実数の集合 R 上に実数どうしの大小関係を比較する順序を定義した上で、それが全順序としての性質満たすことを公理として定めます。

大小関係

実数体\(\mathbb{R}\)上には大小関係(magnitude relation)と呼ばれる二項関係が定義されているものとし、これを\(\leq \)と表記します。二項関係の定義より、\(\leq \)は直積\(\mathbb{R}\times \mathbb{R} \)の部分集合です。その上で、実数の順序対\(\left( x,y\right) \)に対して\(\left( x,y\right) \in \leq \)が成り立つことを、\begin{equation*}
x\leq y
\end{equation*}で表記します。\(x\leq y\)が成り立つとき、\(x\)は\(y\)以下(less or equal)であるとか、\(y\)は\(x\)以上(greater or equal)であるなどと言います。

大小関係\(\leq \)の逆関係を\(\geq \)で表します。つまり、実数の順序対\(\left( x,y\right) \)を任意に選んだとき、\begin{equation*}
x\geq y\Leftrightarrow y\leq x
\end{equation*}を満たすものとして\(\geq \)を定義するということです。つまり、\(x\)が\(y\)以上であることを\(x\geq y\)と表記することも可能であるということです。

公理主義的実数論においては、大小関係\(\leq \)が満たすべき性質を公理として定めます。1つ目の公理は、\begin{equation*}
\left( R_{10}\right) \ \forall x\in \mathbb{R} :x\leq x
\end{equation*}というものであり、これを大小関係に関する反射律(reflexive law)と呼びます。これは、任意の実数は自身以下であると同時に、自身以上であることを保証します。

大小関係\(\leq \)が満たすべき2つ目の公理は、\begin{equation*}
\left( R_{11}\right) \ \forall x,y\in \mathbb{R} :[(x\leq y\wedge y\leq x)\ \Rightarrow \ x=y] \end{equation*}というものであり、これを大小関係に関する反対称律(antisymmetric law)と呼びます。これは、任意の実数\(x,y\)について、\(x\)が\(y\)以下であり、なおかつ\(y\)が\(x\)以下である場合には、\(x\)と\(y\)が等しいことを保証します。反対称律の対偶をとると、\begin{equation*}
\forall x,y\in \mathbb{R} :\left[ x\not=y\ \Rightarrow \ \lnot \left( x\leq y\wedge y\leq x\right) \right] \end{equation*}を得ます。つまり、反対称律は、異なる実数\(x,y\)について\(x\leq y\)と\(y\leq x\)が同時に成り立たないことを保証します。

大小関係\(\leq \)が満たすべき3つ目の公理は、\begin{equation*}
\left( R_{12}\right) \ \forall x,y,z\in \mathbb{R} :\left[ \left( x\leq y\wedge y\leq z\right) \ \Rightarrow \ x\leq z\right] \end{equation*}というものであり、これを大小関係に関する推移律(transitive law)と呼びます。これは、任意の実数\(x,y,z\)について、\(x\)が\(y\)以下であり、なおかつ\(y\)が\(z\)以下である場合には、\(x\)は\(z\)以下であることを保証します。

大小関係\(\leq \)が満たすべき4つ目の公理は、\begin{equation*}
\left( R_{13}\right) \ \forall x,y\in \mathbb{R} :\left( x\leq y\vee y\leq x\right)
\end{equation*}というものであり、これを大小関係に関する完備律(complete law)と呼びます。仮に\(\leq \)が完備律を満たさない場合には、\begin{equation*}
\exists x,y\in \mathbb{R} :\left[ \lnot \left( x\leq y\right) \wedge \lnot \left( y\leq x\right) \right] \end{equation*}が成り立ちます。つまり、上の実数\(x,y\)について\(x\leq y\)と\(y\leq x\)がともに成り立たないため、両者の大小を比較することさえできません。このとき、\(x\)と\(y\)は比較不可能(non-comparable)であると言います。逆に、\(\leq \)が完備律を満たす場合には、実数\(x,y\)を任意に選んだときに\(x\leq y\)と\(y\leq x\)の少なくとも一方が成り立つため、両者の大小を比較できます。このとき、\(x\)と\(y\)は比較可能(comparable)であると言います。完備律は任意の2つの実数どうしが比較可能であることを保証します。

