対応
集合\(A\)のそれぞれの要素に対して集合\(B\)の部分集合を1つずつ定める規則を\(A\)から\(B\)への対応(correspondence)と呼び、これを、\begin{equation*}f:A\twoheadrightarrow B
\end{equation*}で表します。また、\(A\)を\(f\)の始集合(initial set)と呼び、\(B\)を\(f\)の終集合(final set)と呼びます。
対応\(f:A\twoheadrightarrow B\)が与えられたとき、始集合\(A\)の要素\(a\)を任意に選ぶと、\(f\)はそれに対して終集合\(B\)の部分集合を1つだけ定めます。これを\(f\)による\(a\)の像(image)と呼び、\(f\left( a\right) \)と表記します。
対応\(f:A\twoheadrightarrow B\)がそれぞれの要素\(a\in A\)に対して\(B\)の部分集合\(f\left( a\right) \)を定めることは、\(f\left( a\right) \)に属する\(B\)の複数の要素を定めることと実質的に同じです。そのような事情もあり、対応を多価関数(multivalued function)と呼ぶこともあります。
対応\(f:A\twoheadrightarrow B\)がそれぞれの要素\(a\in A\)に対して定める像\(f\left( a\right) \)は\(B\)の要素ではなく\(B\)の部分集合であることから、これは終集合が\(B\)のすべての部分集合からなるベキ集合\(2^{B}\)であるような写像\(f:A\rightarrow2^{B} \)と同一視できます。このような事情もあり、対応を集合関数(set function)と呼ぶこともあります。
\begin{array}{cc}
\left\{ 0\right\} & if\ x<1 \\
\left[ 0,1\right] & if\ x=1\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとします。始集合\(\left[ 0,1\right] \)の任意の点\(x\)の像\(f\left( x\right) \)は終集合\(\left[ 0,1\right] \)の部分集合であるため、この\(f\)は対応です。一方、\(g:\mathbb{R} \supset \left[ 0,1\right] \twoheadrightarrow \left[ 0,1\right] \)はそれぞれの\(x\in \left[ 0,1\right] \)に対して、\begin{equation*}g\left( x\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
0 & if\ x<1 \\
\left[ 0,1\right] & if\ x=1\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとします。例えば、始集合\(\left[ 0,1\right] \)の点\(0\)に関して\(g\left( 0\right) =0\)となりますが、これは終集合\(\left[ 0,1\right] \)の部分集合ではなく要素であるため、この\(f\)は対応ではありません。
\end{equation*}を像として定める対応\(g:A\twoheadrightarrow B\)が定義可能です。1点集合\(\left\{ f\left( a\right)\right\} \)とそこに属する1つの要素\(f\left( a\right) \)を同一視すれば上の写像\(f\)と対応\(g\)は実質的に等しくなります。
対応\(f:A\twoheadrightarrow B\)は\(A\)のそれぞれの要素に対して\(b\)の部分集合を1つずつ定める規則です。ただし、空集合は任意の集合の部分集合であるため、\(A\)のある要素\(a\)に対して\(f\left( a\right) =\phi \)が成り立つ場合にも\(f\)は\(A\)から\(B\)への対応です。ちなみに、対応\(f:A\twoheadrightarrow B\)が要素\(a\in X\)に対して、\begin{equation*}f\left( a\right) \not=\phi
\end{equation*}を満たすとき、\(f\)は点\(a\)において非空値をとる(nonempty-valued at \(a\))と言います。また、\begin{equation*}\forall a\in A:f\left( a\right) \not=\phi
\end{equation*}が成り立つとき、\(f\)は非空値をとる(nonempty-valued)と言います。
対応\(f:A\twoheadrightarrow B\)が与えられたとき、始集合\(A\)に属する「異なる」要素\(a,a^{\prime }\)を任意に選びそれらの像\(f\left( a\right) ,f\left( a^{\prime}\right) \)をとると、それらは一致するとは限りませんし、逆に、一致しても構いません。どちらの場合でも対応の定義には抵触しないため、何も問題ありません。
繰り返しになりますが、対応\(f:A\twoheadrightarrow B\)は始集合\(A\)のそれぞれの要素\(a\)に対して終集合\(B\)の部分集合である\(f\left(a\right) \)を1つずつ定めるものでなければなりません。一方、\(B\)の要素\(b\)を任意に選ぶと、それに対して\(b\in f\left( a\right) \)を満たす\(A\)の要素\(a\)は存在するとは限りませんが、その場合にも対応の定義には抵触しないため問題ありません。
対応\(f:A\twoheadrightarrow B\)の始集合\(A\)と終集合\(B\)は一致するとは限りませんし、逆に、一致しても構いません。どちらの場合でも対応の定義には抵触しないため、何も問題ありません。
等しい対応
2つの対応\(f:A\twoheadrightarrow B\)と\(g:C\twoheadrightarrow D\)が与えられたとき、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ A=C \\
&&\left( b\right) \ B=D \\
&&\left( c\right) \ \forall a\in A:f\left( a\right) =g\left( a\right)
\end{eqnarray*}がすべて成り立つ場合には、\(f\)と\(g\)は等しい(equal)といい、そのことを、\begin{equation*}f=g
\end{equation*}と表記します。つまり、2つの対応\(f,g\)が等しいとは、それらの始集合どうし、終集合どうしがそれぞれ一致するとともに、始集合のそれぞれの要素に対して\(f\)が定める像と\(g\)が定める像が常に一致することを意味します。
g\left( x\right) &=&\left\{ y\in \mathbb{R} \ |\ y\leq \left\vert x\right\vert \right\}
\end{eqnarray*}を定めるものとします。これらの対応の始集合はすべての実数からなる集合\(\mathbb{R} \)ではなく、すべての非負の実数からなる集合\(\mathbb{R} _{+}\)であることに注意してください。任意の非負の実数\(x\)に対して\(x=\left\vert x\right\vert \)が成り立つことから\(f\left( x\right) =g\left( x\right) \)であるため、\(f\)と\(g\)は等しい対応です。
逆に、2つの対応\(f:A\twoheadrightarrow B\)と\(g:C\twoheadrightarrow D\)に対して先の\(\left( a\right) ,\left( b\right) ,\left(c\right) \)の中の少なくとも1つの条件が成り立たない場合、\(f\)と\(g\)は異なる(not equal)といい、そのことを、\begin{equation*}f\not=g
\end{equation*}と表記します。
g\left( x\right) &=&\left\{ y\in \mathbb{R} \ |\ y\leq \left\vert x\right\vert \right\}
\end{eqnarray*}を定めるものとします。\(f\)と\(g\)は始集合と終集合を共有しますが、始集合の要素である\(-1\)に注目すると、\begin{eqnarray*}f\left( -1\right) &=&\left\{ y\in \mathbb{R} \ |\ y\leq -1\right\} =(-\infty ,-1] \\
g\left( -1\right) &=&\left\{ y\in \mathbb{R} \ |\ y\leq \left\vert -1\right\vert \right\} =(-\infty ,1] \end{eqnarray*}となり両者は異なるため、\(f\)と\(g\)は異なる対応です。
演習問題
\begin{array}{cc}
\left( 0,1\right) & if\ x<1 \\
\phi & if\ x=1\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとします。この\(f\)は対応でしょうか。理由とともに答えてください。
\end{equation*}を定める対応\(f:\mathbb{R} _{++}^{n}\times \mathbb{R} _{++}\twoheadrightarrow \mathbb{R} _{+}^{n}\)は非空値をとることを証明してください。
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