論理式A,Bが任意に与えられたとき、「AならばBである」と「Aである」という2つの前提から「Bである」という結論を導く推論規則を含意除去やモーダスポネンスなどと呼びます。
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含意除去

論理式\(A,B\)をそれぞれ任意に選ぶと、\begin{align*}
\left( \left( A\rightarrow B\right) \wedge A\right) \rightarrow B&
\Leftrightarrow \lnot \left( \left( \lnot A\vee B\right) \wedge A\right)
\vee B\quad \because \rightarrow \text{の言い換え} \\
& \Leftrightarrow \lnot \left( \left( \lnot A\wedge A\right) \vee \left(
B\wedge A\right) \right) \vee B\quad \because \text{分配律}
\\
& \Leftrightarrow \lnot \left( \bot \vee \left( B\wedge A\right) \right)
\vee B\quad \because \text{矛盾律} \\
& \Leftrightarrow \lnot \left( B\wedge A\right) \vee B\quad \because \text{恒偽式}\bot \text{の性質} \\
& \Leftrightarrow (\lnot B\vee \lnot A)\vee B\quad \because \text{ド・モルガンの法則} \\
& \Leftrightarrow \left( B\vee \lnot B\right) \vee \lnot A\quad \because
\text{交換律と結合律} \\
& \Leftrightarrow \top \vee \lnot A\quad \because \text{排中律} \\
& \Leftrightarrow \top \quad \because \text{恒真式}\top
\text{の性質}
\end{align*}すなわち、\begin{equation*}
\left( \left( A\rightarrow B\right) \wedge A\right) \Rightarrow B
\end{equation*}が成り立ちます。ここから以下の推論規則を得ます。

命題(含意除去)
任意の論理式\(A,B\)に対して以下が成り立つ。\begin{equation*}
A\rightarrow B,\ A\ \models \ B
\end{equation*}
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つまり、\(A\rightarrow B\)と\(A\)がともに真であるような任意の解釈において\(B\)は必ず真になります。この推論規則を含意除去(implication elimination)や前件肯定(affirming the antecedent)、\(\rightarrow \)除去(\(\rightarrow \ \)elimination)、モーダスポネンス(modus ponens)などと呼びます。

例(含意除去)
以下の推論について考えます。\begin{eqnarray*}
&&\text{もし今日が日曜日ならば、私は仕事が休みだ。} \\
&&\text{今日は日曜日である。} \\
&&\text{ゆえに、私は仕事が休みだ。}
\end{eqnarray*}命題変数\(P,Q\)を、\begin{eqnarray*}
P &:&\text{今日は日曜日である} \\
Q &:&\text{私は仕事が休みだ}
\end{eqnarray*}とおくと、先の推論は、\begin{equation*}
P\rightarrow Q,\ P\ \therefore \ Q
\end{equation*}と定式化されます。含意除去より、これは妥当な推論です。
例(含意除去)
以下の推論について考えます。\begin{eqnarray*}
&&\text{もし私が有罪ならば、私は罰せられる。} \\
&&\text{私は有罪である。} \\
&&\text{ゆえに、私は罰せられる。}
\end{eqnarray*}命題変数\(P,Q\)を、\begin{eqnarray*}
P &:&\text{私は有罪である} \\
Q &:&\text{私は罰せられる}
\end{eqnarray*}とおくと、先の推論は、\begin{equation*}
P\rightarrow Q,\ P\ \therefore \ Q
\end{equation*}と定式化されます。含意除去より、これは妥当な推論です。

後ほど解説しますが、含意除去は条件付き証明という証明方法の理論的な根拠になるという意味でも重要です。

 

後件肯定

含意の前件を肯定する前件肯定は妥当である一方で、含意の後件を肯定する後件肯定(affirming the consequent)は妥当ではありません。つまり、\begin{equation*}
A\rightarrow B,\ B\ \not\models \ A
\end{equation*}となります。これは論理式\(\left( A\rightarrow B\right) \wedge B\rightarrow A\)が恒真式でないことから明らかです。具体的には、\(A\)が偽で\(B\)が真であるような解釈において、前提に相当する\(A\rightarrow B\)と\(B\)はともに真である一方で、結論に相当する\(A\)は偽になります。

例(後件肯定)
以下の推論について考えます。\begin{eqnarray*}
&&\text{もし今日が日曜日ならば、私は仕事が休みだ。} \\
&&\text{私は今日仕事が休みだ。} \\
&&\text{ゆえに、今日は日曜日である。}
\end{eqnarray*}命題変数\(P,Q\)を、\begin{eqnarray*}
P &:&\text{今日は日曜日である} \\
Q &:&\text{私は仕事が休みだ}
\end{eqnarray*}とおくと、先の推論は、\begin{equation*}
P\rightarrow Q,\ Q\ \therefore \ P
\end{equation*}と定式化されます。この推論は妥当ではありません。実際、今日は日曜日ではないにも関わらず仕事は休みであるとき、\(P\)は偽で\(Q\)は真です。このとき、推論の前提である\(P\rightarrow Q\)と\(Q\)はともに真である一方で、結論\(P\)は偽になります。
例(後件否定)
以下の推論について考えます。\begin{eqnarray*}
&&\text{もし私が有罪ならば、私は罰せられる。} \\
&&\text{私は罰せられる。} \\
&&\text{ゆえに、私は有罪である。}
\end{eqnarray*}命題変数\(P,Q\)を、\begin{eqnarray*}
P &:&\text{私は有罪である} \\
Q &:&\text{私は罰せられる}
\end{eqnarray*}とおくと、先の推論は、\begin{equation*}
P\rightarrow Q,\ Q\ \therefore \ P
\end{equation*}と定式化されます。この推論は妥当ではありません。実際、\(P\)は偽で\(Q\)は真であるような解釈のもとで、推論の前提である\(P\rightarrow Q\)と\(Q\)はともに真である一方で、結論\(P\)は偽になります。

最後の例において、提示された推論が妥当ではないことが論理的に明らかになりました。命題論理の話としてはこれで完結です。余談として、この例において、\(P\)が偽で\(Q\)が真であるような事態が起こり得るか考えます。つまり、問題としている人が有罪でないにも関わらず罰せられることは起こり得るのでしょうか。新約聖書の中に該当する話があります。古代ローマ帝国時代、イエス(Jesus)は彼を敵視するユダヤ人指導者たちから「ローマ帝国に対する反逆罪」で告発されました。ローマ帝国の総督であるピラト(Pontius Pilatus)は、ローマ法に照らしてイエスに無罪を宣告しました。ただ、ユダヤ人指導者たちによる扇動によって騒乱が起こることを危惧したピラトは、イエスをむち打ちの刑に処し、十字架処刑を執行しました。

もう一つ例があります。米国の刑事裁判では Acquitted conduct sentencing(「無罪の判決」とでも訳しましょう)と呼ばれる慣行が行われています。具体例として、ある人が「強盗」と「殺人」の両方で起訴されたとします。ただ、強盗に関しては十分な証拠がある一方、殺人に関しては証拠が不足しているものとします。そのため陪審員は、強盗に関しては被告を有罪に、殺人に関しては無罪にしたとします。この場合、被告が宣告される刑の重さは被告が有罪になった「強盗」だけを考慮して決められるべきです。しかし、実際には、裁判官は刑を決める際に、被告が無罪になったはずの「殺人」も考慮し、強盗に対する刑としては説明がつかないほど重い刑を宣告することがあります。以上、余談でした。

次回は含意導入と呼ばれる推論規則について学びます。
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