消費者理論では予算集合が凸集合であることを仮定することがあります。この場合、非分割財の消費などは分析対象から除外されることになります。

予算集合が凸集合であることの意味

消費者理論では予算集合\(B\left( p,w\right) \)が凸集合であるものと仮定することがあります。ただし、\(B\left( p,w\right) \)が凸集合であるとは、\begin{equation*}
\forall x,x^{\prime }\in B\left( p,w\right) ,\ \forall \alpha \in \lbrack
0,1]:\alpha x+(1-\alpha )x^{\prime }\in B\left( p,w\right)
\end{equation*}が成り立つことを意味します。\(B\left( p,w\right) \)に属する消費ベクトル\(x,y\)を任意に選んだときに、それらを任意の割合\(\alpha \)で組み合わせて得られるベクトル\(\alpha x+\left( 1-\alpha \right) \)もまた\(B\left( p,w\right) \)に属する消費ベクトルになるということです。

消費者が直面する予算集合\(B\left( p,w\right) \)は価格ベクトル\(p\)と所得\(w\)に依存して変化します。消費者行動を分析する際には、\(p\)や\(w\)の変化にともない、消費者による選択がどのように変化するかを考察することも重要になります。したがって、そのような分析を一貫性のある形で行うためには、特定の\(p,w\)に関する\(B\left( p,w\right) \)が凸集合であるだけではなく、\(p\)と\(w\)がどのような値をとる場合でも予算集合\(B\left( p,w\right) \)が凸集合であることを仮定することがあります。つまり、予算対応\(B:\mathbb{R} _{++}^{N}\times \mathbb{R} _{++}\twoheadrightarrow X\)がそれぞれの組\(\left( p,w\right) \in \mathbb{R} _{++}^{N}\times \mathbb{R} _{++}\)に対して定める\(B\left( p,w\right) \)がいずれも凸集合であることを仮定するということです。予算対応\(B\)が以上の条件を満たすとき、\(B\)は凸値をとる(convex valued)と言います。

予算集合が凸集合であるという仮定は、どれくらい強い仮定なのでしょうか。この仮定を設けることにより、考察対象から排除されてしまうようなケースをいくつか挙げます。

例(非分割財)
消費者が一年あたりに映画館で映画を見る回数が研究対象である状況を想定します。このとき、消費者が一年あたりに消費する映画チケットの枚数を\(x_{1}\)で表し、同時期における映画チケット以外のすべての商品への消費支出を\(x_{2}\)で表します。つまり、商品\(2\)は合成財です。商品\(1\)の価格\(p_{1}\)は映画チケット1枚当たりの値段であり、商品\(2\)の価格は\(p_{2}=1\)です(合成財の価格は\(1\)であるため)。ここでのポイントは、\(1.5\)枚や\(0.3\)枚など、非整数量の映画チケットを消費することはできず、その消費量\(x_{1}\)は非負の整数\(0,1,2,3,\cdots \)だけを値として取り得るということです。この場合の消費集合\(X\subset \mathbb{R} ^{2}\)は下図のグレーの縦線からなる集合ですが、これは明らかに凸集合ではありません。実際、下図の点\(x,x^{\prime }\)はともにグレーの線上にあるため\(X\)の要素ですが、それらを結んで得られる線分上の点\(x^{\prime \prime }\)はグレー線上にないため\(X\)の要素ではありません。予算集合\(B\left( p,w\right) \)は消費集合\(X\)の部分集合であるため、同様に考えることで、\(B\left( p,w\right) \)が凸集合にならないことを示すことができます。
図:非分割財
図:非分割財

この例における映画チケットのように、非負の整数単位でのみ消費可能な商品を非分割財(indivisible commodity)と呼びます。他方で、任意の実数量で消費可能な商品を分割財(divisible commodity)と呼びます。非分割財を分析対象とする場合、予算集合が凸集合であるという仮定は成り立つとは限りません。逆に言うと、予算集合が凸集合であるという仮定を設けることは、非分割財の消費を分析対象から除外してしまう可能性を示唆します。

