任意の消費ベクトル x,y,z について、消費者は x を y 以上に選好し、y を z 以上に選好する場合、x を z 以上に選好することが保証される場合には、消費者の選好関係は推移性を満たすと言います。

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推移性を満たす選好関係

消費集合\(X\subset \mathbb{R} ^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)が、\begin{equation*}
\forall x,y,z\in X:\left[ (x\succsim y\ \wedge \ y\succsim z)\ \Rightarrow \
x\succsim z\right] \end{equation*}を満たす場合には、つまり、任意の3つの消費ベクトル\(x,y,z\)について、消費者は\(x\)を\(y\)以上に好み、\(y\)を\(z\)を以上に好む場合には、\(x\)を\(z\)以上に好むことが保証されるのであれば、\(\succsim \)は推移性(transitivity)を満たすと言います。

推移性の意味を深く理解するために、完備性を満たすが推移性を満たさない選好関係\(\succsim \)のもとでどのような問題が生じ得るかを考えます。\(\succsim \)が推移性を満たさない場合には、推移性の定義の否定に相当する以下の命題\begin{equation}
\exists x,y,z\in X:\left[ x\succsim y\ \wedge \ y\succsim z\ \wedge \ \lnot
\left( x\succsim z\right) \right] \tag{1}
\end{equation}が成り立ちます。\(\succsim \)が完備性を満たす場合には、\(\left( 1\right) \)中の消費ベクトル\(x,z\)の間に、\begin{equation*}
z\succ x\ \Leftrightarrow \ \lnot (x\succsim z)
\end{equation*}が成り立つことは先に示した通りです。そこで、これを用いて\(\left( 1\right) \)を言い換えると、\begin{equation*}
\exists x,y,z\in X:\left( x\succsim y\ \wedge \ y\succsim z\ \wedge \ z\succ
x\right)
\end{equation*}を得ます。つまり、\(x\)を出発点としたとき、\(z\)のほうが\(x\)よりも厳密に望ましく(\(z\succ x\))、さらに\(y\)は\(z\)以上に望ましい(\(y\succsim z\))という形で、\(x\)を出発点にそれより厳密に望ましいか、あるいは同等以上の消費ベクトルへ移行することで\(y\)へ至ったにも関わらず、最初の\(x\)はこの\(y\)以上に望ましい(\(x\succsim y \))という奇妙な状況が発生しています。つまり、\begin{equation*}
\cdots \succ x\succsim y\succsim z\succ x\succsim y\succsim z\succ x\succsim
y\succsim z\succ \cdots
\end{equation*}という形で消費者の選好が循環してしまうということです。選好関係に対して推移性の仮定を設けることは、こうした状況が発生する可能性を排除することを意味します。

 

推移性を満たす選好を表現する効用関数

選好関係\(\succsim \)を表す効用関数\(u\)が存在する場合には、効用関数の定義より、\(\succsim \)の推移性は、\(u\)に関する以下の性質として表現することができます。

命題(効用関数の推移性)
消費集合\(X\subset \mathbb{R} ^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)を表現する効用関数\(u:X\rightarrow \mathbb{R} \)が存在するとき、任意の消費ベクトル\(x,y,z\in X\)について、\begin{equation*}
\left[ u\left( x\right) \geq u\left( y\right) \ \wedge \ u\left( y\right)
\geq u\left( z\right) \right] \ \Rightarrow \ u\left( x\right) \geq u\left(
z\right)
\end{equation*}が成り立つことは、\(\succsim \)が推移性を満たすための必要十分条件である。
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効用関数は実数を値として取り得るため、効用どうしを比較する\(\geq \)は\(\mathbb{R}\)上の大小関係です。一般に、\(\mathbb{R}\)上の大小関係\(\geq \)は推移性\begin{equation*}
\forall a,b,c\in \mathbb{R} :(a\geq b\ \wedge \ b\geq c\ \Rightarrow \ a\geq c)
\end{equation*}を満たすため、任意の効用関数\(u\)は上の命題中の性質を満たします。つまり、任意の消費ベクトル\(x,y,z\in X\)について、\begin{equation}
\left[ u\left( x\right) \geq u\left( y\right) \ \wedge \ u\left( y\right)
\geq u\left( z\right) \right] \ \Rightarrow \ u\left( x\right) \geq u\left(
z\right) \tag{1}
\end{equation}が成り立つということです。選好関係\(\succsim \)が与えられたとき、一般に、それを表す効用関数は存在するとは限りません。ただ、\(\succsim \)を表す効用関数\(u\)が存在する場合、それは必ず\(\left( 1\right) \)を満たすため、上の命題より、\(\succsim \)が推移性を満たすことが保証されます。

命題(効用関数によって表現される選好関係の推移性)
消費集合\(X\subset \mathbb{R} ^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)を表現する効用関数\(u:X\rightarrow \mathbb{R} \)が存在する場合には、\(\succsim \)は推移性を満たす。
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次回は選好関係に関する合理性と呼ばれる仮定について解説します。

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