二重否定の法則
論理式\(A\)の否定\(\lnot A\)もまた論理式であるため、さらにその否定\(\lnot\left( \lnot A\right) \)をとることができます。これを、\begin{equation*}\lnot \lnot A
\end{equation*}で表記し、\(A\)の二重否定(double negation)と呼びます。
論理式の二重否定はもとの論理式と論理的に同値です。つまり、\begin{equation*}
\lnot \lnot A\Leftrightarrow A
\end{equation*}が成り立ちます。
命題(二重否定)
任意の論理式\(A\)に対して、\begin{equation*}\lnot \lnot A\Leftrightarrow A
\end{equation*}が成り立つ。
\end{equation*}が成り立つ。
例(二重否定)
命題変数\(P\)を任意に選んだとき、命題変数は論理式であるため、先の命題より、\begin{equation*}\lnot \lnot P\Leftrightarrow P
\end{equation*}が成り立ちます。
\end{equation*}が成り立ちます。
例(二重否定)
命題変数\(P,Q\)を任意に選んだとき、含意\begin{equation*}P\rightarrow Q
\end{equation*}は論理式であるため、先の命題より、\begin{equation*}
\lnot \lnot \left( P\rightarrow Q\right) \Leftrightarrow P\rightarrow Q
\end{equation*}が成り立ちます。
\end{equation*}は論理式であるため、先の命題より、\begin{equation*}
\lnot \lnot \left( P\rightarrow Q\right) \Leftrightarrow P\rightarrow Q
\end{equation*}が成り立ちます。
例(二重否定)
人間の脳は二重否定を含む主張の処理が得意ではありません。例として、以下の主張\begin{equation*}
\text{私は公共の場で喫煙するのは嫌いではない訳ではない}
\end{equation*}について考えます。このままではこの人が公共の場で喫煙することが好きなのかどうかがよく分かりません。そこで、命題変数\(P\)を、\begin{equation*}P:\text{私は公共の場で喫煙するのが嫌いだ}
\end{equation*}とおくと、その否定は、\begin{equation*}
\lnot P:\text{私は公共の場で喫煙するのが嫌いではない}
\end{equation*}であるため、二重否定は、\begin{equation*}
\lnot \lnot P:\text{私は公共の場で喫煙するのが嫌いではない訳ではない}
\end{equation*}となるため、もとの主張は\(\lnot \lnot P\)です。二重否定よりこれは\(P\)と論理的に同値であるため、この人は公共の場で喫煙することが嫌いであることが明らかになりました。
\text{私は公共の場で喫煙するのは嫌いではない訳ではない}
\end{equation*}について考えます。このままではこの人が公共の場で喫煙することが好きなのかどうかがよく分かりません。そこで、命題変数\(P\)を、\begin{equation*}P:\text{私は公共の場で喫煙するのが嫌いだ}
\end{equation*}とおくと、その否定は、\begin{equation*}
\lnot P:\text{私は公共の場で喫煙するのが嫌いではない}
\end{equation*}であるため、二重否定は、\begin{equation*}
\lnot \lnot P:\text{私は公共の場で喫煙するのが嫌いではない訳ではない}
\end{equation*}となるため、もとの主張は\(\lnot \lnot P\)です。二重否定よりこれは\(P\)と論理的に同値であるため、この人は公共の場で喫煙することが嫌いであることが明らかになりました。
例(二重否定)
命題変数\(P,Q\)に関する論理式\begin{equation*}\lnot \left( \lnot P\vee \lnot Q\right)
\end{equation*}が\(P\wedge Q\)と同値であることを示します。実際、\begin{eqnarray*}\lnot \left( \lnot P\vee \lnot Q\right) &\Leftrightarrow &\lnot \lnot
P\wedge \lnot \lnot Q\quad \because \text{ド・モルガンの法則} \\
&\Leftrightarrow &P\wedge Q\quad \because \text{二重否定}
\end{eqnarray*}となるため証明が完了しました。
\end{equation*}が\(P\wedge Q\)と同値であることを示します。実際、\begin{eqnarray*}\lnot \left( \lnot P\vee \lnot Q\right) &\Leftrightarrow &\lnot \lnot
P\wedge \lnot \lnot Q\quad \because \text{ド・モルガンの法則} \\
&\Leftrightarrow &P\wedge Q\quad \because \text{二重否定}
\end{eqnarray*}となるため証明が完了しました。
二重否定の一般化
