消費集合
現実の消費者は様々な制約に直面しているため、商品空間に属するすべての商品ベクトルを選択できるわけではありません。そこで、消費者が選択可能な商品ベクトルからなる商品空間の部分集合を消費集合と呼びます。
消費者は様々な制約に直面しているため、好きなものを好きなだけ消費できるわけではありません。消費者が選択可能な選択肢からなる集合を消費集合と呼ばれる概念として定式化します。特に、消費者が直面する経済的な制約に着目した場合の消費集合を予算集合と呼びます。
現実の消費者は様々な制約に直面しているため、商品空間に属するすべての商品ベクトルを選択できるわけではありません。そこで、消費者が選択可能な商品ベクトルからなる商品空間の部分集合を消費集合と呼びます。
市場経済において消費者が商品を手に入れるためには、商品と引き換えに、商品の価格に相当する対価を支払わなければなりません。消費者の支出額は所得の範囲内に収まっていなければならないという経済的制約を明示的に考慮して得られる消費集合を予算集合と呼びます。
予算集合に属する消費ベクトルの中でも、所得をすべて使い切るようなものからなる集合を予算超平面と呼びます。特に、2財モデルにおける予算超平面を予算線と呼びます。関連して、実質所得と名目所得、相対価格と絶対価格を定義します。
商品の価格や所得が変化したとき、消費者が直面する予算集合がどのように変化するかを解説します。関連して、税金や補助金が予算集合に与える影響を説明します。
消費者は予算集合に属する消費ベクトルを選ぶため、仮に予算集合が空集合であるならば、消費者がどのような選択を行うかという問題を検討する余地がなくなってしまいます。そこで多くの場合、予算集合は非空であるものと仮定します。
消費者理論では予算集合が凸集合であることを仮定することがあります。この場合、非分割財の消費などは分析対象から除外されることになります。
消費者理論では予算集合がコンパクト集合であることを仮定することがあります。この仮定には、消費者が直面する最適化問題に解が存在することを保証する役割があります。
予算対応が上半連続かつ下半連続である場合、すなわち連続対応である場合には、消費者が直面する最適化問題を解く際にベルジュの最大値定理を利用できるため、様々な望ましい性質を導くことができます。
すべての商品の価格と所得が同じ割合で変化する場合には、その変化の前後において、予算制約を満たす消費ベクトルからなる集合、すなわち予算集合は変化しません。予算対応が満たす以上の性質を0次同次性と呼びます。関連してニュメレール(価値尺度財)についても解説します。
選択肢を与えられた消費者は何を基準に選択を行うのでしょうか。商品に対する好みの体系は人それぞれであり、消費者による意思決定は、その人が持つ好みの体系によって左右されます。そこで、消費者が持つ好みの体系を選好関係や効用関数などの概念を用いて定式化します。
消費者による意思決定は、その人が持つ好みの体系によって左右されます。そこで、消費者理論では、消費者が持つ好みの体系を選好関係や狭義選好関係、無差別関係などの二項関係として定式化します。
消費者の選好関係を表現する効用関数が存在する場合には、消費ベクトルの間の相対的な望ましさを、実数の大小関係として表現することができます。
消費者の選好関係が与えられたとき、消費ベクトルを任意に選ぶと、そこから上方位集合、下方位集合、無差別集合などの消費集合の部分集合が定義されます。
ある消費ベクトルを出発点とし、そこからある商品の消費量だけを1単位変化させたときに発生する効用の変化量を限界効用と呼びます。限界効用を効用関数の偏微分係数として定義します。限界効用の絶対的な水準は重要ではありませんが限界効用の符号は重要です。
ある消費ベクトルを出発点として、商品 i の消費量を 1 単位変化させてもなお、効用水準を保つために変化させる必要のある商品 j の量を、その消費ベクトルにおける商品 i の商品 j で測った限界代替率と呼びます。限界代替率は限界効用の比として表現できます。
2つの消費ベクトル x,y を任意に選んだとき、消費者は x を y 以上に選好するか、y を x 以上に選好するか、その少なくとも一方が成り立つ場合には、消費者の選好関係は完備性を満たすと言います。
3つの消費ベクトル x,y,z が任意に与えられたとき、消費者は x を y 以上に好みし、y を z 以上に好む場合、x を z 以上に好むことが保証される場合には、消費者の選好関係は推移性を満たすと言います。
