空集合

要素を1つも持たない集合を空集合と呼びます。空集合を特徴づける論理式は恒偽式です。空集合は任意の集合の部分集合です。

空集合

これまで扱ってきた集合はいずれも少なくとも1つ以上の要素を持っていました。しかし、条件によっては、その条件を満たす対象が1つも存在しないことがあります。このような場合にも、「条件を満たす対象全体からなる集合」という考え方を統一的に維持するため、要素を1つも持たない集合を導入します。この集合を空集合と呼びます。

集合論では、要素を1つも持たないものも集合とみなします。要素を1つも持たない集合を空集合(empty set)と呼び、これを、\begin{equation*}
\phi
\end{equation*}で表記します。

空集合\(\phi \)は要素を1つも持たない集合であるため、全体集合\(U\)の任意の要素は\(\phi \)の要素ではありません。つまり、以下の全称命題\begin{equation*}\forall x\in U:x\not\in \phi
\end{equation*}が成り立ちます。

空集合を外延的表記で表すと、\begin{equation*}
\{\ \}
\end{equation*}となります。\(\{\phi \}\)ではありません。なぜなら、\(\left\{ \phi \right\} \)は空集合\(\phi \)という集合を要素として持つ集合であり、空集合ではないからです。

例(空集合)
奇数であると同時に偶数でもあるような整数からなる集合は空集合です。なぜなら、それぞれの整数は必ず奇数または偶数のどちらか一方だからです。

例(空集合)
すべての月は31日以下です。したがって、32日ある月からなる集合は空集合です。

 

空集合の内包的表現

全体集合が\(U\)である状況を想定します。何らかの集合\(A\)を内包的に表現することは、何らかの命題関数\(P\left(x\right) \)を導入した上で、全体集合\(U\)に属する要素の中でも命題\(P\left( x\right) \)が真になるようなものからなる集合\begin{equation*}A=\left\{ x\in U\ |\ P\left( x\right) \right\}
\end{equation*}として\(A\)を定義することを意味します。つまり、集合\(A\)を命題関数\(P\left( x\right) \)を用いて内包的に表現する場合、全体集合\(U\)は変数\(x\)の定義域と一致します。

では、空集合\(\phi \)はどのような形で内包的に表現できるでしょうか。空集合\(\phi \)もまた何らかの命題関数\(Q\left( x\right) \)を用いて、\begin{equation*}\phi =\left\{ x\in U\ |\ Q\left( x\right) \right\}
\end{equation*}という形で表現されるものとします。このとき、\(x\in U\)を任意に選ぶと、\begin{equation*}x\in \phi \Leftrightarrow Q\left( x\right)
\end{equation*}という関係が成り立ちます。空集合は要素を持たない集合であるため\(x\in \phi \)は恒偽式であり、したがってそれと必要十分な命題関数\(Q\left( x\right) \)もまた恒偽式です。以上を踏まえると、空集合\(\phi \)を定義する命題関数\(Q\left( x\right) \)は恒偽式\(\bot \)であり、したがって、空集合を、\begin{equation*}\phi =\left\{ x\in U\ |\ \bot \right\}
\end{equation*}という形で表現できます。つまり、空集合とは「条件を満たすものが存在しない」という状況を集合として表現する手段です。

集合\(A\)を任意に選びます。加えて、この集合\(A\)は命題関数\(P\left( x\right) \)を用いて、\begin{equation}A=\left\{ x\in U\ |\ P\left( x\right) \right\} \quad \cdots (1)
\end{equation}と内包的に定義されているものとします。先の議論より、空集合\(\phi \)を内包的に表現すると、\begin{equation}\phi =\left\{ x\in U\ |\ \bot \right\} \quad \cdots (2)
\end{equation}となります。このとき、任意の\(x\in U\)について、\begin{eqnarray*}x\in \phi &\Leftrightarrow &\bot \quad \because \left( 2\right) \\
&\Leftrightarrow &P\left( x\right) \wedge \bot \quad \because \text{恒等律} \\
&\Rightarrow &P\left( x\right) \\
&\Leftrightarrow &x\in A\quad \because \left( 1\right)
\end{eqnarray*}となるため、\begin{equation*}
\phi \subset A
\end{equation*}を得ます。以上により、空集合\(\phi \)は任意の集合の部分集合であることが明らかになりました。

