ある消費ベクトルが任意の消費ベクトル以上に望ましい場合、それを飽和点と呼びます。選好関係が非飽和性や局所非飽和性を満たすこととは、消費集合の中に飽和点が存在しないことを意味します。
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非飽和性を満たす選好関係

消費集合\(X\subset \mathbb{R} ^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)が、\begin{equation*}
\forall x\in X,\ \exists y\in X:y\succ x
\end{equation*}を満たす場合には、\(\succsim \)は非飽和性(non-satiation)を満たすと言います。つまり、消費ベクトル\(x\)を任意に選んだとき、それよりも望ましい消費ベクトル\(y\)が必ず存在するということです。

選好\(\succsim \)が非飽和性を満たさない場合には、\begin{equation*}
\exists x\in X,\ \forall y\in X:\lnot \left( y\succ x\right)
\end{equation*}が成り立ちます。特に、\(\succsim \)が合理性を満たす場合には、これは、\begin{equation*}
\exists x\in X,\ \forall y\in X:x\succsim y
\end{equation*}と言い換え可能です。つまり、選好が非飽和性を満たさない場合には、任意の消費ベクトル\(y\)以上に望ましい消費ベクトル\(x\)が存在します。このような消費ベクトル\(x\)を飽和点(saturation point)と呼びます。非飽和性の仮定は、消費集合の中に飽和点が存在しないことを保証します。

 

局所非飽和性を満たす選好関係

消費集合\(X\subset \mathbb{R} ^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)が、\begin{equation*}
\forall x\in X,\ \forall \varepsilon >0,\ \exists y\in X:\left( \left\Vert
y-x\right\Vert \leq \varepsilon \ \wedge \ y\succ x\right)
\end{equation*}を満たす場合には、\(\succsim \)は局所非飽和性(local non-satiation)を満たすと言います。ただし、\(\left\Vert \cdot \right\Vert \)は\(\mathbb{R} ^{N}\)上のノルムを表す記号です。上の命題において\(\varepsilon \)は任意の正の実数であるため、\(\varepsilon \)として限りなく小さい実数をとることができます。したがって、局所非飽和性とは、任意の消費ベクトル\(x\)に対して、それにいくらでも近いところに\(x\)よりも望ましい別の消費ベクトル\(y\)が存在することを意味します。もしくは、ある消費ベクトル\(x\)を基準に、そこからわずかでも商品の消費量を変化させることが許されるのであれば、消費者の満足度が向上するということです。

選好\(\succsim \)が局所非飽和性を満たすものとします。消費ベクトル\(x\)を任意に選ぶと、\(\succsim \)の局所非飽和性より、それにいくらでも近いところに\(x\)よりも望ましい別の消費ベクトル\(y\)が存在するため、\(x\)は飽和点ではありません。同様の議論は任意の消費ベクトルについて成立するため、結局、消費集合の中に飽和点は存在しません。したがって、以下の命題が成り立ちます。

命題(局所非飽和性と非飽和性)
消費集合\(X\subset \mathbb{R} ^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)が局所非飽和性を満たすならば、\(\succsim \)は非飽和性を満たす。
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局所非飽和性と単調性の関係

消費集合を\(X=\mathbb{R} _{+}^{N}\)とする場合には、選好関係\(\succsim \)の単調性から局所非飽和性を導くことができます。実際、消費ベクトル\(x\in \mathbb{R} _{+}^{N}\)を任意に選んだ上で、それと任意の\(\varepsilon >0\)に対して、\begin{equation*}
y=x+\frac{\varepsilon }{\sqrt{N}}\left( 1,\cdots ,1\right)
\end{equation*}というベクトルを構成すると、これは明らかに\(y\in \mathbb{R} _{+}^{N}\)を満たします。つまり、\(y\)もまた消費ベクトルです。また、\begin{align*}
\left\Vert y-x\right\Vert & =\left\Vert \left( x+\frac{\varepsilon }{\sqrt{N}}\left( 1,\cdots ,1\right) \right) -x\right\Vert \\
& =\left\Vert \frac{\varepsilon }{\sqrt{N}}\left( 1,\cdots ,1\right)
\right\Vert \\
& =\sqrt{\sum_{n=1}^{N}\left( \frac{\varepsilon }{\sqrt{N}}\right) ^{2}} \\
& =\sqrt{N\cdot \frac{\varepsilon ^{2}}{N}} \\
& =\varepsilon
\end{align*}すなわち、\(\left\Vert y-x\right\Vert \leq \varepsilon \)が成り立ちます。さらに、\(y\gg x\)が成り立つため、\(\succsim \)の単調性より\(y\succ x\)が成り立ちます。したがって、\(\succsim \)は局所非飽和性を満たします。

命題(単調性と局所非飽和性)
消費集合が\(X=\mathbb{R} _{+}^{N}\)であるとき、\(X\)上の選好関係\(\succsim \)が単調性を満たすならば、\(\succsim \)は局所非飽和性を満たす。
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上の命題の逆は成立するとは限りません。つまり、局所非飽和性を満たす選好は単調性を満たすとは限りません。そのことは以下の図から理解できます。

