WIIS

多変数関数の微分

多変数関数の全微分と偏微分の関係

目次

関連知識

Mailで保存
Xで共有

全微分可能な関数は偏微分可能

多変数関数\(f:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} \)が定義域上の点\(a\in X\)において全微分可能であることとは、\(f\)が点\(a\)の周辺の任意の点において定義されているとともに、\begin{equation*}\lim_{h\rightarrow 0}\frac{f\left( a+h\right) -f\left( a\right) -f^{\prime
}\left( a\right) \cdot h}{\left\Vert h\right\Vert }=0
\end{equation*}を満たすベクトル\(f^{\prime}\left( a\right) \in \mathbb{R} ^{n}\)が存在することを意味します。多変数関数\(f\)が点\(a\)において全微分可能であることを示すためには全微分係数\(f^{\prime }\left( a\right) \)の候補となるベクトルが必要ですが、それをどのように特定すればよいでしょうか。実は、多変数関数\(f\)が点\(a\)において全微分可能である場合、\(f\)はその点\(a\)において偏微分可能であることが保証されるとともに、そこでの全微分係数\(f^{\prime}\left( a\right) \)は勾配ベクトル\(\nabla f\left( a\right) \)と一致することが保証されます。

命題(全微分可能な関数は偏微分可能)
多変数関数\(f:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} \)が定義域上の点\(a\in X\)において全微分可能であるならば、\(f\)は点\(a\)において偏微分可能であり、さらに、\begin{equation*}f^{\prime }\left( a\right) =\nabla f\left( a\right)
\end{equation*}という関係が成り立つ。

証明

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

例(全微分可能な関数は偏微分可能)
多変数関数\(f:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} \)の定義域\(X\)が\(\mathbb{R} ^{n}\)上の開集合であるとともに、\(f\)は定義域\(X\)上で全微分可能であるものとします。つまり、全導関数\(f^{\prime }:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} ^{n}\)が存在するということです。先の命題より、この場合には\(f\)は\(X\)上で偏微分可能であるため、勾配ベクトル場\(\nabla f:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} ^{n}\)が存在するとともに、これは\(f^{\prime }\)と一致します。つまり、\begin{equation*}\forall x\in X:f^{\prime }\left( x\right) =\nabla f\left( x\right)
\end{equation*}が成り立つということです。

