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多変数関数の微分

瞬間変化率としての多変数関数の方向微分

目次

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多変数関数の特定の方向に関する平均変化率と方向微分係数の解釈

ユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{n}\)もしくはその部分集合\(X\)を定義域とし、値として実数をとる多変数関数\begin{equation*}f:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}が与えられているものとします。つまり、\(f\)はそれぞれのベクトル\(\boldsymbol{x}\in X\)に対して、実数\begin{equation*}f\left( \boldsymbol{x}\right) =f\left( x_{1},\cdots ,x_{n}\right) \in \mathbb{R} \end{equation*}を値として定めるということです。

多変数関数\(f\)の定義域の内点\(\boldsymbol{a}\in X^{i}\)と方向ベクトル\(\boldsymbol{e}\in \mathbb{R} ^{n}\backslash \left\{ 0\right\} \)が与えられたとき、\(f\)の変数\(\boldsymbol{x}\)を点\(\boldsymbol{a}\)から点\(\boldsymbol{a}+h\boldsymbol{e}\)までまっすぐ動かすと、それに応じて\(f\left( \boldsymbol{x}\right) \)の値は\(f\left( \boldsymbol{a}\right) \)から\(f\left( \boldsymbol{a}+h\boldsymbol{e}\right) \)まで変化します。このとき、\begin{equation*}\frac{f\left( \boldsymbol{a}+h\boldsymbol{e}\right) -f\left( \boldsymbol{a}\right) }{h}=\frac{f\left( a_{1}+he_{1},\cdots ,a_{n}+he_{n}\right) -f\left(
\boldsymbol{a}\right) }{h}
\end{equation*}を点\(a\)と点\(a+he\)を結ぶ線分上での\(f\left( \boldsymbol{x}\right) \)の平均変化率と呼びました。

変数\(\boldsymbol{x}\)を点\(\boldsymbol{a}\)から点\(\boldsymbol{a}+h\boldsymbol{e}\)までまっすぐ動かすというプロセスの中の異なる複数の時点に注目したとき、それらの瞬間における\(f\left( \boldsymbol{x}\right) \)の変化量は同じであるとは限りません。\(f\left( \boldsymbol{x}\right) \)の値は同じペースで変化し続けているとは限らないからです。ただ、平均変化率について考える際には、それぞれの瞬間における\(f\left( \boldsymbol{x}\right) \)の変化量の違いを無視し、プロセス全体において平均でどれくらいのペースで\(f\left( \boldsymbol{x}\right) \)が変化したかに注目します。このような意味において、この指標は「平均変化率」と呼ばれます。一方、関数\(f\)の点\(\boldsymbol{a}\)における方向\(\boldsymbol{e}\)に関する方向微分係数は、\begin{equation*}\lim_{h\rightarrow 0}\frac{f\left( \boldsymbol{a}+h\boldsymbol{e}\right)
-f\left( \boldsymbol{a}\right) }{h}=\lim_{h\rightarrow 0}\frac{f\left(
a_{1}+he_{1},\cdots ,a_{n}+he_{n}\right) -f\left( \boldsymbol{a}\right) }{h}
\end{equation*}と定義されますが、これは変数\(\boldsymbol{x}\)の値が\(\boldsymbol{a}\)と一致する瞬間における\(f\left( \boldsymbol{x}\right) \)の値の変化を表します。このような意味において、方向微分係数は「瞬間変化率(instantaneous rate of change)」とも呼ばれます。両者の違いをより深く理解するためいくつか例を挙げます。

 

平均勾配と勾配

それぞれの地点の標高を計測した上で、それを2変数関数\(f\)として整理しました。つまり、経度が\(x\)であり緯度が\(y\)であるような地点の標高が、\begin{equation*}f\left( x,y\right)
\end{equation*}であるということです。このとき、方向\(\left( e_{1},e_{2}\right) \)に関する平均変化率\begin{equation*}\frac{f\left( x+he_{1},y+he_{2}\right) -f\left( x,y\right) }{h}
\end{equation*}はどのような意味を持つ指標でしょうか。地点\(\left( x,y\right) \)を出発点とした上で、\(\left( e_{1},e_{2}\right) \)方向へ\(h\)メートルだけ移動すると標高は\(f\left(x+he_{1},x+he_{2}\right) -f\left( x,y\right) \)だけ変化します。この標高差\(f\left( x+he_{1},x+he_{2}\right) -f\left( x,y\right) \)を移動距離\(h\)で割ったものが上の平均変化率です。\(h\)メートル移動する間、標高が変化するペースは一定であったとは限りません。途中で登り道や下り道があったり、また道の傾きも一定であるとは限らないからです。ただ、そのような違いを無視した上で、\(h\)メートルを移動する間に標高が平均でどれくらいのペースで変化するかを表す指標が上の平均変化率です。つまり、変数\(x\)に関する平均変化率は平均勾配に相当する概念です。ここで、移動距離\(h\)を短くすれば、より短い移動距離の中での平均勾配が得られます。最終的に\(h\)を\(0\)に限りなく近づければ、すなわち、偏微分係数\begin{equation*}\lim_{h\rightarrow 0}\frac{f\left( x+he_{1},y+he_{2}\right) -f\left(
x,y\right) }{h}
\end{equation*}をとれば、それは地点\(\left( x,y\right) \)において道が\(\left( e_{1},e_{2}\right) \)方向にどれくらい傾いているかが判明します。つまり、\(\left( e_{1},e_{2}\right) \)方向に関する方向微分係数は\(\left(e_{1},e_{2}\right) \)方向への道の勾配に相当する概念です。

