準線型性を満たす選好関係
消費集合\(\mathbb{R} _{+}^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)が以下の2つの条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall x,y\in \mathbb{R} _{+}^{N}:\left( x\sim y\Rightarrow \forall \alpha \in \mathbb{R} :x+\alpha e_{i}\sim y+\alpha e_{i}\right) \\
&&\left( b\right) \ \forall x\in \mathbb{R} _{+}^{N},\ \forall \alpha \in \mathbb{R} _{++}:x+\alpha e_{i}\succ x
\end{eqnarray*}を満たす場合には、\(\succsim \)は商品\(i\)について準線型性(quasi-linear withrespect to good \(i\))を満たすといいます。ただし、\(e_{i}\)は第\(i\)成分が\(1\)で他の任意の成分が\(0\)であるような単位ベクトル\begin{equation*}e_{i}=\left( 0,\cdots ,0,1,0,\cdots ,0\right) \in \mathbb{R} ^{N}
\end{equation*}です。この場合、商品\(i\)をニュメレール(numeraire)と呼びます。他の商品に関する準線型性も同様に定義します。
上の条件\(\left( a\right) \)は、無差別な2つの消費ベクトル\(x,y\)を任意に選んだとき、他のすべての商品の消費量を一定にしたまま商品\(i\)の消費量だけを同じ割合\(\alpha \)で変化させて得られる消費ベクトル\(x+\alpha e_{i},y+\alpha e_{i}\)もまた無差別であることを意味します。条件\(\left( b\right) \)は、消費ベクトル\(x\)を任意に選んだとき、他のすべての商品の消費量を一定にしたまま商品\(i\)の消費量だけを増やして消費ベクトル\(x+\alpha e_{i}\)へ移行すると、消費者の満足度が向上することを意味します。つまり、商品\(i\)が消費者にとって経済財であるということです。
y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} _{+}^{2}:\left[ \left( x_{1},x_{2}\right) \sim \left( y_{1},y_{2}\right)
\Rightarrow \forall \alpha \in \mathbb{R} :\left( x_{1}+\alpha ,x_{2}\right) \sim \left( y_{1}+\alpha ,y_{2}\right) \right] \\
&&\left( b\right) \ \forall \left( x_{1},x_{2}\right) \in \mathbb{R} _{+}^{2},\ \forall \alpha \in \mathbb{R} _{++}:\left( x_{1}+\alpha ,x_{2}\right) \succ \left( x_{1},x_{2}\right)
\end{eqnarray*}が成り立つことを意味します。
上図のように同一の無差別曲線\(I\left( x\right) \)に属する消費ベクトル\(x,y\)を任意に選びます。選好\(\succsim \)が商品1について準線型性を満たす場合には、任意の実数\(\alpha \)に対して\(x+\left( \alpha ,0\right) \)と\(y+\left( \alpha ,0\right) \)が無差別になるため、これらは同一の無差別曲線\(I\left( x+\left(\alpha ,0\right) \right) \)に属します。したがって、商品1について準線型性を満たす選好関係のもとでは、ある無差別曲線を\(x_{1}\)軸に関して平行移動すれば、別の任意の無差別曲線を得ることができます。加えて、商品1は経済財であるため、右側に位置する無差別曲線ほどより満足度の高い消費ベクトルに対応する無差別曲線になります。
通常、消費者の選好を包括的に記述するためには、消費集合に含まれる任意の2つの消費ベクトルに対して、消費者がどちらを好むかを判定する必要があります。ただ、その作業量は膨大であり実質的には不可能です。一方、選好が準線型であるものと仮定した場合、ある消費ベクトル\(x\)が関する無差別集合\(I\left( x\right) \)に関するデータさえ得られれば、それを平行移動することにより他の任意の無差別集合を得ることができます。そのような事情もあり、統計にもとづいて理論の検証を行う場合などには準線型性を仮定します。
準線型の効用関数
消費集合\(\mathbb{R} _{+}^{N}\)上に定義された効用関数\(u:\mathbb{R} _{+}^{N}\rightarrow \mathbb{R} \)が商品\(i\)について準線型性(quasi-linear)であることとは、他の商品の消費量\(x_{-i}=\left( x_{1},\cdots,x_{i-1},x_{i+1},\cdots ,x_{N}\right) \in \mathbb{R} _{+}^{N-1}\)を変数として持つ関数\(v:\mathbb{R} _{+}^{N-1}\rightarrow \mathbb{R} \)が存在して、両者の間に、\begin{equation*}\forall x\in \mathbb{R} _{+}^{N}:u\left( x\right) =x_{i}+v\left( x_{-i}\right)
\end{equation*}という関係が成り立つことを意味します。つまり、任意の消費ベクトル\(x\)から得られる効用が、商品\(i\)の消費量\(x_{i}\)と他の商品の消費量から得られる効用\(v\left( x_{-i}\right) \)の和として表現できるということです。他の商品に関する準線型性も同様に定義します。
\end{equation*}という関係が成り立つことを意味します。
\end{equation*}という関係が成り立つことを意味します。
\end{equation*}を定めるものとします。\(u\)は商品\(1\)に関する準線型の効用関数です。
選好関係を表す効用関数が存在するとともに、その効用関数が準線型である場合、選好関係が準線型性を満たすことが保証されます。
この命題は、選好関係を表現する効用関数が存在することを前提とした上での主張であることに注意してください。
準線型の効用関数のもとでの限界代替率
効用関数\(u:\mathbb{R} _{+}^{N}\rightarrow \mathbb{R} \)は商品\(i\)に関して準線型であるものとします。つまり、ある関数\(v:\mathbb{R} _{+}^{N-1}\rightarrow \mathbb{R} \)が存在して、\begin{equation*}\forall x\in \mathbb{R} _{+}^{N}:u\left( x\right) =x_{i}+v\left( x_{-i}\right)
\end{equation*}という関係が成り立つということです。関数\(u\)が全微分可能である場合、点\(x\in \mathbb{R} _{+}^{N}\)における商品\(i\)の商品\(j\)で測った限界代替率は、\begin{eqnarray*}MRS_{ij}\left( x\right) &=&\frac{\frac{\partial u\left( x\right) }{\partial
x_{i}}}{\frac{\partial u\left( x\right) }{\partial x_{j}}}\quad \because MRS\text{の定義} \\
&=&\frac{1}{\frac{\partial v\left( x_{-i}\right) }{\partial x_{j}}}\quad
\because u\text{の定義}
\end{eqnarray*}となりますが、この値は商品\(i\)の消費量\(x_{i}\)に依存しません。つまり、他の商品の消費量を一定にしたままニュメレールである商品\(i\)の消費量だけを変化させた場合、その前後において商品\(i\)の他の任意の商品で測った限界代替率は変化しません。言い換えると、商品\(i\)がニュメレールであるとき、その限界代替率を与える関数\begin{equation*}MRS_{ij}\left( x\right) :\mathbb{R} _{+}^{N}\rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}はニュメレールの消費量\(x_{i}\)に関して定数関数であるということです。言い換えると、限界代替率はニュメレールとは異なる商品の消費量\(x_{-i}\)のみに依存するということです。
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