例(全微分可能な関数は偏微分可能)
関数\(f:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(\left( x,y\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)に対して、\begin{equation*}f\left( x,y\right) =xy
\end{equation*}を定めるものとします。この関数\(f\)が点\(\left(0,0\right) \)において全微分可能であるものと仮定すると、先の命題より、\(f\)は点\(\left( 0,0\right) \)において偏微分可能であるとともに、\begin{equation*}f^{\prime }\left( 0,0\right) =\nabla f\left( 0,0\right)
\end{equation*}が成り立つはずです。まずは\(f\)の偏微分可能性から検証すると、\begin{eqnarray*}\nabla f\left( 0,0\right) &=&\left( \frac{\partial f\left( 0,0\right) }{\partial x},\frac{\partial f\left( 0,0\right) }{\partial y}\right) \quad
\because \text{勾配ベクトルの定義} \\
&=&\left( \left. \frac{df\left( x,0\right) }{dx}\right\vert _{x=0},\left.
\frac{df\left( 0,y\right) }{dy}\right\vert _{y=0}\right) \quad \because
\text{偏微分と微分の関係} \\
&=&\left( \left. \frac{d}{dx}\left( x\cdot 0\right) \right\vert
_{x=0},\left. \frac{d}{dy}\left( 0\cdot y\right) \right\vert _{y=0}\right)
\quad \because f\text{の定義} \\
&=&\left( \left. \frac{d}{dx}0\right\vert _{x=0},\left. \frac{d}{dy}0\right\vert _{y=0}\right) \\
&=&\left( 0,0\right)
\end{eqnarray*}となります。以上の結果を踏まえた上で、\(f\)は点\(\left( 0,0\right) \)において全微分可能であるとともに、\begin{equation*}f^{\prime }\left( 0,0\right) =\nabla f\left( 0,0\right)
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
f^{\prime }\left( 0,0\right) =\left( 0,0\right)
\end{equation*}であることを確認します。つまり、\begin{equation*}
\lim_{\left( h_{1},h_{2}\right) \rightarrow \left( 0,0\right) }\frac{f\left(
0+h_{1},0+h_{2}\right) -f\left( 0,0\right) -\left( 0,0\right) \cdot \left(
h_{1},h_{2}\right) }{\left\Vert \left( h_{1},h_{2}\right) \right\Vert }=0
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\lim_{\left( h_{1},h_{2}\right) \rightarrow \left( 0,0\right) }\frac{h_{1}h_{2}}{\sqrt{h_{1}^{2}+h_{2}^{2}}}=0
\end{equation*}が成り立つことを示します。\(\left( h_{1},h_{2}\right) \rightarrow\left( 0,0\right) \)のときの極限をとるために極座標を導入します。つまり、\(r>0\)かつ\(0\leq \theta <2\pi \)を満たす\(\left( r,\theta \right) \in \mathbb{R} ^{2}\)を用いて、\begin{equation}h_{1}=r\cos \left( \theta \right) ,\quad h_{2}=r\sin \left( \theta \right)
\quad \cdots (1)
\end{equation}とするということです。このとき、\begin{equation}
\sqrt{h_{1}^{2}+h_{2}^{2}}\rightarrow 0\Leftrightarrow r\rightarrow 0
\quad \cdots (2)
\end{equation}という関係が成り立つことを踏まえると、\begin{eqnarray*}
\lim_{\left( h_{1},h_{2}\right) \rightarrow \left( 0,0\right) }\frac{h_{1}h_{2}}{\sqrt{h_{1}^{2}+h_{2}^{2}}} &=&\lim_{r\rightarrow 0}\frac{r^{2}\cos \left( \theta \right) \sin \left( \theta \right) }{\sqrt{r^{2}\cos
^{2}\left( \theta \right) +r^{2}\sin ^{2}\left( \theta \right) }}\quad
\because \left( 1\right) ,\left( 2\right) \\
&=&\lim_{r\rightarrow 0}\frac{r^{2}\cos \left( \theta \right) \sin \left(
\theta \right) }{\left\vert r\right\vert } \\
&=&\lim_{r\rightarrow 0}\left( r\cos \left( \theta \right) \sin \left(
\theta \right) \right) \quad \because r>0 \\
&=&0
\end{eqnarray*}となるため証明が完了しました。以上の結果は先の命題の主張と整合的です。

 

偏微分可能な関数は全微分可能であるとは限らない

先の命題の逆は成立するとは限りません。つまり、多変数関数\(f\)が定義域上の点\(a\)において偏微分可能である場合、\(f\)は点\(a\)において全微分可能であるとは限りません。そもそも多変数関数\(f\)が点\(a\)において全微分可能ではない場合、たとえ\(f\)が点\(a\)において偏微分可能であっても、そこでの勾配ベクトルは全微分係数とは一致しないということです。以下の例より明らかです。

例(偏微分可能だが全微分可能ではない関数)
関数\(f:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(\left( x,y\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)に対して、\begin{equation*}f\left( x,y\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
\frac{xy^{2}}{x^{2}+y^{4}} & \left( if\ \left( x,y\right) \not=\left(
0,0\right) \right) \\
0 & \left( if\ \left( x,y\right) =\left( 0,0\right) \right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとします。この関数\(f\)は点\(\left(0,0\right) \)において偏微分可能である一方で、点\(\left( 0,0\right) \)において全微分可能ではありません(演習問題)。

 

