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多変数関数の微分

方向微分可能性と連続性

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方向微分可能性と連続性

1変数関数は微分可能な点において連続であることが保証されますが、多変数関しても同様の主張は成り立つのでしょうか。多変数関数は偏微分可能な点において連続であるとは限りません。では、多変数関数は方向微分可能な点において連続であることを保証できるのでしょうか。

まずは方向微分可能かつ連続な多変数関数の例を挙げます。

例(方向微分可能かつ連続な多変数関数)
関数\(f:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(\left( x,y\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)に対して、\begin{equation*}f\left( x,y\right) =x^{2}+xy+y^{2}
\end{equation*}を定めるものとします。\(f\)は多変数の多項式関数であるため\(\mathbb{R} ^{2}\)上で連続です。同時に、\(f\)は\(C^{1}\)級であるため偏微分と方向微分の関係が利用できることを踏まえると、方向ベクトル\(\left( e_{1},e_{2}\right)\in \mathbb{R} ^{2}\backslash \left\{ \left( 0,0\right) \right\} \)を任意に選んだとき、方向導関数は、\begin{eqnarray*}\frac{\partial f\left( x,y\right) }{\partial \left( e_{1},e_{2}\right) }
&=&\nabla f\left( x,y\right) \cdot \left( e_{1},e_{2}\right) \quad \because
\text{偏微分と方向微分の関係} \\
&=&\left( \frac{\partial f\left( x,y\right) }{\partial x},\frac{\partial
f\left( x,y\right) }{\partial y}\right) \cdot \left( e_{1},e_{2}\right) \\
&=&\left( 2x+y,x+2y\right) \cdot \left( e_{1},e_{2}\right) \\
&=&\left( 2x+y\right) e_{1}+\left( x+2y\right) e_{2}
\end{eqnarray*}となります。

実際には、方向微分可能な多変数関数は連続であるとは限りません。以下の例より明らかです。

例(方向微分可能だが連続ではない多変数関数)
関数\(f:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(\left( x,y\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)に対して、\begin{equation*}f\left( x,y\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
\frac{xy^{2}}{x^{2}+y^{4}} & \left( if\ \left( x,y\right) \not=\left(
0,0\right) \right) \\
0 & \left( if\ \left( x,y\right) =\left( 0,0\right) \right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとします。\(f\)は点\(\left( 0,0\right) \)において任意の方向\(\left(e_{1},e_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\backslash \left\{ \left( 0,0\right) \right\} \)に方向微分可能であることを示します。まず、\(e_{1}\not=0\)の場合には、\begin{eqnarray*}\frac{\partial f\left( 0,0\right) }{\partial \left( e_{1},e_{2}\right) }
&=&\lim_{h\rightarrow 0}\frac{f\left( 0+he_{1},0+he_{2}\right) -f\left(
0,0\right) }{h}\quad \because \text{方向微分の定義} \\
&=&\lim_{h\rightarrow 0}\frac{f\left( he_{1},he_{2}\right) -f\left(
0,0\right) }{h} \\
&=&\lim_{h\rightarrow 0}\frac{1}{h}\left[ \frac{he_{1}h^{2}e_{2}^{2}}{h^{2}e_{1}^{2}+h^{4}e_{2}^{4}}-0\right] \quad \because f\text{の定義} \\
&=&\lim_{h\rightarrow 0}\frac{e_{1}e_{2}^{2}}{e_{1}^{2}+h^{2}e_{2}^{4}} \\
&=&\frac{e_{1}e_{2}^{2}}{e_{1}^{2}} \\
&=&\frac{e_{2}^{2}}{e_{1}}
\end{eqnarray*}となりますが、\(e_{1}\not=0\)よりこれは有限な実数であるため、\(f\)は点\(\left(0,0\right) \)において\(\left( e_{1},e_{2}\right) \)方向に方向微分可能です。一方、\(e_{1}=0\)の場合には、\begin{eqnarray*}\frac{\partial f\left( 0,0\right) }{\partial \left( 0,e_{2}\right) }
&=&\lim_{h\rightarrow 0}\frac{f\left( 0+h0,0+he_{2}\right) -f\left(
0,0\right) }{h}\quad \because \text{方向微分の定義} \\
&=&\lim_{h\rightarrow 0}\frac{f\left( 0,he_{2}\right) -f\left( 0,0\right) }{h} \\
&=&\lim_{h\rightarrow 0}\frac{0-0}{h}\quad \because f\text{の定義} \\
&=&\lim_{h\rightarrow 0}0 \\
&=&0
\end{eqnarray*}となりますが、これは有限な実数であるため、\(f\)は点\(\left( 0,0\right) \)において\(\left( e_{1},e_{2}\right) \)方向に方向微分可能です。したがって、\(f\)は点\(\left(0,0\right) \)において任意の方向\(\left( e_{1},e_{2}\right) \)に方向微分可能です。一方、\(f\)は点\(\left( 0,0\right) \)において連続ではありません。実際、\(f\)の定義より、\begin{equation*}f\left( 0,0\right) =0
\end{equation*}が成り立つ一方で、変数\(\left( x,y\right) \)が以下の集合\begin{equation*}\left\{ \left( x,y\right) \in \mathbb{R} ^{2}\ |\ x=y^{2}\right\}
\end{equation*}上の点をとりながら\(\left( 0,0\right) \)へ限りなく近づく場合、\begin{eqnarray*}\left( x,y\right) \rightarrow \left( 0,0\right) &\Leftrightarrow &\left(
y^{2},y\right) \rightarrow \left( 0,0\right) \quad \because x=y^{2} \\
&\Leftrightarrow &y\rightarrow 0
\end{eqnarray*}であることに留意すると、\begin{eqnarray*}
\lim_{\left( x,y\right) \rightarrow \left( 0,0\right) }f\left( x,y\right)
&=&\lim_{\left( x,y\right) \rightarrow \left( 0,0\right) }\left( \frac{xy^{2}}{x^{2}+y^{4}}\right) \quad \because f\text{の定義} \\
&=&\lim_{y\rightarrow 0}\left( \frac{y^{4}}{y^{4}+y^{4}}\right) \quad
\because x=y^{2} \\
&=&\lim_{y\rightarrow 0}\left( \frac{1}{2}\right) \\
&=&\frac{1}{2}
\end{eqnarray*}となりますが、これは\(f\left( 0,0\right) \)すなわち\(0\)と一致しません。したがって、\(f\)は点\(\left( 0,0\right) \)において連続ではないことが明らかになりました。

