集合と外延的表記
数学では、数・図形・関数・ベクトル・行列など、さまざまな対象を扱います。一見するとそれぞれ全く異なる概念のように思えますが、実際には、それらを「対象の集まり」として捉えることで、多くのことを共通の言葉で記述できます。そのため、この「対象の集まり」を表す集合という概念は、現代数学の最も基本的な概念の一つとなっています。
集合論は、数学の土台となる理論です。大学で学ぶ実数論、位相空間論、線形代数学、解析学、確率論など、ほぼすべての数学分野は集合の概念を前提として構築されています。また、論理学との結び付きも深く、集合を命題関数の真理集合として捉えることで、集合に関する議論を述語論理によって厳密に表現できるようになります。
本節では、まず集合の基本的な考え方と表記法を学びます。その後、部分集合、集合の相等、全体集合といった基本概念を導入し、それらを論理学の言葉でどのように表現できるかを学びます。集合論の基礎を理解することは、その後に学ぶ数学全体を理解するための第一歩となります。
与えられた条件を満たす対象をすべて集めたものを集合(set)と呼びます。多くの場合、個々の集合をアルファベットの大文字\begin{equation*}
A,B,C,\cdots
\end{equation*}を用いて表記します。
集合\(A\)に属する個々の対象を\(A\)の要素(element)や元などと呼びます。\(a\)が集合\(A\)の要素であることを、\begin{equation*}a\in A
\end{equation*}と表記し、\(a\)が集合\(A\)の要素でないことを、\begin{equation*}a\not\in A
\end{equation*}と表記します。記号\(\in \)は古代ギリシア語の「\(\varepsilon \sigma \tau \iota \)(である)」に由来し、イタリアの数学者ジュゼッペ・ペアノ(Guseppe Peano)によって導入されました。
集合\(A\)に属する要素と集合\(B\)に属する要素が完全に一致する場合、\(A\)と\(B\)は等しい(equal)といい、そのことを、\begin{equation*}A=B
\end{equation*}と表記します。
集合を表現する際に、その要素を具体的に列挙する方法を外延的表記(extensive notation)や名簿表記(roster notation)などと呼びます。例えば、集合\(A\)の要素が\(1,2,3\)という3つの数字である場合には、そのことを、\begin{equation*}A=\{1,2,3\}
\end{equation*}と表記します。つまり、集合の要素をコンマ\(,\)で区切って並べた上で、それらを括弧\(\{\ \}\)で囲みます。
\end{equation*}となります。例えば、\begin{eqnarray*}
2 &\in &A \\
3 &\not\in &A \\
10 &\in &A
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。
\end{equation*}となります。例えば、\begin{eqnarray*}
\text{東京} &\in &A \\
\text{北海道} &\not\in &A \\
\text{神奈川} &\in &A
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。
集合が数多くの要素を持つ場合など、すべての要素を列挙することが不可能ではあるものの、残りの要素が文脈から明らかである場合には省略記号\(\cdots \)を利用します。例えば、集合\(A\)がすべての自然数を要素として持つ場合、すべての自然数を列挙することは不可能であるため、\begin{equation*}A=\{1,2,3,\cdots \}
\end{equation*}などと表記します。ここでは\(4\)以上のすべての自然数を省略記号\(\cdots \)を用いて表現しています。
\end{equation*}となります。例えば、\begin{eqnarray*}
16 &\in &A \\
-5 &\not\in &A \\
\frac{1}{2} &\not\in &A
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。
\end{equation*}となります。例えば、\begin{eqnarray*}
\text{東京} &\in &A \\
\text{ニューヨーク} &\not\in &A \\
\text{沖縄} &\in &A
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。
-1 &\not\in &\mathbb{N} \\
-1 &\in &\mathbb{Z} \\
\frac{1}{2} &\not\in &\mathbb{Z} \\
\frac{1}{2} &\in &\mathbb{Q} \\
\pi &\not\in &\mathbb{Q} \\
\pi &\in &\mathbb{R} \end{eqnarray*}などが成り立ちます。
A=\left\{ 1,\left\{ 1\right\} ,\left\{ 1,2\right\} \right\}
\end{equation*}の要素は数字\(1\)と集合\(\left\{ 1\right\} ,\left\{ 1,2\right\} \)です。したがって、\begin{eqnarray*}1 &\in &A \\
\left\{ 1\right\} &\in &A \\
2 &\not\in &A \\
\left\{ 2\right\} &\not\in &A
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。
A=\left\{ 1,\sqrt{2},\pi ,\text{東京},\Delta ABC\right\}
\end{equation*}は集合です。