完備性と推移性をともに満たす選好関係を合理的な選好関係や選好順序などと呼びます。合理性を満たす選好関係のもとではすべての消費ベクトルを最も望ましいものから最も望ましくないものまで順番に並べることができます。
完備性と推移性は常識的かつ無理のない仮定であるように思われますが、実際には、現実の様々な局面において消費者の選好が合理的ではないような状況は起こり得ます。コンドルセの逆説、フレーミング効果、ビュリダンのロバ(選択の壁)など、消費者の選好が合理性を満たさないような状況について解説します。
ある選好関係のもとで任意の消費ベクトルに関する狭義の上方位集合と狭義の下方位集合がともに消費集合上で開集合である場合、その選好関係は連続性を満たすと言います。連続性の仮定のもとでは消費者の選好が連続的に変化することが保証されます。また、連続な効用関数によって表現される選好は連続性を満たします。
選好関係が単調性を満たすこととは、消費者はすべての商品をより多く消費することを好むことを意味します。選好を表す効用関数が存在するとき、選好関係が単調であることは効用関数が単調増加であることと必要十分です。
ある消費ベクトルが任意の消費ベクトル以上に望ましい場合、それを飽和点と呼びます。選好関係が非飽和性や局所非飽和性を満たすこととは、消費集合の中に飽和点が存在しないことを意味します。
消費ベクトル x 以上に望ましい消費ベクトル y,z を任意に選んだとき、それらを任意の割合で混ぜることで得られる消費ベクトルもまた x 以上に望ましいことが保証されるのであれば、選好は凸性を満たすと言います。凸性を満たす選好は準凹な効用関数によって特徴づけられます。
無差別な2つの消費ベクトルを任意に選んだとき、すべての商品の消費量を同じ割合で変化させることで得られる消費ベクトルどうしも無差別であるならば、選好は相似拡大性を満たすとか、ホモセティックであるなどと言います。1次同次関数であるような効用関数によって表現される選好は相似拡大性を満たします。
選好関係が準線型性を満たすことの意味を解説するとともに、準線型な効用関数によって表現される選好関係が準線型性を満たすことを示します。
消費集合が有限集合であり、なおかつ消費集合上に定義された選好関係が合理性の仮定(完備性および推移性)を満たす場合には、その選好関係を表す効用関数が存在するとともに、そのような関数を具体的に構成することができます。
消費集合が可算集合であり、なおかつ消費集合上に定義された選好関係が合理性の仮定(完備性および推移性)を満たす場合には、その選好関係を表す効用関数が存在するとともに、そのような関数を具体的に構成することができます。
消費集合が凸集合であるようなユークリッド空間の部分集合であるとともに、選好関係が合理性(完備性および推移性)と連続性を満たす場合、その選好関係を表す効用関数が必ず存在します。これをドブリューの定理と呼びます。
消費者は予算集合に属する消費ベクトルの中から、自身の選好(効用関数)に照らし合わせて最も望ましい消費ベクトルを選ぶものと仮定します。このような仮定のもとで、消費者が直面する最適化問題を選好最大化問題(効用最大化問題)と呼びます。
価格ベクトルと所得のそれぞれの組に対して、そこでの効用最大化問題の解に相当する消費ベクトルを1つずつ定める関数をワルラスの需要関数と呼びます。ここでは需要関数が存在するための条件を紹介します。
すべての商品の価格と所得が同じ割合で変化する場合、その前後において効用最大化問題の解は変化しません。需要対応(需要関数)が満たす以上の性質を0次同次性と呼びます。0次同次性からはオイラーの定理を導くことができます。
消費者の選好が局所非飽和性を満たすとき、効用最大化問題の解において消費者は所得をすべて使い切ります。これをワルラスの法則と呼びます。
クーン・タッカーの定理を用いて、効用最大化問題の解が満たす条件を明らかにします。さらに、ラグランジュの未定乗数法を使って効用最大化問題の解を求める方法を解説します。
効用最大化問題の解において消費者は所得をすべて使い切るとともに、すべての商品の消費量が正の実数であるとき、そのような解を内点解と呼びます。内点解において、任意の2つの商品の限界代替率と相対価格は一致します。
効用最大化問題に解において消費者が所得をすべて使い切るとともに、少なくとも1つの商品の需要がゼロである場合、そのような解を端点解と呼びます。端点解において限界代替率と相対価格は一致するとは限りません。
価格ベクトルと所得の組を入力とし、そこでの効用最大化問題の解において消費者が得る効用を出力する関数を間接効用関数と呼びます。