合成財について復習する 分割財・非分割財について復習する
例(労働所得)
労働者が1日の時間(24時間)を余暇と労働に配分し、労働から得た所得で商品を購入する状況を想定します。1日あたり余暇に割り当てる時間を\(h\)(時間)で表します。ただし、\(0\leq h\leq 24\)です。1日あたりの労働時間は\(24-h\)(時間)ですが、法律により、1日あたりの労働時間は\(14\)時間までと定められているものとします。商品の消費を合成財への支出として表現します。つまり、商品の消費量を\(x\)(円)で表し、その価格を\(1\)とみなすということです。所得\(w\)の源泉としては、労働時間が\(8\)時間までは単位時間あたり\(p=1\)(円)を得て、それ以上残業する場合には、単位時間あたり\(p=1.5\)(円)を得られるものとします。商品ベクトルを\(\left( h,x\right) \in \mathbb{R} _{+}^{2}\)とするとき、労働者が直面する予算集合は、\begin{equation*}
B\left( p,w\right) =\left\{
\begin{array}{ll}
\{\left( h,x\right) \in
\mathbb{R} _{+}^{2}\ |\ x\leq 24-h\} & \left( if\ 16\leq h\leq 24\right) \\
\{\left( h,x\right) \in
\mathbb{R} _{+}^{2}\ |\ x\leq 32-1.5h\} & \left( if\ 10\leq h<16\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}となります(演習問題にします)。この予算集合は下図のグレーの領域(境界を含む)として図示されます。これは明らかに凸集合ではありません。実際、下図の点\(a,b\)はともに予算集合の要素ですが、それらを結んで得られる線分上の点\(c \)は予算集合の要素ではありません。
図:労働所得
図:労働所得
演習問題(プレミアム会員限定)

予算集合が凸集合であるという仮定をなぜ設ける必要があるのでしょうか。消費者理論では、消費者は自身が直面する予算集合の中から、自身にとって最も望ましい消費ベクトルを選ぶものと仮定します。このような形で消費者の意思決定を最適化問題として定式化したとき、その解集合が凸集合であること、もしくはその解が一意的であることを保証する際に、予算集合が凸集合であるという仮定を利用します。この点については場を改めて詳しく解説します。

 

予算対応が凸値をとるための条件

予算対応\(B\)が凸値をとることを天下り的に仮定してもよいのですが、よりシンプルな仮定をもとに、予算対応\(B\)が凸値をとることを保証することもできます。

命題(予算対応が凸値をとるための条件)
消費集合が\(X=\mathbb{R} _{+}^{N}\)であるならば、予算対応\(B:\mathbb{R} _{++}^{N}\times \mathbb{R} _{++}\twoheadrightarrow X\)は凸値をとる。
証明を見る(プレミアム会員限定)

上の命題の証明では、\(\mathbb{R} _{+}^{N}\)が凸集合であるという事実を利用します。したがって、上の命題において、消費集合が\(X=\mathbb{R} _{+}^{N}\)という条件を、\(X\)が凸集合であるという条件に置き換えることもできます。

2財モデルを用いて上の命題を図解します。消費集合が\(X=\mathbb{R} _{+}^{2}\)である場合の予算集合\(B\left( p_{1},p_{2},w\right) \)は下図のグレーの領域として表されます。ただし、境界を含みます。斜めの線分は予算線\(\overline{B}\left( p_{1},p_{2},w\right) \)に対応しており、これは2つの点\((\frac{w}{p_{1}},0),(0,\frac{w}{p_{2}})\)を通り、傾きが\(-\frac{p_{1}}{p_{2}}\)の線分です。

図:2財モデルにおける予算集合
図:2財モデルにおける予算集合

上図のグレーの領域から2つの点\(x,x^{\prime }\)を任意に選んだ上で、それを両端とする線分を描くと、その線分全体もまたグレーの領域に属します。したがって、この予算集合\(B\left( p_{1},p_{2},w\right) \)は凸集合です。

次回は予算集合がコンパクト集合であることの意味を解説します。

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