e}^{\prime }\left(a\right) \)は最大化されるとともに、その最大値は、\begin{equation*}f_{e}^{\prime }\left( a\right) =\left\Vert \nabla f\left( a\right)\right\Vert
    \end{equation*}となる。
  2. 方向ベクトル\(e\)と勾配ベクトル\(\nabla f\left( a\right) \)が反対方向であれば、方向微分係数\(f_{e}^{\prime }\left(a\right) \)は最小化されるとともに、その最小値は、\begin{equation*}f_{e}^{\prime }\left( a\right) =-\left\Vert \nabla f\left( a\right)\right\Vert
    \end{equation*}となる。
証明

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例(多変数関数の点における最大増加率と最大減少率)
関数\(f:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(\left( x,y\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)に対して、\begin{equation*}f\left( x,y\right) =3x^{2}y^{3}
\end{equation*}を定めるものとします。点\(\left( 1,2\right) \)における方向微分係数\(f_{\left(e_{1},e_{2}\right) }^{\prime }\left( 1,2\right) \)を最大化する方向ベクトル\(\left( e_{1},e_{2}\right) \)と、最大化された\(f_{\left( e_{1},e_{2}\right) }^{\prime }\left( 1,2\right) \)の値を明らかにします。\(f\)は多変数の多項式関数であるため\(C^{1}\)級であり、勾配ベクトル場は、\begin{eqnarray*}\nabla f\left( x,y\right) &=&\left( \frac{\partial f\left( x,y\right) }{\partial x},\frac{\partial f\left( x,y\right) }{\partial y}\right) \\
&=&\left( 6xy^{3},9x^{2}y^{2}\right)
\end{eqnarray*}であるため、点\(\left( 1,2\right) \)における勾配ベクトルは、\begin{eqnarray*}\nabla f\left( 1,2\right) &=&\left( 6\cdot 1\cdot 2^{3},9\cdot 1^{2}\cdot
2^{2}\right) \\
&=&\left( 48,36\right)
\end{eqnarray*}です。この勾配ベクトルの大きさは、\begin{eqnarray*}
\left\Vert \nabla f\left( 1,2\right) \right\Vert &=&\left\Vert \left(
48,36\right) \right\Vert \\
&=&\sqrt{48^{2}+36^{2}} \\
&=&60
\end{eqnarray*}であり、\(\nabla f\left( 1,2\right) \)と同一方向の単位ベクトルは、\begin{eqnarray*}\frac{\nabla f\left( 1,2\right) }{\left\Vert \nabla f\left( 1,2\right)
\right\Vert } &=&\frac{\left( 48,36\right) }{60} \\
&=&\left( \frac{4}{5},\frac{3}{5}\right)
\end{eqnarray*}です。したがって、先の命題より、方向微分係数の値\(f_{\left(e_{1},e_{2}\right) }^{\prime }\left( 1,2\right) \)は、\begin{equation*}\left( e_{1},e_{2}\right) =\left( \frac{4}{5},\frac{3}{5}\right)
\end{equation*}において最大化されるとともに、その最大値は、\begin{eqnarray*}
f_{\left( e_{1},e_{2}\right) }^{\prime }\left( 1,2\right) &=&\left\Vert
\nabla f\left( 1,2\right) \right\Vert \\
&=&60
\end{eqnarray*}となります。続いて、点\(\left( 1,2\right) \)における方向微分係数\(f_{\left( e_{1},e_{2}\right)}^{\prime }\left( 1,2\right) \)を最大化する方向ベクトル\(\left(e_{1},e_{2}\right) \)と、最大化された\(f_{\left( e_{1},e_{2}\right) }^{\prime }\left( 1,2\right) \)の値を明らかにします。\(\nabla f\left( 1,2\right) \)と反対方向の単位ベクトルは、\begin{eqnarray*}-\frac{\nabla f\left( 1,2\right) }{\left\Vert \nabla f\left( 1,2\right)
\right\Vert } &=&-\left( \frac{4}{5},\frac{3}{5}\right) \\
&=&\left( -\frac{4}{5},-\frac{3}{5}\right)
\end{eqnarray*}です。したがって、先の命題より、方向微分係数の値\(f_{\left(e_{1},e_{2}\right) }^{\prime }\left( 1,2\right) \)は、\begin{equation*}\left( e_{1},e_{2}\right) =\left( -\frac{4}{5},-\frac{3}{5}\right)
\end{equation*}において最小化されるとともに、その最小値は、\begin{eqnarray*}
f_{\left( e_{1},e_{2}\right) }^{\prime }\left( 1,2\right) &=&-\left\Vert
\nabla f\left( 1,2\right) \right\Vert \\
&=&-60
\end{eqnarray*}となります。

 

演習問題

問題(標高の変化)
あなたは今、登山に来ています。山中の地点\(\left( x,y\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)の標高が、\begin{equation*}f\left( x,y\right) =\frac{1}{2}xy+\cos \left( x\right)
\end{equation*}で与えられているものとします。現在地の座標は\(\left( \pi ,\pi \right) \)です。現在地\(\left( \pi ,\pi \right) \)から見てどちらの方向が最も急な下り坂になっているでしょうか。また、その下り坂はどれくらい傾いているでしょうか。
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問題(温度の変化)
空間上の点\(\left( x,y,z\right) \in \mathbb{R} ^{3}\)の温度が\begin{equation*}f\left( x,y,z\right) =300e^{-x^{2}-5y^{2}-7z^{2}}
\end{equation*}であるものとします。基準となる点の座標が\(\left( a,b,c\right) \)であるものとします。その点の温度は\(f\left( a,b,c\right) \)です。基準点\(\left( a,b,c\right) \)からどちらの方向へ進めば温度が最も大きく上昇するでしょうか。また、その際の温度の変化率はどれくらいでしょうか。
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