需要関数と間接効用関数の間にはロイの恒等式と呼ばれる関係が成立するため、間接効用関数が与えられれば、そこから需要関数を再現することができます。
効用最大化問題の解が与えられたとき、そこから所得を限界的に増やして何らかの商品の支出に振り分けたときに得られる効用の増分を所得の限界効用と呼びます。所得の限界効用は間接効用関数を所得について偏微分することによっても得られます。
価格ベクトルと目標となる効用水準が与えられたとき、目標水準以上の効用をもたらす消費ベクトルの中から支出を最小化するようなものを特定する最適化問題を支出最小化問題と呼びます。
支出最小化問題にはそのままではベルジュの最大値定理を適用できないため、一般性を失わない形で、支出最小化問題をベルジュの最大値定理が適用可能な形へ変換します。
消費者が直面する支出最小化問題は価格ベクトルと目標となる効用水準に応じて変化します。そこで、価格ベクトルと目標効用水準のそれぞれの組に対して、そのときの支出最小化問題の解集合を定める対応をヒックスの補償需要対応(補償需要関数)と呼びます。
ヒックスの補償需要対応(補償需要関数)は価格ベクトルに関して0次同次です。つまり、すべての商品の価格を同じ割合で増加させても支出最小化問題の解集合は変化しません。
効用関数が連続関数である場合、支出最小化問題の解において消費者は目標効用水準に等しい効用を得ることが保証されます。これは効用最大化問題におけるワルラスの法則に相当する条件です。
クーンタッカー条件を満たす消費ベクトルが支出最小化問題の解であるための必要条件や十分条件を明らかにした上で、支出最小化問題の解を求める具体的な手順について解説します。
支出最小化問題の解においてすべての商品の補償需要が正の実数であるとき、そのような解を内点解と呼びます。内点解において任意の2つの商品の間の限界代替率と相対価格は一致します。
支出最小化問題の解において消費者は目標水準に等しい効用を得るとともに、少なくとも1つの商品の補償需要がゼロである場合、そのような解を端点解と呼びます。端点解において限界代替率と相対価格は一致するとは限りません。
価格ベクトルと目標とする効用水準の組を入力とし、そこでの支出最小化問題の解における消費者の支出を出力する関数を支出関数と呼びます。
補償需要関数と支出関数の間にはシェファードの補題(マッケンジーの補題)と呼ばれる関係が成立するため、支出関数が与えられれば、そこから補償需要関数を再現することができます。
支出最小化問題の解が与えられたとき、そこから効用を限界的に増やすために必要な商品への支出の増分を効用の限界費用と呼びます。
消費者による効用最大化を前提とした場合、すべての商品の価格を一定にしたまま所得だけを変化させたときの商品の需要の変化を所得効果と呼びます。
消費者が効用を最大化するという前提のもと、すべての商品の価格を一定にしたまま所得だけを変化させたときに生じる需要の変化を所得効果と呼びます。
消費者が効用を最大化するという前提のもと、すべての商品の価格を一定にしたまま所得を1パーセント変化させた場合に、ある商品の需要が何パーセント変化するかを表す指標を需要の所得弾力性と呼びます。
需要の所得弾力性を基準に商品は上級財(通常財)と中級財(中立財)と下級財(劣等財)とに分類されます。さらに、上級財は必需財と奢侈財とに分類されます。
消費者による効用最大化を前提とした場合、所得を一定にしたまま特定の商品の価格だけを変化させたときの商品の需要の変化を価格効果と呼びます。
消費者が効用を最大化するという前提のもと、ある商品の価格だけを変化させたときに生じる需要の変化を価格効果と呼びます。
消費者が効用を最大化するという前提のもと、ある商品の価格だけを1パーセント変化させた場合に、ある商品の需要が何パーセント変化するかを表す指標を需要の価格弾力性と呼びます。
需要の自己価格効果(自己価格弾力性)を基準に商品は普通財とギッフェン財に分類されます。また、需要の交差価格効果(交差価格弾力性)を基準に商品は粗代替財と粗補完財に分類されます。
消費者による支出最小化を前提とした場合、特定の商品の価格だけを変化させたときの商品の補償需要の変化を代替効果と呼びます。
消費者が支出を最小化するという前提のもと、ある商品の価格だけを変化させたときに生じる補償需要の変化を代替効果と呼びます。
消費者が支出を最小化するという前提のもと、ある商品の価格だけを1パーセント変化させた場合に、ある商品の補償需要が何パーセント変化するかを表す指標を補償需要の価格弾力性と呼びます。
