写像はある集合のそれぞれの要素に対して別の集合の要素を1つずつ定める規則であるのに対し、対応はある集合のそれぞれの要素に対して別の集合の部分集合(その集合の複数の要素)を定める規則です。
対応はとりわけ経済学において頻繁に利用されます。経済学では経済主体が直面する問題を「制約条件のもとで目的関数を最大化する制約付き最大化問題」として定式化しますが、そのような問題に解が存在することを保証したり、その解が望ましい性質を満たすことを示すためにベルジュの最大値定理を利用します。この問題の制約条件は対応を用いて定式化されます。
もう一つの代表的な応用例は不動点定理です。不動点定理には様々なバリエーションが存在しますが、角谷の不動点定理は対応が不動点定理を持つための条件を明らかにしています。ジョン・ナッシュは広範なクラスのゲームにナッシュ均衡が存在することを証明する際に角谷の不動点定理を利用しました。また、アローとドブリューは経済に一般均衡が存在することを示す際に角谷の不動点定理を利用しました。
ある集合のそれぞれの要素に対して、別の集合の部分集合を1つずつ定める規則を対応と呼びます。
集合Aから集合Bへの対応fが与えられたとき、Aの要素とBの要素を成分とする順序対(a,b)の中でもa∈f(b)を満たすようなものを集めてできる集合を対応fのグラフと呼びます。
対応が終集合の要素に対して定める像、終集合の部分集合に対して定める上逆像(強逆像)、同じく終集合の部分集合に対して定める下逆像(弱逆像)などについて解説します。
集合 X から集合 Y への対応 f:X↠Y が与えられたとき、Y のそれぞれの要素 y に対してその逆像 f⁻¹(y) を定める対応が定義可能です。そのような対応 f⁻¹:Y↠X を f の逆対応と呼びます。
対応の連続性を定義します。これは写像の連続性を一般化した概念です。
位相が設定された集合A,Bの間に定義された対応f:A→Bについて、それが定義域上の点において上連続であること、下連続であること、そして連続であることの意味をそれぞれ定義します。これらは写像の連続性を一般化した概念です。
対応の連続性(上半連続性・下半連続性)の概念は、対応が終集合の部分集合に対して定める上逆像や下逆像が満たすべき位相的性質として表現することが可能です。
対応が閉グラフを持つことと、その対応が閉じていることは必要十分です。また、閉グラフを持つ対応の終集合がコンパクト集合である場合、その対応は上半連続になることが保証されます。
目的関数が連続関数であり、制約対応が非空値かつコンパクト値を連続対応である場合、制約付き最大化問題の価値関数は連続な実数値関数になるとともに、最適選択対応は非空値かつコンパクト値をとる上半連続対応になることが保証されます。
コンパクト集合上に定義された上半連続な関数は定義域上において最大値をとります(最大値の定理)。また、コンパクト集合上に定義された下半連続な関数は定義域上において最小値をとります(最小値の定理)。
パラメータの値が与えられたときに、その値のもとで定まる制約集合と目的関数から制約付き最大化問題と呼ばれる問題を定義します。また、それに関連して、価値関数や最適選択対応、選択子などの概念を定義します。
目的関数が連続であるとともに制約対応が非空値かつコンパクト値をとる連続対応である場合、価値関数は連続な実数値関数になるとともに、最適選択対応は非空値かつコンパクト値をとる上半連続対応になります。これをベルジュの最大値定理と呼びます。