命題論理における対偶律

論理式 A,B に対して、B→A を含意 A→B の逆と呼び、¬A→¬B を A→B の裏と呼び、¬B→¬A を A→B の対偶と呼びます。含意とその対偶は同値であり、含意の逆と裏は同値です。

逆・裏・対偶

論理式\(A,B\)に対して、\begin{equation*} B\rightarrow A
\end{equation*}を含意\(A\rightarrow B\)の(converse)と呼び、\begin{equation*} \lnot A\rightarrow \lnot B
\end{equation*}を\(A\rightarrow B\)の(inverse)と呼び、\begin{equation*} \lnot B\rightarrow \lnot A
\end{equation*}を\(A\rightarrow B\)の対偶(contrapositive)と呼びます。

例(逆・裏・対偶)
命題変数\(P,Q\)をそれぞれ、\begin{eqnarray*} P &:&\text{三角形のすべての内角が等しい} \\
Q &:&\text{三角形が正三角形である}
\end{eqnarray*}とおくと、\begin{equation*}
P\rightarrow Q:\text{三角形のすべての内角が等しければ、それは正三角形である}
\end{equation*}となります。逆、裏、対偶はそれぞれ、\begin{eqnarray*}
Q &\rightarrow &P:\text{三角形が正三角形ならば、そのすべての内角は等しい} \\
\lnot P &\rightarrow &\lnot Q:\text{三角形の内角の中に等しくないものがあるならば、それは正三角形ではない} \\
\lnot Q &\rightarrow &\lnot P:\text{三角形が正三角形ではないならば、その内角の中に等しくないものがある}
\end{eqnarray*}です。ちなみに、これらはいずれも真です。

例(逆・裏・対偶)
命題変数\(P,Q,R\)に関する論理式\begin{equation*} P\rightarrow \left( Q\wedge R\right)
\end{equation*}について、逆、裏、対偶はそれぞれ、\begin{eqnarray*}
\text{逆} &:&\left( Q\wedge R\right) \rightarrow P \\
\text{裏} &:&\lnot P\rightarrow \lnot \left( Q\wedge R\right) \\
\text{対偶} &:&\lnot \left( Q\wedge R\right) \rightarrow \lnot P
\end{eqnarray*}となります。ド・モルガンの法則より、\begin{equation*}
\lnot \left( Q\wedge R\right) \Leftrightarrow \lnot Q\vee \lnot R
\end{equation*}が成り立つため、裏と対偶をそれぞれ、\begin{eqnarray*}
\text{裏} &:&\lnot P\rightarrow \left( \lnot Q\vee \lnot R\right) \\
\text{対偶} &:&\left( \lnot Q\vee \lnot R\right) \rightarrow
\lnot P
\end{eqnarray*}と表現することもできます。

 

対偶律

論理式\(A,B\)をそれぞれ任意に選んだとき、以下の恒真式\begin{align*} & \left( a\right) \ A\rightarrow B\Leftrightarrow \lnot B\rightarrow \lnot A
\\
& \left( b\right) \ B\rightarrow A\Leftrightarrow \lnot A\rightarrow \lnot B
\end{align*}が成り立ちます。\(\left( a\right) \)は含意とその対偶が論理的に同値であるという主張であり、\(\left( b\right) \)は逆と裏が論理的に同値であるという主張です。以上の性質を対偶律(law of contraposition)と呼びます。

命題(対偶律)
任意の論理式\(A,B\)に対して、\begin{align*} & \left( a\right) \ A\rightarrow B\Leftrightarrow \lnot B\rightarrow \lnot A
\\
& \left( b\right) \ B\rightarrow A\Leftrightarrow \lnot A\rightarrow \lnot B
\end{align*}が成り立つ。

証明

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例(対偶律)
命題変数\(P,Q\)をそれぞれ、\begin{eqnarray*} P &:&\text{四角形が長方形である} \\
Q &:&\text{四角形が2組の平行な辺を持つ}
\end{eqnarray*}とおくと、\begin{equation*}
P\rightarrow Q:\text{四角形が長方形ならば、その四角形は2組の平行な辺を持つ}
\end{equation*}となります。また、その逆、裏、対偶はそれぞれ、\begin{eqnarray*}
Q &\rightarrow &P:\text{四角形が2組の平行な辺を持つならば、その四角形は長方形である} \\
\lnot P &\rightarrow &\lnot Q:\text{四角形が長方形でないならば、その四角形は2組の平行な辺を持たない} \\
\lnot Q &\rightarrow &\lnot P:\text{四角形が2組の平行な辺を持たないならば、その四角形は長方形ではない}
\end{eqnarray*}となります。\(P\rightarrow Q\)は真であるため、対偶律より\(\lnot Q\rightarrow \lnot P\)もまた真です。また、長方形ではない平行四辺形が存在するため\(Q\rightarrow P\)は偽です。したがって、対偶律より\(\lnot P\rightarrow \lnot Q\)もまた偽です。

 

日常における対偶の用法

命題論理における含意\begin{equation*}
P\rightarrow Q
\end{equation*}は、\(P\)が真であるならば\(Q\)も真であるという真理値上の関係を表します。ここで重要なのは、含意それ自体は\(P\)が\(Q\)の原因であることを必ずしも意味しないということです。日常言語では「\(P\)ならば\(Q\)」という表現はしばしば、「\(P\)だから\(Q\)である」という因果関係を表す文として理解されます。しかし、命題論理における含意は、そのような因果関係を表しているとは限りません。たとえば、\begin{eqnarray*} P &:&\text{十分なお金を持っている} \\
Q &:&\text{商品を買うことができる}
\end{eqnarray*}とします。このとき、\begin{equation*}
P\rightarrow Q:\text{十分なお金を持っているならば、商品を買うことができる}
\end{equation*}と表すことができます。対偶は、\begin{equation*}
\lnot Q\rightarrow \lnot P:\text{商品を買うことができないならば、十分なお金を持っていない}
\end{equation*}と表されます。これらは論理的に同値です。一方、先の対偶を、\begin{equation*}
\lnot Q\rightarrow \lnot P:\text{商品を買うことができなかったから、十分なお金を持っていない}
\end{equation*}としてしまうと、商品を買うことができなかったことが原因となって、お金を持っていない状態になったという因果的な意味に読まれる可能性があります。対偶\(\lnot Q\rightarrow \lnot P\)が述べているのは因果関係ではありません。対偶は単に「\(Q\)が偽である場合には\(P\)も偽である」という論理的な関係を述べているだけです。
 

演習問題

問題(逆・裏・対偶)
以下の主張\begin{equation*}
\text{彼がこの事件の犯人ならば、犯行時刻に現場にいたはずである}
\end{equation*}の逆、裏、対偶をそれぞれ明らかにしてください。

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問題(逆・裏・対偶)
以下の主張\begin{equation*}
\text{もし雨が降り、私が傘を持っていなければ、私は雨に濡れる}
\end{equation*}の対偶を明らかにしてください。

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問題(逆・裏・対偶)
以下の主張\begin{equation*}
\text{明日、高橋と鈴木が来ないなら、加藤は来る}
\end{equation*}の対偶を明らかにしてください。

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問題(対偶律の証明)
本文中で明らかにしたように、任意の論理式\(A,B\)に対して、\begin{equation*} A\rightarrow B\Leftrightarrow \lnot B\rightarrow \lnot A
\end{equation*}が成り立ちます。本文中では以上の主張を真理値表を用いて証明しましたが、同じ主張を同値変形によって証明してください。

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