任意の論理式から排中律と呼ばれる恒真式を構成できます。これは、論理式は任意の解釈において真か偽のどちらか一方であるという主張です。状況によっては排中律が成り立たないように思われますが、この問題を解決する手法としてファジィ理論や述語論理などがあります。

2018年11月17日:公開

排中律

任意の論理式から以下のようにして恒真式を構成できます。これを排中律(law of excluded middle)と呼びます。

命題(排中律)
任意の論理式\(A\)と命題定数\(T\)の間には以下が成り立つ。\begin{equation*}
A\vee \lnot A\Leftrightarrow T
\end{equation*}
証明を見る(プレミアム会員限定)

排中律は、任意の論理式\(A\)について\(A\vee \lnot A\)が常に真であることを主張しています。しかも、\(A\)と\(\lnot A\)の真理値は常に逆転しているため、\(A\)と\(\lnot A\)がともに真であったり、ともに偽であることはありません。ゆえに排中律とは、論理式は任意の解釈において真か偽のどちらか一方であるという主張です。真と偽の中間の状態は起こり得ないという意味において、この主張は排中律と呼ばれます。

 

排中律の妥当性:ファジィ理論

リンゴは熟すと色が緑から赤へ変化します。今、目の前に熟し始めたリンゴがあり、表面の大部分は緑ですが一部分は赤です。このとき、命題変数\(P\)を、\begin{equation*}
P:\text{このリンゴは赤い}
\end{equation*}とおくと、その否定は、\begin{equation*}
\lnot P:\text{このリンゴは赤くない}
\end{equation*}となります。このリンゴの表面の大部分は緑色ですので、このリンゴが赤とは言えません。つまり、\(P\)は偽です。一方、このリンゴの表面には赤い部分がありますので、このリンゴが赤くないとも言えません。つまり、\(\lnot P\)も偽です。したがって、排中律が成り立たなくなってしまいます。

このような問題を解決する 1 つのアプローチは、命題変数の解釈をちゃんと固定するという方法です。先の問題は、リンゴをある角度から見れば赤であり、別の角度から見れば緑であることに起因しているため、リンゴを見る角度を固定して、\begin{equation*}
P:\text{このリンゴをここから見ると赤い}
\end{equation*}とすれば\(P\)と\(\lnot P\)の一方は真で他方は偽になるため、排中律は成り立ちます。

もう一つのアプローチは、真理値を\(0\)と\(1\)の 2 種類に限定せず、\(0\)から\(1\)までの範囲の値をとるものと考えた上で、否定\(\lnot \)は入力した論理値を\(1\)から引いて得られる値を返し、論理積\(\wedge \)は入力した 2 つの論理値の最小値を返し、論理和\(\vee \)は入力した 2 つの論理値の最大値を返すという体系を採用する方法です。これをファジィ理論(fuzzy logic)と呼びます。

命題関数\(P\)を先ほどと同様に、\begin{equation*}
P:\text{このリンゴは赤い}
\end{equation*}とおくとき、命題論理では\(P\)が取り得る値は\(0\)と\(1\)の 2 通りだけですので、「リンゴが赤い」と「リンゴが赤くない」という離散的な 2 つの状態しか扱うことができません。一方、ファジィ理論では「リンゴの大部分が赤い」ことを、例えば、\(P\)の真理値は\(0.8\)である、などと表現します。また、\begin{equation*}
Q:\text{このリンゴは緑である}
\end{equation*}という命題変数\(Q\)を導入し、「リンゴはわずかに緑」であることを、例えば、\(Q\)の真理値が\(0.3\)である、などと表現します。このとき、例えば、否定\begin{equation*}
\lnot P\text{:このリンゴは赤ではない}
\end{equation*}の真理値として、\(P\)の真理値\(0.8\)を\(1\)から引いて得られる値\(0.2\)を採用し、論理積\begin{equation*}
P\wedge Q:\text{このリンゴは赤かつ緑である}
\end{equation*}の真理値として、\(0.8\)と\(0.3\)の間の最小値である\(0.3\)を採用し、論理和\begin{equation*}
P\vee Q:\text{このリンゴは赤または緑である}
\end{equation*}の真理値として、\(0.8\)と\(0.3\)の間の最小値である\(0.8\)を採用するということです。機会があればファジィ理論について場を改めて解説します。

 

排中律の妥当性:述語論理

排中律の妥当性に関連して、イギリスの哲学者であるバートランド・ラッセル(Bertrand Russell)は以下の主張\begin{equation*}
P:\text{The present king of France is bald}
\end{equation*}を提示しました。日本語に訳すと、\begin{equation*}
P:\text{現在のフランス国王はハゲである}
\end{equation*}となります。

現在、フランスでは王政を採用していなためそもそも国王がいません。したがって、この主張\(P\)は真であるとは思えず、ゆえに偽となります。一方、その否定である、\begin{equation*}
\lnot P:\text{現在のフランス国王はハゲではない}
\end{equation*}について考えてみると、これも先と同じ理由により偽であるように思われます。\(P\)と\(\lnot P\)がともに偽になるため、排中律が成り立たなくなってしまいます。

このような問題を解決する 1 つのアプローチは、述語論理を使うというものです。述語論理については場を改めて解説しますので、それを学んでから以下の解説を読み返してください。

述語論理について学ぶ

すべての人間を値として取り得る変数\(x\in X\)に関する命題関数を、\begin{eqnarray*}
P\left( x\right) &:&x\text{はフランス国王である} \\
Q\left( x\right) &:&x\text{はハゲである}
\end{eqnarray*}とします。このとき、「現在のフランス国王はハゲである」という主張は、\begin{equation*}
\forall x\in X:\left( P\left( x\right) \rightarrow Q\left( x\right) \right)
\end{equation*}という全称命題として定式化できます。これを論理式\(A\)と呼びましょう。現在、フランス国王は存在しないため、任意の人間\(x\)について\(P\left( x\right) \)は偽です。したがって、上の全称命題、すなわち論理式\(A\)は真です。一方、論理式\(A\)の否定\(\lnot A\)に相当する「現在のフランス国王はハゲではない」という主張は、上の全称命題の否定に相当する、\begin{equation*}
\exists x\in X:\left( P\left( x\right) \wedge \lnot Q\left( x\right) \right)
\end{equation*}という存在命題として定式化できます。現在、フランス国王は存在しないため、\(P\left( x\right) \)が真になるような人間\(x\)は存在しません。したがって、上の存在命題、すなわち論理式\(\lnot A\)は偽です。論理式\(A\)が真でその否定\(\lnot A\)が偽ですので、この結果は排中律と整合的です。

次回は二重否定について学びます。
次へ進む 演習問題(プレミアム会員限定)