連続微分可能な関数は全微分可能

偏微分可能な多変数関数は全微分可能であるとは限らないことが明らかになりました。一方、多変数関数が偏微分可能であり、なおかつ偏導関数が連続であるならば、すなわち多変数関数が\(C^{1}\)級であるならば、その多変数関数は全微分可能であることが保証されます。

命題(連続微分可能な関数は全微分可能)
多変数関数\(f:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} \)が定義域の内点\(a\in X\)の周辺の任意の点において\(C^{1}\)級であるならば、\(f\)は点\(a\)において全微分可能であるとともに、\begin{equation*}f^{\prime }\left( a\right) =\nabla f\left( a\right)
\end{equation*}が成り立つ。

証明

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

例(連続微分可能な関数は全微分可能)
多変数関数\(f:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} \)の定義域\(X\)は\(\mathbb{R} ^{n}\)上の開集合であるとともに、\(f\)は定義域\(X\)上において\(C^{1}\)級であるものとします。先の命題より、この場合に\(f\)は\(X\)上において全微分可能であり、勾配ベクトル場\(\nabla f:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} ^{n}\)と全導関数\(f^{\prime }:\mathbb{R} ^{n}\supset X\rightarrow \mathbb{R} ^{n}\)は一致します。つまり、\begin{equation*}\forall x\in X:f^{\prime }\left( x\right) =\nabla f\left( x\right)
\end{equation*}が成り立つということです。

例(連続微分可能な関数は全微分可能)
関数\(f:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(\left( x,y\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)に対して、\begin{equation*}f\left( x,y\right) =x^{4}+y^{4}-4x^{2}y^{2}
\end{equation*}を定めるものとします。\(f\)は多変数の多項式関数であるため\(C^{1}\)級であり、勾配ベクトル場\(\nabla f:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} ^{2}\)はそれぞれの\(\left( x,y\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)に対して、\begin{eqnarray*}\nabla f\left( x,y\right) &=&\left( \frac{\partial f\left( x,y\right) }{\partial x},\frac{\partial f\left( x,y\right) }{\partial y}\right) \\
&=&\left( 4x^{3}-8xy^{2},4y^{3}-8x^{2}y\right)
\end{eqnarray*}を定めます。この場合、先の命題より\(f\)は全微分可能であり、全導関数\(f^{\prime }:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} ^{2}\)はそれぞれの\(\left( x,y\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)に対して、\begin{equation*}f^{\prime }\left( x,y\right) =\left( 4x^{3}-8xy^{2},4y^{3}-8x^{2}y\right)
\end{equation*}を定めます。

例(連続微分可能な関数は全微分可能)
関数\(f:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(\left( x,y\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)に対して、\begin{equation*}f\left( x,y\right) =\frac{1}{x^{2}+y^{2}+1}
\end{equation*}を定めるものとします。\(f\)は多変数の有理関数であるため\(C^{1}\)級であり、勾配ベクトル場\(\nabla f:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} ^{2}\)はそれぞれの\(\left( x,y\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)に対して、\begin{eqnarray*}\nabla f\left( x,y\right) &=&\left( \frac{\partial f\left( x,y\right) }{\partial x},\frac{\partial f\left( x,y\right) }{\partial y}\right) \\
&=&\left( -\frac{2x}{\left( x^{2}+y^{2}+1\right) ^{2}},-\frac{2y}{\left(
x^{2}+y^{2}+1\right) ^{2}}\right)
\end{eqnarray*}を定めます。この場合、先の命題より\(f\)は全微分可能であり、全導関数\(f^{\prime }:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} ^{2}\)はそれぞれの\(\left( x,y\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)に対して、\begin{equation*}f^{\prime }\left( x,y\right) =\left( -\frac{2x}{\left( x^{2}+y^{2}+1\right)
^{2}},-\frac{2y}{\left( x^{2}+y^{2}+1\right) ^{2}}\right)
\end{equation*}を定めます。

 

