WIIS

消費者理論

線型効用関数のもとでの支出最小化

目次

関連知識

Mailで保存
Xで共有

線型効用関数のもとでの支出最小化問題

消費集合\(\mathbb{R} _{+}^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)が線型効用関数\(u:\mathbb{R} _{+}^{N}\rightarrow \mathbb{R} \)によって表現されているものとします。つまり、\(u\)がそれぞれの消費ベクトル\(x\in \mathbb{R} _{+}^{N}\)に対して定める効用が、\begin{equation*}u\left( x\right) =\alpha _{1}x_{1}+\cdots +\alpha _{N}x_{N}
\end{equation*}であるということです。ただし、\(\alpha _{1},\cdots ,\alpha_{N}>0\)です。

線型効用関数\(u:\mathbb{R} _{+}^{N}\rightarrow \mathbb{R} \)は単調増加な連続関数であるとともに、\begin{equation*}u\left( 0\right) =\alpha _{1}0+\cdots +\alpha _{N}0=0
\end{equation*}であることを踏まえると、\(u\)の値域は、\begin{equation*}u\left( \mathbb{R} _{+}^{N}\right) =\mathbb{R} _{+}
\end{equation*}となります。価格ベクトルと目標効用水準の組\(\left( p,v\right) \in \mathbb{R} _{++}^{N}\times \mathbb{R} _{+}\)のもとでの支出最小化問題は、
$$\begin{array}{cl}\min\limits_{\left( x_{1},\cdots ,x_{N}\right) } & p\cdot x \\
s.t. & \alpha _{1}x_{1}+\cdots +\alpha _{N}x_{N}\geq v \\
& x_{1}\geq 0 \\
& \vdots \\
& x_{N}\geq 0
\end{array}$$
と定式化されます。線型効用関数\(u\)は連続であるため、上の支出最小化問題には解が存在することが保証されます。

 

線型効用関数のもとでの補償需要関数

価格ベクトルと目標効用水準の組\(\left( p,v\right) \in \mathbb{R} _{++}^{N}\times \mathbb{R} _{+}\)が与えられたとき、目標効用水準が\(v=0\)である場合、ゼロベクトル\(0\in \mathbb{R} _{+}^{N}\)が支出最小化問題の解になります。そこで以降では\(v>0\)の場合について考えます。線型効用関数は連続であるため支出最小化問題の解において消費者は目標水準と等しい効用を得ます。以上を踏まえると、\(\left( p,v\right) \)のもとでの支出最小化問題を、
$$\begin{array}{cl}\min\limits_{\left( x_{1},\cdots ,x_{N}\right) } & p\cdot x \\
s.t. & \alpha _{1}x_{1}+\cdots +\alpha _{N}x_{N}=v \\
& x_{1}\geq 0 \\
& \vdots \\
& x_{N}\geq 0
\end{array}$$
と表現しても一般性は失われません。さらにこれは、

$$\begin{array}{cl}\max\limits_{\left( x_{1},\cdots ,x_{N}\right) } & -p\cdot x \\
s.t. & \alpha _{1}x_{1}+\cdots +\alpha _{N}x_{N}=v \\
& x_{1}\geq 0 \\
& \vdots \\
& x_{N}\geq 0
\end{array}$$
と言い換え可能です。線型効用関数\(u\)は\(\mathbb{R} ^{N}\)上で\(C^{1}\)級であり、なおかつ消費集合\(\mathbb{R} _{+}^{N}\)上において準凹です。加えて、任意の点\(x\in \mathbb{R} ^{N}\)において、\begin{equation*}\forall i\in \left\{ 1,\cdots ,N\right\} :\frac{\partial u\left( x\right) }{\partial x_{i}}\not=\alpha _{i}
\end{equation*}が成り立つため、クーンタッカーの条件を満たす消費ベクトルはそのまま支出最小化問題の解になります。この問題を解くことにより以下が得られます。

命題(線型効用関数のもとでの補償需要対応)
消費集合\(\mathbb{R} _{+}^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)が線型効用関数\(u:\mathbb{R} _{+}^{N}\rightarrow \mathbb{R} \)として表される場合には、補償需要対応\(H^{\ast }:\mathbb{R} _{++}^{N}\times \mathbb{R} _{++}\rightarrow \mathbb{R} _{+}^{N}\)が存在し、これはそれぞれの\(\left( p,v\right) \in \mathbb{R} _{++}^{N}\times \mathbb{R} _{++}\)に対して、\begin{equation*}H^{\ast }\left( p,v\right) =\left\{ x\in \mathbb{R} _{+}^{N}\ |\ \sum_{i\in M}\alpha _{i}x_{i}=v\wedge \left( \forall i\not\in
M:x_{i}=0\right) \right\}
\end{equation*}を定める。ただし、\begin{equation*}
M=\mathrm{argmin}_{i\in \left\{ 1,\cdots ,N\right\} }\left\{ \frac{p_{i}}{\alpha _{i}}\ |\ i\in \left\{ 1,\cdots ,N\right\} \right\}
\end{equation*}である。

証明

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

線型効用関数\(u\)と価格ベクトル\(p\)が与えられたとき、それぞれの商品\(i\)について\(\frac{p_{i}}{\alpha _{i}}\)を計算することができます。上の命題中の集合\(M\)は\(\frac{p_{i}}{\alpha _{i}}\)の値が最小になるような商品\(i\)からなる集合です。特に、任意の商品について\(\alpha _{i}=1\)である場合、\(M\)は\(p_{i}\)が最小になる集合、すなわち最も価格が安い商品からなる集合です。上の命題は、\(M\)に属する商品に非負の需要を割り当て、\(M\)に属さない商品にゼロの需要を割り当てるとともに、目標効用水準\(v\)に等しい効用を達成するような任意の消費ベクトルが支出最小化問題の解になることを主張しています。