上の例が示唆するように、多変数関数\(f\left(x_{1},\cdots ,x_{n}\right) \)が定義域上の点において方向微分可能である場合、\(f\left(x_{1},\cdots ,x_{n}\right) \)はその点において連続であるとは限りません。方向微分は多変数関数\(f\left(x_{1},\cdots ,x_{n}\right) \)の変数\(x_{1},\cdots ,x_{n}\)を何らかの線分に沿って動かす場合の\(f\left(x_{1},\cdots ,x_{n}\right) \)の挙動に関する性質である一方で、多変数関数\(f\left( x_{1},\cdots,x_{n}\right) \)の連続性はすべての変数\(x_{1},\cdots ,x_{n}\)を自由な経路に沿って動かす場合の\(f\left( x_{1},\cdots ,x_{n}\right) \)の挙動に関する性質であるため、方向微分可能性は連続性を必ずしも含意しません。したがって、多変数関数\(f\left( x_{1},\cdots ,x_{n}\right) \)に関して微分可能性から連続性を導くためには、方向微分とは異なる微分概念、すなわちすべての変数\(x_{1},\cdots ,x_{n}\)を同時に自由な経路に沿って動かす状況を想定した微分概念が必要です。これを全微分と呼びますが、全微分に関しては場を改めて解説します。

 

方向微分可能な多変数関数から生成される1変数関数の連続性

多変数関数\(f:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} \)と方向\(e\in \mathbb{R} ^{n}\backslash \left\{ 0\right\} \)に関して方向微分可能な点\(a\in X\)を任意に選びます。この場合、点\(a\)における方向\(e\)に関する方向微分係数に関する有限な実数\begin{equation*}f_{e}^{\prime }\left( a\right) =\lim_{h\rightarrow 0}\frac{f\left(
a+he\right) -f\left( a\right) }{h}
\end{equation*}が存在します。以上の点\(a\)を念頭においた上で、それぞれの\(h\in N_{\varepsilon }\left( 0\right) \)に対して、\begin{equation*}g\left( h\right) =f\left( a+he\right)
\end{equation*}を定める変数\(h\)に関する1変数関数\begin{equation*}g:\mathbb{R} \supset N_{\varepsilon }\left( 0\right) \rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}を定義すると、方向微分と微分の関係より、この1変数関数\(g\)の点\(0\)における微分係数について、\begin{equation*}\left. \frac{dg\left( h\right) }{dh}\right\vert _{h=0}=f_{e}^{\prime }\left(
a\right)
\end{equation*}という関係が成り立ちます。つまり、多変数関数\(f\)が点\(a\)において\(e\)方向に方向微分可能である場合、1変数関数\(g\)は点\(0\)において微分可能であるとともに、点\(a\)における\(f\)の方向微分係数と点\(0\)における\(g\)の微分係数は一致するということです。1変数関数は微分可能な点において連続であるため、この場合、1変数関数である\(g\)は点\(0\)において連続です。