大小関係\(\leq \)が完備律を満たす場合、\(y=x\)とおくと、任意の\(x\in \mathbb{R} \)について、\begin{equation*}
x\leq x\vee x\leq x
\end{equation*}が成り立ちます。\(\vee \)のベキ等律より、これは\(x\leq x\)と論理的に同値です。つまり、反射律は完備律から導出可能であるため、完備律を公理として定める場合、反射律を公理として定める必要はありません。ただ、以降では慣例にしたがって、反射律と完備律をそれぞれ公理として定めます。

大小関係\(\leq \)が\(\left( R_{10}\right) ,\left( R_{11}\right) ,\left( R_{12}\right) \)を満たすことは、\(\leq \)が\(\mathbb{R}\)上の順序(ordering)または半順序(partially ordering)であり、\(\mathbb{R}\)が\(\leq \)に関する順序集合(ordering set)であることを意味します。また、\(\left( R_{10}\right) ,\left( R_{11}\right) ,\left( R_{12}\right) \)に加えて\(\left( R_{13}\right) \)を満たすことは、\(\leq \)が\(\mathbb{R}\)上の全順序(total ordering)または線形順序(linear ordering)であり、\(\mathbb{R}\)が\(\leq \)に関する全順序集合(total ordering set)であることを意味します。全順序集合を\(\left( \mathbb{R} ,\leq \right) \)で表しますが、全順序集合について言及していることが文脈から明らかである場合には、全順序集合を\(\mathbb{R}\)で表すこともできます。

公理(大小関係に関する公理)
\(\mathbb{R}\)は大小関係\(\leq \)に関する全順序集合である。すなわち、\begin{eqnarray*}
&&\left( R_{10}\right) \ \forall x\in \mathbb{R} :x\leq x \\
&&\left( R_{11}\right) \ \forall x,y\in \mathbb{R} :[(x\leq y\wedge y\leq x)\ \Rightarrow \ x=y] \\
&&\left( R_{12}\right) \ \forall x,y,z\in \mathbb{R} :\left[ \left( x\leq y\wedge y\leq z\right) \ \Rightarrow \ x\leq z\right] \\
&&\left( R_{13}\right) \ \forall x,y\in \mathbb{R} :\left( x\leq y\vee y\leq x\right)
\end{eqnarray*}を公理として定める。

 

実数の符号

公理主義のもとで実数について考えるということは、実数の公理だけを議論の前提として認めることを意味します。つまり、実数の集合上に定義された大小関係に関する命題はいずれも先の公理から導かれてはじめて正しいものとして認められます。そこで、先の公理から導かれる大小関係に関する基本的な命題をいくつか紹介します。

実数\(x\)を任意に選んだとき、それが\(0\leq x\)を満たす場合、この実数\(x\)は非負(nonnegative)であると言います。逆に、\(x\leq 0\)を満たす場合、実数\(x\)は非正(nonpositive)であると言います。すべての非負の実数からなる集合、すべての非正の実数からなる集合をそれぞれ、\begin{eqnarray*}\mathbb{R} _{+} &=&\left\{ x\in \mathbb{R} \ |\ 0\leq x\right\} \\\mathbb{R} _{-} &=&\left\{ x\in \mathbb{R} \ |\ x\leq 0\right\}
\end{eqnarray*}と表記します。

大小関係\(\leq \)の反射律より\(0\leq 0\)が成り立つため、\(\mathbb{R}_{+}\)と\(\mathbb{R}_{-}\)の定義より\(0\in \mathbb{R} _{+}\)と\(0\in \mathbb{R} _{-}\)がともに成り立ちます。逆に、\(x\in \mathbb{R} _{+}\)かつ\(x\in \mathbb{R} _{-}\)を満たす実数\(x\)を任意に選ぶと、\(\mathbb{R}_{+}\)と\(\mathbb{R}_{-}\)の定義より\(0\leq x\)かつ\(x\leq 0\)が成り立ちますが、これと\(\leq \)の反対称律より\(x=0\)を得ます。つまり、\(\mathbb{R}_{+}\)と\(\mathbb{R}_{-}\)の双方に属する実数は\(0\)だけです。

