教材一覧
CONSUMER THEORY

選好の合理性

< 前のページ
次のページ >
Share on twitter
Twitterで共有
Share on email
メールで共有

合理的な選好関係

消費集合\(X\subset \mathbb{R}^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)が完備性推移性をともに満たす場合には、つまり、\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \forall x,y\in X:(x\succsim y\vee y\succsim x) \\
&&\left( b\right) \ \forall x,y,z\in X:\left[ (x\succsim y\wedge y\succsim
z)\Rightarrow x\succsim z\right] \end{eqnarray*}がともに成り立つ場合には、\(\succsim \)を合理的な選好関係(rational preference relation)や選好順序(preference ordering)などと呼びます。

例(合理的な選好関係)
消費集合が\(\mathbb{R} _{+}\)であるものとします。つまり、問題としているのは1種類の商品であり、それぞれの消費ベクトルは\(x\in \mathbb{R}_{+}\)は非負の実数です。\(\mathbb{R} _{+}\)上に定義された消費者の選好関係\(\succsim \)を、任意の\(x,y\in \mathbb{R}_{+}\)に対して、\begin{equation}
x\succsim y\Leftrightarrow x\geq y \quad \cdots (1)
\end{equation}を満たすものとして定義します。\(\mathbb{R} _{+}\)上の大小関係\(\leq \)は完備性と推移性を満たします。つまり、\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \forall x,y\in \mathbb{R}_{+}:(x\geq y\vee y\geq x) \\
&&\left( b\right) \ \forall x,y,z\in \mathbb{R}_{+}:\left[ (x\geq y\wedge y\geq z)\Rightarrow x\geq z\right] \end{eqnarray*}がともに成り立つため、これと\(\left( 1\right) \)より、\begin{eqnarray*}
&&\left( a^{\prime }\right) \ \forall x,y\in \mathbb{R}_{+}:(x\succsim y\vee y\succsim x) \\
&&\left( b^{\prime }\right) \ \forall x,y,z\in \mathbb{R}_{+}:\left[ (x\succsim y\wedge y\succsim z)\Rightarrow x\succsim z\right] \end{eqnarray*}を得ます。したがって\(\succsim \)は合理的な選好関係です。
例(合理的ではない選好関係)
消費集合が\(\mathbb{R} _{+}^{2}\)であるものとします。つまり、問題としているのは2種類の商品であり、それぞれの消費ベクトルは\(\left( x_{1},x_{2}\right) \in \mathbb{R}_{+}^{2}\)は非負の実数を成分とする2次元ベクトルです。\(\mathbb{R} _{+}^{2}\)上に定義された消費者の選好関係\(\succsim \)を、任意の\(\left( x_{1},x_{2}\right) ,\left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R}_{+}^{2}\)に対して、\begin{equation}
\left( x_{1},x_{2}\right) \succsim \left( y_{1},y_{2}\right) \Leftrightarrow
\left( x_{1}\geq y_{1}\wedge x_{2}\geq y_{2}\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}を満たすものとして定義します。この選好関係\(\succsim \)は完備性を満たしません。実際、以下の2つの消費ベクトル\begin{eqnarray*}
\left( x_{1},x_{2}\right) &=&\left( 1,0\right) \\
\left( y_{1},y_{2}\right) &=&\left( 0,1\right)
\end{eqnarray*}に注目したとき、\(x_{1}\geq y_{1}\)は成り立つ一方で\(x_{2}\geq y_{2}\)は成り立たないため、\(\left( 1\right) \)より、\(x\succsim y\)と\(y\succsim x\)がともに成り立たないからです。

 

