現実の消費者は様々な制約に直面しているため、商品空間に属するすべての商品ベクトルを選択できるわけではありません。そこで、消費者が選択可能な商品ベクトルからなる商品空間の部分集合を消費集合と呼びます。

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消費集合

市場経済において取引される商品をモデル化するために商品ベクトル\begin{equation*}
x=\left( x_{1},\cdots ,x_{N}\right) \in
\mathbb{R} ^{N}
\end{equation*}という概念を導入しましたが、後述するように、現実の消費者は様々な制約に直面しているため、商品空間\(\mathbb{R} ^{N}\)に属するすべての商品ベクトルを選択できるわけではありません。そこで、消費者が選択可能な商品ベクトルからなる\(\mathbb{R} ^{N}\)の部分集合を、\begin{equation*}
X\subset
\mathbb{R} ^{N}
\end{equation*}で表し、これを消費集合(consumption set)や消費空間(consumption space)などと呼びます。消費集合に属する商品ベクトル、すなわち消費者が選択可能な商品ベクトルを消費ベクトル(consumption vector)や消費計画(consumption plan)などと呼びます。

例(消費集合)
消費集合\(X\)として頻繁に使われるのは、すべての商品の消費量が非負の実数であるような商品ベクトルからなる集合\begin{equation*}
\mathbb{R} _{+}^{N}=\{x\in
\mathbb{R} ^{N}\ |\ \forall n\in \left\{ 1,\cdots ,N\right\} :x_{n}\geq 0\}
\end{equation*}です。\(X=\mathbb{R} _{+}^{N}\)とみなすことは、消費者はそれぞれの商品を消費しないか、任意の正の量を消費できることを意味します。

 

消費者に課される物理的な制約

消費者は物理的な制約(physical constraint)に直面します。例えば、消費者が 1 日の中で消費する「余暇」の消費量を\(x_{n}\)で表し、その単位として「時間」を採用するとき、その消費量には\(0\leq x_{n}\leq 24\)という制約が課されます。

消費者がある期間中に消費する「車」の消費量を\(x_{n}\)で表し、その単位として「台」を採用するとき、例えば、\(1.5\)台など非整数量の車を消費することは不可能であるため、その消費量には\(x_{n}\in \mathbb{Z} _{+}\)という制約が課されます。つまり、\(x_{n}\)は非負の整数を値としてとり得ます。この例のように、非負の整数単位でのみ消費可能な商品を非分割財(indivisible commodity)と呼びます。他方で、任意の実数量で消費可能な商品を分割財(divisible commodity)と呼びます。

消費者が負の数量の商品を消費できないものと考えるならば、任意の商品\(n\)の消費量は\(x_{n}\in \mathbb{R} _{+}\)という制約を満たす必要があります。このような制約だけを考慮した場合の消費集合\(X\)は、先に例として挙げた\(\mathbb{R} _{+}^{N}\)です。

 

消費者に課される生理的な制約

消費者は生理的な制約(physiological constraint)に直面します。例えば、消費者が生命を維持するためには、与えられた期間中に一定量の食料を消費する必要があります。したがって、生命を維持する上で必要最小量を下回る食料消費を値としてとる商品ベクトルはいずれも選択不可能です。

ただ、生存ラインに肉薄する食料消費量を値として取る消費ベクトルにおいては、消費者にとって食料の価値が他の商品の価値よりも圧倒的に高くなるため、その周辺にある消費ベクトルどうしを比べることが困難になります。このような事情もあり、生理的な制約を明示的に考慮した消費集合を利用することは稀です。ただ、飢餓などの極限的な状況において、消費者は実際に生存ライン周辺の消費者ベクトルの直面しているため、開発経済学など、飢餓を明示的に分析する場合には、生理的な制約を考慮した消費集合を利用します。

 

消費者に課される制度的な制約

消費者は制度的な制約(institutional constraint)に直面します。例えば、繰り返しになりますが、消費者が 1 日の中で消費する「余暇」の消費量を\(x_{n}\)で表し、その単位として「時間」を採用するとき、その消費量には\(0\leq x_{n}\leq 24\)という物理的制約が課されます。加えて、単純化のために余暇以外のすべての時間を「労働」とみなした上で、仮に 1 日の労働時間は 8 時間以内でなければならないという法律が存在するならば、\(0\leq 24-x_{n}\leq 8\)すなわち\(16\leq x_{n}\leq 24\)という制度的制約が加わります。

未成年がアルコールやタバコを消費することや、年齢を問わず麻薬を消費することが法律で禁じられている場合には、それらの消費量は\(0\)でなければならないという制度的制約が課されます。ただ、法を犯してまでもそれらの商品を消費しようとする人々の行動を明示的に分析するのであれば、それらの商品の消費量が\(0\)でなければならないという制約を取り除いた上で、法を犯した場合に適用される「罰則」や「量刑」などを商品として明示的に考慮した消費集合を利用することになります。

特定の制度の有無が消費行動に与える影響に興味がある場合には、制度的な制約を明示的に考慮した消費集合を利用することで、分析目的を達成することができます。ただ、消費者理論の一般的な分析においては、制度的な制約を明示的に考慮した消費集合を利用することは稀です。

 

消費者に課される経済的な制約

消費者は経済的な制約(economic constraint)に直面します。市場経済において消費者が商品を手に入れるためには、商品と引き換えに、商品の価格(price)に相当する対価を支払わなければなりません。支払いの源泉は消費者の所得(wealth)ですが、所得は自身が保有する商品(労働を含める)を市場で処分することで得られる収入や、自身が保有する資産(株式など)からの収入に依存します。これらの事情を踏まえた上で、消費者の支出額は所得の範囲内に収まっていなければならないというのが経済的制約の意味するところです。

これまで解説したように、消費者は様々な種類の制約に直面していますが、消費者理論においては、その中でも経済的な制約が重視されます。経済的制約を明示的に考慮した消費集合を特に予算集合(budget set)と呼びます。予算集合については後ほど詳しく解説します。

次回は予算集合について解説します。

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