加法単位元\(0\)とは異なる実数\(x\)を任意に選びます。完備律より\(x\geq 0\)と\(x\leq 0\)の少なくとも一方が成り立ちますが、これは\(x\in \mathbb{R} _{+}\)と\(x\in \mathbb{R} _{-}\)の少なくとも一方が成り立つことを意味します。\(x\not=0\)であるため、大小関係\(\leq \)の反対称律より\(\lnot \left( x\leq 0\right) \)と\(\lnot \left( x\geq 0\right) \)の少なくとも一方が成り立ちますが、これは\(x\not\in \mathbb{R} _{-}\)と\(x\not\in \mathbb{R} _{+}\)の少なくとも一方が成り立つということを意味します。ド・モルガンの法則より、これは\(x\in \mathbb{R} _{+}\)と\(x\in \mathbb{R} _{-}\)が同時に成り立つことはないことを意味します。したがって、\(0\)とは異なるそれぞれの実数は\(\mathbb{R}_{+}\)と\(\mathbb{R}_{-}\)のどちらか一方の要素です。

命題(実数の符号)
以下が成り立つ。\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ 0\in \mathbb{R} _{+}\cap \mathbb{R} _{-} \\
&&\left( b\right) \ \forall x\in \mathbb{R} \backslash \left\{ 0\right\} :\left( x\in \mathbb{R} _{+}\veebar x\in \mathbb{R} _{-}\right)
\end{eqnarray*}ただし、\(\cap \)は共通部分、\(\backslash \)は差集合、\(\veebar \)は排他的論理和を表す記号である。
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大小関係の制限

全順序集合\(\mathbb{R}\)が与えられたとき、その非空な部分集合\(A\)を任意に選びます。その上で、順序対\(\left( x,y\right) \in A\times A\)を任意に選んだときに、\begin{equation*}
x\leq _{A}y\ \Leftrightarrow \ x\leq y
\end{equation*}を満たすものとして\(A\)上の二項関係\(\leq _{A}\)を定義します。ただし、\(\leq \)は\(\mathbb{R}\)上の大小関係です。このように定義される\(\leq _{A}\)を\(\leq \)を\(A\)に制限した大小関係(restriction)と呼びます。

非空な部分集合\(A\subset \mathbb{R} \)とその要素\(x\in A\)をそれぞれ任意に選びます。\(A\subset \mathbb{R} \)より\(x\in \mathbb{R} \)であるため、\(\leq \)の反射律より\(x\leq x\)が成り立ちます。すると、\(\leq _{A}\)の定義より\(x\leq _{A}x\)が成り立ちます。つまり、\(\leq _{A}\)もまた反射律\begin{equation*}
\forall x\in A:x\leq _{A}x
\end{equation*}を満たします。\(\leq _{A}\)が反対称律、推移律、完備律を満たすことも同様にして示すことができます(演習問題にします)。

命題(大小関係の制限)
全順序集合\(\left( \mathbb{R} ,\leq \right) \)が与えられたとき、その非空な部分集合\(A\)を任意に選ぶ。このとき、\(\leq \)を\(A\)に制限した大小関係\(\leq _{A}\)は以下を満たす。\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ \forall x\in A:x\leq _{A}x \\
&&\left( b\right) \ \forall x,y\in A:[(x\leq _{A}y\wedge y\leq _{A}x)\
\Rightarrow \ x=y] \\
&&\left( c\right) \ \forall x,y,z\in A:\left[ \left( x\leq _{A}y\wedge y\leq
_{A}z\right) \ \Rightarrow \ x\leq _{A}z\right] \\
&&\left( d\right) \ \forall x,y\in A:\left( x\leq _{A}y\vee y\leq
_{A}x\right)
\end{eqnarray*}
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この命題は、大小関係\(\leq \)の集合\(A\)への制限した\(\leq _{A}\)が\(A\)上の全順序であり、\(\left( A,\leq _{A}\right) \)が\(\left( \mathbb{R} ,\leq \right) \)の全順序部分集合(subset of tottaly ordered set)であることを意味します。こうした事情を踏まえた上で、大小関係\(\leq \)を集合\(A\)に制限した\(\leq _{A}\)を、制限する前の大小関係と同じ記号\(\leq \)で表すことができます。

次回は狭義大小関係について解説します。

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