全微分可能な関数は連続微分可能であるとは限らない

先の命題の逆は成立するとは限りません。つまり、全微分可能な多変数関数は\(C^{1}\)級であるとは限りません。以下の例より明らかです。

例(全微分可能だが連続微分可能ではない関数)
関数\(f:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}f\left( x,y\right) =\left\{
\begin{array}{cl}
\left( x^{2}+y^{2}\right) \sin \left( \frac{1}{\sqrt{x^{2}+y^{2}}}\right) &
\left( if\ \left( x,y\right) \not=\left( 0,0\right) \right) \\
0 & \left( if\ \left( x,y\right) =\left( 0,0\right) \right)\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとします。この関数\(f\)は点\(\left(0,0\right) \)において全微分可能である一方で\(C^{1}\)級ではありません(演習問題)。

 

全微分可能であることの判定方法

これまでの議論を整理しましょう。まず、\(C^{1}\)級の多変数関数は全微分可能であることが保証されるため、多変数関数が全微分可能であることを示すためには、まず、それが\(C^{1}\)級であるか判定することになります。

ただ、\(C^{1}\)級でない関数が全微分可能であることは起こり得るため、与えられた関数が\(C^{1}\)級でないことが判明した場合でも、それが全微分可能ではないとは限りません。ただ、多変数関数\(f\)が全微分可能である場合、それは偏微分可能であることは確実であり、なおかつ、全微分係数は勾配ベクトルと一致します。したがって、勾配ベクトル\(\nabla f\left(a\right) \)を求めた上で、\begin{equation*}\lim_{h\rightarrow 0}\frac{f\left( a+h\right) -f\left( a\right) -\nabla
f\left( a\right) \cdot h}{\left\Vert h\right\Vert }=0
\end{equation*}が成り立つことを示せば、全微分可能性の定義より、\(f\)は\(a\)において全微分可能であることを示したことになります。

例(全微分可能であることの判定方法)
関数\(f:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(\left( x,y\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)に対して、\begin{equation*}f\left( x,y\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
\frac{x^{2}y^{2}}{x^{2}+y^{2}} & \left( if\ \left( x,y\right) \not=\left(
0,0\right) \right) \\
0 & \left( if\ \left( x,y\right) =\left( 0,0\right) \right)\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとします。この関数\(f\)は点\(\left(0,0\right) \)において全微分可能であることを示します。点\(\left( 0,0\right) \)における勾配ベクトルは、\begin{equation*}\nabla f\left( 0,0\right) =\left( 0,0\right)
\end{equation*}であるため(演習問題)、仮に\(f\)が点\(\left(0,0\right) \)において全微分可能であるならば、\begin{equation*}\lim_{\left( h_{1},h_{2}\right) \rightarrow \left( 0,0\right) }\frac{f\left(
0+h_{1},0+h_{2}\right) -f\left( 0,0\right) -\nabla f\left( 0,0\right) \cdot
\left( h_{1},h_{2}\right) }{\left\Vert \left( h_{1},h_{2}\right) \right\Vert
}=0
\end{equation*}が成り立つはずですが、実際にはこれは成り立つため(演習問題)、\(f\)は点\(\left( 0,0\right) \)において全微分可能です。

 

全微分可能でないことの判定方法

多変数関数\(f\)が定義域上の点\(a\)において全微分可能である場合、\(f\)は点\(a\)において偏微分可能です。対偶より、\(f\)が点\(a\)において偏微分可能でないならば、すなわち\(f\)が点\(a\)において少なくとも1つの変数\(x_{k}\)について偏微分可能でない場合には、\(f\)は点\(a\)において全微分可能ではありません。したがって、関数が全微分可能でないことを示すためには、それが偏微分可能ではないことを示せばよいということになります。