論理式\(A\)の二重否定\(\lnot\lnot A\)は論理式であるため、その否定\(\lnot \lnot \lnot A\)や、さらにその否定\(\lnot \lnot\lnot \lnot A\)なども論理式です。先の命題を繰り返し適用すれば、それらはいずれも\(A\)もしくは\(\lnot A\)と同値になります。三重否定\(\lnot \lnot \lnot A\)に関しては、\begin{equation*}\lnot \lnot \lnot A\Leftrightarrow \lnot A
\end{equation*}が成り立ち、四重否定\(\lnot \lnot \lnot \lnot A\)に関しては、\begin{equation*}\lnot \lnot \lnot \lnot A\Leftrightarrow \lnot \lnot A\Leftrightarrow A
\end{equation*}が成り立ちます。以降についても同様です。
命題(二重否定の一般化)
論理式\(A\)と番号\(n\in \mathbb{N} \)を任意に選んだ上で、\(A\)の\(n\)重否定を、\begin{equation*}\lnot ^{n}A
\end{equation*}で表記する。このとき、以下の関係\begin{equation*}
\lnot ^{n}A\Leftrightarrow \left\{
\begin{array}{cl}
\lnot A & \left( if\ n\text{が奇数}\right) \\
A & \left( if\ n\text{が偶数}\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}が成り立つ。
\end{equation*}で表記する。このとき、以下の関係\begin{equation*}
\lnot ^{n}A\Leftrightarrow \left\{
\begin{array}{cl}
\lnot A & \left( if\ n\text{が奇数}\right) \\
A & \left( if\ n\text{が偶数}\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}が成り立つ。
例(二重否定の一般化)
命題変数\(P\)と番号\(n\in \mathbb{N} \)を任意に選んだとき、命題変数は論理式であるため、先の命題より、\begin{equation*}\lnot ^{n}P\Leftrightarrow \left\{
\begin{array}{cl}
\lnot P & \left( if\ n\text{が奇数}\right) \\
P & \left( if\ n\text{が偶数}\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}が成り立ちます。
\begin{array}{cl}
\lnot P & \left( if\ n\text{が奇数}\right) \\
P & \left( if\ n\text{が偶数}\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}が成り立ちます。
例(二重否定)
命題変数\(P,Q\)に関する論理式\begin{equation*}\lnot \left( \lnot \left( \lnot \left( \lnot P\vee Q\right) \right) \right)
\end{equation*}を同値変形すると、\begin{eqnarray*}
\lnot \left( \lnot \left( \lnot \left( \lnot P\vee Q\right) \right) \right)
&\Leftrightarrow &\lnot \left( \lnot P\vee Q\right) \quad \because \text{三重否定} \\
&\Leftrightarrow &\lnot \lnot P\wedge \lnot Q\quad \because \text{ド・モルガンの法則} \\
&\Leftrightarrow &P\wedge \lnot Q\quad \because \text{二重否定}
\end{eqnarray*}となります。
\end{equation*}を同値変形すると、\begin{eqnarray*}
\lnot \left( \lnot \left( \lnot \left( \lnot P\vee Q\right) \right) \right)
&\Leftrightarrow &\lnot \left( \lnot P\vee Q\right) \quad \because \text{三重否定} \\
&\Leftrightarrow &\lnot \lnot P\wedge \lnot Q\quad \because \text{ド・モルガンの法則} \\
&\Leftrightarrow &P\wedge \lnot Q\quad \because \text{二重否定}
\end{eqnarray*}となります。
演習問題
問題(二重否定)
ある人が「私はあなたに反対するわけではないわけではない」と言いました。この人はあなたに反対ですか。議論してください。
問題(二重否定)
ある人が「大麻の使用罪を処罰範囲から除外する取り決めを撤廃する法案に対して私は賛成を投じない」と言いました。この人は大麻の使用を認めることに賛成ですか。議論してください。
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