含意\(\rightarrow \)は入力された論理式\(A,B\)に対して、\(A\)と\(B\)の値がともに\(1\)である場合には\(1\)を値としてとり、\(A\)の値が\(0\)の場合には\(B\)の値によらず常に\(1\)を値としてとる論理式\(A\rightarrow B\)を出力する論理演算です。

2019年1月15日:例を追加
2018年11月13日:公開

含意の値

論理式の定義より、論理式\(A,B\)に論理演算子\(\rightarrow \)を作用させることで得られる\(A\rightarrow B\)もまた論理式です。\(\rightarrow\)は含意(implication)と呼ばれる論理演算子であり、論理式\(A\rightarrow B\)を\(A\)から\(B\)への含意(implication from \(A\) to \(B\))や\(A\)ならば\(B\)(if \(A\) then \(B\))などと呼びます。

論理式の定義について復習する

\(A\rightarrow B\)を構成する\(A\)を前件(antecedent)や前提(premise)、仮定(assumption)などと呼び、\(B\)を後件(consequent)や結論(conclusion)などと呼びます。

含意\(A\rightarrow B\)の値は\(A\)と\(B\)の値に依存しますが、その対応規則を以下の真理値表に定めます。つまり、含意\(\rightarrow \)は入力された論理式\(A,B\)に対して、\(A\)と\(B\)の値がともに\(1\)である場合には\(1\)を値としてとり、\(A\)の値が\(0\)の場合には\(B\)の値によらず常に\(1\)を値としてとる論理式\(A\rightarrow B\)を出力する論理演算です。

\begin{array}{ccc}
\hline
A & B & A\rightarrow B \\ \hline
1 & 1 & 1 \\ \hline
1 & 0 & 0 \\ \hline
0 & 1 & 1 \\ \hline
0 & 0 & 1 \\ \hline
\end{array}

表:含意の値

論理式の定義より、命題変数\(P\)や命題定数\(T,F\)もまた論理式ですから、これらもまた\(\rightarrow \)を作用させる対象となり得ます。\(P,T,F\)とそれらの排他的論理和の真理値の対応規則は以下の真理値表の通りです。

$$\begin{array}{ccccccccc}
\hline
P & T & F & P\rightarrow T & T\rightarrow P & P\rightarrow F & F\rightarrow P & T\rightarrow F & F\rightarrow T \\ \hline
1 & 1 & 0 & 1 & 1 & 0 & 1 & 0 & 1 \\ \hline
0 & 1 & 0 & 1 & 0 & 1 & 1 & 0 & 1 \\ \hline
\end{array}$$

表:含意の値
例(含意)
「もし雨が降り、私が傘を持っていなければ、私は雨に濡れる」を定式化します。命題変数\(P,Q,R\)をそれぞれ、\begin{eqnarray*}
P &:&\text{雨が降る} \\
Q &:&\text{私は傘を持っていく} \\
R &:&\text{私は雨に濡れる}
\end{eqnarray*}とおくと、与えられた言明は、\begin{equation*}
P\wedge \lnot Q\ \rightarrow \ R
\end{equation*}と定式化されます。

 

含意の日常的な用法

日常生活において「\(A\)ならば\(B\)」と言うときには、\(A\)と\(B\)の間には何らかの意味上の関連性があります。例えば、「明日雨が降るならば、私は傘を持っていく」と言うとき、「明日雨が降る」ことと「私は傘を持っていく」ことの間には意味上の関連があります。\(A\)と\(B\)の間に意味上の関連がない場合には、我々は違和感を持ちます。例えば、「明日雨が降るならば、彼の身長は\(180\ {cm}\)よりも低い」と言われても困惑してしまいます。

一方、命題論理における含意\(A\rightarrow B\)では、\(A\)と\(B\)の意味上の関連性については何も問いません。\(A\)と\(B\)が論理式であれば、それが具体的に何に関する言及であっても、\(A\rightarrow B\)は論理式として認められます。

日常生活において「\(A\)ならば\(B\)」と言う場合には、多くの場合、原因\(A\)が結論\(B\)よりも時間的に先行する表現になっています。例えば、「雨が降るなら傘を持っていく」という表現は、雨が降るという原因が先に起こり、傘を持っていくという結論が後に起こる構造になっています。一般に、原因\(A\)が結論\(B\)よりも時間的に先行する場合には、両者の関係を因果関係(causal relationship)と呼び、因果関係を表す\(A\rightarrow B\)を因果命題(causal proposition)と呼びます。

日常生活における「ならば」は、多くの場合には因果関係を示しています。一方、数学における含意は因果関係に限定されず、時間的な前後関係が成立しない\(A,B\)に対しても論理式\(A\rightarrow B\)を構成します。

日常的に使われる「ならば」の意味を、命題論理における含意の定義と整合的な形で以下のように解釈できます。ある人の「明日雨が降るなら傘を持っていく」という発言を論理式\(A\rightarrow B\)とみなした上で、含意の定義である以下の真理値表を再び観察しましょう。

\begin{array}{ccc}
\hline
A & B & A\rightarrow B \\ \hline
1 & 1 & 1 \\ \hline
1 & 0 & 0 \\ \hline
0 & 1 & 1 \\ \hline
0 & 0 & 1 \\ \hline
\end{array}

表:含意の値

真理値表の 1 行目は、雨が振り、かつ、この人が傘を持参する場合には、この人の発言は嘘とはみなされないこととして解釈可能です。これは実際に正しい言明です。真理値表の 2 行目は、雨が降り、かつ、この人が傘を持参しない場合には、この人の発言は嘘とみなされることとして解釈可能です。これも実際に正しい言明です。真理値表の 3 行目と 4 行目は、雨が降らなかった場合には、この人が傘を持っていくかどうかに関わらず、この人の発言は嘘とはみなされないこととして解釈します。実際、この人の発言は雨が降った場合のことについてのみ言及しており、雨が降らなかった場合については何も言っていません。したがって、雨が降らなかった場合には、この人が傘を持っていくかどうかにかかわらず、この人は嘘をついたことにはなりません。

次回は同等の解釈について学びます。

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