合理性の含意

消費集合\(X\subset \mathbb{R}^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)が完備性を満たす場合には、\(X\)の要素である任意の2つの消費ベクトルが比較可能です。つまり、2つの消費ベクトル\(x,y\in X\)を任意に選んだとき、\begin{equation*}
x\succ y,\ x\sim y,\ y\succ x
\end{equation*}の中のどれか1つが成り立ちます。また、\(\succsim \)が推移性を満たす場合には、無差別関係\(\sim \)に関する推移性や狭義選好関係\(\succ \)に関する推移性、IP推移性、PI推移性などが成り立ちます。つまり、\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \forall x,y,z\in X:\left[ \left( x\sim y\wedge y\sim
z\right) \Rightarrow x\sim z\right] \\
&&\left( b\right) \ \forall x,y,z\in X:\left[ \left( x\succ y\wedge y\succ
z\right) \Rightarrow x\succ z\right] \\
&&\left( c\right) \ \forall x,y,z\in X:\left[ \left( x\sim y\wedge y\succ
z\right) \Rightarrow x\succ z\right] \\
&&\left( d\right) \ \forall x,y,z\in X:\left[ \left( x\succ y\wedge y\sim
z\right) \Rightarrow x\succ z\right] \end{eqnarray*}などがいずれも成り立ちます。これは何を示唆しているのでしょうか。2つの消費ベクトル\(x,x^{\prime }\in X\)を任意に選んだとき、\(\succsim \)の完備性より\(x\)と\(x^{\prime }\)は比較可能です。さらに3つ目の消費ベクトル\(x^{\prime \prime }\in Y\)を任意に選ぶと、やはり\(\succsim \)の完備性より\(x\)と\(x^{\prime \prime }\)は比較可能であり、\(x^{\prime }\)と\(x^{\prime \prime }\)は比較可能です。したがって、\(x,x^{\prime },x^{\prime \prime }\)の中の任意の2つは比較可能であり、さらに\(\sim \)に関する推移性や\(\succ \)に関する推移性、IP推移性、PI推移性より、それらを循環しない形で\(\succ \)と\(\sim \)を用いて望ましい順に並べることができます。4つ目以降の消費ベクトルについても同様であるため、結局、選好関係\(\succsim \)が合理性を満たす場合には消費集合\(X\)の要素であるすべての消費ベクトルを循環しない形で\(\succ \)と\(\sim \)を用いて望ましい順に並べることができます。例えば、\begin{equation*}
x\succ x^{\prime }\succ x^{\prime \prime }\sim x^{\prime \prime \prime
}\succ x^{\prime \prime \prime \prime }\cdots
\end{equation*}という具合にです。ただし、上の例中の\(x^{\prime \prime }\)と\(x^{\prime \prime \prime }\)のように、同じ程度望ましい複数の消費ベクトルが存在する可能性は排除されません。

 

合理性を満たす選好を表現する効用関数

繰り返しになりますが、消費集合\(X\)上の選好関係\(\succsim \)が合理性(完備性と推移性)を満たすこととは、\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \forall x,y\in X:\left( x\succsim y\vee y\succsim
x\right) \\
&&\left( b\right) \ \forall x,y,z\in X:\left[ (x\succsim y\wedge y\succsim
z)\Rightarrow x\succsim z\right] \end{eqnarray*}がともに成り立つことを意味します。この選好関係\(\succsim \)を表す効用関数\(u:X\rightarrow \mathbb{R}\)が存在する場合、効用関数の定義より、効用関数を用いて上の性質を言い換えると、\begin{eqnarray*}
&&\left( a^{\prime }\right) \ \forall x,y\in X:\left[ u\left( x\right) \geq
y\left( y\right) \vee u\left( y\right) \geq u\left( x\right) \right] \\
&&\left( b^{\prime }\right) \ \forall x,y,z\in X:\left\{ \left[ u\left(
x\right) \geq y\left( y\right) \wedge u\left( y\right) \geq u\left( z\right) \right] \Rightarrow u\left( x\right) \geq u\left( z\right) \right\}
\end{eqnarray*}となります。つまり、選好関係\(\succsim \)を表す効用関数\(u\)が存在する場合、\(\left( a\right) \)と\(\left( b\right) \)がともに成り立つことは\(\left( a^{\prime }\right) \)と\(\left( b^{\prime }\right) \)がともに成り立つことと必要十分になります。

