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消費者理論

予算集合のコンパクト性(コンパクト値をとる予算対応)

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予算集合がコンパクト集合であることの意味

消費者が選択し得る消費ベクトルからなる集合が消費集合\begin{equation*}
X\subset \mathbb{R} ^{N}
\end{equation*}として定式化されているものとします。特に、消費者が直面する経済的に注目する場合、それは予算対応\begin{equation*}
B:\mathbb{R} _{++}^{N}\times \mathbb{R} _{++}\twoheadrightarrow X
\end{equation*}として表現されます。つまり、プライス・テイカーの仮定のもとでは、消費者にとって価格ベクトルと所得はいずれも外生的に与えられるパラメーターとみなされるため、価格ベクトルと所得\(\left( \boldsymbol{p},w\right) \in \mathbb{R} _{++}^{N}\times \mathbb{R} _{++}\)に直面した消費者が選択可能な消費ベクトルからなる集合は予算集合\begin{eqnarray*}B\left( \boldsymbol{p},w\right) &=&\left\{ \boldsymbol{x}\in X\ |\
\boldsymbol{p}\cdot \boldsymbol{x}\leq w\right\} \\
&=&\left\{ \left( x_{1},\cdots ,x_{N}\right) \in X\ |\ p_{1}x_{1}+\cdots
+p_{n}x_{N}\leq w\right\}
\end{eqnarray*}として表現されるということです。これは、消費集合\(X\)に属する消費ベクトルの中でも、消費者による支出が所得を超えないものからなる集合です。消費者は予算集合に属する何らかの消費ベクトルを選びます。

消費者理論では予算集合\(B\left( \boldsymbol{p},w\right) \)がユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{N}\)上のコンパクト集合であることを仮定することがあります。コンパクト集合という概念は様々な形で表現可能ですが、最もシンプルな定義はそれが\(\mathbb{R} ^{N}\)上の有界な閉集合である、というものです。以下ではコンパクト集合について復習しながら、予算集合がコンパクトであることの意味を確認します。

予算集合\(B\left( \boldsymbol{p},w\right) \)がユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{N}\)上で有界であることとは、\begin{equation*}\exists \boldsymbol{a},\boldsymbol{b}\in \mathbb{R} ^{N},\ \forall \boldsymbol{x}\in B\left( \boldsymbol{p},w\right) :\boldsymbol{a}\leq \boldsymbol{x}\leq \boldsymbol{b}
\end{equation*}が成り立つことを意味します。ただし、\(\leq \)は\(\mathbb{R} ^{N}\)上に定義された標準的順序であり、以上の条件は、\begin{equation*}\exists \boldsymbol{a},\boldsymbol{b}\in \mathbb{R} ^{N},\ \forall \boldsymbol{x}\in B\left( \boldsymbol{p},w\right) ,\ \forall
n\in \left\{ 1,\cdots ,N\right\} :a_{n}\leq x_{n}\leq b_{n}
\end{equation*}と必要十分です。つまり、予算集合が有界であることとは、予算集合の要素である消費ベクトル\(\boldsymbol{x}\)を任意に選んだとき、任意の商品\(n\)について、その消費量\(x_{n}\)が何らかの実数\(a_{n}\)以上であるとともに、何らかの実数\(b_{n}\)以下であることを意味します。つまり、予算集合の要素である消費ベクトル\(\boldsymbol{x}\)を任意に選んだとき、それぞれの商品\(n\)の消費量\(x_{n}\)が一定の範囲に収まるということです。

予算集合\(B\left( \boldsymbol{p},w\right) \)が\(\mathbb{R} ^{N}\)上の閉集合であることは様々な形で表現できますが、ここでは点列を用いた定義を採用します。具体的には、\(B\left( \boldsymbol{p},w\right) \)の要素である消費ベクトルを項として持つとともに、\(\mathbb{R} ^{N}\)上の点に収束する点列\(\left\{ \boldsymbol{x}_{v}\right\} \)を任意に選びます。つまり、以下の条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall v\in \mathbb{N} :\boldsymbol{x}_{v}\in B\left( \boldsymbol{p},w\right) \\
&&\left( b\right) \ \lim_{v\rightarrow \infty }\boldsymbol{x}_{v}\in \mathbb{R} ^{N}
\end{eqnarray*}をともに満たす点列\(\{\boldsymbol{x}_{v}\}\)を任意に選ぶということです。一般に、このような点列の極限は\(B\left( \boldsymbol{p},w\right) \)の点であるとは限りません。ただ、このような点列\(\left\{ \boldsymbol{x}_{v}\right\} \)の極限が必ず\(B\left( \boldsymbol{p},w\right) \)の点になることは、すなわち、\begin{equation*}\left( c\right) \ \lim_{v\rightarrow \infty }\boldsymbol{x}_{v}\in B\left(
\boldsymbol{p},w\right)
\end{equation*}が成り立つことは、\(B\left( \boldsymbol{p},w\right) \)が\(\mathbb{R} ^{N}\)上の閉集合であるための必要十分条件です。