命題(多変数関数から生成される1変数関数の連続性)
多変数関数\(f:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} \)と定義上の点\(a\in X\)および方向ベクトル\(\mathbb{R} ^{n}\backslash \left\{ 0\right\} \)が与えられたとき、それぞれの\(h\in N_{\varepsilon }\left( 0\right) \)に対して、\begin{equation*}g\left( h\right) =f\left( a+he\right)
\end{equation*}を定める変数\(h\)に関する1変数関数\begin{equation*}g:\mathbb{R} \supset N_{\varepsilon }\left( 0\right) \rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}を定義する。多変数関数\(f\)が点\(a\)において\(e\)方向に方向微分可能であるならば、1変数関数\(g\)は点\(0\)において連続である。
例(多変数関数から生成される1変数関数の連続性)
関数\(f:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(\left( x,y\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)に対して、\begin{equation*}f\left( x,y\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
\frac{xy^{2}}{x^{2}+y^{4}} & \left( if\ \left( x,y\right) \not=\left(
0,0\right) \right) \\
0 & \left( if\ \left( x,y\right) =\left( 0,0\right) \right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとします。先に示したように、この多変数関数\(f\)は点\(\left( 0,0\right) \)において任意の方向\(\left( e_{1},e_{2}\right) \)に方向微分可能である一方で不連続です。以上の点\(\left( 0,0\right) \)を念頭においた上で、それぞれの\(h\in N_{\varepsilon }\left( 0\right) \)に対して、\begin{eqnarray*}g\left( h\right) &=&f\left( \left( 0,0\right) +h\left( e_{1},e_{2}\right)
\right) \\
&=&f\left( he_{1},he_{2}\right)
\end{eqnarray*}を定める1変数関数\(g:\mathbb{R} \supset N_{\varepsilon }\left( 0\right) \rightarrow \mathbb{R} \)を定義すると、先の命題より、この関数\(g\)は点\(0\)において連続であるはずです。実際、\(\left( e_{1},e_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\backslash \left\{ \left( 0,0\right) \right\} \)より点\(0\)の周辺の任意の点\(h\)において\(\left( he_{1},he_{2}\right) \not=\left( 0,0\right) \)であるため、\begin{eqnarray*}\lim_{h\rightarrow 0}g\left( h\right) &=&\lim_{h\rightarrow 0}f\left(
he_{1},he_{2}\right) \quad \because g\text{の定義} \\
&=&\lim_{h\rightarrow 0}\frac{\left( he_{1}\right) \left( he_{2}\right) ^{2}}{\left( he_{1}\right) ^{2}+\left( he_{2}\right) ^{4}} \\
&=&\lim_{h\rightarrow 0}\frac{h^{3}e_{2}e_{2}^{2}}{h^{2}e_{1}^{2}+h^{4}e_{2}^{4}} \\
&=&\lim_{h\rightarrow 0}\frac{he_{2}e_{2}^{2}}{e_{1}^{2}+h^{2}e_{2}^{4}} \\
&=&\frac{0}{e_{1}^{2}} \\
&=&0 \\
&=&g\left( 0\right) \quad \because g\text{の定義}
\end{eqnarray*}となるため\(g\)は点\(0\)において連続です。

 

演習問題

問題(偏微分可能性と連続性)
1変数関数\(f:\mathbb{R} \supset X\rightarrow \mathbb{R} \)は特別な多変数関数であるため(\(n=1\)の場合の多変数関数)、その方向微分可能性を検証できます。1変数関数\(f\)が定義域上の点\(a\in X\)において方向微分可能である場合、\(f\)は点\(a\)において連続であることを示してください。
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