図:局所非飽和性と単調性
図:局所非飽和性と単調性

消費集合\(\mathbb{R} _{+}^{2}\)上の選好関係\(\succsim \)が合理性を満たすものとします。消費ベクトル\(x\)を任意に選ぶと、消費集合\(\mathbb{R} _{+}^{2}\)は上図のように、\(x\)の狭義優位集合\(U_{s}\left( x\right) \)、無差別集合\(I\left( x\right) \)、狭義劣位集合\(L_{s}\left( x\right) \)とに分割されます。この無差別曲線\(I\left( x\right) \)は右上がりの部分を持つため、この選好関係\(\succsim \)は単調性を満たしません。実際、\(\succsim \)が単調性を満たすものと仮定すると、上図のような\(y\gg x\)を満たす\(y\)との間に\(y\succ x\)が成り立ちますが、その一方で\(x\)と\(y\)はともに\(I\left( x\right) \)上の点であるため\(x\sim y\)となり矛盾です。一方、\(I\left( x\right) \)上の点を任意にとった上で、その閉近傍を任意に選ぶと、それは\(U_{s}\left( x\right) \)と交わります。つまり、\(I\left( x\right) \)上の点を任意にとったとき、それにいくらでも近い所にそれよりも望ましい消費ベクトルが必ず存在するため、この選好関係\(\succsim \)は局所非飽和性と矛盾しません。

例(単調性と局所非飽和性)
労働者が1日の時間(24時間)を余暇と労働に配分し、労働から得た所得で商品を購入する状況を想定します。1日あたり労働に割り当てる時間を\(l\)(時間)で表します。ただし、\(0\leq l\leq 24\)です。このとき、1日あたりの余暇時間は\(24-l\)(時間)です。法律により、1日あたりの労働時間は\(14\)時間までと定められているのであれば、\(0\leq l\leq 14\)となります。商品の消費を合成財への支出として表現します。つまり、商品の消費量を\(x\)(円)で表し、その価格を\(1\)とみなすということです。消費集合を、\begin{equation*}
X=\{\left( l,x\right) \in \mathbb{R} _{+}^{2}\ |\ 0\leq h\leq 14\}
\end{equation*}と定めます。労働者にとって労働時間は短いほどよく、商品消費量は多いほどよいのであれば、この労働者の選好関係は単調性を満たしません。一方、消費ベクトル\(\left( l,x\right) \)を任意に選んだとき、そこから\(l\)をわずかに減らし、\(x\)をわずかに増やして新たな消費ベクトル\(\left( l^{\prime },x^{\prime }\right) \)へ移行すれば消費者の満足度は向上するため、この労働者の選好関係は局所非飽和性を満たします。

 

非飽和選好のもとでの無差別集合

復習になりますが、消費集合を\(\mathbb{R} _{+}^{2}\)とし、\(\mathbb{R} _{+}^{2}\)上の選好関係\(\succsim \)が合理性と単調性をともに満たす場合、消費ベクトル\(x\)を任意に選ぶと、無差別集合\(I\left( x\right) \)は幅を持たない曲線になります。単調性は局所非飽和性を満たしますが、局所非飽和性のもとでも無差別集合はやはり幅を持たない曲線になります。

図:局所非飽和性
図:局所非飽和性

そのことを示すために、無差別曲線\(I\left( x\right) \)が幅を持つものと仮定して矛盾を導きます。このとき、上図のように、\(I\left( x\right) \)の部分集合であるような点\(x\)の閉近傍が存在しますが、局所非飽和性より、その閉近傍の中には\(y\succ x\)を満たす消費ベクトルが存在します。一方、\(x\)と\(y\)はともに\(I\left( x\right) \)の要素であり、それは\(y\sim x\)であることを意味しますが、これは\(y\succ x\)は矛盾です。したがって、局所非飽和性のもとでは無差別集合は幅を持たない曲線になります。

 

効用関数の非飽和性

選好関係\(\succsim \)を表す効用関数\(u\)が存在する場合には、効用関数の定義より、\(\succsim \)の非飽和性は、\(u\)が非飽和関数であることとして表現することができます。ただし、効用関数\(u:X\rightarrow \mathbb{R} \)が非飽和関数関数であることとは、\begin{equation*}
\forall x\in X,\ \exists y\in X:u\left( y\right) >u\left( x\right)
\end{equation*}が成り立つこととして定義されます。

命題(効用関数の非飽和性)
消費集合\(X\subset \mathbb{R} ^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)を表現する効用関数\(u:X\rightarrow \mathbb{R} \)が存在するとき、\(u\)が非飽和関数であることは、\(\succsim \)が非飽和性を満たすための必要十分条件である。
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選好関係\(\succsim \)を表す効用関数\(u\)が存在する場合には、効用関数の定義より、\(\succsim \)の局所非飽和性は、\(u\)が局所非飽和関数であることとして表現することができます。ただし、効用関数\(u:X\rightarrow \mathbb{R} \)が局所非飽和関数であることとは、\begin{equation*}
\forall x\in X,\ \forall \varepsilon >0,\ \exists y\in X:[\Vert y-x\Vert
\leq \varepsilon \ \wedge \ u\left( y\right) >u\left( x\right) ] \end{equation*}た成り立つこととして定義されます。

命題(効用関数の局所非飽和性)
消費集合\(X\subset \mathbb{R} ^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)を表現する効用関数\(u:X\rightarrow \mathbb{R} \)が存在するとき、\(u\)が局所非飽和関数であることは、\(\succsim \)が局所非飽和性を満たすための必要十分条件である。
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以上の議論は、選好関係を表現する効用関数が存在することを前提とした上でのものですが、そもそも、選好関係の非飽和から、効用関数の存在について何らかのことを言えるのでしょうか。選好関係が非飽和性を満たす場合、その選好関係を表現する効用関数は存在するのでしょうか。効用関数が存在するための条件については、場を改めて詳しく解説します。

次回は選好関係に関する凸性と呼ばれる仮定について解説します。

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