例(全微分可能でないことの判定方法)
関数\(f:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(\left( x,y\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)に対して、\begin{equation*}f\left( x,y\right) =\sqrt{x^{2}+y^{2}}
\end{equation*}を定めるものとします。この関数\(f\)が点\(\left(0,0\right) \)において全微分可能でないことを示すために、\(f\)が\(\left( 0,0\right) \)において変数\(x\)に関して偏微分可能でないことを示します。具体的には、\begin{eqnarray*}\frac{f\left( 0+h,0\right) -f\left( 0,0\right) }{h} &=&\frac{f\left(
h,0\right) -f\left( 0,0\right) }{h} \\
&=&\frac{\sqrt{h^{2}}}{h} \\
&=&\frac{\left\vert h\right\vert }{h}
\end{eqnarray*}となるため、\begin{eqnarray*}
\lim_{h\rightarrow 0+}\frac{f\left( 0+h,0\right) -f\left( 0,0\right) }{h}
&=&\lim_{h\rightarrow 0+}\frac{\left\vert h\right\vert }{h}=1 \\
\lim_{h\rightarrow 0-}\frac{f\left( 0+h,0\right) -f\left( 0,0\right) }{h}
&=&\lim_{h\rightarrow 0-}\frac{\left\vert h\right\vert }{h}=-1
\end{eqnarray*}となり両者は異なるため、\(f\)は点\(\left( 0,0\right) \)において変数\(x\)に関して偏微分可能ではありません。したがって\(f\)は\(\left( 0,0\right) \)において全微分可能でないことが示されました。

関数\(f\)が定義域上の点\(a \)において全微分可能でないことを証明する際に、先の命題を別の形で利用することもできます。具体的には、まず、関数\(f\)が定義域上の点\(a\)において全微分可能であるものと仮定します。すると先の命題より、そこでの全微分係数\(f^{\prime }\left( a\right) \)は勾配ベクトル\(\nabla f\left( a\right) \)と一致することが保証されます。すると全微分の定義より、\begin{equation*}\lim_{h\rightarrow 0}\frac{f\left( a+h\right) -f\left( a\right) -\nabla
f\left( a\right) \cdot h}{\left\Vert h\right\Vert }=0
\end{equation*}が成り立つはずです。したがって、上の関係が成り立たないことを示せば、\(f\)は\(a\)において全微分可能でないことを示したことになります。

例(全微分可能でないことの判定方法)
関数\(f:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(\left( x,y\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)に対して、\begin{equation*}f\left( x,y\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
\frac{xy^{2}}{x^{2}+y^{2}} & \left( if\ \left( x,y\right) \not=\left(
0,0\right) \right) \\
0 & \left( if\ \left( x,y\right) =\left( 0,0\right) \right)\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとします。この関数\(f\)は点\(\left(0,0\right) \)において全微分可能でないことを示します。点\(\left( 0,0\right) \)における勾配ベクトルは、\begin{equation*}\nabla f\left( 0,0\right) =\left( 0,0\right)
\end{equation*}であるため(演習問題)、仮に\(f\)が点\(\left(0,0\right) \)において全微分可能であるならば、\begin{equation*}\lim_{\left( h_{1},h_{2}\right) \rightarrow \left( 0,0\right) }\frac{f\left(
0+h_{1},0+h_{2}\right) -f\left( 0,0\right) -\nabla f\left( 0,0\right) \cdot
\left( h_{1},h_{2}\right) }{\left\Vert \left( h_{1},h_{2}\right) \right\Vert
}=0
\end{equation*}が成り立つはずですが、実際にはこれは成り立たないため(演習問題)、\(f\)は点\(\left(0,0\right) \)において全微分可能ではありません。

 

演習問題

問題(多変数関数の全微分)
関数\(f:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(\left( x,y\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)に対して、\begin{equation*}f\left( x,y\right) =\sin \left( x^{2}y^{2}\right)
\end{equation*}を定めるものとします。全導関数\(f^{\prime }\)を求めてください。
解答を見る

