ラッセルのパラドクス

命題関数の真理集合として集合を定義するアプローチはラッセルのパラドクスと呼ばれる問題を引き起こします。このような問題を解消する一つの方法は、集合という概念を公理から定義するというものです。
命題関数の真理集合として集合を定義するアプローチはラッセルのパラドクスと呼ばれる問題を引き起こします。そこで、公理主義のもとで集合を定義するアプローチを採用する場合があります。
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ラッセルのパラドクス

これまでは命題関数の真理集合として集合を定義するアプローチを採用しましたが、実は、このようなアプローチはラッセルのパラドクス(Russell’s paradox)と呼ばれる問題を引き起こします。

全体集合\(U\)は「あらゆる集合を要素として持つ集合」であるものとします。つまり、任意の\(x\)について、\begin{equation}
x\in U\ \Leftrightarrow \ x\text{は集合} \tag{1}
\end{equation}を満たすものとして\(U\)を定義するということです。

集合\(R\subset U\)を、変数\(x\in U\)に関する命題関数\(x\not\in x\)を用いて、\begin{equation}
R=\left\{ x\in U\ |\ x\not\in x\right\} \tag{2}
\end{equation}と内包的に定義します。このような集合をラッセル集合(Russel set)と呼びます。

ラッセル集合\(R\)の定義より、任意の\(x\in U\)について、\begin{equation}
x\in R\ \Leftrightarrow \ x\not\in x \tag{3}
\end{equation}という関係が成り立ちます。つまり、集合\(x\)を任意に選んだとき、\(x\)が\(R\)の要素であることと、\(x\)が\(x\)自身の要素でないことは必要十分です。\(\left( 3\right) \)が成り立つとき、両辺の否定をとった、\begin{equation}
x\not\in R\ \Leftrightarrow \ x\in x \tag{4}
\end{equation}も成り立ちます。つまり、集合\(x\)を任意に選んだとき、\(x\)が\(R\)の要素でないことと、\(x\)が\(x\)自身の要素であることは必要十分です。

ラッセル集合\(R\)は集合であるため、\(U\)の定義である\(\left( 1\right) \)より\(R\in U\)が成り立ちます。\(R\)は\(U\)の部分集合であるため、\(U\)の要素である\(R\)は、\(U\)の部分集合である\(R\)の要素であるか否かのどちらか一方です。まず、\(R\in R\)が成り立つ場合、\(\left( 3\right) \)より\(R\not\in R\)となるため矛盾です。一方、\(R\not\in R\)が成り立つ場合、\(\left( 4\right) \)より\(R\in R\)となるため矛盾です。したがって、\(\left( 2\right) \)のように命題関数から集合を定義する手法には問題があることが明らかになりました。

例(ラッセルのパラドクス)
全体集合\(U\)は「自分でヒゲを剃らないすべての人のヒゲを剃り、自分でヒゲを剃るすべての人のヒゲを剃らない理容師からなる集合」であるものとします。集合\(A\subset U\)を、\begin{equation*}
A=\left\{ x\in U\ |\ x\text{は自分のヒゲを剃らない}\right\}
\end{equation*}と内包的に定義すると矛盾が生じます(演習問題にします)。この問題は理容師のパラドクス(Barber paradox)として知られています。

 

公理主義的集合論

ラッセルのパラドクスを回避する 1 つの方法は、集合という概念を公理主義的に定義するというものです。つまり、あらかじめいくつかの命題を公理として定め、それらの公理をすべて満たす対象だけを集合として認めるというアプローチです。その中でも典型的なものはZF集合論、すなわちツェルメロ=フレンケル集合論(Zermelo-Fraenkel set theory)です。ZF集合論においてラッセルのパラドクスがいかにして回避されるか、そのエッセンスを以下で紹介します。

ZF公理論では、集合という概念が満たすべき条件を複数の公理として定めますが、その中でもラッセルのパラドクスに関係あるのは分出公理(Axiom schema of separation)と呼ばれる公理です。これは、ZF公理系を満たす集合\(A\)と命題関数\(P\left( x\right) \)をそれぞれ任意に選んだとき、\begin{equation*}
B=\left\{ x\in A\ |\ P\left( x\right) \right\}
\end{equation*}と定義される\(B\)もまた集合であるものと定める、という公理です。

分出公理における\(P\left( x\right) \)は任意の命題関数であるため、ラッセル集合を規定する命題関数\(x\in x\)を\(P\left( x\right) \)として採用することもできます。また、分出公理における\(A\)はZF公理系を満たす集合であれば何でもよいのですが、ここではラッセル集合を規定する全体集合\(U\)である「あらゆる集合を要素として持つ集合」を採用します。つまり、このような全体集合\(U\)をZF公理系を満たす集合と仮定して以降の話を進めるということです。このとき、分出公理より、\begin{equation*}
B=\left\{ x\in U\ |\ x\not\in x\right\}
\end{equation*}と定義される\(B\)は集合です。この\(B\)はラッセル集合に他なりません。\(B\)の定義より、任意の\(x\in U\)について、\begin{equation}
x\in B\ \Leftrightarrow \ x\not\in x \tag{1}
\end{equation}や、\begin{equation}
x\not\in B\ \Leftrightarrow \ x\in x \tag{2}
\end{equation}など成り立ちます。

繰り返しになりますが、分出公理より\(B\)は集合です。したがって、\(U\)の定義より、\(B\)は\(U\)の要素です。一方、\(B\)の定義より、\(B\)は\(U\)の部分集合です。\(U\)の要素である\(B\)は、\(U\)の部分集合である\(B\)の要素であるか否かのどちらか一方です。\(B\in B\)の場合には\(\left( 1\right) \)より\(B\not\in B\)となり矛盾です。\(B\not\in B\)の場合には\(\left( 2\right) \)より\(B\in B\)となり矛盾です。いずれの場合も矛盾が導かれたということは、当初の仮定である「\(U\)がZF公理系を満たす集合である」が誤りであることを意味します。

つまり、ZF公理系のもとでは、全体集合\(U\)は集合とみなされません。\(U\)が集合とみなされないのですから、上の議論中の\(B\)のような集合、すなわちラッセル集合を定義することもできません。つまり、ZF公理系のもとでは、ラッセル集合は集合とみなされないため、ラッセルのパラドクスが起こり得ません。

議論の結論をまとめましょう。命題関数を用いて集合を無批判に定義するとラッセルのパラドクスが生じてしまいます。一方、公理主義的集合論のもとでは、そのような問題は回避できます。ただ、本稿で行う議論の範囲では、命題関数から集合を定義するアプローチを採用しても問題は起こらないため、引き続きそのようなアプローチを採用します。

次回から集合演算について学びます。

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