例(線型効用関数)
2財モデルにおける線型効用関数\(u:\mathbb{R} _{+}^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(\left( x_{1},x_{2}\right)\in \mathbb{R} _{+}^{2}\)に対して、\begin{equation*}u\left( x_{1},x_{2}\right) =\alpha _{1}x_{1}+\alpha _{2}x_{2}
\end{equation*}を定めます。ただし、\(\alpha _{1},\alpha _{2}>0\)です。上の命題より、補償需要\(H^{\ast }:\mathbb{R} _{++}^{2}\times \mathbb{R} _{++}\rightarrow \mathbb{R} _{+}^{2}\)はそれぞれの\(\left(p_{1},p_{2},v\right) \in \mathbb{R} _{++}^{2}\times \mathbb{R} _{++}\)に対して、\begin{equation*}H^{\ast }\left( p_{1},p_{2},v\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
\left\{ \left( x_{1},x_{2}\right) \in \mathbb{R} _{+}^{2}\ |\ \alpha _{1}x_{1}+\alpha _{2}x_{2}=v\right\} & \left( if\ \frac{p_{1}}{\alpha _{1}}=\frac{p_{2}}{\alpha _{2}}\right) \\
\left\{ \left( 0,\frac{v}{\alpha _{2}}\right) \right\} & \left( if\ \frac{p_{1}}{\alpha _{1}}>\frac{p_{2}}{\alpha _{2}}\right) \\
\left\{ \left( \frac{v}{\alpha _{1}},0\right) \right\} & \left( if\ \frac{p_{1}}{\alpha _{1}}<\frac{p_{2}}{\alpha _{2}}\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めます。特に、\(\alpha _{1}=\alpha _{2}=1\)の場合には、\begin{equation*}H^{\ast }\left( p_{1},p_{2},v\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
\left\{ \left( x_{1},x_{2}\right) \in \mathbb{R} _{+}^{2}\ |\ \alpha _{1}x_{1}+\alpha _{2}x_{2}=v\right\} & \left( if\
p_{1}=p_{2}\right) \\
\left\{ \left( 0,v\right) \right\} & \left( if\ p_{1}>p_{2}\right) \\
\left\{ \left( v,0\right) \right\} & \left( if\ p_{1}<p_{2}\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}となります。

 

線型効用関数のもとでの支出関数

消費集合\(\mathbb{R} _{+}^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)が線型効用関数として表される場合には補償需要対応が存在することが明らかになりました。したがって、補償需要を支出を表す式\(p\cdot x\)に代入することにより支出関数が得られます。

命題(線型効用関数のもとでの支出関数)
消費集合\(\mathbb{R} _{+}^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)が線型効用関数\(u:\mathbb{R} _{+}^{N}\rightarrow \mathbb{R} \)として表される場合には、支出関数\(v:\mathbb{R} _{++}^{N}\times \mathbb{R} _{++}\rightarrow \mathbb{R} \)が存在し、これはそれぞれの\(\left( p,v\right) \in \mathbb{R} _{++}^{N}\times \mathbb{R} _{++}\)に対して、\begin{equation*}e\left( p,v\right) =mv
\end{equation*}を定める。ただし、\begin{equation*}
m=\min \left\{ \frac{p_{i}}{\alpha _{i}}\ |\ i\in \left\{ 1,\cdots
,N\right\} \right\}
\end{equation*}である。

証明

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

例(線型効用関数のもとでの支出関数)
2財モデルにおける線型効用関数\(u:\mathbb{R} _{+}^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(\left( x_{1},x_{2}\right)\in \mathbb{R} _{+}^{2}\)に対して、\begin{equation*}u\left( x_{1},x_{2}\right) =\alpha _{1}x_{1}+\alpha _{2}x_{2}
\end{equation*}を定めます。ただし、\(\alpha _{1},\alpha _{2}>0\)です。上の命題より、支出関数\(v:\mathbb{R} _{++}^{2}\times \mathbb{R} _{++}\rightarrow \mathbb{R} \)が存在して、これはそれぞれの\(\left( p_{1},p_{2},v\right) \in \mathbb{R} _{++}^{2}\times \mathbb{R} _{++}\)に対して、\begin{equation*}v\left( p_{1},p_{2},v\right) =mv
\end{equation*}を定めます。ただし、\begin{equation*}
m=\min \left\{ \frac{p_{1}}{\alpha _{1}},\frac{p_{2}}{\alpha _{2}}\right\}
\end{equation*}です。

関連知識

Mailで保存
Xで共有

質問とコメント

プレミアム会員専用コンテンツです

会員登録

有料のプレミアム会員であれば、質問やコメントの投稿と閲覧、プレミアムコンテンツ(命題の証明や演習問題とその解答)へのアクセスなどが可能になります。

ワイズのユーザーは年齢・性別・学歴・社会的立場などとは関係なく「学ぶ人」として対等であり、お互いを人格として尊重することが求められます。ユーザーが快適かつ安心して「学ぶ」ことに集中できる環境を整備するため、広告やスパム投稿、他のユーザーを貶めたり威圧する発言、学んでいる内容とは関係のない不毛な議論などはブロックすることになっています。詳細はガイドラインをご覧ください。

誤字脱字、リンク切れ、内容の誤りを発見した場合にはコメントに投稿するのではなく、以下のフォームからご連絡をお願い致します。

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

消費者理論