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

問題(偏微分可能だが全微分可能ではない関数)
関数\(f:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(\left( x,y\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)に対して、\begin{equation*}f\left( x,y\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
\frac{xy^{2}}{x^{2}+y^{4}} & \left( if\ \left( x,y\right) \not=\left(
0,0\right) \right) \\
0 & \left( if\ \left( x,y\right) =\left( 0,0\right) \right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとします。この関数\(f\)は点\(\left(0,0\right) \)において偏微分可能である一方で、点\(\left( 0,0\right) \)において全微分可能ではないことを示してください。
解答を見る

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

問題(全微分と偏微分の関係)
関数\(f:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}f\left( x,y\right) =\left\{
\begin{array}{cl}
\left( x^{2}+y^{2}\right) \sin \left( \frac{1}{\sqrt{x^{2}+y^{2}}}\right) &
\left( if\ \left( x,y\right) \not=\left( 0,0\right) \right) \\
0 & \left( if\ \left( x,y\right) =\left( 0,0\right) \right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとします。この関数\(f\)は点\(\left(0,0\right) \)において全微分可能である一方で\(C^{1}\)級ではないことを示してください。
解答を見る

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

問題(全微分と偏微分の関係)
関数\(f:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(\left( x,y\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)に対して、\begin{equation*}f\left( x,y\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
\frac{x^{2}y^{2}}{x^{2}+y^{2}} & \left( if\ \left( x,y\right) \not=\left(
0,0\right) \right) \\
0 & \left( if\ \left( x,y\right) =\left( 0,0\right) \right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとします。この関数\(f\)は点\(\left(0,0\right) \)において全微分可能であるかどうか、理由とともに答えてください。
解答を見る

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

問題(全微分と偏微分の関係)
関数\(f:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(\left( x,y\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)に対して、\begin{equation*}f\left( x,y\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
\frac{xy^{2}}{x^{2}+y^{2}} & \left( if\ \left( x,y\right) \not=\left(
0,0\right) \right) \\
0 & \left( if\ \left( x,y\right) =\left( 0,0\right) \right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとします。この関数\(f\)は点\(\left(0,0\right) \)において全微分可能であるかどうか、理由とともに答えてください。
解答を見る

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

問題(全微分と偏微分の関係)
関数\(f\)が定義域上の点\(a\)において全微分可能である場合、\(f\)は点\(a\)において偏微分可能であるとともに連続です。一方、\(f\)が点\(a\)において偏微分可能であるとき、\(f\)は点\(a\)において全微分可能であるとは限りません。加えて、\(f\)が点\(a\)において連続であるとき、\(f\)は点\(a\)において全微分可能であるとは限りません。では、\(f\)が点\(a\)において偏微分可能かつ連続である場合、\(f\)は点\(a\)において全微分可能であることを保証できるでしょうか。この主張は成り立ちません。関数\(f:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(\left( x,y\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)に対して、\begin{equation*}f\left( x,y\right) =\left( xy\right) ^{\frac{1}{3}}
\end{equation*}を定めるものとします。この関数\(f\)は点\(\left(0,0\right) \)において偏微分可能かつ連続である一方で全微分可能ではないことを証明してください。
解答を見る

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

関連知識

Mailで保存
Xで共有

質問とコメント

プレミアム会員専用コンテンツです

会員登録

有料のプレミアム会員であれば、質問やコメントの投稿と閲覧、プレミアムコンテンツ(命題の証明や演習問題とその解答)へのアクセスなどが可能になります。

ワイズのユーザーは年齢・性別・学歴・社会的立場などとは関係なく「学ぶ人」として対等であり、お互いを人格として尊重することが求められます。ユーザーが快適かつ安心して「学ぶ」ことに集中できる環境を整備するため、広告やスパム投稿、他のユーザーを貶めたり威圧する発言、学んでいる内容とは関係のない不毛な議論などはブロックすることになっています。詳細はガイドラインをご覧ください。

誤字脱字、リンク切れ、内容の誤りを発見した場合にはコメントに投稿するのではなく、以下のフォームからご連絡をお願い致します。

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録