集合を外延的表記で表現する際に、集合の要素を並べる順番を変えても、集合としては等しいものと定めます。したがって、例えば、\begin{eqnarray*}
\{1,2,3,4\} &=&\{2,4,1,3\}=\{4,3,2,1\} \\
\left\{ \text{犬},\text{猫}\right\} &=&\left\{ \text{猫},\text{犬}\right\}
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。
集合を外延的表記で表現する際に、同じ要素を重複して書くことは禁じられていませんが、同じ要素をいくつ書いても効果は1つだけ書いた場合と同じと定めます。したがって、例えば、\begin{eqnarray*}
\{1,1,1,2,2,3,4\} &=&\{1,2,3,4\} \\
\left\{ \text{犬},\text{猫},\text{犬}\right\} &=&\left\{
\text{猫},\text{犬}\right\}
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。
集合と内包的表記
集合は命題関数から定義することができます。具体的には、変数\(x\in X\)に関する命題関数\(P\left( x\right) \)が与えられたとき、命題\(P\left( x\right) \)が真になるような定義域\(X\)の要素\(x\)をすべて集めれば\(P\left( x\right) \)の真理集合に相当する1つの集合\begin{equation}A=\left\{ x\in X\ |\ P\left( x\right) \right\} \quad \cdots (1)
\end{equation}が得られます。つまり、値\(x\in X\)を任意に選んだとき、以下の関係\begin{equation*}x\in A\Leftrightarrow \text{命題}P\left( x\right) \text{が真}
\end{equation*}を満たすものとして集合\(A\)を表現するということです。このように、命題関数を用いて集合を表現する方法を内包的表記(intensive notation)と呼びます。
変数の定義域\(X\)に属するそれぞれの値\(x\)について、排中律より、命題\(P\left( x\right) \)は真か偽のどちらか一方です。したがって、集合\(A\)を\(\left( 1\right) \)のように内包的に定義した場合、定義域\(X\)に属するそれぞれの値\(x\)は、集合\(A\)に属するか否かのどちらか一方です。
\end{equation*}となります。ただし、\(\mathbb{Z} \)はすべての整数からなる集合を表す記号です。例えば、整数\(10\)に関して\(10>0\)は真であるため、\begin{equation*}10\in A
\end{equation*}が成り立ちます。一方、整数\(-10\)に関して\(-10>0\)は偽であるため、\begin{equation*}-10\not\in A
\end{equation*}が成り立ちます。その他にも、\begin{eqnarray*}
7 &\in &A \\
-1 &\not\in &A \\
100 &\in &A
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。
\end{equation*}となります。ただし、\(X\)は日本語のすべての文字からなる集合です。例えば、「カ」は片仮名であるため、\begin{equation*}\text{カ}\in A
\end{equation*}が成り立ちます。一方、「か」は片仮名ではないため、\begin{equation*}
\text{か}\not\in A
\end{equation*}が成り立ちます。その他にも、\begin{eqnarray*}
\text{サ} &\in &A \\
\text{火} &\not\in &A \\
\text{つ} &\not\in &A
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。
\end{equation*}となります。ただし、\(\mathbb{R} \)はすべての実数からなる集合を表す記号です。例えば、実数\(1\)に関して\(1^{2}=1\)は真であるため、\begin{equation*}1\in A
\end{equation*}が成り立ちます。一方、実数\(2\)に関して\(2^{2}=1\)は偽であるため、\begin{equation*}2\not\in A
\end{equation*}が成り立ちます。その他にも、\begin{eqnarray*}
-1 &\in &A \\
\frac{1}{2} &\not\in &A \\
\pi &\not\in &A
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。
\end{equation*}となります。ただし、\(X\)は日本のすべての都道府県からなる集合です。例えば、「東京」は関東地方にあるため、\begin{equation*}\text{東京}\in A
\end{equation*}が成り立ちます。一方、「北海道」は関東地方にはないため、\begin{equation*}
\text{北海道}\not\in A
\end{equation*}が成り立ちます。その他にも、\begin{eqnarray*}
\text{千葉} &\in &A \\
\text{沖縄} &\not\in &A \\
\text{神奈川} &\in &A
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。
集合を内包的に表現する場合、集合を規定する命題関数の変数を表す記号として何を採用しても構わないものと定めます。したがって、例えば、\begin{eqnarray*}
\{x\in X\ |\ P(x)\} &=&\{y\in X\ |\ P\left( y\right) \} \\