命題(効用関数を用いた合理性の特徴づけ)
消費集合\(X\subset \mathbb{R}^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)を表現する効用関数\(u:X\rightarrow \mathbb{R}\)が存在する場合、\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \forall x,y\in X:\left[ u\left( x\right) \geq y\left(
y\right) \vee u\left( y\right) \geq u\left( x\right) \right] \\
&&\left( b\right) \ \forall x,y,z\in X:\left\{ \left[ u\left( x\right) \geq
y\left( y\right) \wedge u\left( y\right) \geq u\left( z\right) \right] \Rightarrow u\left( x\right) \geq u\left( z\right) \right\}
\end{eqnarray*}が成り立つことは\(\succsim \)が合理性を満たすための必要十分条件である。
証明を見る(プレミアム会員限定)

ただ、実数空間\(\mathbb{R} \)上の大小関係\(\leq \)は完備性と推移性、すなわち、\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \forall a,b\in \mathbb{R}:\left( a\geq b\vee b\geq a\right) \\
&&\left( b\right) \ \forall a,b,c\in \mathbb{R}:\left[ \left( a\geq b\wedge b\geq c\right) \Rightarrow a\geq c\right] \end{eqnarray*}をともに満たすため、選好関係\(\succsim \)が合理性を満たすかどうかに関わらず、それを表現する任意の効用関数\(u\)は上の命題中の性質\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \forall x,y\in X:\left[ u\left( x\right) \geq y\left(
y\right) \vee u\left( y\right) \geq u\left( x\right) \right] \\
&&\left( b\right) \ \forall x,y,z\in X:\left\{ \left[ u\left( x\right) \geq
y\left( y\right) \wedge u\left( y\right) \geq u\left( z\right) \right] \Rightarrow u\left( x\right) \geq u\left( z\right) \right\}
\end{eqnarray*}を満たします。したがって、仮に選好関係\(\succsim \)を表す効用関数\(u\)が存在する場合、その\(u\)もまた上の性質を満たすため、先の命題より、\(\succsim \)は合理性を満たします。つまり、一般には選好関係\(\succsim \)を表現する効用関数\(u\)は存在するとは限りませんが、仮に\(\succsim \)を表現する効用関数が存在する場合には、その選好\(\succsim \)が合理性を満たすことが保証されるというわけです。

命題(効用関数によって表現される選好関係の合理性)
消費集合\(X\subset \mathbb{R}^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)を表現する効用関数\(u:X\rightarrow \mathbb{R}\)が存在する場合には、\(\succsim \)は合理性を満たす。
証明を見る(プレミアム会員限定)

ちなみに、この命題の逆は成立するとは限りません。つまり、たとえ選好関係\(\succsim \)が合理性を満たす場合においても、その\(\succsim \)を表現する効用関数は存在するとは限りません。効用関数が存在するための条件については場を改めて詳しく解説します。

次回は合理性の仮定の妥当性について議論します。

< 前のページ
次のページ >
Share on twitter
Twitterで共有
Share on email
メールで共有
RELATED KNOWLEDGE

関連知識

二項関係

選好関係

消費者による意思決定は、その人が持つ好みの体系によって左右されます。そこで、消費者理論では、消費者が持つ好みの体系を選好関係や狭義選好関係、無差別関係などの二項関係として定式化します。

完備律

選好関係の完備性

2つの消費ベクトル x,y を任意に選んだとき、消費者は x を y 以上に選好するか、y を x 以上に選好するか、その少なくとも一方が成り立つ場合には、消費者の選好関係は完備性を満たすと言います。

推移律

選好関係の推移性

3つの消費ベクトル x,y,z が任意に与えられたとき、消費者は x を y 以上に好みし、y を z 以上に好む場合、x を z 以上に好むことが保証される場合には、消費者の選好関係は推移性を満たすと言います。

選好関係

非合理的な選好

合理性の仮定はそれほど無理のない仮定ですが、それでも実際の消費者の選好は合理性を満たさないケースがあります。コンドルセの逆説や消費者の選択肢が連続的に変化する場合などが典型的なケースです。

上方位集合

選好の連続性

ある選好関係のもとで任意の消費ベクトルに関する狭義の上方位集合と狭義の下方位集合がともに消費集合上で開集合である場合、その選好関係は連続性を満たすと言います。連続性の仮定のもとでは消費者の選好が連続的に変化することが保証されます。また、連続な効用関数によって表現される選好は連続性を満たします。

DISCUSSION

質問とコメント

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

消費者理論