破壊的ジレンマ
論理式\(A,B,C,D\)をそれぞれ任意に選んだとき、以下の恒真式\begin{equation*}\left( A\rightarrow B\right) \wedge \left( C\rightarrow D\right) \wedge
\left( \lnot B\vee \lnot D\right) \Rightarrow \lnot A\vee \lnot C
\end{equation*}が成り立つことが示されるため、以下の推論規則\begin{equation*}
A\rightarrow B,\ C\rightarrow D,\ \lnot B\vee \lnot D\ \models \ \lnot A\vee
\lnot C
\end{equation*}を得ます。つまり、\(A\rightarrow B\)と\(C\rightarrow D\)と\(\lnot B\vee \lnot D\)がいずれも真であるような任意の解釈において\(\lnot A\vee \lnot C\)は必ず真になります。これは破壊的ジレンマ(destructivedilemma)と呼ばれる推論規則です。
任意の論理式\(A,B,C,D\)に対して、\begin{equation*}A\rightarrow B,\ C\rightarrow D,\ \lnot B\vee \lnot D\ \models \ \lnot A\vee
\lnot C
\end{equation*}が成り立つ。
&&\text{もし雨が降れば、私は濡れる。} \\
&&\text{もし吹雪になれば、私は凍える。} \\
&&\text{私は濡れていないか凍えていないかの少なくとも一方だ。} \\
&&\text{ゆえに、雨が降らなかったか吹雪にならなかったの少なくとも一方だ。}
\end{eqnarray*}命題変数\(P,Q,R,S\)を、\begin{eqnarray*}P &:&\text{雨が降る} \\
Q &:&\text{吹雪になる} \\
R &:&\text{私は濡れる} \\
S &:&\text{私は凍える}
\end{eqnarray*}とおくと、先の推論は、\begin{equation*}
P\rightarrow R,\ Q\rightarrow S,\ \lnot R\vee \lnot S\ \therefore \ \lnot
P\vee \lnot Q
\end{equation*}と定式化されます。破滅的ジレンマよりこれは妥当な推論です。つまり、\begin{equation}
P\rightarrow R,\ Q\rightarrow S,\ \lnot R\vee \lnot S\ \models \ \lnot P\vee
\lnot Q \quad \cdots (1)
\end{equation}が成り立ちます。では、「雨と吹雪の両方を体験したにも関わらず濡れていないし凍えてもいない」場合には何が起きているでしょうか。これは\(\lnot R\vee \lnot S\)が真で\(\lnot P\vee\lnot Q\)が偽であることを意味します。推論規則\(\left( 1\right) \)が成り立つことを踏まえると、推論の結論である\(\lnot P\vee \lnot Q\)が偽である場合、推論の前提である\(P\rightarrow R\)と\(Q\rightarrow S\)と\(\lnot R\vee \lnot S\)の中の少なくとも1つが偽でなければなりません。今は\(\lnot R\vee \lnot S\)が真である場合について考えているため\(P\rightarrow R\)と\(Q\rightarrow S\)の少なくとも一方が偽です。つまり、「雨が降れば濡れる」や「吹雪になれば凍える」という主張の少なくとも一方が間違っているということになります。例えば、この人は傘を持っていたか、厚着をしていたのかもしれません。
&&\text{もし雨が降れば、私は傘をさす。} \\
&&\text{もし吹雪になれば、私は傘をささない。} \\
&&\text{ゆえに、雨でなかったか吹雪でなかったかの少なくとも一方だ。}
\end{eqnarray*}命題変数\(P,Q,R\)を、\begin{eqnarray*}P &:&\text{雨が降る} \\
Q &:&\text{吹雪になる} \\
R &:&\text{私は傘をさす}
\end{eqnarray*}とおくと、先の推論は、\begin{equation*}
P\rightarrow R,\ Q\rightarrow \lnot R\ \therefore \ \lnot P\vee \lnot Q
\end{equation*}と定式化されます。\(P\rightarrow R\)と\(Q\rightarrow \lnot R\)はともに真であるものとします。排中律より\(R\vee \lnot R\)もまた真であるため、交換律より\(\lnot R\vee R\)も真です。すると破壊的ジレンマより\(\lnot P\vee \lnot Q\)は真です。すなわち、\begin{equation*}P\rightarrow R,\ Q\rightarrow \lnot R\ \Rightarrow \ \lnot P\vee \lnot Q
\end{equation*}が成り立ちます。先の推論は妥当です。
排他的論理和に関する破壊的ジレンマ
繰り返しになりますが、破壊的ジレンマとは、論理式\(A,B,C,D\)に対して、\begin{equation*}A\rightarrow B,\ C\rightarrow D,\ \lnot B\vee \lnot D\ \models \ \lnot A\vee
\lnot C
\end{equation*}が成り立つという推論規則です。破壊的ジレンマを構成する論理和\(\vee \)を排他的論理和\(\veebar \)に置き換えると、\begin{equation*}A\rightarrow B,\ C\rightarrow D,\ \lnot B\veebar \lnot D\ \models \ \lnot
A\veebar \lnot C
\end{equation*}を得ますが、これは成り立ちません。実際、\(A,B,C\)が偽で\(D\)が真であるような解釈のもとでは、前提である\(A\rightarrow B\)と\(C\rightarrow D\)と\(\lnot B\veebar \lnot D\)がいずれも真である一方、結論である\(\lnot A\veebar \lnot C\)は偽になります。
&&\text{もしこれが金ならば、私は大金持ちだ。} \\
&&\text{もしこれがパイライトならば、私は愚か者だ。} \\
&&\text{私は大金持ちでないか愚かでないかのどちらか一方である。} \\
&&\text{ゆえに、これは金でないかパイライトでないかのどちらか一方である。}
\end{eqnarray*}命題変数\(P,Q,R,S\)を、\begin{eqnarray*}P &:&\text{これは金である} \\
Q &:&\text{私は大金持ちである} \\
R &:&\text{これはパイライトである} \\
S &:&\text{私は愚か者である}
\end{eqnarray*}とおくと、先の推論は、\begin{equation*}
P\rightarrow Q,\ R\rightarrow S,\ \lnot Q\veebar \lnot S\ \therefore \ \lnot
P\veebar \lnot R
\end{equation*}と定式化されます。この人が発見したものはパイライトでも金でもなく、なおかつこの人は大金持ちではない愚か者の場合、\(P\rightarrow Q\)と\(R\rightarrow S\)と\(\lnot Q\veebar \lnot S\)はいずれも真である一方、\(\lnot P\veebar \lnot R\)は偽であるため、この推論は妥当ではありません。
演習問題
&&\text{もし雨が降れば、私は家にいる。} \\
&&\text{もし雨が降れば、私は電話をする。} \\
&&\text{私は家にいなかったか電話をしなかったかの少なくとも一方である。} \\
&&\text{ゆえに、雨は降らなかった。}
\end{eqnarray*}
&&\text{もし雨が降れば、私は傘をさす。} \\
&&\text{もし吹雪になれば、私は傘をささない。} \\
&&\text{ゆえに、雨でなかったか吹雪でなかったかの少なくとも一方だ。}
\end{eqnarray*}
次回から証明について学びます。
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