補償需要の価格効果(価格弾力性)を基準に商品は代替財と補完財に分類されます。
効用最大化問題と支出最小化問題の間に成立する関係について解説します。
効用最大化問題と支出最小化問題は双対の関係にあります。需要関数と補償需要関数の関係、間接効用関数と支出関数の関係について解説します。
ある商品の価格が変化したことによる需要の変化、すなわち価格効果は、価格比の変化に起因する代替効果と、実質所得の変化に起因する所得効果に切り分けることができます。スルツキー方程式は価格効果を代替効果と所得効果に切り分けて評価する際の指針を与えてくれます。
価格変化がもたらす消費者厚生の変化を測る指標を定義します。
消費者の効用関数は一意的に定まらないため、価格変化がもたらす消費者厚生の変化を測る指標として効用の変化量を採用することはできません。代替的な指標として補償変分と呼ばれる指標を定義します。
消費者の効用関数は一意的に定まらないため、価格変化がもたらす消費者厚生の変化を測る指標として効用の変化量を採用することはできません。代替的な指標として等価変分と呼ばれる指標を定義します。
補償変分と等価変分はいずれも価格変化がもたらす消費者厚生の変化を測る指標として十分な根拠がありますが、実際に計測するのは困難です。そこで、多くの場合、より計測しやすい消費者余剰と呼ばれる指標を採用します。
コブ・ダグラス型効用関数と呼ばれるクラスの効用関数を定義するとともに、その性質を解説します。
消費者の選好がコブ・ダグラス型効用関数によって表現されるとき、効用最大化問題には内点解が存在することが保証されるため、需要関数や間接効用関数もまた存在します。
消費者の選好がコブ・ダグラス型効用関数によって表現されるとき、支出最小化問題には解が存在することが保証されるため、補償需要関数や支出関数もまた存在します。
消費者の選好がコブ・ダグラス型効用関数によって表現される場合の価格効果や所得効果、代替効果などについて解説します。
複数の商品が一定の割合で組み合わされて消費されることで意味を持つ場合、それらの商品を完全補完財と呼びます。完全補完財を消費する消費者の選好はレオンチェフ型効用関数によって表現されます。
消費者の選好がレオンチェフ型効用関数によって表現されるとき、効用最大化問題には解が存在することが保証されるため、需要関数や間接効用関数もまた存在します。
消費者の選好がレオンチェフ型効用関数によって表現されるとき、支出最小化問題には解が存在することが保証されるため、補償需要関数や支出関数もまた存在します。
消費者の選好がレオンチェフ型効用関数によって表現される場合の価格効果や所得効果、代替効果などについて解説します。
消費者にとって複数の商品の間の主観的価値が一定であり両者が置き換え可能である場合、それらの商品を完全代替財と呼びます。完全代替財を消費する消費者の選好は線型効用関数によって表現されます。
消費者の選好が線型効用関数によって表現されるとき、効用最大化問題には解が存在することが保証されるため、非空な需要対応や間接効用関数もまた存在します。
消費者の選好が線型効用関数によって表現されるとき、支出最小化問題には解が存在することが保証されるため、非空な補償需要対応や支出関数もまた存在します。
それぞれの商品に関して、消費者が生存を維持するために必ず消費しなければならない数量が設定されている状況を描写する効用関数をストーン・ギアリー型効用関数と呼びます。これはコブ・ダグラス型効用関数の一般化です。
消費者の選好がストーン・ギアリー型効用関数によって表現されるとき、効用最大化問題には内点解が存在することが保証されるため、需要関数や間接効用関数もまた存在します。
消費者の選好がストーン・ギアリー型効用関数によって表現されるとき、支出最小化問題には内点解が存在することが保証されるため、補償需要関数や支出関数もまた存在します。
準線型効用関数と呼ばれるクラスの効用関数を定義するとともに、その性質を解説します。
消費者の選好が準線型効用関数によって表現されるとき、効用最大化問題に解が存在するための条件を特定するとともに、解の性質について解説します。
消費者の選好が準線型効用関数によって表現されるとき、支出最小化問題に解が存在するための条件を明らかにするとともに、その解が満たす性質について解説します。
消費者の選好が準線型効用関数によって表現される場合の価格効果や所得効果、代替効果などについて解説します。
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本節で得た知識は以下の分野を学ぶ上での基礎になります。