&=&\{z\in X\ |\ P\left( z\right) \}
\end{eqnarray*}が成り立ちます。
変数\(x\in X\)に関する命題関数\(P\left( x\right) \)から集合\(A\)を内包的に定義する場合、変数\(x\)の定義域\(X\)が文脈から明らかである場合には、それを省略して、\begin{equation*}A=\{x\ |\ P(x)\}
\end{equation*}と表記できるものと定めます。
集合を内包的表記する場合には変数の定義域が重要です。条件\(P\left( x\right) \)が同じでも、定義域\(X\)が変われば集合として変わる事態が起こり得ます。以下の例より明らかです。
\end{equation*}である一方で、\(x^{2}=1\)を満たす自然数\(x\)からなる集合は、\begin{equation*}\left\{ x\in \mathbb{N} \ |\ x^{2}=1\right\} =\left\{ 1\right\}
\end{equation*}です。ただし、\(\mathbb{R} \)はすべての実数からなる集合であり、\(\mathbb{N} \)はすべての自然数からなる集合です。
外延的表記と内包的表記の比較
外延的表記を使うと集合に属する個々の要素が一目瞭然であることから、外延的表記は内包的表記よりも分かりやすさの面で優れています。その反面、外延的表記では表現が難しい集合を、内包的表記によってシンプルに表現できるケースがあります。例えば、すべての正三角形からなる集合\(A\)表現しようとするとき、三角形をすべて列挙するのは不可能です。一方、内包的表記を使えば、例えば、\begin{equation*}A=\{\Delta ABC\ |\ AB=BC=AC\}
\end{equation*}などと表現できます。
集合\(A\)が変数\(x\in X\)に関する命題関数\(P\left( x\right) \)から内包的に定義されるものとします。このとき、命題\(P(x)\)が真になるような\(X\)の要素\(x\)を具体的に特定することが困難である場合には、その集合\(A\)を外延的表記によって表現することは困難です。一方、内包的表記であれば、\(P\left( x\right) \)が真になるような\(x\)を具体的に特定する必要はなく、そのまま、\begin{equation*}A=\{x\in X\ |\ P(x)\}
\end{equation*}と表現できます。つまり、内包的表記は外延的表記よりも表現手段として柔軟です。
変数\(x\in X\)に関する命題関数\(P\left( x\right) \)から集合\(A\)を、\begin{equation*}A=\left\{ x\in X\ |\ P\left( x\right) \right\}
\end{equation*}と定義します。このとき、変数がとり得る値\(x\in X\)を任意に選ぶと、\begin{equation*}x\in A\Leftrightarrow P\left( x\right)
\end{equation*}という関係が成り立ちます。つまり、\(x\)が\(A \)の要素であることとと命題\(P\left( x\right) \)が真であることは必要十分です。同時に、\begin{equation*}x\not\in A\Leftrightarrow \lnot P\left( x\right)
\end{equation*}という関係も成り立ちます。つまり、\(x\)が\(A \)の要素でないことと命題\(P\left( x\right) \)の否定が真(命題\(P\left( x\right) \)が偽)であることは必要十分です。このような関係を利用すれば、集合に関する議論を命題関数に関する議論に置き換えることができるため、述語論理の知識を用いて集合に関する議論を展開できます。つまり、内包的表記は外延的表記よりも議論のツールとして有用です。
演習問題
- \(\left\{ 5x-1\ |\ x\in \mathbb{Z} \right\} \)
- \(\left\{ x\in \mathbb{Z} \ |\ -2\leq x<7\right\} \)
- \(\left\{ x\in \mathbb{R} \ |\ x^{2}+5x=-6\right\} \)
- \(\left\{ x\in \mathbb{Z} \ |\ \left\vert 2x\right\vert <5\right\} \)
- \(\left\{ 0,4,16,36,64,100,\cdots \right\} \)
- \(\left\{ \cdots ,-8,-3,2,7,12,17,\cdots \right\} \)
- \(\left\{ \cdots ,\frac{1}{8},\frac{1}{4},\frac{1}{2},1,2,4,8,\cdots\right\} \)
- \(\left\{ \cdots ,-\pi ,-\frac{\pi }{2},0,\frac{\pi }{2},\pi ,\cdots\right\} \)
- \(3\in \left\{ 1,2,3\right\} \)
- \(4\in \left\{ 1,2,3\right\} \)
- \(\left\{ 3\right\} \in \left\{ 1,2,3\right\} \)
- \(-22\in A\)
- \(-1\in A\)
- \(5\in A\)
- \(0\not\in A\)
- \(\frac{1}{2}\not\in A\)
- \(\left\{ x\in \mathbb{N} \ |\ x^{2}=4\right\} \)
- \(\left\{ x\in \mathbb{Z} \ |\ x^{2}=4\right\} \)
- \(\left\{ x\in \mathbb{R} \ |\ x^{2}=4\right\} \)
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