論理式 A,B について、「AならばB」と「Bではない」という前提から「Aではない」という結論を導く推論規則を後件否定やモーダストレンスなどと呼びます。
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後件否定

論理式\(A,B\)をそれぞれ任意に選んだとき、\begin{align*}
\left( \left( A\rightarrow B\right) \wedge \lnot B\right) \rightarrow \lnot
A& \Leftrightarrow \lnot \left( \left( A\rightarrow B\right) \wedge \lnot
B\right) \vee \lnot A\quad \because \ \rightarrow \text{の言い換え} \\
& \Leftrightarrow \lnot \left( \left( \lnot A\vee B\right) \wedge \lnot
B\right) \vee \lnot A\quad \because \ \rightarrow \text{の言い換え} \\
& \Leftrightarrow \lnot \left( \left( \lnot A\wedge \lnot B\right) \vee
\left( B\wedge \lnot B\right) \right) \vee \lnot A\quad \because \text{分配律} \\
& \Leftrightarrow \lnot \left( \left( \lnot A\wedge \lnot B\right) \vee \bot
\right) \vee \lnot A\quad \because \text{矛盾律} \\
& \Leftrightarrow \lnot \left( \lnot A\wedge \lnot B\right) \vee \lnot
A\quad \because \text{恒偽式}\bot \text{の性質} \\
& \Leftrightarrow \left( A\vee B\right) \vee \lnot A\quad \because \text{ド・モルガンの法則、二重否定} \\
& \Leftrightarrow \left( A\vee \lnot A\right) \vee B\quad \because \text{交換律、結合律} \\
& \Leftrightarrow \top \vee B\quad \because \text{排中律}
\\
& \Leftrightarrow \top \quad \because \text{恒真式の性質}
\end{align*}すなわち、\begin{equation*}
\left( A\rightarrow B\right) \wedge \lnot B\ \Rightarrow \ \lnot A
\end{equation*}が成り立ちます。ここから以下の推論規則を得ます。

命題(後件否定)
任意の論理式\(A,B\)に対して以下が成り立つ。\begin{equation*}
\left( A\rightarrow B\right) \wedge \lnot B\ \models \ \lnot A
\end{equation*}
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つまり、\(A\rightarrow B\)と\(\lnot B\)がともに真であるような任意の解釈のもとで\(\lnot A\)は必ず真になります。これは後件否定(denying the consequent)やモーダストレンス(modus tollens)などと呼ばれる推論規則です。

例(後件否定)
以下の推論について考えます。\begin{eqnarray*}
&&\text{彼がこの事件の犯人ならば、犯行時刻に現場にいたはずである。} \\
&&\text{彼は犯行時刻に現場にいなかった。} \\
&&\text{ゆえに、彼はこの事件の犯人ではない。}
\end{eqnarray*}命題変数\(P,Q\)を、\begin{eqnarray*}
P &:&\text{彼はこの事件の犯人である} \\
Q &:&\text{彼は犯行時刻に現場にいた}
\end{eqnarray*}とおくと、先の推論は、\begin{equation*}
P\rightarrow Q,\ \lnot Q\ \therefore \ \lnot P
\end{equation*}と定式化されます。後件否定より、これは妥当な推論です。
例(後件否定)
命題変数\(P,Q,R\)に関する以下の推論\begin{equation*}
\left( P\wedge Q\right) \rightarrow \lnot R,\ R\ \therefore \ \lnot P\vee
\lnot Q
\end{equation*}について考えます。\(\left( P\wedge Q\right) \rightarrow \lnot R\)と\(R\)がともに真であるものとします。\(R\)が真であるとき、二重否定導入より\(\lnot \lnot R\)は真です。\(\left( P\wedge Q\right) \rightarrow \lnot R\)と\(\lnot \lnot R\)がともに真であるとき、後件否定より\(\lnot \left( P\wedge Q\right) \)は真ですが、ド・モルガンの法則より、これは\(\lnot P\vee \lnot Q\)と論理的に同値です。つまり、\(\lnot P\vee \lnot Q\)は真であるため、もとの推論が妥当であることが示されました。すなわち、\begin{equation*}
\left( P\wedge Q\right) \rightarrow \lnot R,\ R\ \models \ \lnot P\vee \lnot Q
\end{equation*}が成り立ちます。

 

前件否定

含意の後件を否定する後件否定は妥当である一方で、含意の前件を否定する前件否定(denying the antecedent)は妥当ではありません。つまり、\begin{equation*}
A\rightarrow B,\ \lnot A\ \not\models \ \lnot B
\end{equation*}となります。これは論理式\(\left( A\rightarrow B\right) \wedge \lnot A\rightarrow \lnot B\)が恒真式でないことから明らかです。具体的には、\(A\)が偽で\(B\)が真であるような解釈において、前提に相当する\(A\rightarrow B\)と\(\lnot A\)はともに真である一方で、結論に相当する\(\lnot B\)は偽になります。

例(前件否定)
以下の推論について考えます。\begin{eqnarray*}
&&\text{彼がこの事件の犯人ならば、犯行時刻に現場にいたはずである。} \\
&&\text{彼はこの事件の犯人ではない。} \\
&&\text{ゆえに、彼は犯行時刻に現場にいなかったはずである。}
\end{eqnarray*}命題変数\(P,Q\)を、\begin{eqnarray*}
P &:&\text{彼はこの事件の犯人である} \\
Q &:&\text{彼は犯行時刻に現場にいた}
\end{eqnarray*}とおくと、先の推論は、\begin{equation*}
P\rightarrow Q,\ \lnot P\ \therefore \ \lnot Q
\end{equation*}と定式化されます。これは前件否定に相当する推論であり、妥当ではありません。実際、犯人でない人が犯行時刻に現場にいる状況は起こり得るため、彼が犯人ではないからといって、彼が犯行時刻に現場にいなかったと結論付けることはできません。

次回は選言三段論法と呼ばれる推論規則について学びます。
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