理解を深めるために、予算集合\(B\left( \boldsymbol{p},w\right) \)が閉集合ではない場合にどのような事態が起こり得るか考えます。このとき、\(\left(a\right) ,\left( b\right) \)を満たす一方で\(\left( c\right) \)を満たさない点列\(\left\{ \boldsymbol{x}_{v}\right\} \)が存在することになります。\(\left( a\right) \)を満たすということは、点列\(\left\{ \boldsymbol{x}_{v}\right\} \)のすべての項が予算制約を満たす消費ベクトルであることを意味します。\(\left(b\right) \)より点列\(\left\{ \boldsymbol{x}_{v}\right\} \)は収束するため、その極限\(\lim\limits_{v\rightarrow \infty }\boldsymbol{x}_{v}\in \mathbb{R} ^{N}\)に相当する商品ベクトルのいくらでも近い所に\(\{\boldsymbol{x}_{v}\}\)の点が無数に存在します。つまり、商品ベクトル\(\lim\limits_{v\rightarrow \infty }\boldsymbol{x}_{v}\)のいくらでも近い所に予算制約を満たす消費ベクトルが無数に存在するということです。一方、条件\(\left(c\right) \)が成り立たないことは、商品ベクトル\(\lim\limits_{v\rightarrow \infty }\boldsymbol{x}_{v}\)は予算制約を満たさないことを意味します。したがって、予算集合が閉集合ではない場合には、予算制約を満たさない商品ベクトルのいくらでも近い所に、予算制約を満たす消費ベクトルが無数に存在する、という事態が起きてしまいます。予算集合が閉集合であるという仮定のもとでは、そのような事態が起こる可能性が排除されます。

例(コンパクトな予算集合)
2財モデルにおいて消費集合が\(\mathbb{R} _{+}^{2}\)である場合の予算集合は、\begin{equation*}B\left( p_{1},p_{2},w\right) =\left\{ \left( x_{1},x_{2}\right) \in \mathbb{R} _{+}^{2}\ |\ p_{1}x_{1}+p_{2}x_{2}\leq w\right\}
\end{equation*}と定式化されますが、これは下図のグレーの領域として描かれています(境界を含む)。

図:2財モデルにおける予算集合
図:予算集合

この予算集合\(B\left(p_{1},p_{2},w\right) \)が\(\mathbb{R} _{+}^{2}\)上のコンパクト集合であること、すなわち有界な閉集合であることを以下で示します。予算集合の要素\(\left( x_{1},x_{2}\right) \in B\left( p_{1},p_{2},w\right) \)を任意に選んだとき、\begin{eqnarray*}0 &\leq &x_{1}\leq \frac{w}{p_{1}} \\
0 &\leq &x_{2}\leq \frac{w}{p_{2}}
\end{eqnarray*}が成り立つため、\(B\left(p_{1},p_{2},w\right) \)は\(\mathbb{R} ^{2}\)上で有界であることが示されました。続いて、\(B\left( p_{1},p_{2},w\right) \)の要素を項とする収束列\(\{x_{v}^{\left( 1\right) },x_{v}^{\left( 2\right) }\}\)を任意に選びます。つまり、以下の2つの条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall v\in \mathbb{N} :\left( x_{v}^{\left( 1\right) },x_{v}^{\left( 2\right) }\right) \in B\left(
p_{1},p_{2},w\right) \\
&&\left( b\right) \ \lim_{v\rightarrow \infty }\left( x_{v}^{\left( 1\right)
},x_{v}^{\left( 2\right) }\right) \in \mathbb{R} ^{2}
\end{eqnarray*}をともに満たす点列\(\{x_{v}^{\left( 1\right) },x_{v}^{\left( 2\right) }\}\)を任意に選ぶということです。\(B\left( p_{1},p_{2},w\right) \)が閉集合であることとは、このような任意の点列\(\{x_{v}^{\left( 1\right) },x_{v}^{\left( 2\right) }\}\)の極限が\(B\left( p_{1},p_{2},w\right) \)の点であることを意味します。そのことを以下で示します。条件\(\left( a\right) \)は、任意の番号\(v\in \mathbb{N} \)について、\begin{eqnarray*}&&\left( c\right) \ x_{v}^{\left( 1\right) }\geq 0 \\
&&\left( d\right) \ x_{v}^{\left( 2\right) }\geq 0 \\
&&\left( e\right) \ p_{1}x_{v}^{\left( 1\right) }+p_{2}x_{v}^{\left(
2\right) }\leq w
\end{eqnarray*}がすべて成り立つことを意味します。条件\(\left( b\right) \)は、\begin{eqnarray*}&&\left( f\right) \ \lim_{v\rightarrow \infty }x_{v}^{\left( 1\right) }\in \mathbb{R} \\
&&\left( g\right) \ \lim_{v\rightarrow \infty }x_{v}^{\left( 2\right) }\in \mathbb{R} \end{eqnarray*}がともに成り立つことと必要十分です。収束列と順序に関する命題を踏まえると、\(\left( c\right) \)から\(\left( g\right) \)までの条件のもとでは、\begin{eqnarray*}&&\left( h\right) \ \lim_{v\rightarrow \infty }x_{v}^{\left( 1\right) }\geq 0
\\
&&\left( i\right) \ \lim_{v\rightarrow \infty }x_{v}^{\left( 2\right) }\geq 0
\\
&&\left( j\right) \ p_{1}\lim_{v\rightarrow \infty }x_{v}^{\left( 1\right)
}+p_{2}\lim_{v\rightarrow \infty }x_{v}^{\left( 2\right) }\leq w
\end{eqnarray*}を得ます。\(B\left( p_{1},p_{2},w\right) \)の定義より、これは、\begin{equation*}\left( \lim_{v\rightarrow \infty }x_{v}^{\left( 1\right)
},\lim_{v\rightarrow \infty }x_{v}^{\left( 2\right) }\right) \in B\left(
p_{1},p_{2},w\right)
\end{equation*}が成り立つことを意味しますが、これは、\begin{equation*}
\lim_{v\rightarrow \infty }\left( x_{v}^{\left( 1\right) },x_{v}^{\left(
2\right) }\right) \in B\left( p_{1},p_{2},w\right)
\end{equation*}と必要十分です。したがって、\(B\left( p_{1},p_{2},w\right) \)が閉集合であることが示されました。