例(空集合)
全体集合が\(U\)であるとき、集合\(A\)を、\begin{equation*}A=\left\{ x\in U\ |\ x\not=x\right\}
\end{equation*}と定義します。命題関数\begin{equation*}
x\not=x
\end{equation*}は恒偽式であるため、この集合\(A\)は空集合です。つまり、\begin{equation*}A=\phi
\end{equation*}が成り立ちます。

 

空集合であることは全体集合に依存する

空集合とは、全体集合の中で条件を満たす要素が一つも存在しない集合です。そのため、同じ条件を用いて集合を定義したとしても、全体集合が変われば、その集合が空集合になる場合とならない場合があります。以下の例より明らかです。

例(空集合)
以下の集合を考えます。\begin{equation*}
A=\left\{ x\in \mathbb{Z} \ |\ x\text{は無理数である}\right\}
\end{equation*}ここでの全体集合\(\mathbb{Z} \)は整数全体からなる集合です。整数の中には無理数は1つも存在しないため、\begin{equation*}A=\phi
\end{equation*}を得ます。続いて、以下の集合を考えます。\begin{equation*}
B=\left\{ x\in \mathbb{R} \ |\ x\text{は無理数である}\right\}
\end{equation*}ここでの全体集合\(\mathbb{R} \)は実数全体からなる集合です。\(\sqrt{2}\)や\(\pi \)などの無理数が存在するため、\begin{equation*}B\not=\phi
\end{equation*}を得ます。このように、「\(x\)は無理数である」という条件そのものは全く同じであるにもかかわらず、全体集合が異なるだけで、一方は空集合となり、もう一方は空集合ではなくなります。

以上の例が示唆するように、以下のように定義される集合\begin{equation*}
\left\{ x\in X\ |\ P\left( x\right) \right\}
\end{equation*}は、命題関数\(P\left( x\right) \)だけでなく、全体集合\(U\)にも依存します。空集合であるかを判定する際には条件\(P\left( x\right) \)だけを見るのではなく、変数\(x\)の定義域\(X\)にも注意する必要があります。

 

演習問題

問題(空集合)
以下の集合の中に空集合は存在するでしょうか。理由とともに答えてください。\begin{eqnarray*}
A &=&\left\{ x\in \mathbb{Z} \ |\ x^{2}=9\wedge 2x=4\right\} \\
B &=&\left\{ x\in \mathbb{Z} \ |\ x+1=1\right\} \\
C &=&\left\{ x\in \mathbb{Z} \ |\ x\not=x\right\}
\end{eqnarray*}ただし、\(\mathbb{Z} \)はすべての整数からなる集合です。
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問題(空集合)
集合\(\phi ,\{\phi \},\{0\},\left\{ \ \right\} \)の中に等しいものは存在するでしょうか。理由とともに述べてください。
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問題(空集合)
以下の関係\begin{equation*}
\left\{ \phi \right\} =\left\{ \left\{ \ \right\} \right\}
\end{equation*}は成り立つでしょうか。

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問題(ゼロと空集合は違う)
「\(0\)と\(\phi \)は違う」ことを説明してください。
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問題(空集合)
空集合\(\phi \)に関する以下の主張について、それが成り立つ場合には証明を行い、成り立たない場合には反例を提示してください。

  1. 空集合\(\phi \)は任意の集合の部分集合である。
  2. 空集合\(\phi \)の部分集合であるような集合は存在しない。
  3. 空集合\(\phi \)の部分集合は\(\phi \)だけである。
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問題(空集合は1つのみ)
空集合はただ1つしか存在しないことを証明してください。

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問題(部分集合の個数)
集合\(A\)が有限\(n\)個の要素を持つとき、\(A\)の部分集合としては\(2^{n}\)通りが、\(A\)の真部分集合としては\(2^{n}-1\)通りが存在することをそれぞれ証明してください。
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