完備性と推移性をともに満たす選好関係を合理的な選好関係や選好順序などと呼びます。合理的な選好順序について解説します。

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合理的な選好関係

消費集合\(X\subset \mathbb{R}^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)が完備性と推移性をともに満たす場合には、つまり、\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \forall x,y\in X:(x\succsim y\ \vee \ y\succsim x) \\
&&\left( b\right) \ \forall x,y,z\in X:\left[ (x\succsim y\ \wedge \
y\succsim z)\ \Rightarrow \ x\succsim z\right] \end{eqnarray*}がともに成り立つ場合には、\(\succsim \)を合理的な選好関係(rational preference relation)や選好順序(preference ordering)などと呼びます。

完備性について復習する 推移性について復習する

消費集合\(X\subset \mathbb{R}^{N}\)上の合理的な選好関係\(\succsim \)が与えられたとき、2つの消費ベクトル\(x,y\in X\)を任意に選ぶと、\(\succsim \)の完備性より\(x\)と\(y\)は比較可能です。さらに、3つ目の消費ベクトル\(z\in X\)を任意に選ぶと、やはり\(\succsim \)の完備性より、\(x\)と\(z\)は比較可能であり、\(y\)と\(z\)は比較可能です。したがって、\(x,y,z\)の中の任意の2つはお互いに比較可能であり、さらに\(\succsim \)の推移性より、それらを循環しない形で好ましい順に並べることができます。例えば、\begin{equation*}
x\succsim z\succsim y
\end{equation*}という具合にです。同様に考えると、結局、合理的な選好関係\(\succsim \)のもとでは、消費集合\(X\)の要素であるすべての消費ベクトルを循環しない形で並べることができます。

 

合理性の含意

選好関係\(\succsim \)が合理性を満たす場合には、\(\succsim \)に関する推移性だけでなく、以下のように様々な形で推移性が成り立つことを示すことができます。

命題(合理性の含意)
消費集合\(X\subset \mathbb{R}^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)が合理的である場合には以下が成り立つ。\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \forall x,y,z\in X:[(x\succ y\ \wedge \ y\succ z)\
\Rightarrow \ x\succ z] \\
&&\left( b\right) \ \forall x,y,z\in X:[(x\sim y\ \wedge \ y\sim z)\
\Rightarrow \ x\sim z] \\
&&\left( c\right) \ \forall x,y,z\in X:[(x\succ y\ \wedge \ y\succsim z)\
\Rightarrow \ x\succ z] \end{eqnarray*}
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上の命題中の\(\left( a\right) \)は狭義選好関係\(\succ \)に関する推移性、\(\left( b\right) \)は無差別関係\(\sim \)に推移性、そして\(\left( c\right) \)は\(\succsim \)と\(\succ \)に関する推移性です。

合理的な選好関係\(\succsim \)のもとでは、消費集合\(X\)の要素であるすべての消費ベクトルを\(\succsim \)のもとで循環しない形で並べることができることを先に指摘しましたが、上の命題を利用すると、もう少し踏み込んだことが言えます。まず、以前に示したように、選好関係\(\succsim \)が完備性を満たす場合には、2つの消費ベクトル\(x,y\in X\)を任意に選ぶと、\begin{equation*}
x\succ y,\quad x\sim y,\quad y\succ x
\end{equation*}の中のどれか1つ、そして1つだけが成り立ちます。さらに、3つ目の消費ベクトル\(z\in X\)を任意に選ぶと、やはり\(\succsim \)の完備性より、\(x\)と\(z\)や、\(y\)と\(z\)はそれぞれ、上のような厳密な形で比較可能です。したがって、\(x,y,z\)の中の任意の2つはお互いに厳密な形で比較可能であり、さらに推移性に関する上の命題より、\(\succ \)と\(\sim \)を用いてそれらを循環しない形で好ましい順に並べることができます。例えば、\begin{equation*}
x\succ z\sim y
\end{equation*}という具合にです。同様に考えると、結局、合理的な選好関係\(\succsim \)のもとでは、消費集合\(X\)の要素であるすべての消費ベクトルを、\(\succ \)と\(\sim \)だけを用いて循環しない形で並べることができます。

 

消費集合の分割

消費集合\(X\)上の合理的な選好関係\(\succsim \)と消費ベクトル\(x\in X\)が与えられたとき、任意の消費ベクトル\(y\in X\)を選ぶと、\begin{equation*}
x\succ y,\quad x\sim y,\quad y\succ x
\end{equation*}の中のどれか1つ、そして1つだけが成り立ちますが、これは、\begin{equation*}
y\in L_{s}\left( x\right) ,\quad y\in I\left( x\right) ,\quad y\in
U_{s}\left( x\right)
\end{equation*}の中のどれか1つ、そして1つだけが成り立つこととして表現可能です。ただし、\(L_{s}\left( x\right) \)は\(x\)の狭義劣位集合、\(I\left( x\right) \)は\(x\)の無差別集合、\(U_{s}\left( x\right) \)は\(x\)の狭義優位集合であり、これらの中の任意の2つの集合は互いに素です。同様の議論は任意の\(y\in X\)について成り立つため、結局、\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ X=U_{s}\left( x\right) \cup L_{s}\left( x\right) \cup
I\left( x\right) \\
&&\left( b\right) \ U_{s}\left( x\right) \cap L_{s}\left( x\right)
=U_{s}\left( x\right) \cup I\left( x\right) =L_{s}\left( x\right) \cup
I\left( x\right) =\phi
\end{eqnarray*}が成り立ちます。つまり、\(X\)は3つの互いに排反な集合\(U_{s}\left( x\right) ,L_{s}\left( x\right) ,I\left( x\right) \)に分割されるということです。