予算集合がコンパクト集合であるという仮定をなぜ設ける必要があるのでしょうか。消費者理論では、消費者は自身が直面する予算集合の中から自身にとって最も望ましい消費ベクトルを選ぶものと仮定します。このような形で消費者の意思決定を最適化問題として定式化したとき、その問題に解が存在することを保証する際に予算集合がコンパクト集合であるという仮定を利用します。この点については場を改めて詳しく解説します。

 

予算対応がコンパクト値をとるための条件

消費者が直面する予算集合\(B\left( \boldsymbol{p},w\right) \)は価格ベクトル\(\boldsymbol{p}\)と所得\(w\)に依存して変化します。消費者行動を分析する際には\(\boldsymbol{p}\)や\(w\)の変化にともない消費者による選択がどのように変化するかを考察することも重要になります。したがって、そのような分析を一貫性のある形で行うためには、特定の\(\boldsymbol{p},w\)に関する予算集合\(B\left( \boldsymbol{p},w\right) \)がコンパクト集合であるだけではなく、\(\boldsymbol{p}\)と\(w\)がどのような値をとる場合でも予算集合\(B\left( \boldsymbol{p},w\right) \)がコンパクト集合であることを仮定することがあります。つまり、予算対応\(B:\mathbb{R} _{++}^{N}\times \mathbb{R} _{++}\twoheadrightarrow X\)は以下の条件\begin{equation*}\forall \left( \boldsymbol{p},w\right) \in \mathbb{R} _{++}^{N}\times \mathbb{R} _{++}:B\left( \boldsymbol{p},w\right) \text{はコンパクト集合}
\end{equation*}を満たすということです。予算対応\(B\)が以上の条件を満たすとき、\(B\)はコンパクト値をとる(compact valued)と言います。

予算対応\(B\)がコンパクト値をとることを天下り的に仮定してもよいのですが、よりシンプルな仮定をもとに、予算対応\(B\)がコンパクト値をとることを保証することもできます。具体的には、先の例が示唆するように、消費集合が\(\mathbb{R} _{+}^{N}\)である場合には予算対応\(B\)がコンパクト値をとることが保証されます。

命題(予算対応がコンパクト値をとるための条件)
消費集合が\(\mathbb{R} _{+}^{N}\)であるならば、予算対応\(B:\mathbb{R} _{++}^{N}\times \mathbb{R} _{++}\twoheadrightarrow \mathbb{R} _{+}^{N}\)はコンパクト値をとる。
証明

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演習問題

問題(コンパクトな予算集合)
消費集合が\(\mathbb{R} _{+}^{N}\)である場合、少なくとも1つの商品の価格が\(0\)であるならば、予算集合は\(\mathbb{R} _{+}^{N}\)上のコンパクト集合ではないことを示してください。
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