矛盾律
論理式\(A\)と恒偽式\(\bot \)を任意に選んだとき、以下の恒真式\begin{equation*}A\wedge \lnot A\Leftrightarrow \bot
\end{equation*}が成り立ちます。これを矛盾律(law of contradiction)と呼びます。
論理式\(A\)を任意に選んだとき、矛盾律は論理式\(A\wedge \lnot A\)の値が任意の解釈において偽であると主張しています。論理積の定義より、これは\(A\)と\(\lnot A\)がともに真になる事態は起こり得ないことを意味し、さらにこれは、\(A\)が真かつ偽になる事態は起こり得ないことを意味します。矛盾律とは、同一の論理式がそれぞれの解釈において真かつ偽になるような事態は起こり得ないという主張です。
\end{equation*}が成り立つ。
\end{equation*}が成り立ちます。
\end{equation*}が成り立ちます。
\end{equation*}は論理式であるため、矛盾律より、\begin{equation*}
\left( P\rightarrow Q\right) \wedge \lnot \left( P\rightarrow Q\right)
\Leftrightarrow \bot
\end{equation*}が成り立ちます。
\end{equation*}が恒偽式であることを示します。実際、\begin{eqnarray*}
\left( A\wedge B\right) \wedge \left( \lnot A\vee \lnot B\right)
&\Leftrightarrow &\left( A\wedge B\right) \wedge \lnot \left( A\wedge
B\right) \quad \because \text{ド・モルガンの法則} \\
&\Leftrightarrow &\bot \quad \because \text{矛盾律}
\end{eqnarray*}となるため証明が完了しました。
矛盾律の妥当性
命題変数\(P\)を、\begin{equation*}P:\text{雨が降っている}
\end{equation*}とおくとき、矛盾律より\(P\wedge \lnot P\)は偽です。つまり、「雨が降っているとともに雨が降っていない」という状況は起こり得ません。しかし、東京では雨が降っていて大阪では雨が降っていない場合、\(P\)と\(\lnot P\)がともに真となり矛盾律が成り立ちません。また、現在は雨が降っていて1時間前には雨が降っていない場合にも、\(P\)と\(\lnot P\)がともに真となり矛盾律が成り立ちません。
命題変数\(Q\)を、\begin{equation*}Q:\text{私はアイスクリームが好きだ}
\end{equation*}とおくとき、矛盾律より\(P\wedge \lnot P\)は偽です。つまり、「私がアイスクリームが好きであるとともにアイスクリームは好きではない」という状況は起こりません。しかし、アイスクリームが好きなAさんにとって\(Q\)は真である一方、アイスクリームが好きではないBさんにとって\(\lnot Q\)は真であるため、この場合にも矛盾律が成り立ちません。また、Aさんは子供の頃にはアイスが好きであったが、大人になってからはアイスが好きではなくなった場合にも\(Q\)と\(\lnot Q\)はともに真となり、やはり矛盾律が成り立ちません。
しかし、以上の主張はやや詭弁です。矛盾律が主張していることは、ある言明を同一の意味で解釈した場合には、それが真であるとともに偽であるような事態は起こり得ないということであり、与えられた主張を様々な形で解釈してよいということではありません。つまり、先の命題変数\(P\)を、\begin{equation*}P:\text{東京では現在雨が降っている}
\end{equation*}という形で厳密に表現すれば矛盾律は成り立ちます。また、先の命題変数\(Q\)を、\begin{equation*}Q:\text{Aさんは現在アイスクリームが好きだ}
\end{equation*}という形で厳密に表現すれば矛盾律は成り立ちます。命題論理において具体的な言明を命題として扱うとき、それは文脈上、真もしくは偽のどちらか一方に定まるように厳密に表現する必要があります。
演習問題
\end{equation*}が恒偽式であることを示してください。
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