優位集合・劣位集合・無差別集合について復習する
命題(消費集合の分割)
消費集合\(X\subset \mathbb{R}^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)が合理的であるものとする。このとき、消費ベクトル\(x\in X\)を任意に選ぶと、\(X\)は3つの集合\(U_{s}\left( x\right) ,L_{s}\left( x\right) ,I\left( x\right) \)に分割される。
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つまり、選好関係\(\succsim \)が合理的である場合には、基準となる消費ベクトル\(x\)を任意に選ぶと、消費集合\(X\)に属するすべての消費ベクトルを、(1) \(x\)より望ましい消費ベクトル、(2) \(x\)と無差別な消費ベクトル、(3) \(x\)より望ましくない消費ベクトル、の3つのグループに分類することができます。また、同一の消費ベクトルが複数の異なるグループに属することはありません。

 

無差別関係による消費集合の類別

選好関係\(\succsim \)の完備性もしくは推移性を用いると、無差別関係\(\sim \)に関して以下の様々な命題が成り立つことをこれまで示しました。\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \forall x\in X:x\sim x \\
&&\left( b\right) \ \forall x,y\in X:\left( x\sim y\ \Rightarrow \ y\sim
x\right) \\
&&\left( c\right) \ \forall x,y,z\in X:\left[ \left( x\sim y\ \wedge \ y\sim
z\right) \ \Rightarrow \ x\sim z\right] \end{eqnarray*}

復習になりますが、\(\left( a\right) \)は\(\sim \)に関する反射性であり、これは\(\succsim \)の完備性から示されます。\(\left( b\right) \)は\(\sim \)に関する対称性であり、これは\(\sim \)の定義から示されます。また、\(\left( c\right) \)は\(\sim \)に関する推移性であり、これは\(\succsim \)の推移性から示されます。無差別関係\(\sim \)は消費集合\(X\)上の二項関係ですが、これが反射性、対称性、推移性を満たすということは、\(\sim \)が\(X\)上の同値関係であることを意味します。

繰り返しになりますが、消費集合\(X\)上の無差別関係\(\sim \)は同値関係であるため、消費ベクトル\(x\in X\)を任意に選ぶと、その無差別集合\begin{equation*}
I\left( x\right) =\left\{ y\in X\ |\ x\sim y\right\}
\end{equation*}は\(x\)を代表元とする同値類に相当します。さらに、\(X\)の\(\sim \)による商集合は、\begin{equation*}
X\backslash \sim =\left\{ I\left( x\right) \ |\ x\in X\right\}
\end{equation*}であり、これは\(X\)の分割です。同値関係や同値類、商集合などの概念に馴染みがない場合には同値関係に関するテキストを参照してください。

同値関係について学ぶ
命題(無差別関係による消費集合の類別)
消費集合\(X\subset \mathbb{R}^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)が合理的であるものとする。このとき、以下の集合族\begin{equation*}
\left\{ I\left( x\right) \ |\ x\in X\right\}
\end{equation*}は\(X\)の分割である。
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つまり、選好関係\(\succsim \)が合理的である場合には、消費集合\(X\)に属するすべての消費ベクトルは何らかの無差別集合に属するということです。また、同一の消費ベクトルが複数の異なる無差別集合に属することはありません。

 

合理性を満たす選好を表現する効用関数

選好関係\(\succsim \)を表す効用関数\(u\)が存在する場合には、効用関数の定義より、\(\succsim \)の合理性は、\(u\)に関する以下の性質として表現することができます。

命題(効用関数の合理性)
消費集合\(X\subset \mathbb{R}^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)を表現する効用関数\(u:X\rightarrow \mathbb{R}\)が存在するとき、任意の消費ベクトル\(x,y,z\in X\)について、\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \forall x,y\in X:\left[ u\left( x\right) \geq u\left(
y\right) \ \vee \ u\left( y\right) \geq u\left( x\right) \right] \\
&&\left( b\right) \ \forall x,y,z\in X:\{\left[ u\left( x\right) \geq
u\left( y\right) \ \wedge \ u\left( y\right) \geq u\left( z\right) \right] \
\Rightarrow \ u\left( x\right) \geq u\left( z\right) \}
\end{eqnarray*}が成り立つことは、\(\succsim \)が合理性を満たすための必要十分条件である。
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効用関数は実数を値として取り得るため、効用どうしを比較する\(\geq \)は\(\mathbb{R}\)上の大小関係です。一般に、\(\mathbb{R}\)上の大小関係\(\geq \)は完備性と推移性\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \forall a,b\in
\mathbb{R}:\left( a\geq b\ \vee \ b\geq a\right) \\
&&\left( a\right) \ \forall a,b,c\in
\mathbb{R}:(a\geq b\ \wedge \ b\geq c\ \Rightarrow \ a\geq c)
\end{eqnarray*}を満たすため、任意の効用関数\(u\)は上の命題中の性質を満たします。選好関係\(\succsim \)が与えられたとき、一般に、それを表す効用関数は存在するとは限りません。ただ、\(\succsim \)を表す効用関数\(u\)が存在する場合、それは必ず上の命題中の条件を満たすため、\(\succsim \)が合理性を満たすことが保証されます。

命題(効用関数によって表現される選好関係の合理性)
消費集合\(X\subset \mathbb{R}^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)を表現する効用関数\(u:X\rightarrow \mathbb{R}\)が存在する場合には、\(\succsim \)は合理性を満たす。
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ちなみに、この命題の逆は成立するとは限りません。つまり、たとえ選好関係\(\succsim \)が合理性を満たす場合においても、その\(\succsim \)を表現する効用関数は存在するとは限りません。効用関数が存在するための条件については、場を改めて詳しく解説します。

次回は合理性の仮定の妥当性について議論します。

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