 

気温の平均的な変化と瞬間的な変化

各地点の気温を計測した上で、それを3変数関数\(f\)として整理しました。つまり、経度が\(x\)であり緯度が\(y\)であり標高が\(z\)であるような地点の気温が、\begin{equation*}f\left( x,y,z\right)
\end{equation*}であるということです。このとき、\(\left(e_{1},e_{2},e_{3}\right) \)方向に関する平均変化率\begin{equation*}\frac{f\left( x+he_{1},y+he_{2},z+he_{3}\right) -f\left( x,y,z\right) }{h}
\end{equation*}はどのような意味を持つ指標でしょうか。地点\(\left( x,y,z\right) \)を出発点とした上で\(\left(e_{1},e_{2},e_{3}\right) \)方向に\(h\)メートルだけ移動すると気温は\(f\left( x+he_{1},y+he_{2},z+he_{3}\right) -f\left(x,y,z\right) \)だけ変化します。この気温差\(f\left(x+he_{1},y+he_{2},z+he_{3}\right) -f\left( x,y,z\right) \)を移動距離\(h\)で割ったものが先の平均変化率です。\(h\)メートルだけ移動する間、気温が変化するペースは一定であったとは限りません。ただ、そのような違いを無視した上で、\(h\)メートル移動する間に気温が平均でどれくらいのペースで変化するかを表す指標が平均変化率です。つまり、平均変化率は気温の平均的な変化を表す概念です。ここで、移動距離\(h\)を短くすれば、より短い移動距離の中での気温の平均的な変化が得られます。最終的に\(h\)を\(0\)に限りなく近づければ、すなわち、方向微分係数\begin{equation*}\lim_{h\rightarrow 0}\frac{f\left( x+he_{1},y+he_{2},z+he_{3}\right)
-f\left( x,y,z\right) }{h}
\end{equation*}をとれば、地点\(\left( x,y,z\right) \)において\(\left( e_{1},e_{2},e_{3}\right) \)方向へわずかに移動した場合の気温の変化率が判明します。

 

演習問題

問題(気温の変化率)
平らな金属素材の表面温度を計測し、それを2変数関数\(f\)として整理しました。具体的は、素材上の位置\(\left( x,y\right) \)の温度が、\begin{equation*}f\left( x,y\right) =\frac{1+x^{2}+y^{2}}{60}
\end{equation*}であるものとします。ただし、\(x\)および\(y\)の単位は「メートル」であり、温度の単位は「度」です。位置\(\left( 2,1\right) \)を基準に\(\left( \frac{\sqrt{2}}{2},\frac{\sqrt{2}}{2}\right) \)方向へ移動した場合の温度の変化率を特定してください。
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問題(感染症対策)
感染症の患者1人から平均で\(r\)人に新規感染するものとします。\(r\)の水準は以下の2つの指標に左右されるものとします。1つ目は、人口全体に占めるワクチン接種者の割合\(v\)です。2つ目は、感染してから完治するまでの平均日数\(d\)です。これらの関係が関数\(f\)を用いて、\begin{eqnarray*}r &=&f\left( v,d\right) \\
&=&5\left( 1-v\right) \left( \frac{d}{1+d}\right)
\end{eqnarray*}と表現されているものとします。ただし、\(0<v<1\)かつ\(d>0\)です。以下の問いに答えてください。

  1. 接種者の割合\(v\)が増加すると感染力\(r\)が減少することを示してください。
  2. 完治までの平均日数\(d\)が増加すると感染力\(r\)が増加することを示してください。
  3. 現在、接種者の割合が\(10\)パーセント(\(v=0.1\))であり、完治までの平均日数が\(2\)日(\(d=2\))であるものとします。現在の感染力\(r\)を求めてください。
  4. 接種率\(v\)を増加させる政策を実施すべきか検討している状況を想定します。ただし、その政策を実施すると、対価として完治までの平均日数\(d\)が伸びてしまうものとします。現在、その政策を実施した場合、\(d\)を増加させる効果は\(v\)を増加させる効果の\(2\)倍であるものとします。この政策を実施すると\(r\)は減少するでしょうか。検討してください。
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